ようこそ鬼の末裔がいる教室へ   作:山上真

16 / 35
大幅なオリジナル要素を突っ込みます。


15話

 暑い。

 誰しもがそう感じているだろう。船のデッキには容赦なく直射日光が降り注ぐ。航海中であれば風を感じることが出来たが、生憎と船は泊まっている。

 デッキに集合した生徒たちは、Aクラスから順次島へと降りていく。ただ、アナウンスでもあったように徹底した荷物検査を行っているため、そのスピードは遅々としたものだ。初めのうちは不満を露わにしていた者も、自分の番が来る頃には騒ぐ元気をなくして静かになっていた。

 全員が下船すると、整列を促され、全クラス一斉に出席確認を始める。生徒のみならず教師も須らくジャージ姿だ。それが否応なく授業の一環をイメージさせるのだろう。生徒たちの間に不安げな空気が広がる。

 点呼が終わると、程なくして一人の教師が進み出て、他のスタッフによって準備されていた白い壇上に上がる。保険医にして現Aクラスの担任、星之宮知恵だ。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思います。しかしながらその一方で、既に退学者が出てしまったことは残念でなりません」

 

 星之宮が言葉を切ると、他の教師たちは誰も何も言わない。波の音と葉擦れの音が静寂を破る中、少し遠くで作業着に身を包んだ大人たちが特設テントを設置している。長机にパソコンなども見える。

 何ともミスマッチな光景と音に、生徒たちの困惑と不安は一層高まる。その瞬間を見計らったかのように、星之宮から冷酷な一言が告げられた。

 

「ではこれより――本年度最初の特別試験を行います」

 

 多くの生徒が疑問と困惑に支配される中、一部の生徒たちは納得や歓喜の表情を浮かべている。それは全クラス共通で、やはり気付く者は気付いていた、ということだ。

 

「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了となります。この無人島で集団生活を行い過ごすことが、君たちに与えられる試験となります。なお、この特別試験は実在する企業研修を参考にして作られました。つまりは、実践的、かつ現実的なものであることを最初に言っておきます」

 

 星之宮の説明は続く。

 一つ、この特別試験では大前提として、各クラスに試験専用のポイントが300支給される。

 一つ、このポイントを使って、マニュアルに載ってあるリストから好きな物を入手出来る。

 一つ、マニュアルは各クラスに一冊ずつ配布される。再発行も可能だが、その際はポイントを消費する。

 一つ、試験中の生活は、寝る場所から食事まで、全てを生徒たち自身で考え用意する必要がある。

 一つ、スタート時点で、各クラスにテントを2つ、懐中電灯を2つ、マッチ一箱、簡易トイレが一つ、石鹸一箱、歯磨き粉一箱が支給される。歯ブラシは各自一つずつだ。日焼け止めと、簡易トイレ用のビニールとシート、それから女子に限り生理用品は無制限で支給される。

 一つ、試験中の乗船は正当な理由なく認められていない。体調不良やケガなどでリタイアする場合、例外なく一人につき-30ポイントのペナルティが与えられる。これは自己申告の他、学校側の判断で実行される。ただし、ポイント不足の場合、これによる負債は発生しない。また、退学者はペナルティに含まれない。

 一つ、環境を汚染する行為を発見した場合は-20ポイントのペナルティ。

 一つ、毎日午前8時と午後8時に点呼を行う。これに不在の場合、一人につき-5ポイントのペナルティ。

 一つ、他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などが発見された場合、該当生徒の所属するクラスは則失格とし、対象者のプライベートポイントを全て没収する。

 一つ、担任は試験終了まで担当クラスと行動を共にすることとなる。ベースキャンプを決めたら、点呼もそこで行う。ただし、正当な理由なくベースキャンプの変更は出来ない。

 一つ、島の各所には『スポット』と呼称される物が幾つか用意されている。スポットには占有権が存在し、占有したクラスのみがスポット毎に決められたエリアを自由に使用出来る。他のクラスが占有しているスポットを無断使用した場合、-50ポイントのペナルティを受ける。ただし、占有権は8時間しか効果を発揮せず、時間を迎えれば自動的に権利も切れる。また、占有には専用のカードキーが必要であり、カードキーを使用出来るのはクラスのリーダーとなった人物だけである。カードキーにはリーダーの名前が刻印され、スポットに備え付けられたカメラで照合が行われるため誤魔化しは出来ない。リーダーは初日午後の点呼まで決めなければならず、決まらない場合は担任が指定した人物となる。また、正当な理由なくリーダーを変更することは出来ない。そして、スポットを占有するごとに暫定的に1ポイントのボーナスが加算され、試験終了時に清算が行われる。

 一つ、試験最終日、朝の点呼のタイミングで他クラスのリーダーを当てる権利が発生する。この権利は使用してもしなくても構わない。的中した場合、的中したクラス一つにつき50ポイントが与えられ、的中されたクラスは-50ポイントとなり、スポットで得たボーナスも失われる。ただし、チャレンジして外した場合は-50ポイントとなる。また、外しただけだとボーナスポイントは失われない。

 一つ、試験中は全員が専用の腕時計を付けて生活することになる。この腕時計は生徒の安全管理に対しての物であり、許可なく外した場合はペナルティが課せられる。完全防水だが故障しないとは言い切れないため、その際は無償で代替品と交換することになる。

 一つ、特別試験終了時にポイントが残っている場合、その全てをCPに加算した上で夏休み明けに反映する。

 ゴチャゴチャと話を行ったり来たりさせて分かりにくくしていたが、並べ替えればこんなものだ。

 

「説明はまだ終わりではありません。この特別試験は以前にも行われていましたが、今回はいつもと違うことも行われます。……どうぞ」

 

 星之宮に促され、更に二人の人物が進み出る。男が一人と女が一人。その服装はジャージでなければ作業着でもない。明らかに毛色が違う。

 星之宮と入れ替わる形で男が壇上に上がった。

 

「えー、高度育成高等学校1年生の皆さん、初めまして。私は土方事務所・芸能部門所属の遊佐と申します。こちらは伊藤。……色々な思惑と諸事情が絡み合った結果、高度育成高等学校の方で生徒の皆様方に新たな実力披露の場を用意することが決まり、それに私どもも協力する運びとなった次第です。まあ分かりやすく言うと、芸能活動に興味のある生徒を対象とし、在学中の期間限定で我が社に所属していただき、学校案内の一環として写真集やPV付きCD等を敷地外へ格安販売します。無論、敷地内にも販売します。これらの商品一つ一つに投票権が付いており、これによって人気を測ろうという算段です。……仕事を請けてもらった時点で既定のPPをお支払いしますが、より人気の出た生徒は還元率が上昇する仕組みです。もちろん、今回参加される方々にもお支払いしますし、人気次第では仕事の枠が増える他、PPだけではなくCPにも還元されます。場合によってはそれ以外の還元もありです。このことは、2年生と3年生にも本日付で周知されています。……早い話、魅力を競ってもらおうということです。大規模なスクールアイドルと捉えてもらえば分かりやすいかもしれませんね。ただ、部活動や生徒会に所属している方は残念ながら対象外となりますので、その点はご了承ください。……本日午後8時の点呼の際に参加希望者の確認を取ります。希望者がいた場合は、明日以降、時間帯を見計らって仕事に従事していただきます。紹介写真は学校指定の体育着や水着で撮ってもらいますが、それ以外の撮影に使う衣装はこちらで用意いたします。こちらの方針に基づいた上で撮影を行い、これについては占有エリア関係なく使用いたします。もっとも、参加者は一つのクラスに限ったことではないでしょう。そのため、クラス別で撮影することもあり得ます。その際に使用するのは各クラスで占有するスポットエリアに限られます。無論、許可が得られた場合は他クラスのスポットエリアも使用可能です。……ああ、そうそう。点呼の際であれば、本日以外にも参加希望を出してもらって構いません。学校に戻ってからでも大丈夫です。様子見もまた大切ですからね。それでは、皆様の参加を心待ちにしております」

 

 そう言って、遊佐は一礼して壇上から下りた。

 

「なるほど、面白い」

 

 笑みを浮かべて千夜は呟いた。

 ストーカー問題に託けて理事長に要求したのが6月冒頭。つまりは2ヶ月前。その事実を鑑みればあまりに素早い対応である。陸の孤島である高度育成高等学校において、ストーカー問題というのはそれだけあってはならない問題ということだ。

 この試験、アイドル活動の方は必ずしも参加する必要は無い。元々の試験だけに取り組んでも構わないのだ。

 だが、人間には欲がある。同時チャレンジすることで、上手くいけばより多くの報酬を得られる。何せスポット占有にはもともとある程度のリスクが付きまとう。言ってしまえば、そこに『撮影に適した』スポットの探索・占有が加わるだけだ。そして、スクールアイドルの報酬はPPで支払われるため、試験ポイントとは関係ない。人気次第ではCP還元もあり得るため、見方によっては保険と捉えられなくもない。

 その一方で、アイドル活動参加者は拘束時間が発生することになる。つまり、その時ばかりは元々の特別試験に参加出来ない。

 そう、まるで方向性の異なる2つの事柄が密接にリンクしているのだ。そうなるように学校側がぶつけてきたのだ。

 程なくして全クラスに自由移動の許可が出され、夏の孤島を舞台に特別試験が幕を開けたのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「まずは動くぞ。いつまでもこんな場所にいる必要は無い。日差しがきついし、何より他クラスの目があるからな」

 

 言うだけ言って、千夜はさっさと歩き出した。有栖に恵を始めとした者たちもそれに続く。そうなれば、他の者たちも自然とそれに続いていく。仕切られることに内心で不満があろうと、言っていることは尤もだし、この状況で文句を言う勇気もないからだ。

 しばらく歩き、人目のなくなったところで千夜は足を止めた。

 

「高円寺、リーダーになってスポットを占有して来い」

「ほう?」

『はあああぁぁぁっっ!?』

 

 繰り出された爆弾発言に、高円寺は面白げに笑みを浮かべ、大半のクラスメイトが驚愕の声を上げた。

 

「お前、どうせ今日中にリタイアするつもりだろうが。それを止める気はないし、止められるとも思えん。……が、それならそれで少しでもクラスに還元しろ。占有するエリア次第で食う物に困ることはなくなるし、寝る場所もそれは同じだろう。ペナルティを補って余りある以上、クラスのヤツらにも文句は言わせん」

「なるほど、他ならぬデーモンボーイの頼みだ。引き受けよう。私としても、雪村とは長い付き合いをしたいのでね」

「チッ、流石は高円寺と言ったところか……。まあいい、任せた」

「了解したよ。ところで、次のリーダーは誰にすれば良いのかな?」

「有栖で頼む」

「おや、私ですか? まあ、私ならリタイアしても不思議には思われませんからね。引き受けましょう。ところで、移動手段(あし)はどうするつもりですか? 私自身が動いても構いませんが、それだと高円寺くんほどスポットを占有出来るとも思えませんが……」

「俺か恵か清隆が運んでやるよ。アイドル業の傍らでな」

「おい、オレもやるのか?」

「最小限の働きで最大限の効果だ。立派にお前の掲げる省エネ主義だろう?」

「クラスで見ればそうだろうがな……。まあいい、今回は譲ってやる。だが、揉め事の仲裁なんぞはしないからな?」

「それでいい。元よりお前にそんなことは望んでいない」

「話は決まったようだね? では、私はスポットの占有に赴くとしよう。アデュー!」

 

 カードキーを受け取った高円寺が颯爽と飛び出して行く。それを見送って、千夜はクラスメイトへと向き直った。

 

「それで、何か質問はあるか? 有意義な質問なら答えてやる」

 

 呆気に取られていたクラスメイトは我先にと口を開く。

 

「おい、勝手に決めてんじゃねえよ!」

「何で高円寺なんだよ!」

「そうだそうだ!」

「食事と寝所に困らないという判断はどこから来たのかしら?」

 

 愚にも付かない文句が大半を占める中、ようやく建設的な質問が上がった。質問者は鈴音である。その顔色はいつもより悪く見えた。

 

「食事についてはアナウンスで言われた『意義ある景色』だ。島の周囲を回った際に、俺が島の中に何らかの畑があるのを確認し、清隆が食える木の実や草なんかを発見している。寝所についてはこの学校の発言からだな。学校は『ペンションで夏を満喫』という趣旨の説明をしている。この学校は色々と言葉遊びはするが、未だ完全な嘘をついたことはない。だったら、ペンションに相当する建物は島のどこかにあるだろうよ。元ペンションの可能性は無きにしも非ずだが、支給されたテントじゃこの人数を収容することなんざ不可能だ。なら、テントからあぶれたヤツらを収容出来るだけの建物はあると見ていい。……これで納得したか?」

「ええ、十分よ」

「あの、リーダーがリタイア出来る前提で話を進めてましたけど、本当に可能なんですか?」

 

 次の質問者は美雨だった。通称『みーちゃん』である。

 

「可能だろう。正当な理由なくリーダーの変更が出来ないだけだからな。体調不良を申告すれば、リーダーであろうと変更出来るに違いない」

「けれど、嘘だとこの腕時計でバレるんじゃあ?」

「まあ、バレるだろうな。だが、その点でのペナルティはないだろう。この試験においてリーダー当てが重要な位置を占める以上、故意的なリタイアも作戦の内だ。……これについてはベースキャンプにも同じことが言えるだろう。占有したスポットエリアにベースキャンプを設置し、再占有前に他クラスによって占有された場合、どうしたって変更せざるを得ない。そのまま居座ればペナルティがつくからな。……だからこそ、そういうことを利用した裏を突く作戦も考えておかなくてはならない。詭道もまた道だ」

「……なるほど。まだ完全に納得は出来ませんけど、理解はしました」

「千夜はアイドルをやるのか? お前が機能しなくなるのは痛手なんだが……」

 

 次に声を上げたのは幸村輝彦だ。

 

「ああ。俺と清隆、有栖に佐倉は確定だ。もちろん本人次第ではあるが、イケメンランキングと美少女ランキングに入っているヤツ等には是非とも参加してほしいところだな。だがまあ、特別試験との兼ね合いもある。無理は言えんし出来んさ」

「ん~、他に男子でランクインしているのは、うちのクラスじゃ平田くんだけだね。けど、平田くんはサッカー部だから無理だね。あ~、けど沖谷くんは男の娘ランキングの上位に入ってたかな?」

「女子だと、軽井沢殿と櫛田殿、佐藤殿と長谷部殿に松下殿もランクインしているでござるな。特に佐藤殿と長谷部殿は追い上げ急上昇でござる」

 

 千夜が言えば、麻耶と外村が補足した。

 

「って、ちょっと待てよ!? 認めたくないが、お前と綾小路はイケメンだ。参加するのは分かる。坂柳ちゃんだって紛れもない美少女だ。分かるとも。……けど、なんだって佐倉が確定してんだよ!? これ以上ないほどの地味子じゃねえか!」

 

 割り込んで叫んだのは池だった。入学時に比べると多少の成長は見られたが、やはりまだまだ色々と足りていない。

 

「そりゃあ、お前の観察眼が足りてねえだけだ。むしろ、実績という面では佐倉が一番の実力者だ。と言うか、佐倉がうちのクラスにいたからこそ、理事長に直談判したまであるからな?」

「…………へ? それってどういう?」

「分かりやすく言うと、佐倉は雫だ。お前が雑誌を見ては熱を上げてたグラドルだよ」

『…………ええええぇぇぇぇっっっ!?』

 

 男女関係ない驚愕の叫び声が響き渡った。視線が一斉に愛里を向く。

 落ち着いた頃合いを見計らって桔梗が口を開いた。

 

「興味はあるけど、私の場合はちょっと難しいかな。理由は――千夜くんには教えてあげる」

 

 そう言って、桔梗は千夜に耳打ちした。

 

私、中学の時に学級崩壊を起こしてるの。自分に嘘をついて誰しもに優しく接するストレスに耐えられず、打ち明けられた秘密をブログに吐き出したんだ。スッとしたよ。けど、それがクラスメイトにバレて、糾弾されて、逃げるために私は『真実』を振りかざしたの。そう、ブログにも書いていなかった秘密を全てぶちまけたんだ。……それでも、私もアイドルをやった方が良い? 中学の時の同級生が見れば、間違いなく非難が殺到するよ? いざという時、私を庇護してくれる?

 

 それに対し、千夜は笑って答えた。

 

「是非ともお願いしたいもんだ。庇護するだけでお前の協力が得られるなら安いもんだよ。いざという時のために刃を隠し持つ強い女だってんなら尚更にな。そもそも、実力者なんてのは恨まれて憎まれてナンボなんだよ。自信を持て。お前の価値はそれだけデカい。……むしろ、開き直って自分からぶちまけろ。そんで笑い話にしちまいな。隠し持たない限り、秘密は秘密たり得ない。後生大事に抱え持って、後々に悪影響を齎される方が厄介だ」

 

 それは、桔梗にとって有り得ないと思っていた言葉だった。――否。醜い本性さえも受け入れてくれるのではないか? と心のどこかで期待していたからこそ、桔梗は千夜に打ち明けたのだ。

 

「あはっ。ホント、千夜くんってイイ男だね! そこまで望まれたら断れないじゃん!」

 

 涙を流しながらも、桔梗はとても綺麗な笑顔を浮かべるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。