ラタが駆け抜ける物語   作:ルスト

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天海春香

 side 天海春香

 

 旅に同行してみるとは言ってみたけど……。

 この人たちについていって本当に大丈夫なのかなあ……。

 

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」

「……」

 

 ウェントス……だったっけ?

 私が召喚されてきて最初に見たときは緑色の宝石みたいな色だった物体は、焦がした料理以上に酷い色に変色している上に海苔を無理やり張り付けてくっつけてるから今にも剥がれ落ちそうだった。

 

「制裁終わりだ。さて、帰るぞ」

 

 ……そしてそんな痛々しい物体をかなり乱雑に扱ってる赤い目の男の子。

 異世界の人って皆こんな感じなのかなあ……。

 

「ちょっと待って! まだやらなきゃいけないことあるでしょ?」

 

 ウェントスを最初に引きずって行った栗毛の女の子が口を挟んだ。

 ……最初に見たときと雰囲気が全然違うような気がするのは気のせいなのかな……?

 

「何をだ?」

「はて?」

「……?」

「えっと……何かありましたっけ?」

 

 旅についていくことは言ったはずだし何も無かったような気がするんだけど……。

 

「えっと……私達互いの名前も知らない気がするんだけど……」

 

 栗毛の女の子が私の方を見てそう言った。

 ……確かに、最初以外、自分の名前を名乗った記憶が無い。

 

「……ああ、そう言えばそうだったか?」

「えっと、はい……」

 

 赤目の男の子が声をかけてくる。

 向こうはそんなつもりはないかもしれないけど、少し怖い。

 

「ああもう! もうちょっと言い方考えてよ! 怯えてるじゃない!」

「言いがかりは止めろ。お前に怯えてるだけだろ」

「全くです。何を言うんですかねこのヒロインは。ウェントス相手にフォトン10000回の残虐刑を実行したでしょう」

「そう言うテネブラエはウェントスは壊れても海苔でくっつければいいとか言ったよね!?」

「大丈夫だよマルタ。実際にくっつけられたから♪」

「そう言いながら砕こうとしないでよ! こんなニートでもセンチュリオンなんだよ!?」

 

 ……あまりに突飛すぎて話に入れそうにないです。

 ヒロイン、って言ってるって事は多分物語のヒロインなのかなって事だけは分かるけど……。

 そもそもこの世界って現実、だよね?

 

「マルタさまの相手をしていたら話が進みません。簡単に自己紹介しましょうか」

「あ、はい……」

 

 喋る黒い犬が話しかけてきた。

 なんていうか……頭が追い付かない。

 

「えっと……天海春香、です。765プロのアイドル候補生、だったんですけど……」

「ウェントスに突然拉致された、だったな?」

「はい……。何が起きたのかもわからず、気づいたらここに……」

「……よく我々がここに来るまでマルタさまに襲われませんでしたね」

「私を何だと思ってるの!?」

 

 ……怖い人、かな?

 

「ええ!?」

「当然だな」

「ご、誤解だよ!」

「どうでしょうかね? まあいいです。ではこちらも紹介しておきましょうか」

 

 ……この黒い犬って本当に何なんだろ……?

 教えてくれる、のかな?

 

「俺はエミル。単刀直入に言うと、この世界の勇者だ」

「勇者……?」

 

 亜美や真美が「ドラクエ」の話をしてる事があったけど、そんな感じなのかなあ……?

 

「そのイメージで構わない。このウェントスみたいな極悪生物を一匹残らず叩き潰し、正義の名の下に制裁を加えるのが俺の役目だ」

「え……」

 

 えーと……亜美や真美が喋ってた「勇者」って、そんな職業だったかなあ……?

 なんか、致命的に違うような……。

 

「この世界に意図せず入ってきてしまった以上、勇者の名において最後まで護衛してやるから安心しろ。道を阻む者はとりあえず首をへし折ってやる」

「よ、よろしくお願いします……。でも出来れば惨いのは無しの方向で……」

「次は私ですね。私はテネブラエ。見ての通りセンチュリオン――――魔物の統率者で、この方――――エミルの従者をやっています」

「は、はあ……。犬じゃないんですね……」

 

 まあ、空を飛ぶ犬なんて居るはずないだろうけど。

 

「もし護衛戦力を増やしたい場合は言っていただければ、いくらでも新しい戦力を調達しますよ。このように」

 

 テネブラエがそう言った直後、テネブラエの周囲に見たことのない生き物が現れる。

 真っ赤な蛙のような生き物に、青色のおたまじゃくし? に、緑色の大きな鳥、それから……。

 

「……さか、な……ですよね、この子……?」

「ええ。ジャスコニアスと言う優秀な魚ですよ」

 

 ……明らかに大きすぎないかな?

 こんなに大きい魚まで居るんだ……。

 

「他にも戦力は山ほどありますが、また今度にしましょう。この本でも見ておいてください」

「あ、ありがとうございます。……でもこれ、なんて書いてるんですか……?」

 

 ある意味当然かもしれないけど、文字が全く読めない。

 ……会話は出来ても、文字は読めないんだ……。

 

「ああ、大丈夫ですよ。分からないことはマルタさまが教えますので」

「え!? 私そこまで魔物に詳しいわけじゃ……」

 

 大丈夫なのかな……?

 

「大丈夫です。こんなのでもヒロインですし、最低限の知識はありますよ。と言う事で、マルタさま」

「肝心なところ丸投げしないでよ……。私はマルタ。マルタ・ルアルディ。……周りが周りだし、可能な限り力になるからね」

「よ、よろしくお願いします」

 

 ……周りが周りだしって、どういう事なんだろう……。

 

「さ、コレットさん。そんなところで包丁に劇毒を塗っていないで、春香さんに自己紹介してください」

「あ、ワンちゃん。自己紹介終わったの?」

 

 最後に紹介された金髪の女の子――――コレットさん。

 なんか目が死んでる上にすごく怖い物を作ってるような気がするんだけど……。

 

「私はコレット・ブルーネル。行方不明の想い人を追いかけて旅してる途中でこの二人と出会ったんだ。エヘヘ、よろしくね?」

「は、はい。よろしくお願いします……」

 

 エミルやさっきのジャスコニアスとは比べ物にならない恐ろしい何かを感じてしまい、思わず顔が引きつってしまう。

 だ、大丈夫。笑顔、笑顔を保たないと……!

 

「エヘヘ。私はもうすぐこのパーティを抜けるけど、もし旅の途中でロイドって名前の赤い男の子を見つけたら教えてね? ……ワタシハスグニトンデイクカラ」

「……」

 

 無意識に体は後ろに下がってしまった。

 ……私と同じくらいの年なのに、この子何か怖いよ!

 

「……ゴメン。コレットって普段はあんなんじゃないんだけど、ちょっと今回は……。春香は運が悪かったというかなんというか……」

「……えっと、何があったんですか?」

「この72枚の原稿に全て書いてあr……って、読めないのか。説明すると、片思いしていた相手が同性愛に走ったからああなった」

「えっ」

 

 それは……。

 

「ちょっ! 確かにそうだけどその説明は誤解を」

「そうなんですよ! コレットさんは一途にロイドの事を想っていたにも関わらず、ロイドは何処の馬の骨とも知れない男に恋するようになってしまいまして……」

「…………」

 

 音無さんは何か反応しそうだけど、私はちょっと関わりたくないかも……。

 えっと、その、なんていうか……。

 

「き、きっと頑張ったら振り向かせることも出来るんじゃ……ないか、なあ……?」

「……うん。私頑張るよ! ……ロイドハダレニモワタサナイワタサナイワタサナイ……」

 

 一瞬だけコレットの目に光が戻ったように見えたけど、多分私の見間違いなんだろう。

 やっぱりこの子怖い…………。

 

「……さて、一通り紹介は終わったな。じゃあ帰るz」

「ちょっと待ってくださいよ! 私! 私の紹介がまだなんじゃないですか!?」

「ウェントスは黙ってて。……それともお仕置きが足りないの?」

「っ……」

 

 話を遮るように私をここに呼び出した緑色の宝石が喋ったけど、マルタに睨まれた瞬間に泡を吹いて気絶した。

 ……あの時一体何があったんだろ……。

 

「気にしなくても大丈夫ですよ。さて帰りましょうか」

「もう暴風も止まるだろ」

 

 ……って、暴風?

 

「あ、春香は知らないよね。これ(ウェントス)が働きたくないと喚き散らして駄々をこねてアスカード……この遺跡の上にある町を風の力で木端微塵に破壊しようとしていたんだ。私達がここに来たのはこれを無理矢理引きずり出して町を守るためだったの」

「ところが、このニートは地上に化け物を呼び出して本来のルートで入れないようにしてしまいましたので、私達は本来入れないはずのルートでの侵入を余儀なくされたわけです」

「なんか色々突っ込みどころがあるような……」

 

 なんで働きたくないと喚いて駄々をこねるだけで暴風が起こせるの!?

 というか、化け物はどこから出てきたの!?

 

「その辺は全てセンチュリオンの力だ、としか言えないな。簡単に言うと、力だけある迷惑なニートが我儘と癇癪を起こした結果地上の町が完全崩壊しかけていて、それをどうにかしに来たのが俺達だ」

「その話だけ聞くとセンチュリオンってすごく迷惑じゃないですか!?」

 

 我儘と癇癪だけで町一つ破壊するってとんでもないですよねそれ!?

 

「ちょっ! 私の印象が最悪な方に進むじゃないですか!? 嘘言わないで下さ」

「働きたくないとか写真を25000枚保存するまでどうとか言ってたのは誰でしょうねえ?」

 

 ……本当に破壊した方が良いような気がしてきました。

 まあ、それでも壊していない辺り、壊しちゃいけない何かがあるのかもしれないけど。

 

「そうなんだよね……。こんなのでも『一応』センチュリオンだから、壊すとマナのバランスが崩れるみたいだし……」

「……苦労するんですね……」

 

 理由が理由だし……。

 

「全くだ。主人公は辛い。こうやって馬鹿共が好き放題暴れるせいで最近は胃の辺りがズキズキ痛んで……」

「エミルはむしろ引っ掻き回す方でしょ!? 胃が痛いのはむしろ私だよ!」

「マルタ、出鱈目はよくないと思うよ? エミルの方がマルタよりずっと苦労してるよ?」

「これまでの言動と行動振り返っても絶対そうは思えないよ!」

「なんだと! 最近はモブの首をどうやってへし折ったら一番見栄えがいいのかずっと悩んでいるんだぞ!? 悩みすぎて夜一睡もできないことだってある!」

「そもそも首のへし折り方を悩む発想からしておかしいよ!」

 

 ……これまでの言動や行動は分からないけど、今目の前で起きている物を見ただけでもマルタの方が圧倒的に苦労してそうに見えるのは私だけなのかなあ……。

 好き放題に動き回る亜美真美と律子さんみたいに見えるよ。

 それも亜美真美がちょっと怒ったくらいじゃ止まらないようになった感じの……。

 

「我々は大体こんな感じですが、心配はいりませんよ」

「え?」

「少なくともマルタさま以外、悪影響を与える人はいないと思いますから」

(……目の前の光景を見た感じどう考えても逆だと思いますけど……)

 

 ……本当に大丈夫なのかなあ?




アスカードもそろそろ終わりなので、近々コレット抜けますね……。
そして劇毒を塗った包丁は果たしてナニに使われるのか。
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