「さて、行きますぞ! マーテル様と我らがロイド様のために、死にゆくがいい!」
そう叫びつつ、マーグナーが槍を構えて突っ込んできます。
まあ、部下を全部町の破壊に回しているなら余裕ですかね?
「先手を取って蹴るだけだな!」
「まずは無限プリズムソードで援護するよ! こんな連中、一刻も早く駆除しないと!」
当然、我々もそれに対応した対策を取るまで。
一方的に攻撃する我々の作戦で戦うまでですね。
「プリズムソード! プリズムソード! プリズムソード!」
「なっ、ちょ」
開幕からマルタさまのプリズムソードが雨のように降り注ぎマーグナーを止めます。
そこにラタトスク様が接近し……。
「斬り斬り斬り斬り斬り蹴り斬り斬り斬り斬り斬り蹴り……」
「ぐほっ!? あばっ……」
安定の無限ループで畳み掛けます。
5回斬りつけ、蹴る、をひたすら繰り返す最強コンボの前には何物も立てません。
マーグナー? サンドバッグとしてタコ殴りにされるだけの置物ですよ置物。
置物に攻撃動作を行う権利などありません。
置物に許されるのは死に際の台詞だけですよ。
「……やっておいてなんだけど、さすがにあんまりな気がしてきた……。ルインを救うためにも早くこいつを倒さないといけないのは分かってるんだけど……」
「ぐぼっ!? あばっ……ちょ、待っ……」
「ほーら蹴り続けるぞー。死にたくなかったら野生の力に目覚めたらどーだー?」
まさかタコ殴りにされるとは思わなかったのか、マーグナーが何か言っています。
が、もちろん我々にそれを聞く理由はありません。
耳栓をしているラタトスク様の姿がそれを物語っています。
「やりなさい」
(了解しました。タービュランス。ロックブレイク)
「ごほおっ!? ぐぼぐぼぐぼあっ!?」
もちろん、私の指示で魔物――――グリフォンとベルウィルリングの追撃も炸裂します。
タービュランスで浮き上がったマーグナーに追い打ちをかけるようにロックブレイクが炸裂。
マーグナーの鎧はみるみる傷だらけになっていきます。
「も、もうやめ……」
「ほらほらー。さっさと死ねば楽になるぞー?」
やる気のない声で一方的な暴力を繰り出すラタトスク様。
それでもちゃんとコンボを決めている辺り、身体が勝手に動いているようです。
何千、何万と反復されてきた動きのラタトスク様は、機械のような正確さで攻撃を叩き込みます。
「……や、やっぱり自重しない? いくらなんでもこれは……」
マーグナーの姿を見たマルタさまが罪悪感にでも襲われたのか、無限コンボの中止を提案します。
何を馬鹿なこと言ってるんですかねえ?
「マルタさま。この世界では、二通りの生き物しか居ないのです。吐いて捨てるほど居るサンドバッグと、それを蹴る生物だけです」
「サンドバッグばっかりなの!? あんまりだよそんなの!」
まあ、我々はサンドバッグを蹴る側の生物なので、人生の負け組になることは無いでしょう。
負け組のサンドバッグ? 哀れな生き物は無限コンボで全部終わらせてしまえば良いんですよ。
「も、もう止めてくださいいいいぃぃぃぃぃぃ……」
「おや、命乞いですか? ボスのくせに情けない……」
一方的に攻撃されているマーグナーが突然命乞いをしてきました。
ああ情けない。
お前は本当にボスですか?
「ボスかどうかはともかく、何もできずにサンドバッグにされて倒されるのはいくらなんでもあんまりだと思うよ……。圧倒的な力の差ならともかく……」
マルタさまがまた何か呟いています。
しかし、また勘違いしているんですかねえ?
「圧倒的な力の差ですよ? 能力で勝る肉団子に、技術と言う鋏を用いて戦いを挑むんです」
「いくら能力で勝っても、肉じゃ鋏に勝てないような気がするんだけど……」
まあ、例えには十分ですよ。
それはそうと、どうなってます?
「ほらほら。地べたに這いつくばって「今後このような事は二度としませんのでお許しください勇者ラタトスク様。私のような薄汚い豚になにとぞご慈悲をお与えください!」とか叫べば助けてやらないことは無いぞ?」
「どこのチンピラ!? それ勇者じゃないよ明らかに!」
「こ、今後このような事は……」
「素直に言っちゃうの!? いや確かに言わないと助からないけど!」
ふむ……。
素直に言わせるのも面白くないので全力攻撃で妨害しましょうか。
「スプラッシュとサンダーブレードとタービュランスとアイシクルレインをお願いします。あ、ついでにネガティブゲイトも」
(承知しました)
私が指示した通りの魔術がマーグナーを狙い撃ちにし、徹底的に痛めつけます。
……緊張感も何もありませんねえ。
「そう思うなら自重しようよ! 真面目にやったら常にこんな戦いばっかりになっちゃうけど!」
「ぐぼばばばばばばばばばばばばばば!?」
マルタさまの叫びをかき消すように大量の魔術が一斉にマーグナーを襲います。
これではセリフも言えませんね。
「あー残念だなー。最初から一言一句間違えずに言い直せよ? それまでずっとお前サンドバッグだからな?」
そして、その事を言い訳に最初から言い直すように強要するラタトスク様。
さすが主人公の鏡です。
「どう考えてもこんなの主人公の鏡じゃないよ! 悪魔か外道だよ!」
「最近はダークヒーローなんて物が流行ってるんですよ? これも立派なダークヒーローです」
正義感溢れる主人公が外道の仮面を被って悪を討つ。
これこそダークヒーローでしょう?
「これそういう次元じゃないし、エミルもテネブラエも演技じゃなくて素でやってるよね!?」
「何言ってるんだ? こんなことやってて心が痛まないと思ってるのか? 俺は毎日こんなことをさせられて、枕を涙で濡らしてるんだぞ?」
ラタトスク様がマルタさまの言葉に反論します。
ですよねえ。我々は日々心を痛めていますよ。
「誰にさせられてるの……。どう考えても自分の意思でやってるくせに……」
なぜマルタさまに呆れられるのか我々には理解できませんね。
「というか、エミルが――――これだけ好き勝手に暴れてるラタトスクが枕を涙で濡らす展開ってどう考えてもあり得ないよ……」
「メタな事言わないでください、マルタさま」
「普段言いまくってるよね!?」
我々は自由です。
それにしても、サンドバッグを一方的に嬲るだけなので退屈ですねえ。
「ゲホッ……こ、今後このような事は二度としませんのでお許しください勇者ラタトスク様。私のような薄汚い豚になにとぞご慈悲をお与えください!」
「広場のロイド像の上で土下座しろぉ! その上で復唱!」
「は、はいいいぃぃぃ!!!!」
おや、終わらせていいんですか?
せっかく嬲り殺しに出来るチャンスだったというのに。
「飽きたんだ。あいつをサンドバッグにする時間にさ」
「なら仕方ありませんね」
「ホント身勝手だよこの人たち!」
泣きながら広場に駆けるマーグナーを追うように歩いていく我々と一応ついてくるマルタさま。
さてと、とりあえずイベントだけやっちゃいましょうか。
「絶対ロクな事やらないよこの二人は……」
「失礼ですね。ちゃんと原作を尊重することを考えていますよ?」
ジト目で見てくるマルタさまは放置です。
というか、ちゃんと原作の事を考えてあげてるのにおかしくなるのは仕様です。
「それ、考えるって言ったけど実行するとは言ってないからって実行しない人の言い訳だよ!」
「何を馬鹿な……」
その通りなのかもしれないのが気にならなくもないのですが。
「こ、今後このような事は二度としませんのでお許しください勇者ラタトスク様。私のような薄汚い豚になにとぞご慈悲をお与えください!」
「本当にロイド像の上で土下座してる!? 今すぐ止めて! ロイドの銅像潰れちゃうよ!」
マーグナーを追いかけて広場に向かうと、広場の噴水の上に置いてあったロイド像の頭の上で土下座しているマーグナーの姿が飛び込んできました。
ロイド像の頭は今にもマーグナーの重みでポッキリ折れてしまいそうです。
「よし、次はそこで立ち上がって大ジャンプだ!」
「そんなことしたら本当に壊れちゃうから止めて!?」
もちろん、ラタトスク様がそれだけで許すわけがありません。
今度はマーグナーに像の上で大ジャンプさせるみたいです。
マルタさまは横で何か言っていますが、別に二軍の像を壊したところで損失など発生しませんし構わないでしょう。
「わ、分かりました! で、では……」
「だから駄目だってば! ディバインセイバー!」
ラタトスク様の言葉に従い、立ち上がって大ジャンプをしようとするマーグナー。
それを見かねたのか、マルタさまが突如ディバインセイバーで妨害を行います。
「ぐぼぼぼぼっ……!? 「ボキッ!」ほげっ……」
放たれたディバインセイバー。避けられないマーグナーは直撃を受けました。
空中で撃ち落とされたマーグナーの身体がロイド像の頭を蹴り飛ばすように打ち付けられます。
背中には鎧があるとはいえ、痛そうですね……。
「ボキッ…………?」
「あ」
マルタさまが撃墜したマーグナーは噴水に頭からダイブし、そのまま転んで外に出てきました。
そして、噴水の中にはロイド像の頭が。
見上げると、ロイド像の頭は見事に折れてしまっていました。
「こ、壊しちゃった…………」
「あーらら。どうするんだマルタ? 止めるはずが完全にぶっ壊したみたいだが?」
みるみる青い顔になるマルタさま。
まあ、止めようと思って逆に壊すのはお約束ですよね?
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 今すぐ直さないと……!」
大慌てでポーチの中からエレンピオス製の火炎放射器と溶接用の金属板を取り出し、すぐさまロイド像の修理にかかるマルタさま。
どこからそんな物手に入れたんでしょうね?
「さて、こっちだな」
しかし、ラタトスク様はそんな物に関心などありません。
二軍の像など風景の一部。壊れても構わないのですよ。
「マーグナー」
「はい!」
ラタトスク様の姿を見たマーグナーは震え上がっています。
噴水に落ちましたからね……。全身水浸しです。
「今後二度とこんな真似をしないと神と俺に誓えるな?」
「はい!」
ラタトスク様の問いかけに即答するマーグナー。
改心成功ですね。
「許してほしいか?」
「はい!」
これまた即答。
忠実で結構。
「分かった。許すことも考えてやる。ところで、これからイベントがあってな、ちゃんとやってくれるよな?」
「はい!」
まあ、考えておくだけですが。
許してやると言ったらまたどこかで何かしでかさないとも限りません。
「……あ! 首が逆方向向いちゃった!? ……しかも燃料切れ!? ……」
一方、マルタさまはロイド像の首の接着を間違えたらしく、首がどこかの全力頭球選手みたいに反転してしまったロイド像を完成させました。
おまけに、首の位置も微妙にずれており、金属板を溶かすのに失敗したのかロイド像のあちこちに違う色の金属が付着しています。
……さすがマルタさまです。我々でも出来ないことを平然とやってのけるその精神。
実に素晴らしい。マルタさまはヒロインの鏡ですね。
会心の出来すぎて、表情が「のヮの」になっているのはスルーしてあげましょう。
「…………ぜ、全部マーグナーのせいにしちゃおう! ロイド像の惨劇は全部マーグナーが悪いって事にしたらいいよね!? 全ての罪をマーグナーに」
「「(押し付けて)いいですとも!」」
マルタさまの言葉を聞き、遮る形でラタトスク様と私の声が自然と重なりました。
さあ、酷いマーグナーに天罰を与えましょう!
「ちょ……ええええええええええええええええ!?」
哀れなマーグナーはラタトスク様の手によっていつも通りの制裁+マルタさまのフォトン地獄を受け、解放された時には目が死んでいました。
いやー、実に良い事をしましたね。
ロイドの像…ロイド教を崇めるルインの狂信者たちがお辞儀する像。
いくらロイドはルインの救世主兼ルイン復興者とはいえ、像にお辞儀することをエミルに強要するジダとモルは頭に問題があるのかもしれない。
ジダとモル…ルインのロイド教狂信者。
像にお辞儀しなかっただけでエミルにいちゃもんをつけ、選択次第では忠誠を誓わせるその姿はどう見ても立派な狂信者。
ちなみに、原作だとラタ様がマーグナーをフルボッコにしたことで恐れをなし、エミルから逃げていきます。