ようこそ鬼の末裔がいる教室へ   作:山上真

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3話

「いやはや、凄い生徒たちだったな」

 

 今しがた3人の生徒が職員室を出て行くのを見送ったところで、1年Aクラスの担任である真嶋智也は感嘆の言葉を漏らした。

 

「ね~、本当だよ。しかも、一人ならともかく3人で、揃いも揃ってDクラス! 有り得ないでしょ! 人事部は何を考えてるのさ!?」

 

 次いで声を上げたのは1年Bクラスの担任、星之宮知恵。言葉通り、納得いかないというのを態度で示している。

 

「有り得ない、ということこそ有り得ないでしょう。……データベースを見れば一目瞭然ですよ。雪村君は軒並み高評価ですが、些か融通の利かない部分があるそうですね。また、本人にこの学校を希望する意欲が薄く、面接での言を信じるなら家庭の事情からくる付き添いで受験したそうです」

 

 星之宮に異を唱えたのは坂上数馬。1年Cクラスの担任だ。彼の机のPCは千夜の情報を表示している。

 

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高度育成高等学校データベース 入学時点

氏名  :雪村(ゆきむら)千夜(せんや)

クラス :1年D組

学籍番号:S01T004707

部活動 :無所属

誕生日 :10月10日

――――――評価――――――

学力  :A

知性  :A

判断力 :A

身体能力:A

協調性 :C-

 

 小中学校と好成績を収めており、特に身体能力に限っては当校の基準でも評価しきれないほど高い。

 基本的に人付き合いは広く浅くであるようだ。何か譲れない部分を持っているようで、それに触れる事柄では生徒教師問わず衝突することも少なくなかった。

 当校に対する本人の入学意欲が薄く、面接時での志望理由も『婚約者に誘われたから』と臆面もなく言い切っている。……なお、婚約者とは理事長の娘、坂柳有栖であるとのこと。

 能力を考えればAクラスに配属するのが妥当だが、別途事情も考慮した上でDクラスへの配属とする。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「その付き添い相手が坂柳有栖。……理事長の娘か」

 

 同じく自身のPCで生徒の情報を開いたDクラス担任の茶柱佐枝が続いた。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

高度育成高等学校データベース 入学時点

氏名  :坂柳(さかやなぎ)有栖(ありす)

クラス :1年D組

学籍番号:S01T004737

部活動 :無所属

誕生日 :3月12日

――――――評価――――――

学力  :A

知性  :A

判断力 :A

身体能力:E

協調性 :E+

 

 坂柳理事長の娘。かつては先天性の心不全を患っており、小学生時の大半を雪村病院に入院して過ごす。手術に成功し、中学生になってからは学校に通うことも増え、簡単な運動も出来るようになったが、経過観察中なこともあり現在も通院は続いている。

 本人は天才を自負しており、事実ペーパーテストの類では軒並み高得点を叩き出している。満点も少なくない。

 当校への入学許可を出すのには難があったが、当人の入学意欲が高いことや基本学力が高いことを加味し、条件付きで許可を出すことが決定された。

 学力は高いが、身体能力の低さと人付き合いの薄さからDクラス配属が妥当である。また、彼女の入学は婚約者である雪村千夜による補佐を前提としたものであり、片方が退学処分となった際にはもう片方も退学処分とする。そのため、退学回避やクラス移動は二人同時でなければならず、倍のポイントを必要とする。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「この齢で既に婚約関係か。流石は上流階級と言うべきなのかもしれんが、裏を勘繰らずにはいられんな」

「最後の一人の情報を見れば尚更だよ。この子――軽井沢恵さんも雪村病院に入院したことがある。まあ、名だたる大病院なんだから特段おかしなことではないのかもしれないけどさ」

 

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高度育成高等学校データベース 入学時点

氏名  :軽井沢(かるいざわ)(けい)

クラス :1年D組

学籍番号:S01T004718

部活動 :無所属

誕生日 :3月8日

――――――評価――――――

学力  :C+

知性  :C+

判断力 :C+

身体能力:D

協調性 :B+

 

 基本の能力だけでは計れない求心力のようなものを持った生徒で、小中学校とクラスの中心人物として活動する。

 中学時、雪村病院へと入院する。担当した医師によると『当人の状態からいじめを受けていたと診られる』とのことだが、証拠らしい証拠は見当たらず、証言も上がらなかった。

 入院中、病院から精神ケアの一環で坂柳有栖と雪村千夜を紹介され交友を深める。その際に勉強も教わった様で、退院後は各能力の上昇が見られる。

 当初はBクラスへの配属予定だったが、Dクラスへの配属に見直されることとなった。これはDクラスの入学予定者に雪村千夜と坂柳有栖の名前が見つかったためであり、いじめが事実だった場合を考慮してのことである。いじめ問題はそれだけ根深いものであると言えるだろう。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「当校のクラス分けが単純な学力主義でないが故の弊害ですね。補足説明を読めばDクラスであることも理解出来ます」

「理解は出来るけどさぁ~。だからってそう簡単に納得出来るわけないじゃ~ん。特に軽井沢さんなんて評価との乖離有りすぎ! うちとしては逃した魚が大きすぎるんですけどー!」

「確かにな。まさかこの時点で過去問を求められるとは思わなかった。偶然なのか、それとも狙ってやったのかは分からんが、『すみませんが過去5年間における各中間、期末テストの問題を貰えますか? 私はこの二人に比べると学力面で不安がありますし、傾向を把握するのに役立てたいので……』と、こう言われたら教師として渡さざるを得ん。おまけに、正当な理由だからポイントも請求できん。何だかんだ言ったところで、学生の本分が勉強であるのは事実だからな」

「私としても予想外の実力者の登場に驚いているよ。軽井沢が過去問を求めた際、雪村と坂柳は首を傾げていた。すぐに納得の表情を浮かべていたが、その瞬間までは思考の外にあったことを意味している。おそらくは出来すぎるが故の弊害なのだろう。あの二人は過去問の必要性を理解していても、体感したことはないのかもしれないな。まあ、だからこそ互いにフォローし合う理想的な関係になっている様だが……」

 

 教師4人が次々と所感を語っていく。

 毎年、5月冒頭のネタバレ前にSシステムの語っていない部分に気付いて確認に来る生徒は一定数いるが、それでも入学初日というのは初めてだ。クラス評価という分かりやすい事柄だけではなく、特別試験に触れるとなれば尚のこと。

 雪村千夜、坂柳有栖、軽井沢恵の存在が教師たちに強く刻まれた瞬間だった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「うわ、美味し!? そこらのパンとは比べ物にならないんだけど!」

 

 驚愕の声を上げたのは恵だ。現在地は学生寮の千夜の部屋。帰りがけに買ったパンを咀嚼しての一言である。

 

「あら、本当ですね。……ふむ、どうやら主に地方で展開しているパン屋みたいですね?」

 

 同意を示したのは有栖。購入したパンと一緒に袋に入れられたその店のチラシを確認すると、基本的には地方の県内のみで販売しているらしい。元々地元民には人気があったのだが、口コミやネットで輪が広がっていき、今では県外から訪れる客も少なくない旨が書かれている。

 

「県外への展開も考えているのかもな。ここの敷地内で営業を許されるってのは、政府の後押しを受けているのと同義だ。補助金も出るし、試すには打ってつけなんだろうよ」

 

 千夜も自論を述べた。

 高度育成高等学校があるのは、ある意味で陸の孤島だ。多種多様な施設が用意されているが、特殊だからこそ門を構えるには常以上の厳しい審査が掛かる。

 逆に言えば、敷地内に用意された施設は真っ当な経営が保証されていることになる。少なくとも、政府の審査に引っ掛からなかったのは間違いない。

 

「さて、腹もふくれたところで今後のことを話すとするか」

 

 パン、と手を叩いて千夜が言った。

 

「まずは戦果の確認からいこう。一人頭120万ポイント……多少遣いはしたが、正直言って十分過ぎる口止め料だろう」

 

 言いつつ端末を操作する。表示されているポイントは9万9000台。パン屋で支払った分が引かれているだけだ。

 しかし、更に操作すると所有ポイントが膨れ上がった。貰った口止め料を使って別IDを用意したのだ。普段使いとIDを分けることで人の目を誤魔化せる寸法だ。当然ながら総保有ポイントは簡単に確認出来る。

 

「が、だからこそ分かることもある。大金であることには違いないが、学校側にとっては『この程度』で済ませられることだ」

「初回のクラス評価は10万。マイナス評価を受けることなく一年過ごして、漸く120万です。それをこんなに簡単に渡してしまえるのですからね」

「クラス評価の維持・上昇は難しいけど、個人ポイントを稼ぐだけなら今回みたく抜け道は幾らでもあるってことね。……めんどくさ!」

 

 恵は思わず叫んでしまったが、考えてみれば妥当だろう。そうでもしなければ、不出来なクラスに入れられた出来の良い者に救いが無さすぎる。学校側が下した評価だって完璧な筈はないのだから。

 

「まあな。けどそいつは、元手を維持する意味でポイントの節約を心掛けることは大切だが、投資を躊躇う必要もないってことを意味してる。……俺と有栖は今回のを元手に新しい部屋を用意したりと色々するつもりだが、恵も乗るか?」

「いくら?」

「何段階かグレードがあるようだから、お前が参加するかにもよるな。渡された寮則案内に詳しく載ってるぞ」

 

 その言葉を受けて、恵は寮でのルールが書かれたマニュアルを確認する。ゴミ出しの日時を始め、基本的な事柄がつらつらと記載されていた。読み進めると『パーティールームについて』という項目が目に留まる。

 学生寮は建物こそ違うものの全学年共通した造りとなっている。2~9階が男子部屋。10~17階が女子部屋だ。部屋割りは完全にランダムで、隣人が別クラスでもおかしくはない。1階層当たり10人が割り当てられている計算だ。

 1階は共有スペース。料理の出来ない生徒向けの食堂兼談話室だったり、夜間の外出を防ぐための自動販売機だったりが置いてある。

 最初から用意された個室は八畳ほどのワンルームだが、設備などの関係もあり自由に使えるスペースは限られている。これでは少人数ならともかく大人数を誘ってワイワイ過ごすことは難しい。それを解消する目的で用意されているのがパーティールームのようで、18階より上がそうなっている。

 遅くまで遊んでもそのまま寝られるように寝室やバスルームも完備。基本的には一泊幾らのレンタル制だが、部屋そのものを購入することも可能。料金は部屋のグレードによって異なり、お高くなるにつれ収容人数や設備の充実度が上がるようだ。購入する場合は一番安い部屋で200万。そこから50万単位でグレードが上がっていき、一番高い部屋で550万とある。

 千夜と有栖だけの場合、購入できるのは必然的に200万の部屋となるが、そこに恵が加わればグレードを上げる事も選択肢に入ってくるというわけだ。

 

「うん、私も入る。個室だとやること多くて面倒だけど、共同生活なら一人当たりの負担も減るでしょ? 私ってそんなに段取りいいわけじゃないからさぁ~、お風呂洗って洗濯して食事の準備して勉強もしてってなると遊ぶ時間が確保できなくなっちゃう」

 

 詳細を確認すれば悩むまでも無かった。そもそもにして、役割分担をきちんとする前提なら共同生活の方がメリットは多い。性差の問題はあるが、遅かれ早かれ千夜に抱かれる身なので、そこで悩むのはバカらしい。

 

「オーケーだ。……部屋はどうする? 俺は250万で良いと思うが?」

「それで構いませんよ」

「異議なーし」

 

 これで250万のパーティールームを購入することが決まった。学生寮は学年ごとに分かれているが、進級した場合も同じ寮を使い続けるので購入しても損はない。

 早速管理人の元へ行く。手続きの書類には代表購入者欄と使用者欄があり、記入した分だけカードキーが渡される仕組みらしい。ただし、効力が認められるのは基本的に直筆のみである。利き腕を骨折して上手く字が書けない等やむを得ない場合のみ、代筆と本人の拇印で効力が発揮する。使用者が後から増えた場合、その旨を報告し書類に記入すればその者の分もカードキーが渡される。……なおレンタルの場合、署名の必要があるのは代表者のみで、渡されるカードキーも一枚だけだとか。

 代表購入者欄に雪村千夜、使用者欄に坂柳有栖、軽井沢恵と署名して管理人に渡すと、学生証の提示を求められた。拒否する理由はないので大人しく提示する。本人確認が済んだところで支払い手続きに移った。代表者を千夜に決めた時点で、既に有栖と恵からポイントは譲渡されている。問題なく支払いも済んだ。

 

「はい、これがカードキーね。しかし初日からとは、素直に驚きだよ。レンタルはともかく、購入は滅多にないから尚更だね」

 

 そんな感想と共に3枚のカードキーを渡された。1901と数字が書かれているのを確認する。

 早々にその場を辞して部屋へと向かう。

 実際に己が目で確認すると、個室とは雲泥の差があった。リビングルームの広さ、設置されたテレビのサイズ、バスルーム、調理スペースに調理器具、ソープやティッシュのような消耗品だって個室の物より質が良い。例を挙げればきりがないほどだ。

 寮則案内に載っていた通り、多人数が寝れる寝室もあり寝具も布団が用意されている。

 

「こいつは……判断に迷うな」

「そうね」

「うん」

 

 部屋を一通り確認した上で、千夜が悩まし気に口を開いた。すかさずに有栖と恵もそれに続く。

 

「確かに多人数がワイワイ過ごせる広さはある。そのまま泊まることだって出来る。設備や備品も十分だ。寮則案内に嘘はねえ。嘘はねえが……プライベートがねえのは問題だろう」

 

 その言葉通り、今の状態はプライベートが考慮されていなかった。一応寝室には施錠の出来るスライドドアがあったので、それを使えば男子も女子も問題なく泊まれるだろう。しかし、その程度しか考慮されていないのだ。 

 

「実家や別邸の感覚で考えていた弊害ですね……」

「私はそもそもパーティールーム自体に縁が無かったし……」

 

 そう、千夜と有栖は良いとこの子息子女であり、その感覚でいけばパーティールームでもプライベートは確保されていた。恵の場合は言葉通り縁が無かった。……認識不足が起こした不運である。

 

「まあ、買っちまったもんは仕方ねえ。若干面倒だが、プライベートに関しちゃ元々の個室を使えば済む問題でもあるしな」

「……ですね。取り敢えず、買い出しにでも行きましょうか」

「さんせ~」

 

 そんなわけで、一行は若干気落ちしたまま買い出しに向かうのであった。

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