まあいいか。
「レイズデッド! レイズデッド!」
「あhdfんdsんfwまwkwふぁw!!!!!!!!!!!」
「fsdjk5yふぇぴおjckq@ヴぁ6;bv!!!!!!」
「……駄目か」
エミルに連れてこられたナタリア亭の食堂。
そこに転がっていた死体の山をなんとか生き返らせようとして見たけど、どれだけレイズデッドを使用しても全く効果が発揮されない。
というより、どれだけ復活させてもすぐに死んでしまう。
……どうすればいいの、これ!?
「マルタ……あっちの人達にライフボトル? を使ったけど、皆……」
「こっちも駄目だ……。生き返っても、誰一人として復活してくれない」
二人の方も駄目か……。
レイズデッドも駄目だったし、打つ手がないよ……。
「……ウェントス。これ、どうにか出来ない?」
「ひっ! わ、私ですか!?」
エミルの持っている虫篭の中のウェントスに声をかける。
自業自得とはいえ、私の事、完全にトラウマになってるのかな……。
「え、ええと……先ほどまでの流れを見てると、恐らくどれだけ生き返らせても無駄ではないかと思いますが……」
「そんなことは分かってるよ。……どうしてそうなってるのか、センチュリオンなら分からない?」
「はあ……生き返らない、というか、即座に死んでしまう理由ですか?」
「うん、どう考えても変だよ。レイズデッドはちゃんと効いてる。ライフボトルも効果を発揮してる。……なのに、生き返った瞬間に死ぬなんて」
そこが一番気になるんだよね……。
どうすればいいんだろ?
「分かりました……。無駄だとは思いますが、調べてみるだけ調べます」
「頼む。人間目線じゃマナの流れは分からん」
エミルの言葉を合図に、虫篭の中のウェントスが激しく点滅する。
すると、食堂全体の色がかすかに変化した……ような気がしてきた。
うっすらと緑色に見えると言えばいいのかな?
「…………」
「どうだ?」
「え? これは……。なるほど、そういう事ですか…………」
もしかして分かったの?
こんなのでもセンチュリオンなんだよね、やっぱり……。
「はい。何となくですが、分かりました」
「何が原因だ? 教えろウェントス」
「この場所の死体達ですが……生きる気力、のような物が完全に消えてしまっています」
「「生きる気力……?」」
私と春香の声が重なる。
生きる気力って、何……?
「ええと……私もこんなもの見たことが無いので詳しく説明しろ、と言われても無理なのですが……。そうですね、例えるなら「生きたくない」と思っている状態でしょうか? レイズデッドやライフボトルで「体を生き返らせる」ことは出来ますが、心の方が「生きたくない」「死んでしまいたい」と強く思っているせいでどれだけ生き返らせても即座に死んでしまうのだと思います」
「心の考えだけで死ぬのか? 治癒術と薬だぞ?」
治癒術と薬より強力な心の意思って……。
でも、実際そうでもなければレイズデッドやライフボトルを無効化することってありえないよね……。
「『病は気から』という言葉も異世界にはありますよ。どれだけ元気であっても本人が動こうとしなければ動けないのと同じだと思います」
「……なんとなく分かったかも」
死にたいと願っている人をどれだけ生き返らせようと努力しても、本人の意思を無視してるから通用しないって事だよね……。
でも、そうだとするとどうすればいいの……?
「このまま魔物全滅では話にならないぞ……。今から新しい戦力を育てるなどほぼ不可能だ」
「……その気力って、レイズデッドやライフボトル……というか、ラタトスクの世界のアイテムでどうにかならないの?」
「ならないと思いますよ? ……もし出来るのなら、ラタトスク様が誰か一人だけでも生き返らせていると思いますし」
「だよね……」
エミルが出来る限りの手段を使っただろうことはその辺に落ちているボトルの山を見ればすぐに分かる。
何故か数年前に販売中止しているはずのワインの瓶まで転がってるし、自分で出来るあらゆる方法を実行したんだろうね。
それでどうにもならなかったから私に頭を下げたのかな……。
「……」
「春香……いきなりこんな光景見せることになるとは思わなかったけど……その……」
春香は俯いたままで、表情は分からない。
……けど、いきなりこんな光景を見せる羽目になるなんて……。
治癒術ならどうにかなるかと思ったんだけど……。
「……ねえ、ウェントス。この死人達に声を届かせることって出来るの?」
「出来なくはないと思いますが……一人一人に語りかけていたらとても間に合わないですよ」
「だよね……。そうなるとやっぱり……」
「ええ……。せいぜい20人くらい引き戻すのが限界かと。説得にも時間がかかるでしょうし」
20人……実際には魔物20体、って感じになるかな……?
兵士の人達には気の毒だけど、全員救えないならこっちの戦力を優先しちゃうし……。
「あ、あの! 本当に全員救う事って出来ないんですか!?」
「春香……」
春香がウェントスに詰め寄る。
……気持ちは分かるけど、多分無理だよ。
レイズデッドすら通じないならもう私たちに打つ手はないもん……。
生きる気力を取り戻す治癒術なんて聞いたことも無いし……。
「また生きたくなるようにする方法……本当に無いんですか!?」
「春香さん……」
「昨日ここに来たばっかりの私に何が出来るんだって思いますけど、でも!」
「……春香さん、歌、届かせる………………」
「ウェントス、さん……?」
……?
ウェントスが何か考えてるけど、妙案でも浮かんだのかな?
「無駄かもしれませんが、死体に春香さんの歌でも聞かせてみましょうか?」
「は……?」
「「……え?」」
い、いきなり何を言い出すの!?
春香の歌を死体に聞かせるってどういう事!?
「ウェントス……一応話は聞いてやるが、今度はどんな寝言だ?」
「寝言とは失礼な! 私は単に、春香さんの生ライブでこの死体共を叩き起こせないかと思っただけでして……!」
……ますます訳が分からないんだけど……。
春香の生ライブ? でどうして死体を起こせるの?
「決まっているじゃないですか! アイドルの生ライブ聞いてて寝落ちする馬鹿など居ませんよ! つまり、寝ていようがライブ成功で叩き起こせるかもしれないじゃないですか!」
「「「…………」」」
駄目だこれ……。
やっぱりウェントスは馬鹿だったよ。
「それに! 私はそんな経験はしてませんが仕事で疲れ果てたPだって「アイドル達の笑顔見てたら俺も頑張ろうって気になる」って言ってますし(ゲーム内ですけど)、この死体共だってまだ実際に死んでるわけじゃないなら同じ理屈が通ると思いますよ!」
そんな事ドヤ顔で熱弁されても私には理解できないよ……。
エミルなんて頭抑えてるし、春香だって当然呆れて……って、春香?
「……」
春香は何かを決意したような表情で、ウェントスの言葉を聞いていた。
「えっと……ウェントスの馬鹿な発言だし聞き流しても……」
「私……やってみます」
「え?」
「私、ライブやってみます! 私の歌で救える可能性があるなら、ライブやります!」
「ええ!?」
……ど、どうするのこれ!?
まさかこの食堂でいきなり歌を歌うって事!?
「お、おい。いくらなんでもそんな無茶な……」
「やらせてください! お願いします!」
……春香の目には決意の炎が宿っている……ように見えた。
これは止められそうにない、というか、止めるわけにはいかないか。
「……いいのか、あれ?」
「賭けるしかないんじゃないかな……」
私達がそんな事を喋っている間にも、ウェントスがどこかから呼び出した魔物が瞬く間にライブの準備を始めていく。
邪魔なテーブルと椅子、アイテムの瓶を片付け、死体を整理し、春香が歌える空間を作り上げていった。
……ウェントスってセンチュリオンやるより春香の世界で裏方やった方が良いんじゃないかなあ?
「良いですか皆さん! コール忘れずに! 盛り上げていきましょう!」
ウェントスの力で強引に操られてるような気がしなくもないけど、それでもウェントスの号令に合わせ、歓声を上げている(ように見える)魔物達。
文字通りの異世界電撃ライブが半ば強引に始まることになった。
……どうでもいいけど、料理を食べて精神が死んでる人や魔物を助けるためだって事、忘れないでね?
「準備できましたよ、春香さん!」
「はい! ……天海春香、異世界初ライブ、頑張っていきたいと思います! みなさん、応援よろしくお願いします!」
春香の言葉の直後に響き渡るウェントスや配下の大歓声。
た、確かに闘技場と比べても大差ないほどの盛り上がりだけど……。
「じゃあ、一曲目歌わせていただきますね! 一曲目は~……『キラメキラリ』! 私の友達の持ち歌なんですけど、聞いててすごく明るい気分になれる歌だと思います!」
そして始まった春香のライブ。
『キラメキラリ』……かなり速いテンポと明るい音楽……。
……確かに、自然と楽しい気分になってきちゃうかも。
「奇跡を待つより始めてみよう」かあ……。
「……」
「……でも、まだ死体に変化はないか……」
というか、変化する方が変な気もするけど……。
少しでも良い方向に変化したらその場でレイズデッドすればいいかな?
「……ありがとうございました! それじゃ、二曲目行きますね! 二曲目は~……『ONLY MY NOTE』! まだ本番ライブで歌ったことは一度も無い、今日、このライブが初お披露目の楽曲で~す!」
「最高じゃないですか! 全世界のファンの中で初めて春香さんの『ONLY MY NOTE』聞くことが出来るとは! 寝てる連中も今すぐ起き上がって聞くべきですよこれは!」
「天海春香、二曲目、歌いま~す!」
『ONLY MY NOTE』……これもすごく速い曲だね……。
「新しい世界、輝く未来を信じて前に進もう」かあ……。
……この世界にそんな未来があるのかはすごく怪しいんだけどね……。
主に壊れたリーガルさんとかクラトスさんのせいで。
「う、ぐ……っ」
「! 少し反応が変わった……?」
本当に死体がライブで起こせたの!?
よく見たら肌の色もまともになってきてるような……。
今なら……効く!?
「レイズデッド!」
倒れている兵士や魔物を光が包み込み、再び命を吹き込む。
さっきまではどれだけ使ってもこの直後に命が抜けていっちゃってたけど……。
「う……あっ…………」
「ぐっ、ゴホッゴホッ……!!!」
「生き返った! エミル!」
「分かってる! 片っ端からライフボトルを飲ませてくる!」
エミルはそのまま魔物達の方に走って行った。
私はとにかく兵士たちを助けないと!
どういう理屈かは知らないけど、今なら助けられるんだから!
NG版(台本形式)
ウェントス「では春閣下! お願いします!」
春閣下「全員私の前に跪かせてあげるわ! 心して聞きなさい! 『I Want』!」
ウェントス「orz」
魔物「orz」
ルーク「orz」
ガイ「orz」
白光騎士団「orz」
ラタ「orz」
マルタ「アイドルってなんだっけ……?」
春閣下「跪くことしか出来ない哀れな愚民達の支配者よ」
マルタ「何か色々おかしいよ!」
春香さんがキャラ崩壊してたら確実にこんな展開やってた。