「さて、ルインに移ったわけだが……マルタはいつ来るんだ?」
「そうですね……コアの反応からすると、ようやく湖底の洞窟の方に向かい始めたと言う所でしょうか」
「遅いな。遅すぎる」
「全くです」
ルインに移り住んでから今日で丁度半年。
要するに、そろそろ物語を動かす時期がやってきます。
湖底の洞窟にはまだ誰も人間は入っていないようですが、あまりに遅いとこちらから動いても良いような気がしてきますね。
「この半年間、随分有意義な時間だったな」
「グラズヘイムに通い詰めていましたね」
ルインに移り住んでから今日までの半年間、ラタトスク様は毎日のようにグラズヘイムに入り浸っていました。
まあ、目的は完全に修行だったんですけど。
ちなみにこの家はたまたまルインにあった空き家を100万ガルドで拝借した物です。
悪質な宗教を宣伝するような連中とはあまり関わりたくない物で。
「それで、成果の方は?」
「とりあえず薬草5000個だ」
しかし、薬草集めが修業とは、随分変わった修行ですよね。
まあ、これが最も簡単に強くなれる方法なわけですが。
「通販で買った「天雷槍の使い方」は参考になった。俺がやったら天雷剣だが」
「マルタさま要らずですね」
本来ならマルタさま抜きで薬草集めなど非効率すぎてやってられませんが、通販のカタログの中には良い物が入っていますよね。
カトレット・タトリン商会もたまには良い物を用意してくれます。
天に掲げた槍から雷を落とし、アイテムを盗む天雷槍の使い方、一冊1000ガルドでしたっけ。
最近は大s……眼鏡の悪魔に狙われているのでしばらく各地を転々としますぅ! とか言って居なくなってしまったので連絡が取れませんけど。
「レザレノよりよほど役に立つな」
「レザレノの通販にはあまり良い物がありませんよねえ……」
もちろん、戦い以外なら役に立つんでしょうけど。
隠密用段ボールとか。
「しかし、使い道に乏しいな」
「ですよね」
まあ、通販の話はその辺にしておき、そろそろ動きはじめましょうか。
「しかし、半年もグラズヘイムに入り浸って待ってやったのにルーメンのコアはそのままだ。やる気が感じられんな」
「もう先に回収して偽物とすり替えましょうよ」
半年も待ったのに何も無し、とはどういう事でしょうか。
ロイドはのんびりしすぎていますね。
「全く、不甲斐ない奴だ。本当に世界再生の英雄かあいつは?」
「あんな貧弱な能力で戦い抜くとは、相手は随分弱かったんでしょうね」
世界再生の際に立ちはだかったのは人間ではなく、サンドバッグだったんでしょうか?
「さあな。そんな事より、そろそろ動くぞ」
「分かりました」
いよいよ物語の始まりですね。
さあ、まずは町を出ましょうか。
「いや、ここは一応広場に向かうべきだろ」
「一応ルートだけは辿るんですね」
まあ、ルート「だけ」はですけど。
「ああ。この空白期に全部のセンチュリオン・コアを回収してロイド涙目! ねえねえ今どんな気持ち? あると思ってたコアがなくて無駄足になってどんな気持ち? とかやるのも考えたんだがな……」
「面白そうなアイデアじゃないですか。無駄足になったロイドの所に行って嘲笑ってやるのは良い案だと思いますよ。早すぎるだろ畜生! とか言って喚いて捨て台詞と共に逃げていく展開が予想できます」
それこそ二軍の重要な活用法ではないですか。
無駄足を踏んでじたばたしているロイドを指指して嘲笑ってやりましょう。
「だが、それをやると一気に話が台無しになるんだよ。グラキエスが無ければメルトキオに行って闘技場で遊ぶ理由が無くなる。ソルムが無ければ総帥の暴走が見れない。ルーメンが無ければ途中でロイドをボコボコにする理由が無くなる……と言った風にな」
「確かに、大事な理由ですね……」
二軍の空気化やシナリオすっ飛ばしには使えますが、そんなことしても意味がありませんからね。
「だからわざわざ半年も待ってやったんだ」
「なるほど」
まあ、肝心のお話がぶっ壊れるのもどうかと思いますねえ。
では、気を取り直して広場に行きましょう。
「ああ」
……ん? そう言えば広場には……。
「相変わらず二軍の石像が置かれてるな」
「ですよね。まあ、二軍に復興してもらった経緯がありますし、二軍はこの町の人間にとっては大事な存在ですからね」
広場にやってきました。
相変わらず噴水にはロイドの銅像があります。
「待てよ!」
「……またか」
何も言わずに立ち去ろうとしたラタトスク様に対し、呼び止める声が。
ロイド教の狂信者です。
「お前、ロイド様の像にお辞儀しなかっただろ!」
「これで30回目だ! 今日と言う今日は許さねえ!」
暇人なのでしょうか。ラタトスク様がスルーしてもスルーしてもしつこく追いかけてくるんですよね。
この二人組。
像にお辞儀するとか、本当にどこの宗教なんでしょうか。
「ああ、はいはい。モブはとっととすっこんでろ。俺はモブの相手をするほど暇じゃない」
「「そうはいくか! 今日こそロイド様の像に忠誠を誓え!」」
この町がロイドによって復興されたことは知っていますけど、だからって像に忠誠を誓えはあんまりだと思うんですがねえ……。
「だが断る」
「あくまで忠誠を誓わないのか!」
「やむをえん! 無理矢理でも!」
突然モブが襲い掛かってきます。
まあ、いつもの事ですね。
忠誠を誓わないと異教徒扱いになって襲われるようです。
ですが……。
「俺の背後に……立つんじゃねえ!」
「ギャッ!?」
「ガッ!?」
背後に立ったことで逆鱗に触れたのか、二人纏めてラタトスク様に首を掴んで持ち上げられてしまいました。
今日こそ首をコキャッてしまいましょう!
「死ぬまで……寝てろっ!」
そんな声と共に「コキャッ」という良い音が響き渡ります。
悪の宗教の狂信者を討伐しました!
「「ガハッ……」」
「ふん。くだらねえ。死ぬまで寝てろ」
倒した狂信者を見下ろしてそう告げ、ラタトスク様は町を出ようとします。
さあ、湖底の洞窟に出発しましょう!
「待て! 開始数話でモブを殺してそのまま放置して行こうとするな! お前は何を考えている!」
……出発しようと思ったのですが、リヒターに止められてしまいました。
面倒ですねえ。
私たちは暇ではないと言うのに。
「煩いハエを叩き殺しただけだ」
「ハエとモブを一緒にするな! それと、誰がライフボトルを買ってくると思っているんだ!」
そう言いながら首をコキャられたモブにライフボトルをぶっかけるリヒター。
お優しい事です。
「ああ、なんて優しい奴なんだ……」
感動したような目でリヒターを見ているラタトスク様。
首コキャの実行者はラタトスク様ですが、気にしてはいけませんね。
「これを実行したのはお前だろう! 大体、お前はモブがどれだけ大事な存在なのか分かっていない! モブと言うのは……」
ラタトスク様に小言を言いながらもしっかりモブの治療を行うリヒター。
そして、治療した甲斐あってかモブは生き返りました。
即座に飛び起き、ラタトスク様に指を突きつけます。
「「こ、今度こそロイド様に忠誠を誓わせてやる! 今忠誠を誓わなかったこと、後悔させてやる~!」」
生き返ったモブが捨て台詞を吐いて泣きながら逃げていきました。
全く、礼の一言も言えないとは、とことん駄目な人間ですね。
さて、行きましょう。ラタトスク様。
「ああ。こんなところで時間を食うわけにはいかないな」
「ま、待て! まだ俺の話は終わっていない! お前には言わなければいけないことが後200個は……! 屋根の上に逃げるな! 降りてこい!」
リヒターが走って追いかけてきましたが、屋根の上に飛び乗ってしまえばこっちの物ですね。
「俺はお前の相手をするほど暇じゃないんだよ。これから湖底の洞窟に行かないといけなくてな……」
「俺への礼のイベントは……助けたわけでもないから無い、な。だが、それでも俺にはお前に言わないといけないことがまだまだ……!」
相手をしてやるほど暇ではありませんのでスルーでお願いします。
「だから逃げるな! 待て!」
「……リヒター。壁にでも話してろ。お前の言いたいことや話したいこと、そんなこと聞かされても、俺には何も言えないだろ?」
どこかで聞いたような言葉をリヒターに告げ、ラタトスク様は町の外へと飛び出していきました。
「くそ……逃げ足の速い奴だ……! シナリオを壊し、モブの首をへし折っていき、メルトキオの貴族の家からガルドや家具を根こそぎ盗んでいく……何を考えているんだあいつは!」
シナリオをぶち壊して楽しむことを考えていますよねえ?
貴族と貧民のモブをひっくり返したり、貴族のモブをどんどん財産奪って貧民街に送り付けて惨めな生活をさせたりしていますけど。
「その通りだ。俺は自由にやらせてもらう。いや、俺だけじゃない。俺に手紙を送ってきた連中、全員自由に生きるんだ。ご都合主義や手抜き展開など全力で叩き壊し、日の当たらない連中総出で日当たりのいい場所を奪い取る!」
「そのためには、モブの一人や二人、ねえ?」
「ああ。どうだっていい。尊い犠牲だったとでも言えば憐れんでくれるさ」
まあ、マルタさまの前でそんなこと言ったらビンタされた後に「最低」と言われますが。
「俺はエミルじゃないんだから関係ないとでも言ってみるか?」
「姿だけはエミルなんですけどね」
「あいつの好きなエミルは残念なことに出ないわけだがな。その時はタイトル読めと言ってやるさ」
エミルが駆け抜ける物語ではありませんからね。
ラタトスク様が主人公なので問題ないですが。
「とはいえ、序盤の依存症マルタとの触れあいを体験してみるのも悪くないかと思うんだが」
「その内破綻し……ませんか。正体を現してマルタさまが驚愕するだけで」
あれ? ですが、その前にパルマコスタで乱入して正体がばれているような……。
「これを見ろ。レザレノ製のカラーコンタクトだ。これで緑色の目に出来る」
そう言いながらカラーコンタクトをつけたラタトスク様の目は、緑エミルそのものになりました。
「なるほど、完璧ですね。ですが、話し方を変えないとすぐにばれるような気がしますが……」
「上手くやってやるさ」
「分かりました。さて、いよいよ湖底の洞窟ですね」
話しているうちに目的地が見えてきました。
「ああ、行くぞ!」
実際、像にお辞儀するのは頭が狂ってるとしか思えん。
確かに救世主で復興者、なんですけど。