「ホーンサンダー!」
両角から放たれる雷鳴が、空中で弧を描き敵を貫いた。黄金の体を持つ怪獣、ゴルドンの全身を稲妻が焼き尽くす。だが、電撃に対して彼は凄まじい耐性を持っているらしい。電撃を耐え、ゴルドンは星のアースに攻撃を繰り出した。
「ガルッ⁉︎」
「おわっ⁉︎」
ゴルドンは四足でどすどすと歩き、アースを突き飛ばす。その上に馬乗りになり、顔面に角を何度も叩きつけてきた。
「いたっ、やめろよこのぉ!」
あまり痛くはないのだが、こうして暴れられると町に被害が及ぶかもしれない。その前に早く決着をつけたい。星はそう思い、ゴルドンを無理やりどかす。その衝撃でひっくり返ったやつの尻尾を取り、そのまま後方に投げ飛ばした。
「くらえぇ!」
空中に飛んだゴルドンに向けて。両手に炎のエネルギーを溜め、それを弾丸にして解き放つ。“ウルトラファイヤーボール”という、その一撃が敵を屠った。ゴルドンの黄金の体を、炎が溶かして気化させたのだった。
そこから生じた、一枚の金色のカードを、星は見てはいなかった。
「……っし!」
アースは両腕を下げ、白い湯気を挙げるその両腕を振り、落ち着きを取り戻す。今日も、町には被害が出なかった。アスファルトの道路が少しえぐれたくらいだ。
「今日も何事もなかったな! 戻るか」
星は変身を解き、人間の姿へと戻っていく。
アースブレスレットがそれと同時に輝けば、目の前でアースの人形(スパークドールズというらしい)が消え去った。
「……これ、いつまで黙ってればいいんだろ」
星はそう呟く。白夜との約束を破ってしまったと、そのことがずっと、心の中で渦巻いている。
「ごめんな」
だから自然と口に出る、謝罪の言葉だけは嘘じゃない。自分にそう言い聞かせて、そうだと信じ込ませたい。星は早まる動悸を抑え、早く避難所の方へと向かった。
〜○○○〜
星がアースになってから、一週間。レッドキングとブラックキングを、それからさらに現れたゴルドンを打ち破り。それから怪獣は一度も現れていない。ウルトラマンアースとして活躍することはなくとも、星は鍛錬を続けていた。
丈からある程度、技について習った後。その技をより鋭く、上手く使うために。星は霊島家の邸宅から離れた、小さな山で鍛錬を続けていた。もちろん皆から隠れて、誰にも正体をバラさないようにしながら。
「……コピー能力か」
小さく星は呟いた。両手に宿す赤い光は、ウルトラマンラルバの使っていた技をイメージしたものだ。
コピー能力。ウルトラマンラルバは、それがアースの持つ真の力だと言っていた。あらゆる他者の技を覚え、そしてそれを自らの力の一部とする。それを何度も行い、少しずつ自身の体に馴染ませ、自分の技として覚醒させる。それがコピー能力と呼ばれるアースの力だった。
そのコピー能力の発動のために必要な、他者の技を覚えるためには、まず見た技のことを覚え。そしてそれを自分が使うイメージで頭に浮かばせる。そこから技を少しずつ、自分が使うのに最適化させていくのだ。
「マグナカノンだっけ。あれはストリウムシュートより威力高いんだっけか」
そう呟き、星が変身したアースは両腕をL字に組んだ。赤い光が両腕に宿り、目の前の的にぶつかる。その的は、赤く燃えて消え去った。
「まだ威力が低いな」
ウルトラマンラルバの技、マグナカノン。その威力は怪獣ガンQを一撃で葬り去れるものだ。あの的よりも大きなものを、一撃で粉砕できる。今のアースのマグナカノンは、それができるほどの威力ではない。
「もっと、もっと強くならないとな……そうしないと」
星は、ウルトラマンラルバと出会った日のことを、一週間の間、ひとときも忘れていない。目の前で死にかけた白夜を、失いたくないと嘆いた。
今彼が願うのは。例え妹に嘘をつく結果になろうとも、彼女を守り抜ける力を手に入れること。怪獣の災害から彼女を守り続けたい。そう、彼女がいつか大人になって、そしてその命を老衰によって失うまで。いつまでも平和で、そんな世界で暮らしてほしい。
星の願いはただ、その一つ。その思いを胸に、両手を掲げ、エネルギーを溜め。そしてそのパワーを右手に宿し、強力なパンチを放った。
「ストリウムナックル……!」
ストリウムシュートのエネルギーを腕に宿して放つ、まさしく必殺の一撃。付け焼き刃のマグナカノンより、性質を理解した上で放てるようになったストリウムナックルの方が、威力が高い。
「でも、コピー技もしっかり育ててくか」
ストリウムナックルとマグナカノンでぐちゃぐちゃになった的を掛け直す星。再び両腕をL字に組んで、マグナカノンを。
そこでガサリと音がして、星は慌てて変身を解いた。音の聞こえた方を見る。
「何してるの、星」
現れたのは然だった。神主の服を着た珍しい姿の彼は、星にゆっくりと近づいてくる。
星はどう言い訳しようかと考えながら、彼から一歩後ずさった。
「なーに逃げるのさー」
「いやーちょっとびっくりしてだな」
「まま、ボカァ今日は話に来ただけなのさ。一緒に話そーよ」
言いつつ、然は辺りを見回して、座れそうな倒木を見つけて、そこに腰をかけた。それから星にも、座るよう促す。星は彼の言う通りに、倒木に座った。
「そーれでさ。何してたの星」
「野球の練習だよ、野球の!」
「星は野球しないじゃん」
雑な嘘はすぐ見抜かれる。それもそのはずだ、然は星の幼馴染なのだから。然は足を組みつつ、星に聞いた。
「星、最近みんなに嘘ついてないかなぁ?」
「みんな聞くな、それ。ついてねえよ」
「ほんと? ほんとだったらもっと胸張っていいなよ、星」
疑いを見せる然に、しかし星は胸を張ることができなかった。それを見て、然は「ほらやっぱり」と言った。
「星は嘘つけないんだからさあ。あんまり、意地張っちゃダメだよ」
そう言って懐から取り出したペットボトルを、彼は星に差し出す。薄い白色のスポーツ飲料だった。星はそれを受け取って、蓋を開いて、口に含む。
「なんで持ってきてんだ、こんなの」
「うちの神社によく置いてるってのとー。あと、星が特訓してるの、知ってたしねぇ」
「特訓……え、なんで知ってんだよ!」
「ここうちの敷地だよ、わかんないわけないじゃん?」
何をしているのかも、わかってるよと。それだけ然は言った。
「なんのための特訓とか、聞くつもりはないけどさー。白夜ちゃんにだけは言っときなよ。誰に何言われたかは、知んないけどさ」
「……ん」
然は自分の分のスポーツ飲料を口に含みつつ、そう言った。その真意は、なんとなく星にはわかった。自分は、嘘を隠し通すことができないなと、自然とそう思う。
「僕が伝えたいのはそれだけ。そんじゃ、特訓頑張ってね、星」
「ありがと、然」
「いーってことよ。頑張ってね……ヒーローさん」
然は手を振り、それから、そこを出ていった。星も彼に手を振って、彼が見えなくなる頃に手を置いて。星はそういえば、彼の言った“ヒーロー”というのが何か気になったが……
「わかんねーな」
星はバカであった。然が何を知っていたのかも、よくわかっていなかったのである。
然もそれを理解していて、だからわざとらしく“正体を知っている”と仄めかす言葉を放ったのだった。