プロローグ
闇の中、浮かぶものがあった。銀色の巨人の、死体だ。それが複数この宙空には浮かび、そしてその中央で、暗黒の怪物が浮かんでいた。筋肉質な肌は黒光りし、獣じみた赤き眼光は周囲の全てを射抜き、凍てつかせるほどの威力。両腕を自在に変容させ、今は鉄球と鎌を手にしたそれは、一本角が白く映える頭の、その大口を天に向け、吠え猛る。
暗黒魔獣ゼロダーク、魔獣系列と呼ばれる怪獣に名を連ねしその化け物は、光の国の民の命を喰らい尽くす、恐るべき怪奇であった。討伐隊として送られた宇宙警備隊の隊員たちを撃滅し、今奴はこの宙域において、最後に残った敵と対峙していた。
「ハァッ……くっ……!」
二本の角が生えた、光の男がそこにいた。彼は白い肌に赤と青のツートンカラーが宿り、鋭い眼光を見せる六角形の目を持っていた。角ばっていて、その形からまるで鋼鉄を思わせる風貌の頭部には、丸い穴の空いたトサカが生える。
彼の父より、“アース”の名を賜ったその青年は、胸の宝珠を赤く照らし、後少しで尽きる命を燃やし、目の前の敵を睨みつけていた。
「お前、だけはぁ……!」
青年は震える体を無理矢理に動かし、拳を握って目の前の敵を見る。そして両腕を突き出し、炎のようにゆらめく、赤い閃光を放った。ゼロダークの皮膚をそれが焼くが、体は攻撃を反射した。
あらぬ方向に飛んだ光線を見て、驚愕するアースに対し。ゼロダークは素早く接近、その顔面に、右手の鉄球を叩きつけた。
「グガッ゛⁉︎」
頭部がひしゃげ、角が折れた。銀の肌にヒビが入れられる。アースは一気に吹き飛ばされ、死体にぶつかってようやく止まった。
胸の宝珠の点滅が、より一層高まっていく。その音声と光る速度の高まりは、青年の命が、確実に失われていく合図であった。ゼロダークはそれを理解しているのか、アースにさらに追撃を放とうとする。
その、首まで開く大口に赤い閃光を溜めていく。それはさまざまな色を周囲から奪い吸収し、ドス黒い邪閃へと変わった。
あれを受ければ、アースは肉体ごとこの世界から消えて去るのだ。そう思わせるほどの絶技が、目の前に迫っている。
「……なら」
命は、どうせ尽きるのだ。ここで死んでも、後で蘇ることなんてできはしない。それほどに自分の体は傷ついている。アースはそれを理解していた。
だからこそ、一世一代の大舞台。その身を賭して、目の前の怪物を打ち倒すことを心に決める。両腕の拳を打ち付け、七色の光を、全身から解き放ちながら。
「光よ」
詠唱は、その技を自らの器に収めるためのものだ。
「我が身に宿り、あまねく全ての星々を照らせ」
銀河の奇跡は、ただ一人の青年には、あまりに持て余す力。故に、一度使えばその身は滅び去る。
「銀河の奇跡よ……!」
だからこそ今。滅び去る我が身を朽ち果てさせ、必滅の一撃として解き放つ。それこそが、ウルトラマンアースの最期だ。
「コスモミラクル光線!」
赤光が、世界を支配する。七色の共存せし光と、全てを喰らう闇の如き一撃が、宇宙の中心でお互いを喰らい合うのだ。七色の光だけは、使用者を、アースの命をも喰らっていた。
「ガッ、アアアアァァァ⁉︎」
叫び、叫び、叫び。しかし力を緩めない。絶対に、緩めない。遥かな銀河の果てにまで、文字通りあまねく宇宙の全てにまで、届き照らす光を一つにまとめ、解き放ったその一撃は。邪閃を喰らい尽くし、そして怪奇を打ち破った。
光が世界を照らす。この真空の宇宙に、凍えるこの世界に、暖かい風が、吹いたような気がして。ウルトラマンアースは、内外共にボロボロのその身から命を離し、生涯に幕を閉じていた。
ゼロダークもまた。その全身を、朽ち果てさせながら。
……宇宙に大穴が開く。先ほどのコスモミラクル光線の、余波によるものか。やはり、宇宙最強と謳われる一撃は、一人の人間が使うには重かったのだろう。
不安定で、制御しきれていないその攻撃が、その空間に多大なダメージを与えてしまっていたのだ。そして開いたブラックホールに、二つの亡骸が吸い込まれていく。
その宙域H86近辺に置いて。光の国を追い詰めた伝説の怪獣、ゼロダークは敗れ去った。一人の若き隊員の、命を賭した活躍によって。