「ふふ、まさかこれ程の者が集まるとは! うれしい誤算というやつじゃのう……」
言葉の節々から望外の喜びがにじんでくる。先程までリッカの様子に気が気でない主だったが、覚悟を決めてからは一安心なようで、今はただ多くの人が来てくれたという事実に主催者としての幸せを噛み締めていた。
「……しかし、ここまで多いとなにから始めたものか……」
「ああ、それならちょっといいっスか?」
進行に悩める主に、傍らから手が挙がった。
挙げたのは、背の高い狐耳の青年。薄い赤髪の下にあるはずの素顔は、主のと色違いの緑の仮面と真っ黒なマスクによって完全に隠されていた。黒を基調とした機動性重視の服もあり、リッカが
(……忍び?)
と思うのも無理からぬことであろう。
「先ずは自己紹介でもいかがっスか? 自分、ほっとんど初対面なんで」
恥ずかしがるように頬をかく少年。しかし、口調こそ軽いものの、こういう場は慣れっこと言わんばかりに泰然としており、
(……すごい)
リッカは人知れず、尊敬の念を抱かずにはいられなかった。。
(私と同じ……いえ、私は主様と面識がある分、のすけ様はより心細いはずですのに……)
照れるような素振りはある。しかし、気負った感じもなく自然体を維持する彼の姿に、リッカは──
(……私には、できたのでしょうか……)
ふっと、心に影が差したように俯き──
「いいね! やろうよ自己紹介!」
瞬間、彼でも、主のものでもない声が響く──空の上から
(……ふぇ?)
「いやー面白そうな話が聞こえて来てみれば、何々なんだいこの面白いことしか起きなさそうな面々は!!」
無駄にキンキンする声の元に彼女は立っていた。空の上ではなく、屋根の上に。
(……誰?)
呆気にとられ、さっきまでの感情も何処かに置いてきてしまったリッカは、ぼおっと空に立つ少女を眺めていた。
変わらず好奇に輝く紅の瞳。同じく原色寄りの赤がコントラストを描く蒼髪のツインテールは、世界に彼女の存在を主張してやまない。よく通る声に突飛な言動を乗せ、存在感の塊となった彼女は、見上げる構図も相まって、夜空に浮かぶ一等星のように輝いていた。
「おっと、今のボクはただの見物人だった。でもごめんねー、生涯センターの天才アイドルだから、気付かないうちにみんなの視線を釘付けにしちゃうんだよね~~~でもでも、皆の気持ちには応えてあげられないの……何故ならアイドルは れ・ん・あ・い・き・ん・し だからね~~~!皆、ごめんよ~~~~~~!!!」
これはもう止まらない。誰もがそう思った次の瞬間、頭の上に手刀が閃き──
「あいたぁっ!?」
「そのまま星になりたくなかったら落ち着けアイドル」
呆れたように彼女を諌めるのは、赤いコートに赤いゴブリン帽子を着た紫髪の青年。エメラルドグリーンの瞳が、呆れた様に細められる。
「ったく、すいませんねこれが。気にせず続けてください」
「まあでもにぎやかしは多い方がいいでしょ? まあにぎやかすぎて視線が集まっちゃうのは不可抗力ってもんだよね!」
一気に華やかに──悪く言えば喧しくなった──屋根上を尻目に、ヴァニティシアは微笑を浮かべていた。
「……ふふ、まあ今夜は騒がしいのも悪くないじゃろう。のすけ殿はどうじゃ?」
「……上も面倒なところに突っ込んでくれたものっスね……」
「……のすけ殿?」
「うぇっ!? いやーそうっスね、今のうちにとっとと自己紹介を済ましちまいましょうっスか!」
訝しげにのぞき込まれる漆黒の仮面に対し、飛び跳ねるよう心臓を抑えるようにふぅ、と一呼吸置いたのち話し始める。
「それじゃあ初っ端は言い出しっぺの自分が! 能條のすけと言いますっス! 能條でものすけでも好きな方をお呼びくださいっス! 先に言ったっスけど、初対面の方ばかりなんで、お手柔らかにお願いするっスよー!」
そう言いながら、軽く笑い──
「……あと何喋りましょうか?」
ノープランを自己申告した。
「お! じゃあじゃあボクから一つ提案が!」
水を得た魚のように先程の星のような少女が高く手を挙げる。
「自己紹介のときにはそれぞれの必殺技を叫ぶってのはどう!?」
「……必殺技、かの……」
少し困ったような顔をするヴァニティシア。周りの人──人間? も必殺技はちょっと……といった空気が流れていた。
「うーん、それなら得意技とか、座右の銘なんかは? 例えば……」
そう言いながら、くるんと回りポーズを決め──
「ボクは天子! 最強で無敵のアイドルだよ! 座右の銘は『センターは譲らない』! みんな、よろしくねー!!! はい次カガミん!」
呼ばれた紫髪の青年は、しょうがないといった面持ちで立ち上がる。
「カガミです、よろしく。得意なことはアイドルより早くカツオを釣ることです」
「ぶっ飛ばすよ?」
「敗北者がなんかいってら」
「はあああああぁぁぁぁ!!??」
二人の喧騒を聞き流しながら、リッカは静かに、深く考えていた。
(必殺技、なんて無いですし、得意技も大した物はないのですよね……あとは……)
座右の銘、と考えたとき、ふっと脳裏にとある詞が浮かぶ。それは、リッカにとってとてもとても大事な詞。
(これならば、あるいは……)
「……まあ、得意技や座右の銘でなくとも、ここに来た理由や意気込みを教えてくれれば十分なのじゃ」
(え)
思わず周りを見ても、まあそれでいいよねといった空気が流れており──
(……まあ、いつかの機会のために取っておくといたしましょうか)
アウェーのリッカが流されるのも、無理からぬ事であった。
「……して、のすけ殿はどうしてここに?」
「自分っすか? 自分は転職先を探しにここに来たんスよ! 割りのいい仕事を斡旋してくれる人、大歓迎っスよー!」
ひらひらと履歴書を弄びながら、心からの笑顔で笑う。被り物で顔面を覆っているため表情が見えるわけがないのだが、やはり見えたものは見えたのだから仕方がない。
「……どうにも、心の底から言っているようなのが余計に分からぬのぅ……」
同じ結論に達したようで、詮索を諦めた主は、ふと何かに気付いたように目を開く。
「……そういえば、主催者としての挨拶すらまだなのじゃったな」
「うぉっ、もしかして、邪魔しちゃったっスか?」
「よいよい、すっぽかしておったわらわの落ち度なのじゃ」
ひらひらと手を振り、少し居住まいを正す。
「では、改めて」
瞬間、静寂が場を満たす。木の葉のささやきが聞こえてきそうなほどの粛然、しかし反比例するように向けられる感情の合唱は、大きく、強く。
「今宵の主催者を務める、幽久たるアルカディアのチームリーダー、ヴァニティシア・アタナシアじゃ。参加してくれた皆に心からの感謝を、なのじゃ。今宵は是非楽しんで欲しいのじゃ!」
威厳のある前半の名乗りに、親しみと感謝のこもった後半の挨拶。ホストの堂々とした挨拶に、招かれし者たちの惜しみない拍手が送られる。
「ふふっ、なんじゃ、恥ずかしいのぅ……」
そそくさと相好を崩し、はにかむように笑う。
「さて、次は誰が……」
「……ふむ、ではわしからさせてもらおうかのう」
老成した、芯のある声が割り込む。しかし、声の元に目を向ければ、不釣り合いと言えるほど幼い少女がそこにいた。大海のように深い青の瞳は、悠久を収めたような年月の深さと生まれたての子供が見せる純真さという、矛盾した物を感じさせる。小川のように透き通った水色が混じる、細くて長い純白の髪。それを覆うのは、紳士然とした雰囲気をもたらす優雅な白色のシルクハット。そしてそれを抜けるように生える、大きな二本のキツネ耳。それを見た瞬間、何となく理解する。
ああ、この人多分
「なにせこの場には、のじゃ口調がわし含め4人もおるからのう。まとめて紹介した方が皆の理解もしやすくなるじゃろうて」
リッカの想像を裏付けるように、からからと笑いながら告げる。
「さーて、自己紹介と参ろうか。
わしの名はせるるじゃ。勤めに忙殺される身ゆえ、なかなか社を通してこちらにこれぬのじゃ……だから今宵、この場に集えたこと、心から嬉しく思うぞ! 用向きがあればお揚げを持ってかくりよの社まで! 何時でも歓迎じゃぞ!」
冗談とも本気ともつかないセリフで、挨拶を締めくくる。
(ふふ、好物への執心具合まで似ておられるとは。主様との仲も、宜しいのでしょうね……)
もしそうだとしたら、主を通じて自分も……
(だ、駄目でございます! 主様を利用するなんて……)
「ふむ。順番、で言えば次はわしかのぅ?」
自省に躍起になっていたリッカの耳に、甘く蠱惑的な声が入り込む。
「くふ、そうかそうか、ついにわしの出番なのじゃな!」
美しく、あでやかで、それ故に恐ろしい艶のある黒髪と、それと同じ色に染ったキツネ耳が揺れる。熟れた葡萄に似た赤紫の瞳を妖しく輝かせながら、口紅が唇を待ちきれないとばかりに舌で湿らす。その様は狩りに臨む狐のそれであり、その立ち振る舞いは弱き者に自分が獲物なのだと認識させるのに充分過ぎる風格である。
「わしの名はおしゅう。ここには……うむ、強き魂、美しき魂、そして白き魂の数々。見るだけのつもりじゃったが、くふふっ……」
獲物を見定める蛇のように、その目が細められる。それに伴うように更に強い圧が放たれる。鳥肌が全身を駆け巡り、吹き出る嫌な汗を拭おうにも強大な圧がそれを許さない。地獄のような数秒ののち、おしゅうの僅かな瞑目と共に暴圧が鳴りを潜める──機が熟するを待つ狩人のように。
「……くれぐれも隙など見せるでないぞ? いかなわしとはいえ、かような馳走を前に辛抱する術など持たぬのでなぁ、くふふふふふっ……!」
捕食者の宣告に、緊張の沈黙が降りしきる。リッカ自身、振り払えない恐怖を刻み付けられた気分だ。
(……恐ろしく、危険なお方でございます……でも……)
警告するような言い方。力の差で無理やり襲ってしまえばいいものを、そうしないのは……
(あの方なりの優しさ……いえ、楽観し過ぎかもしれませんね……)
ぱんっ、と柏手が響く。
「おしゅう殿、ありがとうなのじゃ!」
静寂を、主の口が破る。見れば、主以外にも平静なものは幾人かおり、警戒するような、興味深げな、あるいは──心から楽しそうな、多様な表情を浮かべていた。
(……つくづく、凄まじい場所に連れて来てもらったのですね……)
改めて、自分がどのような場所に立っているかを考え──
(私は、本当にこの方々と仲良く……)
──弱気になりかけた自分の頬、えい、と小さく張る。幸い、おしゅうとヴァニティシアに視線が集まっていた周囲の者達は、リッカの小さな奇行に誰も気が付かなかった
──ただ一人を除いて
「それでは次は──」
進行を続けようとするヴァニティシア。だが
「わし、じゃな」
ヴァニティシアの言葉を遮るように、声の主が立ち上がる。
「というか、のじゃ口調がもうわししかおらぬしのぅ」
はっは、と快活に笑い飛ばす。その様に、リッカは軽く衝撃を受けた。モデルのように高い身長。比較的大きい羽織の胸部が今にもはち切れそうな程の肉付き。今までの
(すごい身体……しかも綺麗に日焼けまでされております……)
最適に仕上げられた体には、贅肉の一つまみすら存在しない。そこに褐色になるまで焼けた肌色も加わることで、いっそ暴力的なまでの美しさが生まれる……!
(そこに美しい銀髪と、純白の羽織が合わさり……!)
生まれるは黒白のコントラスト。野性味の強い黒を理知的な白色で覆うことで、悪魔のような妖しさと騎士のような清廉さを高度な次元で両立する!
(それに……あの、見ないようにしていたのですが、水着、でございますよね……!?)
そして最も目を奪うのは、その肌色の多さであろう。殆ど見えているのではないかというその水着は、よほど体に自信がなければ着ようとすら思わないだろう。その余程の自信と体を持つ存在が、あまりに際どい水着を寧ろ見せつけるように着こなし、着る者のボディラインをより魅力的に引き立てる……!
「ふぉっふぉっふぉ、初対面の者には少々刺激が強すぎたかのぅ?」
──その者は、のっしのっしと前へ進み出る──
「それでは、皆様。よおく聞いてくだされ」
──褐色が眩しい、
「わしが──」
──
「──タイソンじゃ!!!」
腹に響く渋い声に乗せ、老成した美丈夫がポーズを決めた!!!
出て来た人達(敬称略)
ヴァニティシア https://x.com/Vanitysia?s=20
能條のすけ https://x.com/nosuke_bp?s=20
天子 https://x.com/tenko_plus?s=20
カガミ https://x.com/kagami_m33sub?s=20
せるる https://x.com/Ceruru_096?s=20
おしゅう https://x.com/Otthew_bp?s=20
タイソン https://x.com/TAISON_GAMES?s=20
色々とごめんなさい!
ありがとうございました!!!