「
「……っ!! あ、アンタの事なんて、全然好きじゃないんだからね!!」
「ガーン!!」
昼休み、僕達二人以外には誰もいない高校の屋上。
渾身の力を込めた僕の告白は、ヒナタちゃんの言葉によって見事に玉砕してしまった。
「そっか……僕の魅力がそんなに足らなかったんだね。魅力を磨いて、出直してくるよ。それじゃあね!!」
「ちょ、ちょっと……!!」
残念だけれど、告白が実らなかった男子がいつまでもウジウジと目の前にいても、女子としては鬱陶しいだけだろう。
そう思い、僕は屋上を去ろうとしたのだが……ヒナタちゃんは何故か、振り向いた途端に僕の腕を掴んできた。
「あ、アンタ何でそんな、あっさり……!! あ、アタシの事、好きなんじゃないの!?」
「え? そりゃあ僕は好きだけど、ヒナタちゃんは僕の事好きじゃないみたいだし、しつこいのもどうかなって」
「い、いや、それは……その……」
僕の言葉に、ヒナタちゃんはみるみる顔を真っ赤にしていく。
うーん、やっぱり怒ってるみたいだなぁ。
彼女のこんな顔は僕の前以外で見たことないし、相当なおかんむりって事なんだろうなきっと。
「ヒナタちゃん、僕の事は好きじゃないんでしょ?」
「そ、そりゃあ……!! アンタの事なんか、好きじゃないんだからね!!」
「うん、だから僕はさっさと消えるね」
念の為に確認すると、わざわざ同じ言葉を繰り返してまでヒナタちゃんは事実を強調してくれた。
うんうん、これまで五回ぐらい告白してきたけど、全部同じ返事だったからなぁ。
やっぱり僕に何かが足りないって事なんだろう。
自分の未熟さを丁寧に教えてくれた彼女に感謝しながら、僕は彼女の腕をそっと払って屋上を後にするのだった。
「あうぅ……アタシの、バカぁ……」
翌日の放課後。
ヒナタちゃんに告白を断られた五回の経験を反省として、僕は自分の足りないところは他人に相談してみよう、という考えに至っていた。
「というわけで、君なら僕の足りないところが分かるんじゃないかと思ったんだけど。どうかな、ヒナタちゃんの友人さん?」
「うん、私は
思いたったが吉日と考えた僕は早速、マコさんというらしい彼女――――ヒナタちゃんともども、僕の隣のクラスだ――――を適当な空き教室に呼び出していた。
「あれ、違うクラスの僕の名前を知ってるの? すごいなぁ、僕なんて未だに同じクラスの人の名前もうろ覚えだよ」
僕は人の顔を覚えるの苦手だから、彼女を素直にすごいと思う。
まぁ、僕たちが高校に入学してから一年も経ってないというのも、少なからずあるけれど。
「いや、まぁ、ヒナタから……お噂はかねがね……」
僕が素直に思ったことを伝えると、何故かマコさんは困ったような表情で目を逸らしながら言う。
「え、ヒナタちゃんから?」
それにしても、意外だなぁ。
ヒナタちゃんは僕なんて好きじゃないって散々言ってたから、僕のことを誰かに話すなんてしないと思ってたのに。
「僕のことは、なんて聞いてるの? 酷い人間だー、とか?」
「え!? いや、えっとね……!!」
分からないことは素直に聞くのが大事という彼女の教えに早速従ってみると、何故かマコさんは驚いた顔をしながら僕の顔を凝視する。
なんだろう、そんなにおかしな質問したかな、僕。
「どうしよう、ヒナタからの聞きしに勝る鈍感っぷりだよぉ……でもコレ、素直になれないヒナタもヒナタだし……うぅ、私の責任、重大じゃないコレ……」
「マコさん? 大丈夫?」
何やら僕には聞こえない声でブツブツと呟きだしたマコさん。
心配になった僕が声をかけると、マコさんはハッとした表情でこちらに向き直った。
「え、えっとね……ヒナタは、青柳くんの事を悪くは言ってない、よ?」
「あ、そうなんだ。それなら、良かったよ」
あんまり悪く言われたら悲しい気持ちになってたところだったから、それはありがたいな。
うーん、具体的に何をいってたのかも、ちょっと気になるけど……まぁ、これ以上は話が脱線しちゃうか。
「それじゃあえっと、本題なんだけど……僕、ヒナタちゃんに告白を受けてもらえるような、そんな人になりたいんだ。マコさんは、どうしたらいいと思う?」
「なるほど、そう来るのね……それならうーん、えっと……」
僕の言葉に、マコさんは首を捻って真剣に考え始める。
突然の相談にもこうして乗ってくれる辺り、相当いい人みたいだなぁ。相談したのがマコさんで良かった良かった。
「……あ、そうだ!! ヒナタね、来週誕生日なんだよ!! その日に、プレゼントを贈ってあげればいいんじゃないかな?」
「なるほど、誕生日……」
ポンと手を叩いた彼女が提案してきたのは、僕にも魅力的に思えるアイディアだった。
なるほど、誕生日プレゼントかぁ。そもそもヒナタちゃんの誕生日なんて知らなかったから、それだけでもすごくありがたい。
「分かったよ、プレゼントだね!! それなら、いま大人気の『鬼殺の刃』のコミックス全巻買ってくるよ‼︎」
「どうしてそうなるの青柳くん!?」
自信満々な僕の提案に、何故かマコさんは心底不思議そうな表情をした後で溜め息をついた。
うぅん、喜んでもらえると思ったんだけどなぁ。僕だったら絶対嬉しいし。
「もっとこう、あるでしょ……なんか……いい感じのやつ……」
「んー? マンガ以上ってなると……まさか、アニメのDVD?」
「額の問題じゃないよぉ!!」
よっぽど僕の回答は彼女のお気に召さなかったのだろうか、マコさんは痛そうに頭を抱えてしまった。
でもうーん、他にプレゼントって言われても、何がいいんだろう。女の子にプレゼントを渡した経験なんてないから、これ以上は分からないなぁ。
「はぁ、しょうがないなぁ……もう見てらんないし……」
「……マコさん?」
はぁぁ……と、最後にもう一回、特大の溜め息をマコさんはつくと。
「……青柳くん。今度の週末、私と一緒にショッピングモール行こうよ。ヒナタへの誕生日プレゼント買いに、さ」
「……え? 一緒に……?」
そんな、僕にしかメリットがない提案をしてくれた。
「いいの、そこまでしてもらって?」
「まぁ、乗り掛かった船だしね。このままだと、二人が進展する未来が全然見えないし……」
「ん、何か言った?」
「い、いやぁ、何でもないよ!!」
こんなに優しい人がいたなんて、彼女に相談をして本当に良かったなぁ。
こんないい子を友達にできるヒナタちゃんにも、惚れ直すと言うものだ。
「じゃあ青柳くん、連絡先交換しようよ。ほら、スマホ出して」
「うん、分かった。えっと……」
そうしてマコさんに言われるがまま、段取りが進んでいく。
僕は次の告白こそ成功できる予感に、気持ちがワクワクしてきていた。
「……マコ? なんで、青柳と……」
――――浮かれていたので、教室の外にヒナタちゃんがいたことに、僕はまるで気づかなかった。
週末の買い物は、問題なく終了した。
マコさんはとても丁寧に、ヒナタちゃんはこういうのが好きとかこの店に良く入るとか、今回だけじゃなく次回も使えそうな話をショッピングモールでいっぱい教えてくれた。
ここはよくヒナタちゃんと二人で行くところだから、というマコさんの案内は、実にスムーズなものだった。
友達というだけでここまで付き合ってくれたマコさんには、感謝してもしきれない。
そして、彼女に教えてもらったヒナタちゃんの誕生日の当日。
僕はプレゼントが入った紙袋を持って、ヒナタちゃんに会いに行こうとしたのだが。
「――――青柳。ちょっと話があるから、顔を貸しなさい」
その日の昼休み。
なんとヒナタちゃんの方から、僕に話しかけてきてくれたのだ。
基本的に僕から話しかける事の方が多いから、話しかけてくれただけでもすっごく嬉しい気持ちになった。いつも「アンタ」とかそんな感じの言い方ばっかりだったから、僕の名前を呼んでくれたのも嬉しさを更に強めてくれている。
あれ、でも何だか、目を細めてじーっと僕の顔を見てくるけど、どうしたんだろう。いつもみたいに、顔を真っ赤にして怒る表情とは違うみたいだけど……
彼女の表情を不思議に思いながら後をついていくと、そこはつい先週に僕が告白につかった屋上だった。
相変わらず誰もいないその場所に着くなり、彼女は口を開いた。
「そ、その……アンタ、マコに乗り換えた訳?」
「え? 乗り換える、って何を……?」
こちらの様子を伺うような問いかけの意味が、僕には良く分からなかった。
乗り換える。文脈が読めないけど、好きな相手を変える、という意味だろうか。
一回や二回断られても諦めなかった僕に、今更なにを言うのだろう。
僕がヒナタちゃんの考えを読めないでいると、彼女はズンズンとこちらに詰め寄ってきた。
「……っ!! と、トボけないでよ!! アタシ、見てたんだからね!! アンタが教室で、マコと話してたところも……!! ショッピングモールを、二人で歩いてたところも!!」
「え、同じ日に同じモールにいたの? 奇遇だなぁ」
ヒナタちゃんは何故か大きな声になる。
何でだろう、そんなに僕と一緒の場所にいたのが嬉しかったりしたのかな。
「違うわよ!! アンタがマコと空き教室にいるのを見かけたから、もしかしたらと思ってモールに行ってみて、そしたら……!! ふ、二人きりで出かける仲なんでしょ、アンタ達!!」
「あ、そうだったんだ。それなら、声かけてくれれば良かったのに」
「なっ……!!」
僕、ヒナタちゃんがいたことに全然気づかなかったからなぁ。
三人で遊べればきっと楽しかったと思うのに、声かけてくれなかったのが残念だ。
「別にアタシには、見せつけても構わないってこと……!? な、何よ!! どうせマコに比べればアタシは優しくないし、気が利いたりもしないわよ!! そ、それでもねぇ……!!」
「あの時はマコさんと一緒に、ヒナタちゃんへの誕生日プレゼント選んでたんだよ。はい、コレ」
そろそろ渡さないとタイミングを失いそうだったので、後ろ手に持っていた紙袋を彼女に手渡した。
「……え?」
おぉ、すっごくビックリした顔してる。
モールで買い物中に合流してたら、こんな顔は見られなかったかもなぁ。
「……アタシ、に?」
「うん。マコさんから、今日が誕生日って聞いたから。一緒に選んでたんだよ」
「……っ」
ガサガサと、紙袋の中にヒナタちゃんは手を突っ込む。
それから、中に唯一入っていた『それ』を、取り出した。
「これは……髪飾り……?」
マコさんがチョイスしてくれた中から僕が選んだ、花柄の髪飾り。
手の中のそれを見ながら、ヒナタちゃんはワナワナと震えて……それから、ぎゅうっと握りしめた。
「……アタシ、アンタが……マコと一緒にいるの見て。可愛くない私のことなんて、捨てられてもおかしくないって焦ったのに……アンタは……」
「さっきから、何でそんな事になるのか良く分かんないなぁ。僕が好きなのは、ヒナタちゃんだけだよ」
「……っ!!」
僕からすればそれは、当たり前のことを当たり前に言っただけだった。
だけれど、彼女からすれば、特別な事であったらしい。
「あ、アタシも、アンタのこと……好き、なんだからね!!」
「うん、プレゼントで簡単になびくなんてそりゃ……え?」
いつも聞いているようでいて、まるで意味が逆の言葉を投げかけてきた。
「や、やっと言えた……もっと早く気づきなさいよ、バカぁ!! ニブチン!! 好き!!」
「え、えぇと……」
僕は何か、酷い事をしてしまったのだろうか。
彼女は、髪飾りを持ってない方の手でポカポカと僕のことを殴り出した。
顔だって、いつも怒ってる時みたいに真っ赤になってるし。
……ただ、それでも、聞き逃せない、聞き逃したくない言葉があった。
「好き、だったの……? 前、から?」
「あっ……!! その、えぇと、うぅ……」
そう聞くとヒナタちゃんは顔を赤くして、俯いてしまう。
……その顔は怒ってる時の顔だと、分かってはいるのだけれど。
その真っ赤な顔を、僕は可愛らしいと思ってしまって。
思わず、自分の腕の中に抱きしめる。
――――何も言わずに僕の腕の中に包まれる、彼女の温もりを感じながら。
彼女の赤い顔にはもしかしたら違う意味があるのかな、なんて事に僕は今更ながら気がつくのだった。