「なんでそんな酷いことが言えるんですか!」
「酷い事っつっても事実だしなぁ··········」
戻ると、そこには涙目になりながらも怒りに任せたシャウラの声と、それを面倒くさそうな顔をしながら頭をかいているカムイの姿があった。
シャウラは怒らない。
全くと言っていいだろう。
宮島は一度だってシャウラが怒る姿など見た事はないし、そんな話など聞いたこともなかった。
カムイは一体何を言ったのか、宮島は大きな溜息を吐きながらシャウラをなだめようと割って入ろうとした時
「神様は居ます!」
「··········神はいるかも知んねぇが、お前らの言う
「居ます!神様はいつだって私たちを見守ってくれてます!そしていつだって神様は私たちが助けを求めた時、救いの手を差し伸べてくれます!!」
「あのなぁ···············」
すると、こちらに気づいたカムイが表情で『早くこの小娘をどうにかしてくれ』と訴えているが、これはカムイが悪い。
シャウラも私に気づき、「宮島さんからもなんとか言ってください!」などと言ってくる。
シスターの様な神に仕える聖職者に対して『人を救う神様は居ない』などと言えば、聖職者ならば怒るのも仕方ない気がする。
神の救い信じ、人々を導き、正す者達とって神の救いこそが全ての救い。
そしてシャウラは女神の加護を持ち、何度もその
シャウラにとって神は人々を助けてくれる"救い"そのものだと考えている。
別に悪いことじゃないし、自身が死の淵に立たされ、生き残った時、多くの人間は神様が助けてくれた。
神様の加護だというものは少ない。
戦争でもそうだった。
私の所属する師団が圧倒的な敵の数を前に、特攻をしかけた時もそうだ。
多くの人間が敵国の基地を制圧するために爆弾、銃弾、地雷なども気にすることなく走り続け、敵を殺し続けたあの戦争。
多くの仲間が、戦友、同期、上官が死んだ。
その死んでいった仲間の中には元帥の息子も居た。
優秀な者もいた。
あの基地を制圧することはそれほどに重要な事だったのだ。
実際、あの基地を制圧することで戦争に勝利することは出来た。
しかし、特攻して帰ってきた者の数は10分の1にも満たなかった。
生き残った兵士たちを民はみな「神様が守ってくれたんだ」「神様のおかげだ」と、兵士たちの生を喜んだ。
神様とはそういうものなんだ。
違う。
神などいない。
いてたまるか。
ならばなぜ私の戦友を、仲間を助けなかった。
なぜ私だけを救ったのだ。
答えろ、かみさまとやら。
俺をなぜあの時殺さなかった。
なぜ私の戦友を助けてくれなかったのだ。
私の戦友は皆お前に助けを求めたのだぞ。
なぜ助けなかったのだ。
お前はなぜ何も言わない。
悪魔め。
お前は神様などではない。
人を騙し、戦友を騙し、仲間を騙した悪魔だ。
なのに生き残った仲間たちまで「神様のおかげだ」「神が助けてくれたんだ」と勘違いするんだ。
「···············神様は、きっと私達のことを見守っています」
「ほら!宮島さんもこう言ってますよ」
それをこんな小さな娘に言ったところで、どうにかなる訳でもない。
だってこの娘はこの世の汚さを知らないのだから。
「かみさまねぇ···············」
カムイはどこかつまらなそうな顔をして、部屋に戻って行った。
怒らせてしまったのだろうか。
それとも私に失望したのだろうか。
なんにせよ、この後カムイにご機嫌取りをしなければと、近くにある少しお高めの大福屋に寄らなければと、財布の心配をする宮島。
そんな宮島の気も知らずに、シャウラは満面の笑みで
「さぁ、今日も神様に祈りましょう!」
「···············そうですね」
シャウラが跪き、両手を合わせ、目をつぶると、祈り始めた。
シャウラの祈りは、きっと私の為を思ってしてくれている祈りなのだろう。
そしてシャウラはきっと私が苦しい時、死にそうな時、神様がきっと私を助けてくれると、心の底から、本当に思っているのだろう。
そして、もしほんとうに私が死んだ時、その魂が極楽浄土
の天国に行くのだと、全ての罪が許され安らかに眠るだろうと、そう願ってくれているのか。
優しいな。
「いつもありがとう」
「··········突然どうしたんですか?これくらいシスターとして当然ですよ」
そして私は、絶対に天国になど行ってやるものか。
今更ベットで安らかに眠って死ねるなど、死んだ程度で許されるなど、そんな軽い罪を私は犯した覚えなどない。
私は戦友に死ねと言った。
そして戦友は私の命令で死んだ。
私は命乞いする敵兵を、無防備な敵を許さなかった。
その敵兵を惨たらしく、刃物は血と油で使えなくなるから、銃弾は使うのが勿体ないからという理由で、殴り殺した。
敵兵は激痛の中、恐怖と痛みと暗闇の中死んで行った。
俺が行くのは天国では無い。
暗く暗く、決して許されない、安らぎなど絶対にない業火の地獄で、永遠と焼かれ続け、痛みに苦しみながら永遠とそれが繰り返されるだろう。
俺が行くのは地獄の断頭台だ。
戦友たちを、戦友達だけを地獄になど行かせてなるものか。
俺も行く。
俺は地獄に行かなければならない。
だがら、私はこんな小さな少女の、心の底から願う祈りを無下にする。
「本当に··········ありがとう···············」
「ひゃっ········!きゅ、急にどうしたんですか」
俺はそっとシャウラの手を、覆い隠すように優しく握った。
小さく細く、弱く、簡単に壊れてしまいそうなほど儚い手は、大勢の人を助けるための、真っ白な綺麗な手。
それに比べて私の私は傷に塗れ、血で肌の色すら見えなくなってしまった。
私の手はこの娘のような、人を救う手ではなくなってしまった。
『先生!俺、大人になったらたくさんの人を守る、強いヒーローになる!』
あぁ、ごめんなさい、先生。
私はヒーローなれなかった。
「···············そんな悲しい顔をしないでください。神様きっと宮島さんの罪を許してくれます」
「あぁ、
「はい!」
シャウラの笑顔はどこまでも無邪気で、美しかった