ラタが駆け抜ける物語   作:ルスト

34 / 34
ハコネシア峠

「マルタ。なるべく早く先に進む予定だったが……事情が変わった」

 

 ナタリア亭を逃げ出した後、突然エミルがこんなことを言い出した。

 まあ、大体予想はつくけど……。

 

「魔物の乱獲でもするの?」

「当然だ! 俺を裏切って逃げて行った連中の代わりを見つけだす!」

「……必要なの、それ?」

 

 正直、主力の魔物が無事なだけでも良かったと思う。

 もし主力が全部逃げちゃったらそれこそ取り返しのつかないダメージを受けることになってたわけだし。

 

「必要だから言っている! ……と言う事で、マルタ。しばらくお前は二軍行きだ。俺が戦闘の指揮を執る」

「まあ、二軍行きは別に良いけど……」

 

 あんなことやらかしたエミルとテネブラエに従ってくれる魔物居るのかな……?

 私が魔物だったら絶対逃げ出すし、エミルとテネブラエの言う事を聞こうとは思えないよ。

 

「そこは問題ありません。マルタさま、我々は魔物のプロですよ? 乱獲ポイントに到着したら、マルタさまは春香さんとその辺で待っていてください」

「……って言われたけど、どうしようか、春香?」

「えっと……一軍、とか二軍って良く分からないんですけど、マルタは戦わなくていいって事?」

「そういう事。けど、万が一の時は春香の事はちゃんと守るし、安心して」

 

 ……と言っても、エミルとテネブラエが向かおうとしてる場所が場所だし、心配いらないかな?

 どうしてこの段階でそんな場所に行けるのかは知らないけど。

 

「よし、次の目的地はグラズヘイムだ! パルマコスタからグラズヘイムを目指す!」

 

 ……本当にどうしてそんな場所に行く必要があるの?

 魔物が欲しいならその辺で捕まえればいいのに……。

 

「決まっている! その辺で捕まえた雑魚だから裏切りやがったんだ! 俺は裏切り者を許さねえ! 絶対にだ!」

「グラズヘイムの魔物なら裏切りません。……まあ、マルタさまにそれを伝えても分からないでしょうが」

「言うまでも無く分からないに決まってるじゃない」

 

 私が魔物と契約したわけじゃなくて、エミルが乱獲した魔物を勝手に育てただけなんだから……。

 エミル、魔物を捕まえてそれっきりで放置するのが当たり前だし……。

 

「ラタトスク様もテネブラエも馬鹿な事をしますよねえ。センチュリオンの暴走パワーで無理矢理操れば手っ取り早いでしょうに」

「……その結果アスカードが滅茶苦茶になってるって事、忘れてないよね?」

 

 そもそも、覚醒した状態のコアがどうやって暴走するのって言いたいけど。

 

「よし、行くぞテネブラエ! 目的地はグラズヘイムだ! ハコネシアを抜け、パルマコスタからグラズヘイム行きの船に乗るぞ!」

「承知しました、ラタトスク様!」

 

 そもそもどうしてグラズヘイム行きの船なんて出てるんだろう……。

 あんな危険地帯に向かう船なんて普通誰も乗らないだろうに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあ……。かなり急な坂なんですね、ハコネシア峠って」

「うん。かなりきつい坂だけど大丈夫? 春香」

 

 ハコネシア峠。

 異様な料金を吹っ掛ける通行証を売りつける奴が居たりしたのは昔の話で、今は誰もが自由に通れる場所になっている。

 けど、この急な坂道はどうにかならないのかな……。

 

「って、あれはヴァンガード……」

 

 坂道の下にはヴァンガードの兵士が。

 ホークもアリスも居ないし、襲われる心配も無いから進むけど……。

 

「あの、ヴァンガードってなんですか?」

 

 あ、そうか。

 春香にヴァンガードの事話してなかったっけ。

 

「えっと、ヴァンガードは」

「屑の国テセアラからシルヴァラントを守るために組織されたシルヴァラント解放戦線だ」

「テセアラ人が暴虐の限りを尽くしているのに耐えられなくなったシルヴァラント人の防衛組織ですね」

「え!? ちょっとエミル、テネブラエ! 嘘は……」

「嘘じゃねえよ、事実だ」

 

 確かに間違ってはいないかもしれないけど、でもそれは明らかに誇張しすぎだよ!

 

「テセアラ人のシルヴァラントでの悪行は凄まじいぞ。拉致、泥棒、強盗、殺人、放火、麻薬販売、不当な買占め……想像するだけでも恐ろしい話だ」

「ええ。奴らは人の皮を被った魔族です。人ではありません」

「えっと……マルタ、二人の話って本当なんですか?」

「……明らかに話を盛りすぎてるよ。だけど……」

 

 実際に拉致を行おうとしていた現場を見てるし、シルヴァラント人を虫けらみたいに扱ってる連中が多いのも事実なんだよね……。

 

「残念だけど、事実も混ざってる。春香の世界がどうなのかは知らないけど、この世界は綺麗な世界じゃないからね……」

「そう、なんですか……」

 

 テセアラ人との差がありすぎるし、何度も同じ時間軸をループしてるこの世界じゃその差が埋まるわけがないからね……。

 

 

 

 

 

「ん? 待て、そこの一団」

「え!?」

 

 坂を下りたところで声をかけられた。

 振り返るとヴァンガードの兵士。

 ……さっきの話、聞かれた?

 

「……何か用ですか?」

「いや、マルタ様じゃない。そこの金髪と犬、君らだ」

 

 さらっと「マルタ様」って言ってる割に私の事スルーなんだ……。

 まあ、この世界じゃパパも恐らく偽のコアなんて狙ってないよね……。

 

「俺に何か用か?」

「今の話だが……君たちの博識ぶりに感動した! 君達のような未来ある若者がテセアラ人の下劣な行為を把握していることに! 全くその通りなんだ!」

「だろうな。だから俺達はテセアラ人の悪行を世に知らしめようと活動を続けているんだ」

「我々も同じだ。あの下劣なテセアラ人の悪行をシルヴァラントの人々に知らしめ、我らの手で裁きを与えなければいけない!」

 

 どうしてエミルとヴァンガードが意気投合してるんだろう……。

 敵の敵は味方、なんて言葉があったかもしれないけどさあ……。

 それでも、主人公が堂々とテセアラ人を「屑野郎」って決めつけるのはどうなんだろ。

 確かにろくでもない人はいるけど、話が通じる人だって居るよね?

 

「ほう、となると、やはり魔物の大軍をけしかけて……」

「いやいや、その前に魔導砲をメルトキオに叩き込むんだ。メルトキオを焦土に変えてから魔物の大軍を送り込んで制圧してだな……」

「あの町には下水道があります。下手をすれば逃げられますよ?」

「それこそ、下水道に毒をまき散らせば……」

 

 へえ、魔導砲でメルトキオを吹き飛ばすんだ。

 テセアラって技術は凄いけどさすがに魔導砲の直撃なら潰せるよね。

 

「……って、エミルもテネブラエも一体何しでかす気なの!? メルトキオを吹き飛ばして下水道に毒をまき散らすって、戦争でも仕掛ける気!?」

「ん? ああマルタ、気にしなくていいぞ? これは俺達とヴァンガードの問題だ。部外者には関係ない」

「マルタ様には関係ありません」

「私立場的にも滅茶苦茶関係あるはずなんだけど!?」

 

 忘れられてるかもしれないけど、ブルート総帥……ヴァンガードトップの娘だよ私!?

 

「……そうでしたっけ、マルタ様?」

「そうだよ!?」

 

 というか、なんで様付けまでしておきながら確認するの!?

 

「……ああ、そう言えばそうだったな。お前そういう設定だったか」

「すっかり忘れていました」

「……」

 

 頭が痛い……。

 確かにこんな世界じゃ私がヴァンガードの総帥の娘なんて設定は、羽が生えて勝手にどこかに飛んで行っちゃうかもしれないけどさ……。

 

「……え、えっと、マルタ。ちょっといい?」

「? どうしたの春香?」

 

 エミル達とヴァンガードの会話を聞いて頭を抱えていた私に声をかけてきた春香。

 ……まともな人、今の所春香だけだよ。

 それはそれとしてどうし――

 

「さっきからあっちの小屋の方からずっと見られてる、ような気がするんだけど……」

「え? あー……あのお爺さんか……」

 

 すっかり忘れてたけど、ハコネシア峠にはコットンとかいう名前の女の子好きのお爺さんがいたよね……。

 窓から双眼鏡でずっとこっちを、というか春香を見てる……。

 

「……どうする? エミルとテネブラエの無駄話はまだまだ終わりそうにないけど、でもあの人はちょっと……」

 

 時間潰しにはなると思う。

 けど、あの人はちょっとなあ……。

 なんていうか……普段、こっちを見る時の目が少しアレだし……。

 

「悪い人なんですか?」

「……いや、悪い人じゃないよ。だけど……」

「……なんじゃ、わざわざそっちからも見えるように覗いていたと言うのにその微妙な反応は……」

「あ……」

 

 って、コットンさん自分から出てきた……。

 

「……全く、人の家の前でさっきから妙な話ばかりしおって。栗毛の娘さんにそっちの娘さん、せっかくじゃから茶でも飲んでいかんか? ミズホから取り寄せた珍しい茶が手に入ったでな」

「へ? お茶?」

 

 ……あれ?

 コットンさんってこんな人だっけ?

 単に骨董品ばっかり集める変な人だったんじゃ……?

 

「そうじゃよ。ああ、ちゃんと椅子も出そう。そこの物騒な若者共の話が終わるまでの暇潰しにどうじゃ?」

「って、言ってるけど……マルタ?」

 

 ……おかしいな、こんな人だったっけ?

 普段とまるで別人じゃないかな、このコットンさん……。

 雰囲気がまともというか……。

 けどまあ、せっかくだし……。

 

「そうですね。あの無駄話が終わるまで立って待つのもアレだから、ご馳走になります」

 

 振り返ると、何故かエミルとテネブラエがヴァンガードの集団を相手に演説を始めていた。

 

「テセアラは悪だ! 滅ぼさなければならない!」

「人間狩りだ! テセアラ人を狩りつくせ!」

「テセアラ人は遺伝子の欠片まで丸焼きにしてくれるわ! がががー!」

「俺達ヴァンガードに逆らう連中は悪だ! テセアラ人には礼儀を教えてやらねばならない!」

「テセアラ人は人間じゃねえ! 人の皮を被った悪魔のサルだ!」

「私と契約して殺戮マシンになってください!」

 

 耳を傾けてもそんな感じの発言しか聞こえてこないのが残念だけど。

 ヴァンガードっていつからこんな集団に……最初からだっけ?

 

「……テネブラエ、この頭が痛くなる演説が終わったら呼んで。それまであの小屋に入ってる」

「なんと! この素晴らしい演説を聞かないというのですか!? ……これだから平和主義のヒロインは駄目なんですよ。これからの時代は殺戮ヒロインが流行りますよ?」

「殺戮ヒロインなんて、一体誰が得するの……?」

 

 頭が痛くなる会話を切り上げ、私は小屋の方へと足を進めた。




屑の国テセアラ。
にじファンで書きたかったですが、書けずじまいだったんですよね。
ゲームではここまでは行かないですがそれでも人攫い(未遂)の現場見せられたり、テセアラ人が人や物を略奪してるって発言が出てきたのはなかなかにショックでした。
何が栄光あるテセアラだ! 犯罪者が貴族の皮被ってるだけじゃないか!
おまけにテセアラの屑野郎を叩き潰すシーンも無かったのでストレスがマッハ。
ユーリさん来てください! テセアラには斬らないといけない悪党がいっぱい居ますよ!

次話はまるごとコットンの話になりますかね?
誰だお前レベルで変わってるような気がしますけど、どうなるでしょうか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。