──争いはあまり好きじゃなかった。
何が楽しい? 何が面白い?
魔力を広げる。全てが黄金になる。相手は止まる。それで終わり。
黄金の剣に変えたマントを振るう。相手は死ぬ。それでオシマイ。
今日も今日とて、人里を滅ぼしていく。いつもと変わらない日常。
何が楽しい? 何が面白い? 解らなかった。何故同族達が、率先してこんなことをしたがるのか。
そうして任務が終わり、物思いに耽っていた時だった。
──突如、雷が落ちた。上空に意識を向ける。
急速に、こちらへ向かってくる反応が一つ。
「『
「……何だ? お前は」
(クソッ、躱された! さっきの、直撃したのに効いてないのか!?)
大した火力ではないものの超射程を誇る雷撃。加えてそれとは逆に、射程は短いものの──空間ごと断裂させる、防御無視の斬撃。……俺の魔法とは相性が悪いな。
下手人は『猫と兎を足して割らなかったような耳』『短く白い体毛』『紅玉の目』を持った四足獣。
「──インキュベーターか。てっきりもう狩り尽くしたものと思っていたが」
「──ッッ。『
……? 何故だ、魔力が増えた。
制限解除ではない。特有の揺らぎは無かった筈。コイツ今、何をした?
「死ぬ覚悟をしなよ、外道」
「……断る。その必要性を感じない」
『
「折角の魔法も、当たらなければ意味がない。俺はお前より刃の扱いが上手い奴を、もっと大勢、同時に相手取ったことがある」
「なら問題ないね。──その状況で避けれるなら、避けてみなよ」
「──『
背後でまたも急激に魔力が膨れ上がり、俺の全身を結界と炎が包んだ。直撃だ。
これほどの魔力を持つ者は、七崩賢にすらいない。彼ら彼女らであっても、これを喰らえば防御魔法越しですら焼き殺されるだろう。
──全身を破壊不能の黄金に変えられる、俺以外は。
「────うっそ、なんで
「フリーレンッッ」
「『
先にこの女を片付けよう。
そう決めて振り返り、固有魔法を発動すると──意外な結果になった。
「──ぁ、え……? …………キュゥ、べえ?」
転移魔法で位置を入れ替えられた。
「
咄嗟の状況で、対象として『意識』できたのが自分だけだったのだろうが……。
「その魔法一回分で、俺に一太刀浴びせれば良かったものを」
マトモに受けてやる気は更々なかったが、それでも多少戦況はマシになっていただろうに。
「──あぁア゛ァ ああ゛あァァ……!」
「む……」
「────ころしてやる」
言うや否や、異常な威力の雷撃が飛来。黄金のマントで受けるも、身体が吹き飛ばされる。そしてすかさず、飛んだ先に大岩の雨。
──コイツ、魔力切れが恐ろしくないのか?
いやしかし、そもそもこの火力はなんだ? 一発でもこんな攻撃が放てるということ自体が、本来あり得ない。
先刻同様、全身を黄金にして防ぐことはできるが……そうすると、一切身動きが取れなくなる。
一度なら相手が『確実に仕留めた』と思った瞬間の隙を突けるが、二度は使えない。魔法を解除した瞬間を狙われて終わる。
絶え間ない攻撃に、少しずつ──しかし確実に肉体が傷付き、魔力が削られていく。
…………それでも、命にまでは届かない。奴の魔力が無くなる方が、遥かに先だ。
「──そんなに私が憎いか……! 私から故郷を、家族を奪っておいて……! たった一人の友達さえ、残してはくれないのか……!!」
「…………知らん。俺はエルフに手を出した覚えなぞない。お門違いだ」
「同じだッ! お前も、私の故郷を襲った『玉座のバザルト』も! 魔族は皆、殺しを楽しむ醜悪な
「──知らんよ。お前達の言う『憎しみ』も、『醜悪』も、弱者を虐げることに快楽を感じる、同族達の感性も……俺には解らんよ」
「……そっか、
「ぇ」
「なッ──」
「『
全身を粉砕し、蒸発させて余り得る魔力の弾丸が──天から撃ち出された。
当然俺は全身の黄金化を余儀なくされ……。
「…………逃げた、だと?」
敗北していた筈だ。
身動きを封じられたのだ。五感が復活する前に空間ごと斬り裂く魔法で殺しても良かったし、復活直後の隙を狙っても良かった。俺を殺す方法なんて、幾らでもあった筈だ。
──なのに奴は、迷わず距離を取った。
「『情けをかけられた』のか? 命乞いもしていないのに? 何故」
『可哀想』とはどういうことだ? 『ある』とはなんのことだ?
解らない。知りたい。
それに俺の──七崩賢の魔法をどうやって解除した?
魔力を増幅させていたカラクリも気になる。
知りたい。奴のことが知りたい……!!
────これは好意だ。
俺は、インキュベーターに興味が湧いた。
*
「──よし、ここまで離れれば大丈夫かな?」
「…………キュゥべえ? ほんもの?」
「いやぁ、心配させちゃってごめんねフリーレン。不死身だし大丈夫だろって……油断してたよ」
「──バカッ! 不死身じゃないでしょ!?
「…………フランメの奴、余計なことを。
ソウルジェムは背中の格納空間に保管してあるから、敵が上位次元に干渉する魔法を使えない限り……ボクは本当に不死身なんだよ。だからそんなに怖がらないでフリーレン。ボクは絶対に、キミを一人にしないから」
「…………むり。怖い。だってキュゥべえ、黄金になってた時……
想像しちゃったの。永遠に近い命を、ずっと独りぼっちで過ごす未来……私には到底、耐えられなかった。
──だから私、もう戦わない。キュゥべえに、戦ってほしくないから」
「フリーレン……」
マハトはキュゥべえが自分を殺せたと思っていますが、実のところキュゥべえにそんな余力はありませんでした。
感情の魔力変換をフル稼働して誤魔化してはいたものの、手加減できる相手じゃないので初手から大技連発。さらには『奥の手』を使ったディーアゴルゼの解除、終いには最大火力ブッパ。
空間断裂なんてチート技を打つ余力は残っていなかったのです。(マハトは『突然魔力増やしまくる奴だからたぶんできる』と誤認しただけ)