ようこそ鬼の末裔がいる教室へ   作:山上真

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次話から干支試験編に入るため、再び投稿休止します。


34話

 現在、橋本正義は割と前途多難であった。

 高度育成高等学校に入ったからには、橋本にも相応の目的がある。そしてそれは、正しくこの学校の謳い文句に他ならない。『就職であれ進学であれ、卒業生は希望する進路にほぼ100%進むことが出来る』というアレだ。

 しかして、5月に入った途端、『それが叶うのは卒業時にAクラスだった生徒のみ』という事実が公表された。その時点ではAクラスだったため割と気楽に構えていた橋本だったが、同月中にまさかの転落である。なにが起こるか分からなかったので、その時点で人脈の構築に余念はなかったし、Dクラスに落ちることこそなかったが、優位性は無くなってしまった。

 6月はそのまま然して変化はなく、7月の期末テストで、今度はBクラスに位置していた茶柱クラスがペナルティにより転落した。それによりBクラスに上がることが出来たが、相手の自爆であるためあまり喜べることではない。

 そして夏休みに入り、先の無人島試験だ。この試験、学校の掲げたお題目は『自由』であった。それ故に、各クラスで掲げた目的もまた違う。

 橋本の所属する真嶋クラスの掲げた目的は『堅実』であった。この試験には専用のポイントが用意されており、試験終了時に残っていたポイントは、夏休み終了後のCPに加算される旨が伝えられていた。つまり、CPが増えることこそあれ、減ることはないのだ。

 リーダー当てというハイリスク・ハイリターンなチャレンジも用意されていたが、これの参加も各クラスの自由である。参加せず、当てられなければ、良くも悪くも試験ポイントに影響はない。

 だからこそ、節約を心掛け、リーダーを知られぬように注意し、ボーナスポイントを稼げば、再びAクラスに返り咲くことも夢ではなかった。その点において、現在真嶋クラスを指揮する立場にある葛城の指示したベースキャンプの位置は、正しく『ベストポジション』と言っても過言ではなかっただろう。

 洞窟故に雨風を凌ぐことは問題ない。全員を収めることこそ出来なかったが、初期配布のテントも併せればクリア出来た。

 洞窟を含め、近隣にはスポットが3ヶ所用意されていた。然程労せずしてボーナスポイントを稼ぐことが出来るのだ。

 学業としての救済措置なのだろう。水と食については、無人島内のあちこちに採集可能なポイントが用意されていた。中にはスポット専用の場所もあったが、採集物の種類に拘らなければ、飢えることはないようにデザインされていたのだ。

 最も近い採集ポイントでも、洞窟からは多少の距離があったが、然程問題視されることはなかった。

 リーダー当てについては手に入る情報が芳しくなかったが、そこさえ除けば順調だった。

 だが、試験3日目のあの日、龍園が訪れたことで――その口車に乗ってしまったことで全てが変わった。

 交渉を持ち掛けてきたのが龍園だったこともあり、葛城は乗り気ではなかった。しかし、『デジタルカメラの撮影データ』という確かな物証があることで、他の生徒が乗り気になってしまった。

 確かに真嶋クラスの指導者は葛城だが、側近たる戸塚が赤点退学したこともあり、その支配率は盤石ではない。どうしてもクラスメイトに配慮せざるを得ないのだ。

 そして、龍園はそこを狙っていた。交渉相手こそ葛城だったが、真の相手は真嶋クラスそのものだったのだ。

 結果、交渉により星之宮クラスと茶柱クラスのリーダー情報を得たことで、真嶋クラスは安心してしまった。それは油断と慢心に繋がった。

 迎えた試験終了日。満を持しての結果は0ポイントだった。

 解せなかったが、試験終了後、他クラスを含めて意見交換をすることで、その詳細が判明した。納得したくはなかったが、納得せざるを得なかった。

 そもそもにして、龍園が持ち掛けてきた交渉そのものが、茶柱クラスの意図したものだという。

 しかして、それすら他クラスの動きに便乗した結果に過ぎない。

 元は神崎――星之宮クラスが龍園へと攻撃を仕掛けたのが発端である。他クラスが自クラスに抱く印象を逆手にとって、敢えてリーダー情報を晒したのだ。……リタイア作戦により坂上クラスの試験ポイントは0だったこと、坂上クラスは龍園の独裁制だったこともあり、あくまでも対象は龍園個人であったらしい。

 それに気付いた有栖は、自らも便乗した。茶柱クラスのリーダ情報も晒すことで、龍園が真嶋クラスへ交渉を仕掛けると踏んだのだ。それだけリーダー当てのリターンは大きく、物証があれば葛城も動くと踏んだ。

 そして、狙い通り龍園は交渉を成功させた。だが、その帰り道で、龍園は『上手く行きすぎている』ことに危機感を抱いた。そして、両者の狙いに気付いた。結果、甘く見られるのを防ぐために、龍園は入手したばかりの真嶋クラスのリーダー情報を教えた。

 それは真実正しい情報だったが、証拠も何もない。まして言っているのは龍園だ。間違いなく撹乱になると判断した。

 その陰で、星之宮クラスは茶柱クラスに契約を持ち掛けていた。その内容は『星之宮クラスのリーダー情報を茶柱クラスに教え、茶柱クラスはそれに従い星之宮クラスのリーダーを当てる』というものだ。正に常軌を逸している。

 だが、これはお礼代わりであり、今後を踏まえての一手であった。

 そもそも、星之宮クラスが龍園に攻撃を仕掛けようとしたのは、茶柱クラスの影響が強い。神崎がアイドル組から色々と情報を教えてもらったようだ。

 また、自分たちは新入生であり、どんな特別試験があるかの目途も立てられないのだ。中には他クラスと協力するものがあってもおかしくはない。

 それらを鑑みれば、星之宮クラスが持ち掛けた契約は、正に妙手と言えるだろう。

 一方、龍園から情報を齎された有栖は、その情報をそっくりそのまま信じた。

 前提として、有栖が龍園に攻撃を仕掛けたのには、龍園の『王の器を測る』という意図があった。龍園が自分たちに真嶋クラスのリーダー情報を提供してきた以上、龍園は完全でないにせよ『測られていることに気付いた』のを意味する。ならば、その情報に虚偽があった場合、有栖基準で『龍園は王たり得ない』という結論に達する。

 それを確かめる意味でも、有栖は龍園の齎した情報に乗ったのだ。

 有栖が乗ることを教えられた神崎は、クラスでの協議の末に自分たちも便乗することにした。『理解も納得も置いておいて、そういうモノとして受け入れざるを得ない存在』が、星之宮クラスにいたことも大きいらしい。

 かくして。

 茶柱クラスは全クラスのリーダー情報を当てた上にボーナスポイントを稼いだ。その上、使用したポイントは二人分のリタイアのみ。CPは368+450。

 星之宮クラスは茶柱クラスにリーダーを当てられ、真嶋クラスと坂上クラスのリーダーを当てた。CPは738+250。

 坂上クラスは茶柱クラスと星之宮クラスにリーダーを当てられ、真嶋クラスのリーダーを当てた。CPは574+0。

 真嶋クラスは全クラスにリーダーを当てられ、茶柱クラスと星之宮クラスのリーダー当てを外した。CPは582+0。

 CPのマイナス変動は無いし、坂上クラスに逆転されたわけでもないが、結果だけを見るなら真嶋クラスは散々と言っていい。

 また、夏休み中にもCPの変動はある筈なので、あくまでも暫定的な結果に過ぎない。しかし、茶柱クラスと星之宮クラスにCPがプラスされるのは確定である。今回の残試験ポイントがCPとして反映されるのは、あくまでも夏休み明けだからだ。つまり、夏休み中はプールされることを意味している。

 想定が正しければ、帰りがけにもう一度特別試験がある筈だ。未だ逆転の余地はあるが、その結果次第では完全にトドメを刺されかねない。

 

(やれやれ、参ったねえ……)

 

 橋本としては、Aクラスでの卒業さえ出来ればそれでいい。自クラスがAクラスに上昇、維持出来るのが最上だが、PPによるクラス移動も視野に入れている。だが、そのためには他クラスへのアピールが欠かせない。個人で2000万PPを稼ぐなど出来そうにないからだ。

 早い話、蝙蝠外交が欠かせないわけだが、そのバランスは見極めねばならないし、阿(おもね)る対象も重要だ。

 しかして、それを実行するのが至難の業だ。

 余裕を示さなければ、がっついてる、と取られかねない。

 余裕を示すには、PPが必要不可欠だ。

 PPを得るには、実力を示さなければならない。

 そして肝心要の部分として、実力を示したところでPPが得られるとは限らない。結果を出せなければ、意味がないのだ。

 これらのバランス取りが、結果的には他クラスへのアピールにも繋がるのである。

 茶柱クラスは劣等生が多いが、それを補うように実力者も多い。だが、初期配属がDクラスだけあって、実力者は曲者揃いだ。下手に近付くと、アッサリと見透かされそうな怖さがある。

 星之宮クラスは団結力が売りだ。しかし、そのトップ層――神崎と一之瀬は油断ならない。今回の無人島試験で、そのことをアピールしてきた。

 坂上クラスは龍園の独裁クラスだ。今回の試験で、ある程度足場固めも終わっただろう。その支配体制が続く限り、油断ならないクラスである。

 この、それぞれに方針も癖の強さも違うクラスに対して、己が思惑を知られることなくアピールしなければならないのだ。

 

(ホント、参ったねえ……)

 

 その事実に、橋本は深々と溜息を吐くのであった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 誰であれ大なり小なり悩みはあるもので、それは綾小路清隆も変わらなかった。

 

「どうしてこうなった……」

 

 現在、清隆は途方に暮れていた。

 場所は船内プール。多くの生徒が堪能しているが、それはそれ。清隆を悩ませているのは、目下プールマットに身を預けている身近な女生徒たちである。

 

「あやのん、早くー!」

「はぁ……。分かった」

 

 清隆の心境などなんのその、波瑠加のせっつく声が上がる。

 それに溜息混じりで答え、清隆はその身体に手を這わせた。

 

「ん! あっ! いいっ!」

 

 清隆が手を動かすたび、それに反応した波瑠加が声を漏らす。同時に、男子陣の視線が突き刺さる。

 努めて気にせず手を動かしていると、段々と波瑠加の息も荒くなってくる。応じ、声の艶やかさも上がる。

 そして、一際大きな反応を示した後、波瑠加は微睡の中に旅立った。……愛里や麻耶と同じく。

 

「ホント、凄いねえ、清隆くん。それじゃあ、次は私にお願いね?」

 

 それを見ながら順番待ちしていた桔梗が、有無を言わさぬ笑顔で迫る。正直に言えば断りたい清隆だったが、それもすぐに諦めた。この状況で断れば、それはそれで角が立つ。

 再度溜息を吐いた清隆は、桔梗のマッサージに取り掛かった。

 

(本当に、どうしてこうなった……)

 

 ――心中で、きっかけを回想しながら。

 そもそもは昨日――無人島試験終了日に遡る。

 昼食後、一眠りした清隆は桔梗に呼び出された。用件は試験に対する意見交換と、夕食を御一緒しよう、というもの。特に用事もなかったので素直に応じた。

 呼び出された食事処に赴くと、そこには桔梗のみならず学校でのルームメイトが揃っていた。まあ、特に問題は無かったので、夕食を食べながら意見交換を行った。

 そこまでは良かったのだ。問題はその後である。『試験の疲れを癒す』という名目で、ジャグジーとマッサージ店に連れ込まれたのだ。

 ジャグジーは男用、女用、混浴の三種に分かれており、有無を言わさず混浴に連れて行かれた。混浴は水着着用が義務付けられていたが、羞恥心は無いのか? と清隆は首を傾げずにはいられなかった。……が、それはそれとして、めいっぱい堪能した。

 マッサージも同じく堪能した。受けるのは初めてだったが、本当に気持ち良かった。

 本当の問題があるとすれば、ここで清隆がマッサージの魅力に憑りつかれてしまったことだろう。終了後、清隆はその足で船内の図書室に吶喊。マッサージ関連の本をあるだけ読み漁ったのだ。

 清隆の能力について、ある人物はこう評した。『極めて高い吸収力と類稀な応用力こそが、綾小路清隆の驚異的な強みである』……と。

 早い話、豪華客船に店を構えるほどのプロのマッサージを受け、更に書籍で知識を吸収した清隆は、初心者にあるまじき高いマッサージ能力を会得してしまったのである。

 そして今日。

 昨日に引き続き誘われた清隆は、丁度いいから練習台にさせてもらったのだ。自分で試して一応の成果は確認していたが、データというものは多い方が良いのも事実である。

 水着という、普段よりも肌面積が広い恰好なのも都合がよかった。そこに疚しい気持ちはない。位置や反応を確かめる上で、目視は非常に重要だからだ。たかが布一枚、されど布一枚である。如何に能力が高かろうと、この時点での清隆は本で得た知識を試そうとしているだけの素人に過ぎないのだ。布一枚がバカに出来ない。

 普段一緒に暮らしていることもあり、女性陣は笑ってそれを受け入れた。清隆にもこんな部分があるんだな、という面白さや意外性を感じたのかもしれない。計算違いがあるとすれば、素人とは思えない腕前と、素人故のブレーキの利かなさが混在してしまったことだろう。その結果が現状である。

 最初に練習台となったのは麻耶だった。初めの内は技術と知識の齟齬もあったが、それもすぐになくなった。その能力により、麻耶に対する修正が行われたのである。麻耶の反応に気を良くした清隆は、止め所が分からないままにマッサージを続けた。結果、麻耶は骨抜きにされてしまった。

 二番目は愛里だ。やはり、初めの内は多少の齟齬があった。麻耶と愛里では体型も違うのだから仕方ない。それもすぐさま修正され、愛里は快楽の渦に叩き込まれた。

 ここにきて、さしもの清隆も疑問を抱いた。自分がマッサージを受けた際は、ここまではならなかったからだ。経験の少なさ故に、その原因が分からない。原因の究明を行いたくても、対象者は正気を失っている。挙句の果てに、順番待ちをしている面々からは、まだか? まだか? とせっつかれる始末。

 そして波瑠加にマッサージを行い、今は桔梗の番を迎えているわけだ。清隆が手を動かすたびに艶やかな声と反応が上がり、やはり男子の視線が突き刺さる。

 桔梗を悦楽の海に突き落とし、最後に千秋の番を迎えた。

 

「うわぁ~。ちょっと怖いところあるんだけど……」

 

 先の面々の行く末を目撃した千秋は、少し声を震わせた。誰もが誰も、恍惚とした表情を浮かべているのだ。あまりに艶過ぎて、『見せられないよ!』のテロップが貼られていてもおかしくない。

 

「止めておくか?」

 

 そう問いかけた清隆だったが、その心中では――

 

(お願いだから断ってくれ)

 

 と祈っていた。

 しかして、祈りは届かなった。現実はそれほど優しくないのである。

 

「まあ、怖いもの見たさって言うし、よろしくね?」

 

 千秋の返事を聞いた清隆は、諦めて施術を行う。必然として、千秋は極楽を味わった。

 時間を置いて復活した面々に聴取を行い、それにより原因は解明したものの、時すでに遅し。本人の知らぬところで、清隆マッサージは学年に広まっているのであった。

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