ラタが駆け抜ける物語   作:ルスト

20 / 34
突風襲来

「も、もうこれで私は無実だからね!」

「何もそこまでしなくても良いような気がするんだけど……」

 

 コレットの手にはほとんど燃え尽きた紙の束。

 コレットが異世界でやらかした罪を纏めてたらしいけど、奪われたうえに燃やされちゃどうすることも出来ないよね……。

 ぶっちゃけどうでもいいんだけど……。

 

「ところで、マルタは何をしてるの?」

「いや何をしてるのって……」

 

 エミルとテネブラエとセンチュリオン・コア回収の旅(一応)をしてるんだけど……。

 というかエミルは?

 

「ああくそ、手持ちにストーンボトルもキュアボトルもパナシーアボトルも無い! 仕方ない、遠出して買ってくるしか――――」

「待てよ!」

 

 テネブラエを石化から治すためにアイテムを用意しようと広場の方に……って、私リカバー使えるよ!?

 わざわざアイテム買いに行かなくても良いんだよ!?

 

「ちっ! こんな時に……何の用だモブガキ!?」

 

 しかも子供に絡まれてる……って、ちょっと待って。

 アスカード、絡んでくる子供……なんだかすごく嫌な予感しかしないんだけど……。

 

「お前! よくも神子様に乱暴しようとしたな! 酷いじゃないか!」

「先に酷いことしたのは神子の方だろうが!」

 

 正直どっちもどっちだよ。

 

「神子様の苦悩を何も知らないくせに! 神子様に謝れ!」

 

 

 

 

 

 グルオアアアアアアアアアアア――――ッ!!!

 

 

 

 

 

「鳥の鳴き声の直後に暴風……鳥……っ?」

 

 鳥の鳴き声とは似ても似つかない何かの咆哮が聞こえた次の瞬間、アスカード全体が猛烈な上昇気流に飲み込まれた。

 ……暴風なんてレベルじゃないよこれ! ちょっとでも気を抜いたら飛ばされちゃう!

 エミルは……

 

「邪魔するな糞ガキ! 道を開けろ!」

「神子様に謝れ!」

「そんなことやってる場合!? ちょっとでも気を抜いたら飛ばされ……」

「うわあーーーーっ!!」

 

 案の定子供が飛ばされちゃったよ!

 助けに行かないと!

 

「心配いらない。俺が何とかしてきてやる」

「え?」

 

 エミルが助けに行ってくれるの?

 正直信じられないんだけど……。

 

「大丈夫だ。何とかするから」

 

 ……言うだけ言ってエミルは子供が飛んで行った方向に走っていく。

 大丈夫なのかなあ?

 

「マルタ、人を信じるのって大事な事だよ?」

「信じられる人ならその認識で間違ってないんだろうけど……」

 

 エミルもリーガルさんも非常識の塊みたいになっちゃったし……。

 本当に信じていいのか不安なんだよね……。

 

「ドワーフの誓いの中に、騙すよりも騙されろ、って言葉もあるんだし、マルタも信じて待とうよ♪」

「う、うん……」

 

 そんな言葉はあるのかもしれないけどさあ……。

 まあ、一応様子を見ようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、助け……誰か……」

 

 子供は石橋にしがみついた状態。

 エミルは……?

 

「おい道具屋、ストーンボトル寄越せ」

「ありません」

「キュアボトル」

「ありません」

「パナシーアボトル」

「ありません」

「……何呑気に買い物してるのエミルーーーー!?」

 

 子供が今にも落ちそうになってるのに!

 そんなこと知らんとばかりに!

 

「ううう……誰かぁ……」

「……仕方ない。ディネイボトルと材料を渡すから作ってくれ」

「畏まりました。代金をどうぞ」

「うう……落ち……」

 

 どうしよう……。

 エミルを信じたのは良いけど、どう考えてもこれを放っておいたら不味い気がする。

 今にも落ちそうになってる男の子を完全に無視してエミルはパナシーアボトル作らせてるし……。

 

「どれくらいかかる?」

「そうですね……。じっくり作ると30分はかかります。システムに任せれば10秒も必要ありませんが」

「分かった、じっくり作ってくれ。俺はここで待っているから」

「了解しました」

「……ちょっと! エミルはホントに何考えてるの!?」

 

 30分も落ちたら死ぬような場所に子供を放置する気!?

 助けるって言ってたけど明らかに殺す気満々じゃない!

 

「おい! 哀れな子供が今にも落ちそうになってるんだぞ!? 何呑気に道具屋で合成やってるんだよ!」

「ん? 今誰か何か言ったか? この暴風じゃ何も聞こえなくてなー」

 

 しがみついてる男の子がエミルに抗議するけど、棒読み全開の言葉で思いっきりスルーしているエミル。

 ……本当に任せて大丈夫なの? 早く私が助けに行かないと本当に落ちちゃうんじゃ……。

 

「マルタ、大丈夫だよ」

「……今の状況をどう判断したらそう思えるのか気になるけど、根拠は?」

 

 横に居るコレットは大丈夫だって言う。

 どこをどう判断したらそう思えるのか逆に聞きたいよ。

 

「イベントがちゃんと進むまであの子が勝手に落ちちゃうことは無いから、安心して待ってていいんだよ」

「メタすぎるよ! 確かにコレットの言うとおりイベントの都合で落ちないかもしれないけど!」

 

 30分もあんな場所に放置するなんて、それこそ大問題だよ!

 

「それにね」

「それに?」

 

 嫌な予感しかしないけど、何?

 

「うっかり落ちちゃったとしても、代わりはオールドラントかダイランティアに行けばいくらでも用意できるんだから、心配しなくても大丈夫だよ♪」

「どう考えても代わりじゃないよそれ! というか、笑顔で言っていいセリフじゃないよね!?」

 

 このコレット他の世界で同じ姿の別人にすり替わったとか言われても違和感ないんだけど!?

 こんな物騒な事笑顔で言うようなキャラじゃ無かったよねコレットって!?

 

「マルタ、強くなるにはね……色々、あるんだよ」

「その過程で良心を置き去りにしてきちゃったら駄目じゃない!」

 

 悟ったような顔で遠い目をされても、通用しないからね!?

 というか、こんなことやってる場合じゃないよ! エミルは……!

 

「ここでこうやって材料を……」

「なるほど……適当に混ぜ合わせるだけじゃ駄目なんだな」

「た、助けて……早くっ……!」

「ええ。こうやって煮詰める時に、温度を丁度72℃に調整することがミソです」

「なるほどな。青い壁と覚えておけば大丈夫か」

「72言ってるんでしょうねえこの壁は、で覚えた方が覚えやすいと思いますけどね」

「う、腕が……攣りそう……」

「子供落ちそうになってるのに何呑気に世間話してるの!?」

 

 道具屋と72とか青い壁とか意味不明な会話してるけど、ほんとに今の状況分かってるのエミル!?

 子供落ちそうになってるのに!

 

「うわ、ロングソードが風に飛ばされたー」

「ひいっ!? ちょっ、殺す気かよ!?」

 

 棒読み全開のエミルが突如子供のしがみついてる場所を狙ってロングソードを全力で投げつけた。

 幸い突風で横にそれて橋に突き刺さっただけで済んだけど……ホントに何考えてるの!?

 

「ちょっとエミル! 何やってるの!?」

「煩いハエを叩き落とそうとしただけだ!(いきなり剣が風に飛ばされたんだよ!)」

「本音と建前が思いっきり逆じゃない! というか、全力で投げつけてる時点で言い逃れ出来るわけないでしょ!」

 

 ああもう! ホントに私が助けに行った方が良いんじゃないかな!?

 

「マルタ!」

「こんな時に何!?」

 

 子供を助けに行こうと思ったらコレットに止められた。

 ……こんな時に何!?

 

「マルタ。人を信じる事って非常に重要な事なんだよ? マルタはすぐに自発的に動いてしまおうとするけど、そこで敢えて仲間を信じて待ってあげるのってね、凄く良いと思わないかな?」

「とか言いながら羽交い絞めにするの止めてよ! 口ではそう言ってるけど、羽交い絞めにして動けないようにしてる時点でどう考えても私に助けに行かせる気ないでしょ!?」

 

 しかもコレットの力、前とは比べ物にならないくらい強くなってるし!

 どれだけ力込めても全然びくともしないよ!

 下手したらエミルより力強いんじゃない!?

 

「マルタ、信じる心って言うのはね」

「だからそんな事言ってる場合じゃないでしょ! コレットの言う信じる心のせいでこのままだとあの子谷底に落ちて死んじゃうから早く助けに行かないと!」

「大丈夫だよ。仮に助けが間に合わなくてあの子が落ちてもね、マーテル様は平等に死んじゃった人達を迎え入れてくれるから。あの子の魂もきっとマーテル様と世界樹の中で安らかに眠ることができるよ?」

「ああもう! このコレット全く私の話聞いてくれないよ!」

 

 しかも馬鹿力だから全く逃げられない……。

 このままじゃあの子本当に落ちちゃいそう……!

 

「み、神子様、助けて! 僕もう手に力が……」

「大丈夫だよ。マーテル様が静かな眠りの中に導いてくれるから、安心して手を放してね?」

「コレット本当に変わりすぎだよ! 中身だけ別人に代わったとか言われても驚かないよ!?」

 

 というか、しがみついてる子供が手を放したらコレットも「男の子を見捨てた」って非難されそうなんだけど……。

 その辺どうなの?

 

「大丈夫だよ。私は世界再生の神子だから、マーテル様の元に迷える魂を導いたって皆言ってくれるよ?」

「言わないよ! 普通絶対に言わないよねそんな事!」

「う~~~っ! 神子様~~~~~~……!」

 

 コレットに足止めされている間も子供の体力は限界に近づいていってる。

 腕や顔は真っ赤で、歯を食いしばって耐えている、と言った様子だ。

 ……これを見ても何とも思わないの!?

 

「うん♪ マーテル様の試練だからね♪」

「これはもう試練じゃなくてただの酷い観察だよ!」

 

 というか! エミル早く何とかしてよ!

 

「全く……心配性だなマルタは。よし分かった」

「もう! 助けられるなら早く動いてよ!」

 

 ようやくエミルが動き出した。

 まずエコートレイサーを抜いて……あれ?

 どうしてエコートレイサーが必要なの……?

 

「おおおおおお……っ!」

「わ~……。エミルの剣から光が出ててすごく綺麗だね~」

 

 エミルが掲げたエコートレイサーから突然紫色の光が。

 いやちょっと待って! 本当に何仕出かす気!?

 子供を助けるんじゃないの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とかしてやろうじゃないか! アイン・ソフ・アウルゥゥゥ!!!」

 

 エミルが突然放ったアイン・ソフ・アウルは真っ直ぐに子供がしがみついている橋の根元目がけて飛んでいく。

 まさか……!

 

 

 

 

 

 ズガアアアアアアアン!!!!!!

 

 

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああ……!!!」

「はっ、軟弱なモブだな。獅子ではないが、谷底に突き落としてやったぞ。貴様が本当に強いモブならば、谷の底から這いあがってこれるはずだ!」

「何やってるのおおおおおおおお!?」

 

 エミルが放ったアイン・ソフ・アウルが子供のしがみついている橋を根元から木端微塵に破壊し、子供はそのままアスカードの谷の下へと吸い込まれていった。

 そして、一仕事終えたような表情を浮かべるエミル。

 何とかするんじゃなかったの!?

 谷底に突き落としてどうするつもり!?

 ――――まさかこれが「何とかする」って事!?

 

「マルタ、俺は何とかしてやるとは言ったが」

「うん」

「あのモブのガキを助けるとは一言も言っていない!!」

「そんな事胸張って言わないでよ! ホント人として最悪だよこの主人公!」

 

 案の定こんなこと言い出したよこのエミルは!

 信じた私が間違ってたよ!

 

「ね♪ 仲間を信じて正解だったでしょ?」

「どこが!? どこが正解なのか誰か教えてよ!」




何とかしてやる(ただし子供を助けるとは言っていない)

オチに合わせて途中の話を書いたのは何気に初めて。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。