「兄さん兄さん。星さんどうだった?」
山から降りて神社の邸宅に戻った然に、極夜がそう問いかける。卵焼きのカスがついたまま、彼女は笑顔を浮かべている。
「白夜ちゃんとこで卵焼き食べてきたなー?」
「へへへ、美味しかったよー。味濃かったけどね」
そう言って彼女は口元を拭う。そんな妹の様子に、然は苦笑をこぼしつつ、そういえばと、小さな言葉を漏らした。
「白夜ちゃんのほうは?」
「ん、多分大丈夫そ。蓮さんに言われた通りにしてみたよ。あーでも……白夜ちゃん、やっぱりショック受けてたっぽいからさ」
「二人で話させる時間を作りたいけど、もう少し待つしかないかなぁ……?」
そう二人は、邸宅の中に入りながら話していた。靴を脱いで、居間の方へ。そこで、今度は極夜がそういえばと言って、然に言った。
「お客さんが来てるよ、兄さん」
「お。誰だろ」
「誰だろーねー」
居間の戸を開けると、女の子が一人。それともう一人、男性がいた。その女の子、蓮は然達に手を振り、声を交わす。
「お邪魔してるわ、然」
「よーこそ蓮。丈さんも、お久しぶりですねー」
「隠れて見ていた癖に、何を言うんだ」
丈が責めるように言うと、しかし然は笑ってそれをやり過ごした。見ていたというのは、星と丈の秘密を見ていた、ということらしい。
然と極夜は、星のことを知っているのだ。彼がウルトラマンであることを。
「……しかし、君たちは蓮くんの仲間ではないのか?」
「仲間じゃなくて友達ですよー! 私たちは地球防衛隊さんとは、関係ないですからね!」
極夜が座りつつ、そう言う。蓮は地球防衛隊から、星達を見張るために遣わされた密偵なのだと言う。そんな彼女の正体を知っている然と極夜もまた、密偵なのかと丈は考えていたのだが、どうやら違うらしい。
「僕らはこの、地響神社(ジナリジンジャ)のただの跡取りですからねぇ」
「お爺ちゃんがちょーっと、防衛隊の方にいてって、だけだもんね」
「……なるほど。君たちは祖父から、彼女のサポートを請け負っている、と?」
その問いに極夜は、こくんとうなづいて答えた。
「そーゆーことです。幼馴染ですし、何してるかは最初から知ってたんですけどね!」
話が見えてきた。今、一時的に拠点としているこの邸宅。地響神社の然と、そして極夜は、大和田蓮の協力者。引いては地球防衛隊の協力者なのだ。
星達を見張る役割についている蓮を、サポートしてくれているわけだ。だがその役割のためには、サポート以上に、星との関係性が重要になる気がするのだが。
「僕らみーんな、星とも幼馴染ですからね」
「幼馴染、か……その馴染みが裏で嗅ぎ回っているのを、彼は知っているのか?」
一瞬、そこで空気が重くなるが。然は務めて明るく振る舞い、話を続けた。
「星はバカですし、知らないでーすよー」
「言い方は悪いけれど、ね。……でも、私たちも嘘つきのようなものかしら」
「そーだねー。星達が知ったら、きっと拒絶される、かな」
「……」
その二人の様子はどこか自罰的で、しかし丈は、彼らの状況は仕方のないものだと思った。
丈は、普通の人間よりも遥かに強い体と力を持つ。それがウルトラマンという種族の特徴であり、それを、ウルトラマンアースの魂を有する秋空星も得ているのだ。
その強さは、他者に利用されることもあれば、その力を持つ本人が力に溺れることもある、非常に、非常に危ういもの。それをこの世界を統括する者たちはわかっているのだ。
女神という存在がいるから、こそ。
「俺も、星間連合に身柄を置くことで、ようやく自由を保障されている。だが、星は」
「星さんと白夜ちゃんは、私たちと違って一般人ですから」
極夜がそう呟くと。蓮がそれに言葉を付け足した。
「一般人にしてもらった……のよ。この地球に起きてるしがらみとか。ウルトラマンの力とか。色んなものから、彼らのお父さんとお母さんが遠ざけたの。怪獣使い、レイオニクスとやらの力からも、遠ざけるためにね」
レイオニクスは、丈たちの世界では悪となる力を持つ者とされるもの達の総称。かつてとある人間が、あらゆる怪獣を操り、そしてその力を使い王を名乗った。宇宙を統べる、皇帝の名を。
そんな彼は寿命が尽きるや、自らの血を多くの種族に分けた。その血を分けられ、怪獣を操る力を得た者が、レイオニクスと呼ばれる存在。
それはこの世界の、レイオニクスも同じくだ。
「遠ざけるためにか。だが、君の持っているバトルナイザーは、その怪獣使いの力を操るための媒介だが」
「あれは彼らを守るために、秋空未来さんが家に置いたものですよ。あの中にいた怪獣……ガンQは、本当は彼らを守るために唯一残された怪獣で。そして、多々良山に眠る怪獣たちも、この光ヶ丘を……いえ、真王市全体を守護するために存在する怪獣です」
「……先日のレッドキング、ブラックキング。そしてゴルドンもか?」
「ええ」
丈は先日、虚な目で暴れた二体の怪獣を思い出す。ゴルドンについては“留守にしていた”ため、それがどのような状態だったか、知ることはできていない。レッドとブラック、彼らは撃破後に、それぞれ一枚のカードとなって散っていった。
「丈さん、話は大きく変わりますが……というより、貴方がしたい話はこちらでしょうが。貴方が追ってきたバルタン星人、彼はレイオニクスなのですよね?」
蓮がそう丈に問いかける。
「ああ、そうだ」
「そして彼は……友人のレイオニクスが、この星にいると言った。彼の力を借りると」
「その通りだ」
「……星間連合、引いては地球防衛隊の調べでは。この星のレイオニクスはただ一人、とのことで。そのレイオニクスは秋空未来さんです」
「だが、その人間は死んでいる……しかし、未来と絆を結んだ仲間の怪獣が、何者かに操られ出現している」
それは、つまり。
「最初の一回、ガンQはパニックによる暴れだったとしましょう。以降の怪獣達は、自身の意思で行動していませんでしたから」
「あの子達を無理やり操ってる何者かがいるってーことかなー?」
その然の言葉は、おそらく答えだったのだろう。
「それがバルタン星人なのでしょうね」
「……いや」
蓮が結論をつけようとしたところ、丈がそれを止めた。
「バルタンは、彼の怪獣を操る力は、はっきり言ってそこまででもない。ガンQを操った、いや、パニックに陥らせたのは、明らかに彼の力が原因だろうが。他のものと絆を結んでいる怪獣を、無理やり操ることなど、彼にはできない」
「……ではそのバルタン星人に、協力者がいる、と? 未来さんは亡くなって」
「未来という男を騙る何者かがいるということだろう」
「……なるほど」
確かに、バルタンの父が言った協力者はすでにいないのだ。だがその名を彼が、バルタン星人が知らなければ、そして怪獣を操る力を持っていれば、おそらく彼を騙すことは可能だろう。
「怪獣を操る力を持つ、別の存在がいる。なるほど……」
「な、なになに? どゆことです?」
「僕らはあんまりわかんないことだよー極夜。ただそーだね……結構めんどーくさいことになってるってことで、いーのかな?」
然の問いにうなづく蓮。
「我々のすべきは覚醒した星の中のアースを、見張ること。そして地球に不法滞在中の、バルタン星人の身柄の確保です。その間に一つ障壁が立っている」
「未来を騙る男の捕縛を、急がねばならないな」
「怪獣を操る力を持つものがまだこの星にいるとは、思いもしませんでしたが……これは星間連合も、知り得ていない情報でしょう」
つまるところ、バルタンを騙す怪獣使いがいるのだ。それを捕縛しなくては、この光ヶ丘に出現し続ける怪獣を止めることも、バルタンの捕縛もままならない。
「星に伝えるべきなんだろーけどね、こゆこと」
そう、話がまとまりつつある中、然は言った。蓮はそれにそっけなく「そうね」とだけ返す。
「言うことはできないがな」
「でもいつか、言わなきゃ行けない時は来ますよね」
然はそう言って、続ける。
「たくさんの嘘で世界は回ってる。僕たちが貼った嘘だけじゃなくて、星のお父さんとお母さんが貼った嘘もある。それを知らずに、二人は嘘をつかない約束をして。でも、星は嘘の方に来てしまってる。それが元であの二人はさ……亀裂が生まれてるんだよ」
然の言葉に、極夜は何か言おうとしたが、言葉を詰まらせてしまった。蓮も、何も言うことはなく。丈はそもそも、彼らにかける言葉がなかった。
何故ならそれは、彼らの自業自得でもあるから。
「星は、あんまり嘘をつけないんだよ。バカだもん。バカで正直。人の約束とかも、無碍にはしない。だから今、板挟みなんだよ。それが、白夜ちゃんとの関係に、ものすごいノイズを走らせてる。それを作ったのは僕らだから、ね」
「俺の発言も、まずいものだったかもしれないな……」
ウルトラマンの力を誰にも明かしては行けないと言ったのは、丈だ。彼が白夜に明かせず、そして白夜が星を不審に思いつつあるのは、それも理由の一つになっている。
極夜達はそれを知って、なんとか緩和しようと試みたのだ。二人の感情の変化や機微を、読み取ることができたのは……丈を除いた三人が、彼らの馴染み深い人だったから、かもしれない。
「どうせ隠し通せるものじゃなかったにしても……そろそろ僕たちの嘘を、バラさないといけないんじゃないかなぁ」
「……いいのかな、そんなことして」
然の言葉に、極夜は疑問を述べた。その疑問は、嘘をばらすことで彼らを傷つけてしまうのではないか、と言うところからくるものではなく。
「私たち、嫌われないかな。私たちのせいで、あの二人……」
「嫌われるよ、きっと。許してくれる……そう、あぐらをかけるような嘘じゃないしね」
「……そう、ね」
彼らの様子を見ていると。複雑だと、そんな感想しか出てこない。丈は部外者で、彼らのことは分からぬことも多い。
本当はわからなくてもいいのだが。だが、丈は彼らの気持ちを、わかってやりたいと。そう心から思うのだった。