魔王、辞めさせられました~え?勇者に負けたの我のせいじゃなくない?~   作:アメリカ兎

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第十二話 え? こいつがギルドマスター?

 

 ──ギルドマスターは極度の人間嫌いという噂があった。それは、彼が居住権を放棄されて尚、自由に生活していることからだ。だがそうなるともう一つの疑問が浮上する。ならばそんな彼と生活を共にしているギルド本部の従業員は一体どんな連中なのか?

 青ざめ、息の根が止まりそうな銀等級冒険者達を尻目にギルドマスターはカウンターの奥、応接室で書類をまとめている秘書官の名前を呼んだ。

 

「リュミエラー! ちょっと来てくれ! オドウィンも!」

 姿を見せたのは、黒肌の美女。横に尖った長耳は長命種たるエルフの証。だがその背丈は明らかに高く、冒険者達より頭一つ抜きん出ていた。長い白銀色の髪を結い上げ、組紐を髪に編み込んでいる。それは彼女が「森人」の中でも異彩を放つ「黒森人」の部族的特徴だった。こちらもギルドマスター同様に黒のレザースーツを着込んでいた。パンツスタイルだからか、足の長さと窮屈そうな胸周りが強調されている。

 そしてもう一人。こちらはリュミエラと呼ばれたダークエルフよりもさらにデカい。一応着せられた服も上は前を閉じれず、袖を辛うじて通しているだけに過ぎない。袖口の広い革のハーフズボンを履いているのは、彼が虎の獣人であり、丸太のような大腿筋を持つからだ。人前に出る以上身だしなみを整えるというのは、ギルドマスターの徹底した教えでもある。

 

「呼んだかい、ギルドマスター」

「うちの金庫番がやられちまったんだとさ」

「そりゃヒデェ話だ」

 獣人オドウィンは鼻で笑い、虎の尾を揺らして銀等級冒険者達を見下ろす。

 ワーウルフと対をなす部族、ワータイガーは人類と交流することは滅多にない。人前に姿を現すことも少なく、希少な部族だ。

 ダークエルフもまた、種族の抱える大罪から街に出てくることはない。

 

「リュミエラ、ここの金庫になに保管してたっけ?」

「少々お待ちを……あぁ、大したことはないですね。持て余した銀貨や銅貨に使い道のないガラクタや宝飾品置き場です」

「でもまぁ価値としては遊んで暮らせるくらいか。別にくれてやってもいいんだが──うちのかわいい従業員に手を出したことだけは許せねぇな」

 知りませんでした、は通用しない。経緯はどうあれ結果が全てだ。頭を掻き、考え込む素振りを見せているが同じくらいどうでもよさそうにしている。だが体裁という物がある、此処で見逃すはずがなかった。

 

「オドウィン、とりあえずそこの稼ぎ全部没収だ。ひっくるめて本部の倉庫にぶち込んどいてくれ」

「あいよ、ボス」

「それでリュミエラ。現時点をもって、そこの冒険者全員分の等級を剥奪だ」

「あらま、可哀想に。了解、ギルドマスター」

 冒険者ギルドにおける等級剥奪──追放処分と同義。彼らはこの瞬間、冒険者としての夢も希望も潰えたことを意味する。オドウィンが足元の麻袋を掴み上げ、肩に担ごうとする手を止めようとした銀等級冒険者は、まるで虫でも払うような仕草で殴られて床を転がり、壁に激突して止まった。

 

「おっと、すまねぇな」

「ま、まさか『カウンターズ』……?」

「あん? バカ言っちゃいけねぇよ、オレはただのギルドお抱えの大工だ」

「そうよ。この程度のことで呼んでたらキリがないもの。でしょ? ギルドマスター」

「命があるだけ温情と思ってもらいたいね。善意で行動したんだろうが、相手と運が悪かった」

 アンディ達にとって、冒険者活動というのは慈善事業に等しい。時折依頼がなくても街の周囲に現れた魔物退治で危害が及ばないように自警団としても活躍してきた。その日々は確かに充実していたし、街の人々も感謝していたはずだ。だが彼らはいらない欲をかいた。無害なミノタウロスを手にかけ、金品を奪い、冒険者ギルドへ戻ってきてしまったのが運の尽き。

 ギルドへの加入証明書であるタグを失えば、彼らはそこで『コンサルティング・ホール』での活動権限を全て失うことになる。

 差し出される秘書官リュミエラの手が催促していた。

 

「大人しく差し出した方が身のためよ。代わりに命を奪われるよりもマシでしょう? 命あっての物種……どんな才能も、生き残らなきゃ芽吹かない。さぁ、早く。死にたいの?」

「っ……」

「くそ、畜生が! それで納得できるかよ!」

「おいバカ、よせ!」

 なにがギルドマスターだ、権力かざしただけの、ただのガキ一人──!! 頭に上った血の気に逸り、一人がブロードソードを抜き放ちながらギルドマスターに斬り掛かる。

 身体を半歩ずらしながら剣を握る柄を受け止め、がら空きのこめかみを殴りつけると裏拳で鼻柱を強烈に叩く。怯んだ隙に手を放し、かざした手に魔力を集中させて打ち込む。

 頬っ面をぶん殴られた冒険者はきりもみ回転しながらギルドハウスの壁に激突し、遅れて床に転がった。

 

「とんだバカ野郎だ。冒険者の元締めであるこの俺が、テメェ等に遅れを取るとでも思ってんのか? 死にたくなけりゃさっさとしろ」

「ギルドマスター、素が出てますよ」

「おっとこりゃ失礼。こほん」

 わざとらしい咳払いを挟み、ギルドマスターは改めて冒険者アンディ達を見比べる。秘書官リュミエラにギルド加入証明書であるタグを手渡す仲間達を擁護しようにも、言い出したのは他ならぬ自分だ。断腸の思いで冒険者タグを差し出す。

 獣人オドウィンに払い除けられた冒険者は逃げだそうとしたが、それより先にギルドマスターが投げた後頭部にソーサーが直撃して気絶した。その腰に下げていた冒険者タグを引きちぎり、リュミエラに投げ渡す。

 それを咎めるものも、苛むものもいない。ただただ、明日は我が身と沈黙を貫く。

 

「ちくしょう……、ちくしょう……! 俺たちが何をしたってんだ……!」

「冒険者にとってもっとも必要なもんが何か知ってるか? 『運』だよ。魔物の住処であるダンジョンを攻略するのも、選んだ仕事が滞りなく完遂できるかも、立身出世の名誉を得られるかどうかも全部運次第だ。だからその点においてアンタ達は運がなかったってだけの話」

「だからってテメェになんの権利があってこんな無法!!」

「このギルド立ち上げたのは誰だ? 俺だ。無法者を管理・運営する為の労働組合だ。その会員であるお前達冒険者をなるべく公平に、かつ平等に取り扱い、生活を最低限保障するのが俺の仕事で。ギルドのルールは俺だ、それが気に食わないっていうならご退場願おうか。アンタの首にこの場で懸賞金かけたっていいんだぜ、こっちは」

 懐から取り出したのは、一枚の金貨。それ一枚を手にするために、どれだけの冒険者が血の滲む思いをしていると思っているのか。

 

「仮に。今、この場で。コイツを殺した奴に金貨一枚くれてやると言ったら、何人が武器に手をかけると思う?」

「……嘘だろ。なぁ、冗談だよなお前たち! そんなことで、俺を殺したりなんかしないだろ!? 仲間じゃねえか! 今までずっと一緒にやってきたはずだろ!?」

 生唾を飲み込む音が聞こえた。

 冒険者は誰もが夢見て選ぶ仕事だ。富も名声も、いつか好機に恵まれると信じて。

 金貨一枚があれば、それを元手にどれだけ生活が楽になるか。どんな贅沢ができるか。考えを巡らせれば巡らせるほど気の迷いが生じる。皮袋の小銭入れを捨てて、お恵みの金貨一枚に飛びつけばこの街を飛び出して王都へ乗り込み、魔物に怯える生活をしなくて済む。

 運が悪かった。そう、彼は運が悪かったんだ──そう自分たちに言い聞かせて、誰かが剣を抜こうとした。

 

「衛兵、助けてくれ! アンタら、それが仕事だろう!?」

「生憎無駄よ。ギルドマスターを止める権利ないもの。それだけのお賃金貰ってるわけでもないんだし」

 秘書官リュミエラの言葉通り、衛兵は動かない。動けない、といった方が正しい。ギルドマスターに与えられた権利に異を唱えればそれは聖王の決定に異を唱えることとなる。

 頭を抱え、うずくまる冒険者に誰かが刃を振り上げ──。

 

「たのもーーーう!! 此処が冒険者ギルドとやらか! 思ったより広くてデカいな気に入った!」

『ンゴォ?』

「トーチくんはダメです、入れませんよ」

「む、そうだぞトーチ! お前は外で待っていろ、すぐ戻る!」

『ン~ゴ~……』

「……え〜っと、お邪魔しまーす」

 

 振り上げ──、珍奇な一団に誰もが目を奪われた。ギルドマスターですら眉をひそめている。秘書官リュミエラもキョトンと目を丸くしていた。

 

「……どちら様よ」

「ふふん、われこそは魔界最強の魔王である! ギルドマスターとやらに助力を乞いに来た。おらんのか?」

「俺がギルドマスターだけど……」

「そうかそうか、お前がギルドマスターか。よろしく頼む。助けろ、手を貸せ。さもなくばぶっ飛ばす」

「あのさ魔王。ガーランドさんの話聞いてた?」

「しまった。つい魔界の癖で。許せ」

 こいつ魔界でこんな生き方してきたのか。そんな冷ややかな目線が勇者デュラルから向けられているものの魔王はそんなこと一切気にしていなかった。

 なんとも間の抜けた一団の顔ぶれをざっと眺めてから、ギルドマスターは金貨を懐にしまう。

 

「ま、此処じゃなんだし。もうじき日も暮れる。積もる要件は本部の方で聞こうか、勇者様? リュミエラ、行くぞ」

 

 

 

 冒険者ギルド『コンサルティング・ホール』移動本部──特注の荷車三両を連結、合体させることで執務室兼応接室として街の郊外に設営。その移動は基本的には駄獣に牽引して貰う形となる。

 『巌の国』に立ち寄ったのは月次業務も兼ねて、国王に用向きがあったからだ。生憎と不在だったため、お目通しが叶うまで些事を片付けていた、とのこと。

 

「ま、どうせあの“巌窟王”のことだ。お忍びで遊びにでも行ってるんだろ。俺のことはいいや、そちらさんの用向きを片付けようか? なんとなく察しはつくけどな」

「うむ、ならそういうことだ!」

 客室車両のソファーに腰を下ろし、ふんぞり返る魔王の隣。守衛ガーランドに目配せをしてギルドマスターは尋ねた。

 

「“巡霊の旅路”を終えて魔界に行くはずだったんじゃなかったのか? 史上最年少ってこともあって躍起になってた聖王様が軍を動員してまで「門」を守護していた四天魔を倒したと噂になってんだがね」

「ああ。私もその件は報告した。ただ、予想外の事態が起きてしまったものでな……助言と助力を乞いたいんだ」

「よりによって、魔王その人が直接人間界に来るとか前代未聞すぎるわ。そんなん俺に押しつけねぇでくれよ。ま、どうにかするけどさ」

「とりあえずわれはどうすればいい?」

「そうだな。とりあえず──飯にしようか。どうするかは明日まとめて話すからよ。こっちもこっちで朝までに片付けたい仕事があるんだ」

「わかった。ならそのように頼む」

「感謝してくれよ。こんなクソ面倒な仕事片付けられるの、全国どこにいっても俺だけなんだからよ」

 ギルドマスターが傍らに控える秘書官リュミエラに指示を飛ばす。

 魔界からのお客様、それと勇者様御一行だ。丁重にもてなさなければならない、それでも勇者デュラルと聖女ライリィに対してだけ話を振ろうとはしなかった。

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