ようこそ鬼の末裔がいる教室へ   作:山上真

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無人島編も終わったので、暫く投稿をストップします。とっくに書き溜め分も無くなっているので……。


29話

 結論から言えば、休憩所での一幕はお流れになった。

 それも当然。あの時間は、休憩時間でしかない。試験の集計結果が出るまでの、ごく限られた合間でしかないのだ。

 まして、優に100人を超す生徒が一斉に休憩所へと群がったのだ。トイレなり飲み物なり、各々にその目的は違うにしろ、余程のスピードダッシュを決めない限り、達成するには時間が掛かる。

 そんな状況で話し合いを始めたところで、先に時間切れが訪れるのは自明の理だ。

 アナウンスに従い、或いは期待を、或いは不安を胸にした生徒たちへと、星之宮教師から結果が伝えられた。

 そしてその結果は、ある意味で非常に偏ったものだった。波乱万丈さを如実に表していた。

 4位――真嶋クラス。残試験ポイントは0。

 同率4位――坂上クラス。残試験ポイントは、同じく0。

 2位――星之宮クラス。残試験ポイントは250。

 そして1位――茶柱クラス。残試験ポイントは450。

 これらの数値が、夏休み明けにCPとして加算されることとなる。とはいえ、あくまでも夏休み明けである。現時点では、クラスランクに変動はない。

 学校側からの発表は、あくまでも最終ポイントだけだった。結果に関する質問も一切受け付けない。ポイントの推移等は、あくまでも生徒自身で分析しなければならない。

 そうなれば、思わせぶりな言動をした千夜や神崎を、龍園たちが見逃す道理などありはしない。

 時間も時間だ。そして、都合の良いことにこの場には1年全クラスの生徒が揃っている。昼飯でも食いながら意見交換をしよう、という提案を神崎がしたのは自然な流れであった。

 龍園にしろ葛城にしろ、自分の思惑を把握されるのは面白いことではない。……が、それを踏まえた上で、相手の思惑を知れるのは十分な利があった。加え、参加しないとなれば、それだけ情報面で後れを取る。

 それぞれがそれぞれの思惑を秘めたまま、神崎の提案に賛成した。

 そして現在、先にリタイアした有栖や白波を加えた一行は、豪華客船内に数ある所持所の一つ、座敷の個室が用意された焼き肉店へと足を踏み入れていた。

 真嶋クラスからは葛城康平と橋本正義。

 星之宮クラスからは神崎隆二、一之瀬帆波、白波千尋。

 坂上クラスからは龍園翔、金田悟、時任裕也、椎名ひより。

 茶柱クラスからは雪村千夜、綾小路清隆、軽井沢恵、櫛田桔梗、坂柳有栖、佐倉愛里、堀北鈴音。

 この全員が話し合いに参加するわけではない。中には無理やり引っ張られた者や、流れでついてきた者もいるからだ。

 

「さて、どこから話すかだが……」

 

 真っ先に口を開いた神崎だが、そこで一端ストップしてしまった。話題はハッキリしているのだが、大枠過ぎるのである。色々な思惑が絡んだ上での結果である以上、どこから話すのが適当なのか判断が付かなかったのだ。

 差し障りのない人付き合いは出来るが、あくまでもその程度。神崎自身のコミュニケーション能力はそこまで高い方ではない。

 

「まずは、各クラスがどこにベースキャンプを置いたか? そして、何故そこに置いたか? 辺りから始めるのが妥当じゃないかな?」

 

 神崎をフォローするように一之瀬が口を開いた。

 反対意見は上がらない。神崎もまた同意した。

 

「では、そうしよう。順番は……星之宮、真嶋、坂上、茶柱のクラス順で問題ないか?」

 

 神崎はグルリと周囲を見渡した。やはり反対意見はない。

 

「じゃあ、私たちからだね。まず当初の目的としては、平穏無事に乗り越えるのが最優先だったね。だから飲み水と食料の確保は絶対条件。交換でしか手に入らないようだったら問題だったけど、少し森の中を歩いたらそうじゃないことが分かった。何ヶ所か候補はあったけど、結果として私たちは井戸にベースキャンプを構えた」

「まあ、井戸はスポットじゃなかったけどな。種類は限られるにせよ、少し歩けば野菜や果物が手に入る利点は大きい。CP的な意味での余裕はあったから、無理なスポット占有やリーダー当てはしない方針だった。あくまでも狙えたら狙う形だった」

 

 まずは一之瀬が、補足する形で神崎が口を開いた。

 おかしな内容ではない。星之宮クラスに抱いていたイメージとも合う。

 

「俺たちは洞窟にベースキャンプを構えた。入島前に船で流されたアナウンス――『意義ある景色』はこれを指していると思ったからだ。事実、洞窟を含めれば近辺に3ヶ所もスポットが用意されていた。洞窟ならば雨風も凌げるし、ボーナスポイントを稼ぐには非常に条件の良い場所だった。難点は水と食料の確保だったが、島の各所にはそういう場所が点在していたからな。多少距離があっても、先に挙げた利点を覆すほどの不満は上がらなかった」

 

 葛城の説明も理に適っている。リーダー当ては一か八かのギャンブルだ。着実にCPを稼ごうと思うなら、スポット占有を重視するのは間違いない。

 

「言うまでもねえが、俺たちがベースキャンプを構えたのはビーチだ。理由? 飴を与えてやる必要があったからだよ。うちのクラスには、オツムが足りねえくせに不満を持つ奴が多過ぎんだ。バカは素直に従っとけって話だな」

「龍園っ……!」

 

 龍園の説明を聞き、クラスメイトの時任が睨む。

 しかして、その光景を見れば龍園の言葉に一定の理はある。実際、時任は表面の荒さに気を取られ過ぎだ。裏を考えようともしていない。

 

「俺たちが最優先としたのはクラスの足場固めだ。オツムの足りなさ、問題児の多さでは、うちのクラスが間違いなくトップだろうしな。完全に地力が足りてねえんだ。そんな状態じゃあ、まともな方法で乗り越えられるわけがねえ。トイレは段ボール、テントは全員収容出来ねえ、風呂もなけりゃあ飯もどうなるか分かんねえ、CPは最下位だからポイントも欲しいとなれば尚更だ。なら、可能な限りそれを引き上げるしかねえだろうよ。……以上の理由から、俺たちはペンションにベースキャンプを構えたわけだ」

 

 千夜は自らの所属するクラスをボロクソに言っているが、説得力は十分にあった。入学して数ヶ月も経てば、ある程度の情報は回っているのだ。

 

「……ふむ。確認だが、お前たちはペンションを狙い撃ちしていたのか? 偶然見つけたわけではないと?」

「答えはイエスだ」

 

 葛城の問いに千夜は答えた。しかし、そう判断した根拠までは教えない。

 ともあれ、これで各クラスが何を重視してベースキャンプを構えたのかは分かった。

 

「次の題材だが、予定の変更について、はどうだろうか? 万事が万事、当初の予定通りに進んだわけではないだろう? 大枠の方針は変わらなくとも、何かしら変更した部分、変更しなくてはならなかった部分がある筈だ」

 

 葛城の提案は尤もな内容だった。直接的間接的問わず、ポイントの推移を考える上では外せないだろう。

 加え、先にそれぞれが語った内容についても踏み込める。嘘は言ってないだろうが、全てを語っている筈もない。この話題なら、それを多少なりとも引っ張り出せる可能性はある。

 こんな具合に、心理的にはシリアスな攻防が繰り広げられていたが、誰も彼もが合間合間に飯を口に運んでいる。肉、野菜、魚介類、米、汁物、ドリンク……我慢を強いられていただけあって、常以上に美味く感じるのは当然だろう。必然として、表情は緩む。場の空気は、シリアスとは程遠かった。

 

「そうだな……。うちの場合、最も決定的だったのは、俺がアイドル活動に参加したことだろうな。……いや、正確には千夜たちが参加していたことの方が大きい。元は情報収集の目的が強かったんだがな。否応なく影響されてしまったよ」

 

 焼肉をおかずにご飯を食べ、嚥下したところで神崎が言った。

 

「へえ? 具体的に訊いても?」

 

 橋本の問いに嫌な顔をすることなく、神崎は平然と答えた。

 それによって分かるのは、茶柱クラスの侮れなさだ。アイドル活動に参加した面子だけでも、最低評価を下されたとは信じ難い人材が揃っている。

 桔梗の裏の顔もそうならば、愛里=雫もそうだ。千夜、有栖、恵の入学早々の速攻も信じ難ければ、後から軽く追い付いて見せた清隆も侮れない。話半分に聞きたいところだが、前情報ありきなら、調べれば簡単に分かることばかり。実際、個室という閉鎖空間だからか、神崎曰くの『黒桔梗』が全面展開されている。気のせいだろう、と必死に目を背けていたが、どうやら気のせいではなかったらしい。

 

「結果、俺から一之瀬に提案した。攻めの姿勢を見せるべきだ、とな。いくら守りが硬くても、甲羅に引っ込んでいるだけなら怖くもない。侮りが重なれば、より苛烈で危険な攻撃を招きかねない。そうなる前に、星之宮クラス侮りがたし、と他クラスに印象付けるべきだ。少なくとも、そう俺は判断した」

「言ってることは尤もだったからね。代表陣で合議した結果、簡単に可決されたよ。特にそんなことをしでかしそうなクラスに心当たりもあったし……」

 

 そこで言葉を切り、一之瀬は龍園に視線をやった。

 龍園はニヤリとした笑みを浮かべて、真っ向から見つめ返す。

 

「そして、お前たちは俺を標的として攻撃を仕掛けた。……ああ、認めてやる。見事だったぜ。俺も最初は気付かなかった。物の見事に騙された」

 

 そうして、言った。己が敗北を認めたのだ。

 その瞬間、龍園に視線が殺到した。特に、真嶋クラスと坂上クラスから向けられる視線が強い。

 

「だが、気付いた。一敗地に塗れたわけじゃねえ。負けはしたが、取り返しのつく範囲だった。――まあ、それもどこかの誰かさんのおかげだったもんだから、素直には喜べねえんだがな……」

 

 龍園の視線は、茶柱クラスへと向かう。

 誰が仕掛け人かは分からない。だが、間違いなく茶柱クラスの誰かだ。

 とはいえ、如何せん、茶柱クラスは出来不出来の差が大きすぎて、候補が絞り切れないのである。仕掛け人と実行者が異なる可能性だってゼロではないのだ。

 

「ふふ。ええ、気付かれたようで何よりです。そうでなくては、面白みがありませんからね?」

 

 微笑を浮かべ、有栖が答えた。

 

「……待て。では、あのデジカメの画像は……!?」

 

 そこで、葛城が愕然とした表情を浮かべた。

 そのまま、信じ難い、と言わんばかりに、星之宮クラスと茶柱クラスに視線を向ける。

 

「ああ、そうだ、葛城。俺たちの攻撃はある意味で成功し、ある意味で失敗した。デジカメの画像によるリーダー情報の流出、偶然と見せかけて、俺たちはそれを行った。俺たちならばおかしくない、そう思わせるだけの土壌はあったからな。それを利用して、龍園に攻撃を仕掛けた」

「リタイア作戦により、坂上クラスの試験ポイントはゼロ。こっちはリーダーのリタイアで-30。その場の数値だけで見るならこっちが痛手だけど、実際はそうとばかりも言えない。リーダーを当てられる可能性は格段に減るし、楔を打ち込むことだって出来る。試すだけの価値はあったよ」

「そこに、私が便乗させていただいた次第です。デジカメを用意した経緯について、神崎くんのお話は如何にも説得力がありました。星之宮クラスならば有り得る、と私も思いましたからね。……ただ、私ならばそれを利用して攻撃を仕掛けます。そして、龍園くんに取り間違いを起こさせるためでしょうね。神崎くんはデジカメの管理を厳重にしませんでした。誰にでも触れる機会を用意しました。佐倉さんの後押しもあったので、それもまた違和感はありませんでした。ええ、上手に偶然を利用したんです。見事なものですよ。……ですが、だからこそ怪しさは高まりました。見過ごすのも一つの手でしたけどね、それで終わっては面白くありません。なので、私も動くことにしました」

「画像を確認した坂柳は、己が推測に確証を得た。そして、あくまでも偶然を装う形で自分たちのリーダー情報も流出させた。元からリタイアする前提なら、知られたところで痛くも痒くもねえわけだ。むしろ、相手の自滅を促す上ではこれ以上ない武器となる。……そうと気付かずのこのこと動かされた俺は、さぞかし滑稽だったろうさ。神崎も坂柳も、リタイア作戦の本質――『リーダー当てへの目晦まし』に早々に気付いてたってことだからな」

 

 龍園は思いっ切り舌打ちをした。自力でタネに気付きはしたが、いいように動かされた、という事実は消えない。自分に自信があればこそ、怒りと悔しさは計り知れない。

 しかし、それがバネになる。更なる強さを呼び起こす。全ての勝負で勝てなくてもいい。勝てるのが理想だが、所詮は理想に過ぎない。ここ一番の勝負で勝てれば、十分に元は取れる。

 今までにも龍園翔は、そうして最終的な勝利を得てきたのだ。

 

「そうして狙い通りに動かされた俺は、葛城――真嶋クラスへと交渉を持ち掛けた。お前が俺を訝しんでも、クラスの状況から飲み込む確率は大きかった。確証があるなら尚更だ」

「事実、俺はお前の交渉を受け入れた。Aクラスからの転落に、思いの外俺たちのクラスはショックを受けていたからな。上を目指す意気込みは高く、転落のきっかけとなった戸塚を重宝していた俺に反発する者たちも多い。確かに訝しんだが、周りの声を黙らせるには理由が薄かった」

 

 つまり、この時点で真嶋クラスのリーダー当ては失敗していたのだ。-100ポイントである。

 

「お前との交渉帰り、あまりにも上手く運び過ぎている現実に、俺は危機感を抱いた。……俺はクラスのリタイアを作戦に盛り込んだ。他のクラスがそれをしない、とどうして断言出来る? リーダーのリタイアが作戦の内であったなら、それまでの前提が覆る。確証はないが確信はあった。結果、戻った俺は、アイドル組に真嶋クラスのリーダー情報を教えた。そして、各クラスに一人ずつ送り込んだ。平たく言えば情報収集だが、証言だけで真嶋クラスが動くかを試す意味が強かった」

 

 真嶋クラスに時任裕也が送り込まれた理由は、それが全てだ。

 龍園に反感を持つ時任なら、間違いなく龍園がリーダーだと教える筈だ。それに対する反応次第で、真嶋クラスへの評価も上下する。……まあ、0ポイントに終わってしまったので、そこら辺は定かでなくなってしまったのだが。

 

「……だが、分からねえ。俺の齎した情報には信憑性なんざねえ筈だ。その状況で、どうしてお前たちはチャレンジ出来た? リーダーを当てることが出来た?」

 

 龍園はリーダー当てを真嶋クラスのみに絞った。少なくとも、それで50ポイントは得ているのだ。

 チャレンジに失敗したところで、真嶋クラスにもまだポイントは残っている。龍園から当てられても、それは然りだ。

 だが、真嶋クラスと坂上クラスの結果は揃いも揃って0ポイントだ。つまり、星之宮クラスと茶柱クラスからもリーダーが当てられたことを意味している。

 自身の人受けが悪いことを、龍園は自覚している。わざとその様に振る舞っている面もある。だから、尚更リーダーが当てられた理由は分からない。

 坂上クラスなら確率は1/4だ。受けが悪いからこそ龍園を指定した、という可能性は十分に有り得る。なので、自分が当てられたことに疑問はない。

 しかし、だからこそ、真嶋クラスが当てられたことが解せない。前提条件が矛盾してしまうのだ。

 

「なに、簡単なことです。私は龍園くんの『王の矜持』に賭けただけですよ」

 

 然も当然、といった態で有栖は答えた。

 

「俺の矜持……だと?」

「ええ。今回の試験、貴方のクラスは貴方の指示の下で動いていました。誰かに指示を投げることはしませんでした。故に、貴方が『王』を称する以上、リーダーは貴方以外に有り得ません。……真嶋クラスについても同じことです。貴方が掌の上で転がされた事実はどう足掻いても取り消せません。その上で、貴方が尚も『王の矜持』を守ろうとするならば、事実を認めて別の勝負を吹っ掛けるしかなかったのですよ。言葉にするなら、『いいように動かされたのは事実だが、タネは見破った。俺がお前たちのリーダーを当てることは難しくなったが、お前たちはどうだ?』……とこんな感じですかね? どこに焦点を置くかで惑わされますが、置き場所次第では惑わされることもありません」

「俺たちは坂柳に便乗させてもらっただけだ。まあ、少なからず反対意見もあったがな……」

「ク、ククク、ハハ、ハーハッハッハッハッ……!」

 

 有栖と神崎の言葉に、龍園は笑った。信じ難くも嬉しい事実に、笑うしかなかったのだ。

 これで、坂上クラスは-100。真嶋クラスは更に-150だ。

 一方の星之宮クラスと茶柱クラスは+100だ。

 

「付け加えると、色々教えてもらったお礼代わりに、私たちは茶柱クラスに契約を申し込んだんだ。私たちのリーダーを指名するように……ね」

「損は無かったから、ありがたく受けさせてもらったよ」

 

 そして、茶柱クラスは更に+50。星之宮クラスは-50だ。

 総合的に見て、プラスで終わっているのは茶柱クラスと星之宮クラスのみ。特に茶柱クラスは圧勝だ。

 ポイントの細かな使用履歴は不明だが、星之宮クラスと真嶋クラスは似たり寄ったりだろう。環境的に、茶柱クラスはリタイア以外にポイントを使っていない可能性が高い。坂上クラスは言うまでもない。

 その上で、茶柱クラスはボーナスポイントまで獲得しているのだ。そう考えれば、数値には納得がいく。

 

「面倒な話はこんなもんでいいだろ。あとは飲み食いに集中しようじゃねえか」

 

 千夜の提案に従い、取り敢えず、今はただ美味い飯に集中する面々であった。 

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