ようこそ鬼の末裔がいる教室へ   作:山上真

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21話

「おかえり、神崎くん! ありがとう。それとゴメンね。神崎くんだけに押し付けちゃう形になっちゃって……」

 

 無人島試験2日目の夜。

 撮影が終わってベースキャンプに戻った神崎隆二は、リーダーたる一之瀬帆波による出迎えを受けた。

 

「ああ、ただいま一之瀬。……いや、それについては気にしなくていい。向き不向きはともかく、アイドル活動への参加は自分でも必要だと感じた故だからな……。そして、その選択は正解だった」

 

 支給されたテント内、一之瀬と神崎は二人だけで向かい合う。

 

「詳しく聞かせてもらえる?」

「もちろんだ」

 

 そうして、神崎は今日1日の出来事を説明する。可能な限り客観的に、それでいて自分の所感も付け加えて。

 当然ながら、一之瀬には驚愕の嵐が襲いかかった。何度となく頭を抱えては、『うーうー』と唸り声を上げる。……自分も通った道なので、神崎は優しい眼差しでそれを見守っていた。

 やがて復活した一之瀬は、真面目な顔つきで神崎に問いかける。

 

「正直な感想を言っていい?」

「構わないぞ」

「もうどうすれば良いのこれええぇぇぇっ!? いっぱいいっぱいで頭がパンクしそうなんだけどおおぉぉっ!」

 

 訂正。全然復活してなかった。

 一之瀬は頭を抱えたまま、地べたをゴロゴロと転がり回る。テントの下にビニールを敷いていなければ、肉体的にもダメージを受けていただろう。着ているのがジャージでなければ、見えてはいけない部分も見えていたに違いない。

 普段の一之瀬らしからぬ行動だが、それも無理はないだろう。それだけ神崎の齎した情報は多く、それでいて内容が濃かったのだ。

 語った神崎自身、目撃乃至は聞く度に何度となく意識を飛ばしかけたのだ。目の前で有栖がスポットを占有した時などは、見間違いじゃないかと目を擦った。結果としては見間違いじゃなかった。

 これにより分かったのは、千夜たちの意識である。特に千夜、清隆、有栖の3人は、必ずしもクラス闘争での勝ち上がりを目指していない。……いや、目指してはいるのだろうが、過程や内容の方に重きを置いているフシがある。

 クラス闘争がより面白くなることを求めているのだ。ライバルが弱くてはつまらない、ということだろう。

 そんな考えだから、必要とあれば敵に塩を送ることも辞さない。だが、単純な塩ではない。言うなれば、お市の方の『小豆袋』だろうか。まあ、この部分は後世の創作とも言われているが、重要なのは受け取る側にも『気付き』が必要ということだ。気付くためのきっかけを送っている、とも言えるだろう。

 神崎の目の前で堂々とスポットを占有することにより、有栖はリーダーであることを証明したのだ。ならば、余程のバカでもない限り、そこには何らかの意図がある、と頭を働かせるのが道理だろう。

 そして、神崎は『余程のバカ』ではない。必然として『リーダーのリタイア』という可能性に行き着いた。

 神崎はそこで思考を止めず、有栖がそんな真似をした理由にまで考えを巡らせる。そうして導き出された答えが『楽しむ』というものだった。

 確証はないものの、かなり高い確率で合っていると思われた。そう仮定すれば、パーティールームの購入について素直に認めたのにも、その方法を開示したのにも納得がいく。アイドル活動に参加しているのにも。

 敢えて情報を晒すことで、或いはハンデを背負うことで、相手が強くなるのを求めているのだ。駆け引きを楽しんでいるのだ。勝負が拮抗するように仕向けているのだ。

 神崎は、舐めた真似を、と思いつつ、千夜たちがそうするのにも一定の理解を示せた。ゲームだってスポーツだって、一方的ではつまらない。観客ならば『どこまで一方的になるか?』を楽しむことが出来ても、参加者ならば飽きるか諦めるかが大半だろう。

 間違いなく傲慢そのものの行動だが、茶柱クラスならば仕方ない、と認めることが出来た。実際に佐倉愛里という少女が、分野によっては学校のトップに立てるだけのポテンシャルを有していることを見せられたばかりだからだ。その傲慢が許されるだけの実力を有しているのだ。

 この場合、怒りを抱くべきは『弱い自分たち』に対してだろう。相手になるだけの実力を有していれば、千夜たちがそんな真似をする理由も無いのだから。

 伝聞とは言え、そういったあれやこれやを一度に伝えられれば、正体を失っても無理はない。何だかんだ言ったところで、一之瀬は高校1年生の少女に過ぎないのだから。

 それに、一之瀬には無自覚的にあざといところがある。今現在の行動だってそうだろう。大衆がそれをあざとく感じないのは、或いは感じた上で受け入れているのは、その行動に計算が感じられないからだ。

 だからまあ、一之瀬がこんな行動を取ったところで、おかしくも何ともないのだ。

 

「………………ゴメンナサイ、見苦しいところをお見せしました」

 

 そして更に暫しの時を置き。

 どうにか復活した一之瀬は、神崎に対し深々と頭を下げた。

 

「いや、まあ、珍しいものが見れたからな。個人的には嬉しかったぞ?」

「~~~~~っ!?」

 

 神崎の言葉は追い打ちに過ぎなかった。

 恥ずかしいのだろう。一之瀬は声にならない声を上げて顔を両手で覆い隠す。

 

「はは、悪いな。……だが、頼っている俺の言えることじゃないだろうが、一之瀬は背負いすぎるところがあるからな。そういう風に弱みを見せてくれた方が、俺としては助かるし安心出来る」

「……背負いすぎる、か。神崎くんからは、私ってそんな風に見えるの?」

 

 問いかけながら、一之瀬は心のどこかで納得していた。

 自身の過去。自身の犯した罪。向き合うことは出来たが、立ち直りきれてはいないのだろう。心のどこかで、自分に対する罰を求めている。それが行動に現れている。

 

「あくまでも俺からは、だがな」

 

 神崎はワンクッションを置いたが、見過ごしてはいけない事実だ。誰か一人にでもそう見えるのならば、他にもそう見える人物がいる、と考えて然るべき。そして、人によっては疑念を抱くだろう。『何故そこまで背負い込むのか?』と。

 疑念だけで済めばいい。だが、中には疑念を明らかにしようとする者もいる筈だ。その行動によっては――

 

「なるほど。だから桔梗ちゃんは……」

 

 そこまで考えたところで、一之瀬は神崎から聞いた桔梗の行動が腑に落ちた。ストン、と納得してしまった。

 明かされた秘密は秘密たり得ない。……確かにその通りだ。

 世の中には『一石二鳥』や『一挙両得』という言葉があるが、同時に『二兎追うものは一兎も得ず』ということわざも存在するのだ。

 実際、目的によっては同時遂行を狙えるモノもあるが、中には諦めなければならないモノも存在する。それを決定付けるのが、『優先順位』やら『選択肢』やらだ。

 広い人脈は確かに力となり得るが、見方を変えれば『八方美人』だ。それはしばしば嫉妬の対象になりやすい。ちょっとしたことで叩かれやすい土壌があるのだ。

 特に桔梗はDクラスだ。桔梗自身が評したように、『長所を打ち消して余りある短所を有している』と考える人物は少なからず現れるだろう。

 Aクラスでの卒業を目指してのクラス闘争が激化していく中で余所から暴かれるよりは、と桔梗が考えた可能性は否定出来ない。

 同じダメージを受けるにしろ、早期に対応出来る分だけ、相対的にダメージが少なくなるのは間違いないからだ。

 知られたくない、という思いは確かに存在する。けれど、抱え込んでいるのが苦しいのもまた事実。それを隠したままでは、周囲の人物を騙しているのと同じだからだ。その秘密が重ければ重いほど、自責の念が押し寄せる。

 一之瀬の場合、クラスの雰囲気がもっとギスギスしたものならば、ここまで思い悩むことはなかっただろう。

 しかし、生憎と一之瀬が配属されたのは星之宮クラスである。協調性に富み、団結力に溢れ、全体の仲が良い、そう評されるクラスだったのだ。

 もちろん、個々には苦手な相手だっているだろう。だが、それを踏まえた上で、クラスの雰囲気がそうなのだ。

 その事実が、尚更に一之瀬を追い詰める。……きっと、桔梗も同じだったのだろう。ただ、想いを抱く対象が異なるだけで。

 そんな風に感情の板挟みで苦しんでいる時に、吐き出しても構わない理由付けが出来た。合理的な後押しが出来た。……自分を誤魔化せる、言い訳が出来た。

 桔梗が過去を吐露した行動には、そういう感じの裏があるのは間違いないだろう。

 だとしても、羨ましい。裏がどうあれ、その行動には確かな心の強さがある。

 ならば自分も吐き出そう。

 自分に都合の良い言い訳を付けて。

 その一方で、今よりも心を強くするために。

 

「ねえ、神崎くん。……私の罪を聞いてくれる?」

「……分かった」

 

 否定の許されない問いかけをして、一之瀬帆波は神崎隆二に己の(かこ)を告白した。

 長いようで短いような、そんな話。

 それを聞かされた神崎は、難しい顔で口を開いた。

 

「……正直、それを聞かされたところで、俺には上手い返し方が分からない。慰めの言葉をかけるのは簡単だが、それは違うだろう、と感じる。弾劾するのもまた然りだ。……ただ、それでも一つだけ言えることがあるとするならば、ありがとう、と返すべきだと思う。そう感じる」

「ありがとう?」

 

 思ってもいない言葉を聞いた。そう言わんばかりに一之瀬は目を瞠らせる。

 

「ああ。正直に言えば重く感じる。だが、この重さはお前から俺への信頼であり信用であるとも思っている。そして、俺もまたお前を信頼し信用しているからこそ、この重さを苦とは思わない。……矛盾しているようだが、『嬉しさ』と『責任』と言った感じの、まるで別々のものが同時に乗っているからだと思ってもらえれば助かる」

「……そっか。そう言って、くれるんだ……」

 

 神崎の言葉を聞き、ジワリ、と一之瀬の心に何かがこみ上げる。

 たぶん、嬉しいのだろう。自分の罪を受け入れてもらえたのだから。

 けれど、それが情けなくもある。自分の重荷を一緒に背負わせてしまうことでもあるのだから。

 情動が複雑に入り混じって動き出し、やがてそれは頂点へと達し――

 

「がん゛ざぎぐう゛う゛ぅぅん゛! わ゛だじごぞ、あ゛り゛がどお゛お゛ぉぉっ!」

 

 一之瀬は己の顔を神崎の胸へと押し付けて、あられもなく泣いた。盛大に泣きじゃくった。

 まあ、当然そんな真似をしていれば、テントの外から誰かが様子を見に来て道理だ。それが白波千尋だったのは、果たして運が良かったのか悪かったのか。

 神崎に出来たのは、口元に指を一本置いて静かにするように促すことだけだった。……この後に待ち受けるだろう苦難から目を逸らして。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 白波の協力もあり、一之瀬の醜態は人目につかずに済んだ。必要以上に騒がしくならなかっただけ、それは素直にありがたい。

 だが――

 

「それで神崎くん、帆波ちゃんにいったい何をしたのかな? 返答によっては……ふふふっ」

 

 コレは正直いただけない。

 まあ、白波が『一之瀬帆波ガチ勢』というのは星之宮クラスの共通認識である。そんな彼女があんなシーンを目撃したのだ。こうなるのは簡単に想像がついた。

 だから覚悟はしていたのだが、面倒臭いのは面倒臭いのだ。

 

「千尋ちゃん、ちょっと落ち着いて。私が感極まっちゃっただけだから、神崎くんは悪くないの。……丁度いいから、千尋ちゃんにも聞いてもらおうかな?」

「帆波ちゃん……っ」

 

 そうして、今度は対象を白波に代えて同じような光景が繰り広げられた。

 神崎と違うのは、そこまで一之瀬が泣きじゃくらなかったことと、互いに同姓であるからかひっしりと抱きしめ合っていることだろう。

 二人が落ち着くまでの間、神崎はテントの入り口で見張りに立っていた。

 そんな神崎に声をかけてくる男子が一人。柴田颯。サッカー部に所属する生徒だ。

 

「よお、いったい何が起こってんだよ、神崎?」

「悪いが俺の口からは言えん。一之瀬の過去も関わってくる話だからな。情報交換をしている時に、流れでそうなってしまったんだ。……ただ、クラスの皆にも遠からず伝えるようには言うつもりだ。今回の試験が終わった後、遅くとも学校に戻った時には。……今はそれで納得してくれないか、柴田?」

「伝えた方が良い内容なのか? そうでないなら無理にとは……」

「難しいところではあるけどな。ただ、茶柱クラスのアイドル活動参加者の一人が言ってたんだ。『明かされた秘密は秘密たり得ない』ってな。それを聞いたことだけが理由とは言わないが、結果として一之瀬は自分の過去を俺に打ち明けた」

「なるほどなぁ~。……なあ、神崎? 俺たちがクラス委員長なんて面倒な立場を押し付けちまったせいか?」

「それはない、とは言えないだろうさ」

「……そっか。無理はすんな、って一之瀬に伝えてくれ。必ずしも俺たち全員に伝える必要は無い、ってな」

「ああ、分かった。……俺はあまりこっちに関われないから偉そうには言えないが、お前も一之瀬を支えてやってくれ」

「あったぼうよ! んじゃ、俺は戻るぜ」

 

 手を振って柴田が離れていく。

 テントの中から神崎を呼ぶ声が上がったのは、それから間もなくだった。

 

「ゴメンね、待たせちゃって。代わりってわけじゃないけど、私の方から千尋ちゃんにあらましを説明しておいたよ」

「そうか、助かる。……こっちも柴田から一之瀬に伝言がある。『無理はするな』、『必ずしも俺たち全員に過去を伝える必要は無い』とのことだ」

「そっか……。慮ってくれるんだね。ほんと、良いクラスだなあ~」

 

 私には勿体ないくらい、と一之瀬は続けようとして、しかし口には出さなかった。必要以上に自分を卑下する言葉を使えば、逆に二人を困らせてしまうからだ。だから、思うだけにした。

 

「現状、最も油断できないのは坂上クラスだと思う。龍園は俺たちが忌避するような手段も、必要とあれば躊躇いなく使う。そして、内心がどうあれ従う者たちが揃っている。実際、茶柱クラスの柱であろう千夜たちは高く評価していた。反社的存在とも言っていたがな」

「反社……言い得て妙だね。それで、茶柱クラスはどうなの? 聞いた感じ、そっちも十分に手強そうだけど……」

「それは否定しない。だが、クラスとしてはどうかな? あいつらは自分たちを『不良品』と評していた。そして、それは間違っていないと感じた。何と言うかな……そう、『特化型の個人戦力』と『低平均の集団』が集められたクラスなんだ。だから、将来的にはともかく、現状ではクラスとして見るなら怖くないんだ。……退学者についても、千夜たちは『必要経費』として受け入れている感じだった。輪が狭いと言うか、明確なのかな? 決して情を持ってないわけではないんだが、そういう捉え方が出来る分だけ、個人としては怖い連中が揃っているクラスでもある」

 

 そこで一端言葉を止め、神崎は水を飲んだ。キンキンに冷えている。寮の水道水よりも美味しいと感じた。

 

「真嶋クラスにはそこまで気を配る必要は無いと思う。現状、組織としては機能不全を起こしているのが真嶋クラスだ。戸塚が退学となったことで、結果的に葛城もこけた。結果を出せるリーダーが立てば油断は出来ないだろうが、クラスとしては最も怖くない。……怖くないと思われているのはうちのクラスも同じだろう。元々がBクラスだからな。Aクラスへの昇格も漁夫の利だ。怖さを感じる理由がない。そして、怖さを感じないなら攻めるのにはもってこいだ。……だから、うちも怖さを出すべきだと思う。この試験を利用して、他クラスへと攻撃を仕掛ける。一之瀬と白波はどう思う?」

 

 神崎の視線が、一之瀬と白波を貫く。

 

「リスクとリターン、後は手段次第かな」

「私も帆波ちゃんに同じ。闇雲に攻めるだけじゃ、逆に弱さに繋がっちゃうから……」

「案はある。あくまでも目算でしかないが……」

 

 前置きを置いて、神崎は説明した。

 

「……なるほど。多分に運任せなところがあるような気もするけど、良いんじゃないかな」

「そうだね。上手くいけば、茶柱クラスとの繋がりも今より強くなる。ポイント的には私たちが大損だけど、代価としては悪くないと思う」

「では、決定で良いな? デジカメを買うぞ。……それと、悪いがクラスへの説明は任せる」

「うん、分かったよ」

「大丈夫。きっとみんな、理解はしてくれる。それに、責められるときは3人一緒」

 

 これは紛れもない悪だくみだ。団結とは程遠い行為だ。

 けれど、同時に確かな団結だった。その、おかしな事実に対し、3人揃ってクツクツと笑う。

 こうして、星之宮クラスもまた、牙を剥き出すことを決めたのだった。

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