丈と然達の会話が行われてから、幾分か時間が経ち。
嘘で塗れた他愛もない日常を、彼らが過ごしていく中で。裏でバルタンを利用するものは、静かに動き出していた。
「カードは封印し切っている。後はガンQのみか」
回収した三枚のカード。レッドキング、ブラックキング、そしてゴルドンを、懐にしまいつつ彼は言う。
手に取った星を模った杖でトンと叩くと、カードが輝き懐から三枚飛び出た。その中からジンは、次に使うべきカードを選別していく。
「ガンQがどこに隠れているか分からぬ以上。炙り出しておかねばならないな……」
タロットカードのようにして、カードが一枚選ばれる。二本角を持つ雄々しい、黒金の四足獣がそこに写っていた。描かれている名称は“KING SAURUS Ⅲ”、つまりキングザウルス三世である。
「この怪獣の防御力ならば、あの未熟者の能力を、少しは確認できよう」
その怪獣のカードを、杖にかざす。
《キングザウルス三世》
「ゆけ、キングザウルス」
その言葉が言い終わらぬうちに。光ヶ丘には四回目の、怪獣出現が起こった。
ガンQ、レッドキングとブラックキング、ゴルドン。この四回目に出現したのは、キングザウルスと呼ばれる巨大な恐竜であった。確認されたのが、地球では三番目のため、名付けられたのは三世。キングザウルス三世である。
「こんにゃろぉ!」
先手必勝とばかりにはなった、ホーンサンダーをバリアで防がれたため。星が変身したアースは、自棄になりながら敵に殴りかかっていた。
「ギィ!」
「っ!」
キングザウルスの角から、放射状に光線が放たれる。アースはそれに対し、バリアを張って防いだ。純水をまとめ上げ作り出したシールド、アクアサークルバーリヤだ。
丸い形のそれを回転させ、光線を弾きさる。そのまま、回転させたバーリヤをカッターの代わりにキングザウルスに飛ばした。
「キシャアァァァァ⁉︎」
アクアサークルカッター。キングザウルスの二本角を切り裂いたそれは、翻ってアースの手元に返り咲く。それを構築していた念力を解き、ただの水に戻して。アースはさらにウルトラファイヤーボールを放つが。
「あっ」
そうだ、光線はバリアに防がれてきかないのだ。ウルトラファイヤーボールも防がれてしまう。と思ったが。
キングザウルスはバリアを張らず、攻撃を喰らって身悶えた。
「あれ? バリア……張れないのか?」
もしや角を切ったから、バリアを張れなくなったのか? それならこれはチャンスだ。アースはそう考えるや、両腕を頭上で組んだ。そこからエネルギーを全身に溜め、Lの字に腕を再度組む。
「マグナカノンッ!」
ラルバの技、マグナカノンを真似、それを放ったのだ。威力の出せない技だったが、ストリウムシュートのチャージを合わせることで、本物の威力に近づけることができたのだった。
「っしぃ! いっちょあがり!」
これで勝利は、三度目。星はアースの姿のまま、ガッツポーズを取るが。そこで初めて、怪獣の残骸が光となり、カードに変わってどこかへ消えていくのを目にした。
「なんだ、ありゃ……?」
それが異質だと言うのは星にも理解できた。その光がどこへ行ったかはわからない。すぐに見失ってしまったから。星はひとまず変身を解き、町に降りた。
「っと。あとで丈さんに聞いとかないとな」
おそらく丈なら、あの怪獣から現れてカードについてもわかっているだろう。おそらく霊島家に戻れば、丈はいるだろうし、その時に時間を作って聞こうじゃないかと星は思ったのだった。
そうして、歩いて戻ろうとした時。懐にしまっていた携帯電話が着信音をプルルと鳴らした。誰かから電話が来ているらしい。
「はい、もしもし?」
『兄さん』
「……なんだ、白夜か。どうした?」
電話口の向こうの妹に、努めて冷静に彼は返す。ウルトラマンの時にかけてこられなくて良かった、などと思いながら。
『兄さん今どこにいるの?』
「……避難し遅れて、まだ外だな」
一つ嘘をまたついた。それを癖にしてはいけないと言い聞かせながら、星は白夜に問いかける。
「心配してくれてんのか? ありがとな」
『……嘘つき』
その声は、すぐそばから聞こえた気がした。
気のせいだろうと思いたかった。だが、再び声が聞こえた時。彼女がすぐ近くにいるのが、いやでもわかった。
「『嘘つき』」
「……なんで」
石を蹴る音。アスファルトの地面を踏む音。二つの音を重ねて、彼女は近づいてくる。いつのまにか携帯の通信は切られていた。
その声で、言葉で話したいとでも思ったのか。秋空白夜は、星のすぐそばまで来ていた。
「……白夜、お前、なんでここに」
「いちゃ悪い?」
ぶっきらぼうに答える彼女に、星は思わず声を荒げていた。
「わりぃよ! なんだってお前、怪獣が外にいる時に!」
「私は兄さんが、外にいるから追いかけてきたんだよ?」
「外にいるからって、誰がそんなこと」
「私が見たの」
白夜は携帯の画面を星に見せる。シェルターのエレベーターを利用して、外に出ていく星の姿が、そこには映されていた。
「兄さんこそなんでこんなところまで来たの? 連絡もせずに、怪獣がいて危ないって時に外に出て、一体何してたの? シェルターから出たと思ったら、こんな変なところにいて。何してたの、ねえ、何してたの⁉︎」
「……それ、は……」
言えない、言いたくても言えない。そのために重ねた嘘が剥げて仕舞えば、白夜に。
どんな傷を負わせるか。
「兄さんは、どんなに言っても嘘つくんだね」
「っ、そんなこと!」
「じゃあさっきの嘘は何⁉︎ 私を心配させないためだって言うの⁉︎ ふざけないでよっ!」
吠えるように、白夜は叫んだ。いつのまにか、彼女は目に涙を湛えていた。
彼女は足を鳴らし、星に近づき。そしてその左手を、ぐいと握って奪った。アースブレスレットが、白昼の元にさらされる。
「私知ってるんだよ! 兄さんがウルトラマンだってこと! そのこと、私に話してくれないで、何も隠してないって嘘ついて、いつも怪獣と戦いに行ってたことも! 嘘つき、約束破って、ずっと嘘ついてたんだよ、兄さんは!」
「違っ……いやっ、俺は」
「何が違うの、何が嫌なの……ねぇ、平気で嘘つくくらいなら、マシな言い訳の一つも考えてきたらどうなの⁉︎」
嘘をつきたくて、ついたわけじゃない。そんな言葉は月並みな言い訳で、言えば白夜を傷つける。そして己自身の心も。
星は何も答えられないし、彼女の言葉を切ることもできなかった。白夜の心は、止めるものを失った川の流れのように、せきとめられることなく流れ出続けていく。
「嘘つき、嘘つき嘘つき……嘘つき……! もう、もう信じないよ、兄さんのことなんか……」
「白夜、俺の話を」
「聞かない、聞かない! 嘘つきの言うことなんて聞かないもの! もう、自分で好きにすればいいよ……! 一人で生きていけばいいんだよ!」
「……無理だろ、俺もお前も。そんなの、わかり切ってることを」
「わかり切ってることを破ったのはどこの誰……兄さんだよ……」
白夜の声には先ほどからずっと、嗚咽と涙声が混じっていた。今すぐに彼女を慰めたいのだが。だが、今の自分にそんな資格は。
「…………っ、兄さんの、バカ……」
白夜はそのまま、星が手を伸ばすのを無視して、走り出してしまう。何も言えずじまいだった。ちゃんと説明できず、妹とあのような、亀裂を。
それは、妹の“心”を、守れていないのではないか。結局それは、彼女を守れなかったことにつながるのでは?
「……それなら、ただ強いだけの力なんて……」
星はアースブレスレットをチラリと見る。その輝きが、どこか鈍いように感じた。
〜○○○〜
それを、遠方より見るのは。
「ジン、何を見ているんだ?」
「いえ、何も」
バルタンに問われ、ジンは杖での“遠見”を切った。杖の星の部分に映っていた星の映像が、パチンと音を立てて切れるのだ。
ジンは至極普通の様子で、バルタンの問いに答えていた。
「確認のようなものです」
「そう、か……そういえば、キングザウルスは敗れてしまったようだが、彼は回収したのか?」
「既に。全く……彼の能力を確認できるかと思いましたが、あの体たらくとは。王の名が泣きますね、あまり使えないやつでした」
バルタンはその言葉に眉を顰めた。
「仲間の怪獣なのだろう? そんなに悪く言ってやるな」
「いえ? 彼らは下僕ですからね。私の下僕をどう扱おうが、貴方には関係のないことでしょう?」
「……レイオニクスの言葉とは思えないな」
バルタンはそう呟いた。だがジンは、そんな彼の言葉をクツクツと笑い、飛ばした。
「レイオニクスの言葉とは思えない? 怪獣使いのありようも様々でしょうに……まさか貴方の父親のように、怪獣は友人だ、などとでも言うつもりなのですか?」
「そうではないが。だが、仲間ならば丁重に扱ってやるのが、義理ではないのか?」
「ふっ……その怪獣を使って地球を侵略しようとしている男が、何をほざくのでしょうかね」
笑い転けるジン。バルタンはそんな彼を、少々不審に思いつつも。彼の最後の言葉には反論できなかった。
彼には彼のやり方があるのだろうと思い、できる限り意を唱えないようにしようと、心の中に誓うのだった。
「しかし、そろそろ……あの未熟なウルトラマンも邪魔になってきますね」
「……やはり、殺すのか? 君の目的のためにも、確かに障害にはなるだろうが」
「貴方のためにも彼は邪魔でしょう。次で最後にします」
杖をトンと鳴らし、カードを今度は六枚、懐から取り出す。光り輝くそれらのうちから、カードが二枚選ばれた。“RED KING”、“BLACK KING”のカードだ。
「その二匹は以前、アースとラルバに」
「敗れましたが。私のバトルナイザー……いえ、この杖には、想像を実体化させる力があります」
「想像を実体化?」
わかりにくいその言葉に、バルタンは疑問を残し問いをかけた。それにジンはすぐに答える。
「夢……そう呼ばれる力を媒介に。あらゆる事象を引き起こす、これこそがこのバトルナイザーの力なのです。故に、これら二枚の新たなる力を引き出すことも、私の想像力により可能となります」
「……では、どうするのだ?」
「月並みな想像ですが。怪獣の力を掛け合わせ、より高位のものに変えるのです。一言で言えば“合成怪獣”、でしょうか?」
合成怪獣。バルタンはその言葉を聞き、唸った。
「怪獣を組み合わせる、か……いや、君がそうするのならいいのだが、それは」
「禁忌のことと言いたいのでしょうがね。我々は法に触れた方法を取れるのですから。やっていかねば損でしょう?」
「……」
彼の怪獣の扱いについて、触れはしない。それが今先ほど、バルタンが決めたこと。だがやはり“怪獣使いとしての”正しさを、目の前の男は持っていない。
信用はできないな。そう、バルタンは思うのだった。