「……全く、酷い目に遭いました」
「大丈夫ですか?」
エミルと手分けして死んでいた人達を蘇生させはじめてからどれくらい時間が経ったのか。
ようやく最後の騎士を生き返らせることが出来た。
「いくらルーク様の命令とはいえ、まさかあんな物を食べろと命じられるとは……うっ」
「ほ、本当に大丈夫ですか? もう少し休んでいた方が……」
「いえ、もう大丈夫です」
騎士は若干ふらつきながらも剣を支えに立ち上がり、そのまま春香のステージの方に……って、あれ? 帰るんじゃないの?
「……終わるまで帰れませんよ。あの歌声が私に生きる気力を与えてくれたんですから……」
「あ、うん……」
見ると、蘇った魔物や騎士の大半が春香のライブの方に集まっていた。
当然ルークやエミルが声を上げても聞いていない。
「おい! お前ら、帰るぞ! どうして俺の命令聞かねえんだよ!」
「テネブラエ、お前からも命令しろ! あいつら早くねこにんの所に送り返さないと……」
「命令してはいるのですが……どうも指示を聞きません……」
……というか、この騒ぎの元凶は君達だよね?
そこの赤毛とエミル?
「なっ……俺が悪いってのか!?」
「俺のせいじゃねえ! 悪いのはこんな紙を俺の部屋に置いていたこの宿だ!」
「紙?」
エミルが突き付けてきた紙には「ナタリア亭の夕食を完食したら『究極レベルメタフィン』を進呈する」と書かれていた。
……まさかこんなアイテム欲しさにこの大惨事を引き起こしたの?
「こんなアイテムとはなんだ! レベルメタフィンさえあれば人間の限界を超えて強くなれるんだ! 一軍の椅子を守るために仕方なかったんだ!」
「そうだよ! 俺は悪くねえ! そもそもあんな料理が出てくるなんて誰も教えてくれなかったんだ! 人間が食えない料理だって知ってたら、俺はそもそも参加しなかった!」
「「だから、俺は悪くねえ!!」」
「そうだと思ってたけどさ……反省する気も無いの!?」
ここまでやらかしておいて「俺は悪くねえ!」とか言える、普通!?
春香のライブで生き返ったから良かったけど……。
「あんな料理が出てくるなんて知るわけねえだろ! それに、人数どれだけ連れてきてもいいって言われたから俺は騎士団を連れてきたんだよ!」
「参加人数の制限とか書いてないだろ? だから俺は魔物を率いて参加したんだ!」
「「だから俺は悪くない! 悪いのはこの宿だ!」」
「ああもう……! というか、少しは常識考えてよ! どこの世界に、200以上の参加者を引き連れてチャレンジする人が居るわけ!? いくらルール上問題ないって言っても、おかしいって考えなかったの!?」
普通の参加者だったら少なくともここまでの大惨事は招かなかったよね……。
よりにもよって各々200以上、合計で400を超える犠牲者を出すなんて……。
「マルタ! 俺は勝てばいいからやったんだ! それがルールとして認められているならやらない方が悪いだろうが!」
「……その結果として何が起きたのかちゃんと理解してるよね?」
「……」
テネブラエや主力の魔物を文字通りあの世行きにしかけたこと自体は悪いと思っているのか、エミルは目を逸らした。
というか、さ……。
「もしここでテネブラエも魔物も全滅したら一体どうするつもりだったの?」
魔物全滅、なんてことになったら正直この世界で生き残れる気がしないんだけど?
春香を守るので手いっぱいになるわけだし。
「……俺はただ、春香にここの景品を与えて自分を守れる力を付けさせようと思っただけで……だけで…………」
「……」
エミルにしては珍しく嘘を言っているようには見えない。
まあ、テネブラエまでそう思っているのかは怪しいし、一軍の椅子を守るついでかもしれないけど……。
「……申し訳ありません、ラタトスク様。ご命令を、果たせず……」
「……そもそも、何で魔物を全滅させるような危険行為を止めようともしなかったわけ?」
「マルタさま、一軍の椅子は、命より重いんですよ。命を投げ出しても手にすることが出来ませんでしたが……」
「こんな馬鹿な真似までして一軍の椅子を手に入れなきゃいけないなら、もうずっと控えメンバーで良いって思うのは私だけなのかな……?」
むしろ何かあった時以外傍観していられるし……。
「何を言うんですか! それでもラタトスクのヒロインですか貴方は!? 一軍として戦い抜いて、敵の屍の山を築き上げる事こそ、ヒロインの責務でしょう!?」
「屍の山を築き上げる殺戮ヒロインとか嫌だよ! 実際そうせざるを得ないかもしれないけどさ……」
クエストの敵とか本気で戦わないと危険すぎるし……。
「ありがとうございました!」
「「「ワアアアアアアアアアア!!!!」」」
そんなことを話していたら春香のライブが終わったらしく、生き返った人達の大歓声が聞こえてきた。
……春香が居なかったら大変な事になってたよ。
「少しは良いところもあると思っていたのですが……我々が馬鹿でした」
「い、生き返ったんだからいいじゃねえか! 俺ばっか責めるな!」
「ルーク、あんまり俺を幻滅させないでくれ……」
……そこの赤毛は反省する気無いの?
他人だからエミルみたいに一々言わないけど。
「俺は……俺は悪くねえ……俺は……」
連れて来た人達に置いて行かれたのは気の毒だけど、自業自得だよね、これ……。
「って、おい! お前達どこに行くんだよ!」
「まさか逃げ出す気ですか!? 待ちなさい!」
エミルとテネブラエの叫び声がしたので振り向くと、魔物の一部が勝手に逃げてしまっていた。
って、ええ!? ……本当にどうするつもりなのこれ!
「お前ら! 主人は俺だ! 従え!」
「ラタトスク様に逆らうつもりですか!?」
よりによってこっちまで魔物に逃げられるなんて……。
幸いと言うべきか、手塩にかけて育てた一軍の魔物は大丈夫だったから戦力に支障はない。
けど、エミルが適当に育てた魔物や捕まえてねこにんの倉庫に放り込んでいただけの魔物の半数以上が勝手に契約を解除して逃げて行ってしまった。
「………………」
「え? ああ、うん。気にしてないからね……。全部エミルとテネブラエが悪いんだし……」
ジャスコニアスは何も喋らないけど、一軍魔物の事ならエミルより分かる自信はある。
……役に立てなくて申し訳ない、って?
仕方ないよ、こればっかりは……。
「『こんなところに居られるか! 俺は故郷に帰る!』 なんだと!? 待て! そんな勝手認められるか!」
「待ちなさい! 脱走は罪です! 重大な反逆行為ですよ!」
「え、えっと、あの二人は……」
「ああ、うん……。自業自得だから……」
ライブを終えた春香にはこっち側で何が起きてたのかは分からないよね。
まあ、説明するようなことじゃない、というか春香が気にすることは一切ないから……。
「なんか『脱走』とか言ってますけど……」
「ここの料理を食べさせたせいで一軍以外が逃げちゃって……」
「ええ!? それって大丈夫なんですか!?」
……実際の所はどうなんだろ?
エミルのセンチュリオン技の威力が下がるだけだから気にする必要ないかな?
「被害としては大したこと無いんだけど、でも」
「ハア、ハア……。あの裏切り者共め! 捕まえてやった恩を忘れて逃げ出しやがった!」
「同感です! 全く、許せません! なんですかあの恩知らず共は!」
「……二人のプライドはズタズタになったかも」
捕まえようと追いかけたみたいだけど、結局逃げられたらしい。
息を切らせたエミルとテネブラエが戻ってきた。
「……逃げられちゃったんですか?」
「見事にね。まあ、どうせ二人の事だから代わりを補充すると思うよ」
今逃げて行ったの、力づくで契約させて増やしてきた魔物ばっかりだし……。
センチュリオン技のエネルギー源にしかしてないってどうなんだろ……。
「情けないですね、ラタトスク様、テネブラエ。私のように人望が無いから、そうやって魔物に逃げられるんですよ?」
自分の案が結果的に成功したからなのか、それともエミルとテネブラエが配下の魔物に逃げられてしまったからなのかは分からないけど、ウェントスがドヤ顔で二人を煽っている。
……でもさあ。
「ウェントスが人望とか言える……?」
無理やり人を異世界から連れてくるようなセンチュリオンだし……。
今回の案って結果的に成功したけど、傍から見てるとどう考えても「お前は何言ってるんだ」って言いたくなるものだったよ。
「……ウェントスにまで馬鹿にされるとは! あの裏切り者共! 必ず捕まえて今度は逃げ出さないように教育を施してやる!」
「同感です! 二度と逃げられぬよう、牢獄の中に放り込んでやりましょう!」
「……この二人もどうにかならないのかなあ」
そんな事ばっかり言うから魔物に嫌われて逃げられる気がするんだけど……。
今回の事だって逃げださずに残った一軍魔物には何も言って無いわけだし。
「……というか、一体どんな物を食べたらあんなことになるんだろ」
食べた人も魔物も皆死んでしまうおぞましい料理。
……もちろん食べるつもりはないけど、どんな料理なのか見てみたい。
それだけ凄まじい物だって事だろうし。
「……お待たせいたしました。誰も食べないとは思いますが、昼食のご用意をさせていただきました」
「え?」
ここで背後からかけられた声に反応し、振り返った瞬間、私は絶句することになった。
ウェイトレスが持っていた「それ」は、私の想像の斜め上……ううん。空の果てまで突き抜けていきそうな物体だったからだ。
「……こ、これ、は……?」
ウェイトレスの持っている皿の中には何かの頭らしき物体がある。
一見骨、というか頭蓋骨のようにも見える物体の中から管のようなものが生えており、まるで植物の蔓のようにも見えた。
……その物体がまるで獲物を探し求めるように動いていなければ、の話だけど。
「あ、あの……その料理、動いてません?」
「……」
こちらを見てしまった春香もあまりの光景に言葉が出ないらしい。
完全に固まってしまった。
「……はい。生鮮食品を使っておりますので、少々食事が動き回ることがございますが、食べることは可能です」
「それ食事って言いませんよね!? 生きた物体を少し加工して料理として出しただけですよね!?」
食事って言ったら食べ物を料理……味付けしたりして美味しく食べることだよね!?
動くものを殺して食べるとなったらそれもう魔物の狩りと変わらないよ!
「……当方は味付けにも拘っておりまして……死体の脳味噌を煮込んだスープを」
「言わなくていいよそんな事! 聞いたら余計に食べる気なくなるよ! 絶対に食べないけど!」
そもそも「料理」の概念が私とは根本的に違うんだと確信できた。
……これは生き物が食べて良い料理じゃないよ!
「は、春香! 出発しよう!」
「へ!? は、はい!」
これ以上ここに居たら駄目!
逃げよう!
「では、そちらのお客様は……」
「断る! 逃げるぞテネブラエ!」
「承知しました!」