──それは、遠い世界の、近い場所
森を飛び交う虫。
それを餌にする大型の昆虫。
それらを喰らい木陰で消化を待つネズミを、通りがかった狐がひょいと自分の口に運ぶ。
満足した狐は、草の根を齧る猪を横目に水場に向かい、口を潤す。
枯れかけた水分を必死に補う狐は、それゆえ最後までそれに気付かなかった──羽音一つ立てない巨大なトンボのような生物に。
エングラム。この世界に満ちる、エネルギーの総称。世界を循環するエネルギーであり、人、獣、木、水と、万物に宿っている。当然、狐のほうがトンボよりも多量のエングラムを宿しているが、もし両者のエングラムが逆転したら、それは食物連鎖の矢印が逆転するのと同義である
狩りを終え一休みしたトンボは、再び羽を広げ空へと舞い戻る。同じトンボや、大きな鳥、空飛ぶ魚が棲む大空へ。
見下ろす森が、遠くに見える蒼が、自由な空が、この星の豊かさを証明する
──惑星レグナス。海と緑と大地が彩る、美しい星。
その中でも大きな存在感を放つのは、やはり海である。
何処までも広がる青に、伸び伸びと空を泳ぐ海鳥、そして飛沫をあげながら悠々と進む船。船が現役どころか最先端であるこの世界では、今日も今日とて世界中で浮かびながら幾つもの絶景を形作っているのだろう。
このように何千と浮かぶ船だが、その内実に二隻に一隻はとある場所から来た、或いはその場所に向かうと言う。もし、運よくその一隻の航路を辿ることができたなら、それはおのずと見えてくるだろう。
幾度も削られて、尚立ち続ける岩壁が
その上に聳える、数多の建物の群れが
そこに輝く、かけがえのない命の灯が
交易都市アステルリーズ。この世界でも有数の大都市であり、モノと活気に溢れる騒がしい都市である。
ここは、そんなアステルリーズに存在する小型のショッピングモール。
染色屋や武器屋が入り、何かと世話になる冒険者御用達の場所に、彼女はじっと立っていた。
「ここ……で、合ってるのでございますよね……?」
少女が一人、店に入りもせずに立っている様子は、少しばかり注目を集めているようで。
「……め、目立ってしまいますね、うぅ……」
暫く自分のメモと看板を見比べ、やがて意を決したように店内へ足を踏み入れた。
「……どうか、うまくいきますように……」
「リッカ」と名前を浮かべていたその少女の横顔は、どこか不安に押しつぶされまいとしているようで──
「主様……」
──これは、そんな彼女が大切に出会う物語