キュップぃ、ボクわるい魔獣じゃないよ   作:しやぶ

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第六話:これは好意だ

 

 ──争いはあまり好きじゃなかった。

 

 何が楽しい? 何が面白い? ()()のどこが。

 

 魔力を広げる。全てが黄金になる。相手は止まる。それで終わり。

 黄金の剣に変えたマントを振るう。相手は死ぬ。それでオシマイ。

 

 今日も今日とて、人里を滅ぼしていく。いつもと変わらない日常。

 

 何が楽しい? 何が面白い? 解らなかった。何故同族達が、率先してこんなことをしたがるのか。

 

 そうして任務が終わり、物思いに耽っていた時だった。

 ──突如、雷が落ちた。上空に意識を向ける。

 

 急速に、こちらへ向かってくる反応が一つ。

 

「『全てを斬り刻む魔法(スクワルタトーレ)ッ!!』」

 

「……何だ? お前は」

 

(クソッ、躱された! さっきの、直撃したのに効いてないのか!?)

 

 大した火力ではないものの超射程を誇る雷撃。加えてそれとは逆に、射程は短いものの──空間ごと断裂させる、防御無視の斬撃。……俺の魔法とは相性が悪いな。

 下手人は『猫と兎を足して割らなかったような耳』『短く白い体毛』『紅玉の目』を持った四足獣。

 

「──インキュベーターか。てっきりもう狩り尽くしたものと思っていたが」

 

「──ッッ。『実体のある分身を出す魔法(ロッソ・ファンタズマ)』」

 

 ……? 何故だ、魔力が増えた。

 制限解除ではない。特有の揺らぎは無かった筈。コイツ今、何をした?

 

「死ぬ覚悟をしなよ、外道」

「……断る。その必要性を感じない」

 

 『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)』によって伸縮自在の刃と化したマントで、分身を一掃する。

 

「折角の魔法も、当たらなければ意味がない。俺はお前より刃の扱いが上手い奴を、もっと大勢、同時に相手取ったことがある」

「なら問題ないね。──その状況で避けれるなら、避けてみなよ」

 

「──『地獄の業火を出す魔法(ヴォルザンベル)』」

 

 背後でまたも急激に魔力が膨れ上がり、俺の全身を結界と炎が包んだ。直撃だ。

 これほどの魔力を持つ者は、七崩賢にすらいない。彼ら彼女らであっても、これを喰らえば防御魔法越しですら焼き殺されるだろう。

 

 ──全身を破壊不能の黄金に変えられる、俺以外は。

 

「────うっそ、なんで()()──」

 

「フリーレンッッ」

 

「『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)』」

 

 先にこの女を片付けよう。

 そう決めて振り返り、固有魔法を発動すると──意外な結果になった。

 

 

「──ぁ、え……? …………キュゥ、べえ?」

 

 

 転移魔法で位置を入れ替えられた。

 

()()()()()

 

 咄嗟の状況で、対象として『意識』できたのが自分だけだったのだろうが……。

 

「その魔法一回分で、俺に一太刀浴びせれば良かったものを」

 

 マトモに受けてやる気は更々なかったが、それでも多少戦況はマシになっていただろうに。

 

 

「──あぁア゛ァ ああ゛あァァ……!」

 

「む……」

 

「────ころしてやる」

 

 

 言うや否や、異常な威力の雷撃が飛来。黄金のマントで受けるも、身体が吹き飛ばされる。そしてすかさず、飛んだ先に大岩の雨。

 

 ──コイツ、魔力切れが恐ろしくないのか?

 

 いやしかし、そもそもこの火力はなんだ? 一発でもこんな攻撃が放てるということ自体が、本来あり得ない。

 

 先刻同様、全身を黄金にして防ぐことはできるが……そうすると、一切身動きが取れなくなる。

 一度なら相手が『確実に仕留めた』と思った瞬間の隙を突けるが、二度は使えない。魔法を解除した瞬間を狙われて終わる。

 

 絶え間ない攻撃に、少しずつ──しかし確実に肉体が傷付き、魔力が削られていく。

 

 …………それでも、命にまでは届かない。奴の魔力が無くなる方が、遥かに先だ。

 

 

「──そんなに私が憎いか……! 私から故郷を、家族を奪っておいて……! たった一人の友達さえ、残してはくれないのか……!!」

 

「…………知らん。俺はエルフに手を出した覚えなぞない。お門違いだ」

 

「同じだッ! お前も、私の故郷を襲った『玉座のバザルト』も! 魔族は皆、殺しを楽しむ醜悪な(ケダモノ)じゃないか!!」

 

「──知らんよ。お前達の言う『憎しみ』も、『醜悪』も、弱者を虐げることに快楽を感じる、同族達の感性も……俺には解らんよ」

 

 

「……そっか、()()のに解らないのか。()()()()

 

 

「ぇ」

 

「なッ──」

 

 

「『最大出力魔法(ティロ・フィナーレ)』」

 

 

 全身を粉砕し、蒸発させて余り得る魔力の弾丸が──天から撃ち出された。

 

 当然俺は全身の黄金化を余儀なくされ……。

 

 

「…………逃げた、だと?」

 

 

 敗北していた筈だ。

 身動きを封じられたのだ。五感が復活する前に空間ごと斬り裂く魔法で殺しても良かったし、復活直後の隙を狙っても良かった。俺を殺す方法なんて、幾らでもあった筈だ。

 

 ──なのに奴は、迷わず距離を取った。

 

 

「『情けをかけられた』のか? 命乞いもしていないのに? 何故」

 

 

 『可哀想』とはどういうことだ? 『ある』とはなんのことだ?

 解らない。知りたい。

 

 それに俺の──七崩賢の魔法をどうやって解除した?

 魔力を増幅させていたカラクリも気になる。

 

 知りたい。奴のことが知りたい……!!

 

 

 ────これは好意だ。

 俺は、インキュベーターに興味が湧いた。

 

 

 

 *

 

 

 

「──よし、ここまで離れれば大丈夫かな?」

 

「…………キュゥべえ? ほんもの?」

 

「いやぁ、心配させちゃってごめんねフリーレン。不死身だし大丈夫だろって……油断してたよ」

 

「──バカッ! 不死身じゃないでしょ!? ()()()()()()()()()()!! ソウルジェムに何かあったら、キュゥべえは……!」

 

「…………フランメの奴、余計なことを。

 ソウルジェムは背中の格納空間に保管してあるから、敵が上位次元に干渉する魔法を使えない限り……ボクは本当に不死身なんだよ。だからそんなに怖がらないでフリーレン。ボクは絶対に、キミを一人にしないから」

 

「…………むり。怖い。だってキュゥべえ、黄金になってた時……()()()()()()()()()()んだよ? ホントに死んじゃったと思って、私……辛かった。

 想像しちゃったの。永遠に近い命を、ずっと独りぼっちで過ごす未来……私には到底、耐えられなかった。

 

 ──だから私、もう戦わない。キュゥべえに、戦ってほしくないから」

 

「フリーレン……」

 




 
 マハトはキュゥべえが自分を殺せたと思っていますが、実のところキュゥべえにそんな余力はありませんでした。
 感情の魔力変換をフル稼働して誤魔化してはいたものの、手加減できる相手じゃないので初手から大技連発。さらには『奥の手』を使ったディーアゴルゼの解除、終いには最大火力ブッパ。
 空間断裂なんてチート技を打つ余力は残っていなかったのです。(マハトは『突然魔力増やしまくる奴だからたぶんできる』と誤認しただけ)
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