『怪獣警報発令。多々良山近辺に怪獣が出現しました。屋外の方々は、お近くのシェルター入り口までお急ぎください。繰り返します』
その警報がシェルター内で流れた。山へ行こうと動き始めていた星と白夜の耳にも、その声が聞こえていた。
「っ、おいおいこんな時に……」
星はアースブレスレットをチラリと見やる。今から行けば、怪獣を止めることくらいはできそうだ。そう思って、彼は駆け出そうとするが。
「待って!」
白夜がそれを止めた。手を掴まれ、星は一瞬よろけながらも、白夜の方を見る。
「でも行かねえと」
「兄さんの体はボロボロなんだよ! そんな状態で、戦いに行ったら」
「今度こそ死ぬってか?」
「……うん」
白夜は悲しげな表情でそう言った。もう、そんな顔は見たくなかったが。使命感と白夜を守らなきゃ行けない気持ちと、二つのことで今はいっぱいになっていた。
「……丈さんも、ウルトラマンなんでしょ?」
「任せる、ってか? ……いいのかな、そんなので」
「傷ついてる時に、無理する必要はないよ……だって兄さんは、ウルトラマンである前に……普通の、人間なんだからさ」
……そうだったな。怪獣と戦う日々が続いて、忘れていた気がする。自分は人間であって、ウルトラマンであるのは後付けなのだ。そう、星は彼女に気付かされた。
「でも、丈さん携帯持ってないし、連絡取ることはできねえんだよな……いや、多分気づいたら出てくれるけど、その前に町が」
普段は自分がすぐ出ているから、丈がどれくらいできてくれるかはわからない。そのことで悩んでいると、ガンQが「きゅい」とまた鳴いた。
「きゅきゅ、きゅい」
「どうした、ガンQ」
ガンQは星を真っ直ぐに見て、ぴょんぴょんと白夜の肩で跳ねていた。何を表現したいのかは、少しわかりづらい。それを本人も思ったのか、彼は星のブレスレットを指差した。
「きゅ、きゅー! きゅい!」
「……俺の代わりに、戦ってくれる、のか? あの時みたいに大きな姿で」
「きゅい!」
ガンQは大きくうなづいた。瞬間、彼は自らカードに変わり、星の手元に渡る。キャッチした星は、自分の意思を示すように輝く、彼の想いも受け止めた。
「力借りるぜ、ガンQ!」
「行こ、兄さん」
「おう!」
心強い味方ができたものだ。星と白夜は急いで、かつ誰にも気づかれぬよう、シェルターから外に出た。
……もちろん、彼らを見張る者は、彼らが外に出たことは気づいているのだが。敢えて、追うことはしなかったのだ。
「頑張ってね、白夜ちゃん、星さん」
こっそりと、端から彼らを見ていた極夜は、そう二人に向けて、エールを送るのだった。
二人は外に出た。シェルターは怪獣の攻撃から市民を守るために閉まる寸前だったので、彼ら二人が出た瞬間に、もう入ることはできなくなってしまった。
「ガンQ、頼むぞ」
後戻りはできない。星はガンQのカードを、再び自らのブレスレットにかざす。
《モンスロード》
“GUN Q”と描かれたカードは、光を伴って螺旋となり、そして巨大に変わって行く。光は一つの形を取り、それは手のひらのサイズから、一メートル、五メートル、十、そして四十と、一気に巨大化した。
赤い大足をドスンと鳴らし、その怪物は町に降り立つ。怪物なれど、人を守るために。奇獣ガンQは勇気を胸に、ブラッドキングに挑発の咆哮を叫ぶのだった。
「ギュイイイィィィーーッ!」
「グオッ……ゴアァッ!」
叫ぶガンQの真下で。星と白夜はうなづきあい、口々に叫んだ。
「行け、ガンQ!」
「がんばれー!」
声援を受け、ガンQは一歩踏み出す。そこに、敵が先手必勝とばかりに、電撃を撃ち放った。だがガンQはそれを、なんと自慢の目玉に吸収してしまい、さらにそこから打ち返した。
「ゴウッ⁉︎」
紫の電撃をその身に受け、火花がブラッドキングから散る。まさか攻撃を跳ね返されるとは思っていなかったようで、慌てふためいている様子だ。
ガンQは地面を踏んで跳躍、怯んだブラッドキングの顔面に、強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ガウァ⁉︎」
「ギイィ!」
吹っ飛ぶブラッドキングの体が、音を立てて倒れる。ガンQは着地し、喜ぶように体を跳ねさせ揺らした。
「すごい……前よりずっと強いぜ、ガンQ!」
「……な、なんか、兄さんよりも優勢だね」
「……言うなよな」
三日前の不甲斐ない自分を思い出してしまう。だが、それを戦っている彼が、払拭してくれている。星はガンQに、何度も声援を送っていた。
「がんばれ、ガンQ!」
「きゅいー!」
ガンQに、その声援は届いていた。その思いに応えるべく、ガンQは全身に力を込める。目玉にエネルギーが集まってゆき……ガンQは今度は、紫色の光弾を目玉から撃ち放った。
「ガアァ!」
だが、それらは全て、ブラッドキングのはなった紫雷にかき消されてしまう。それどころか、光弾を放っていた目玉に雷が命中し、ガンQは吹っ飛ばされてしまった。
「ガンQ!」
「さっきは跳ね返せたのに、なんで跳ね返せないの⁉︎」
「多分、光弾を撃ってる時はそっちに集中しちゃうから、吸収に手が回らなくなるんだ。なら、こっちが受け身になるしかないんだが……」
ブラッドキングはそれに気づいたのか。ふらりふらりと目と体を回すガンQに接近。足を掴んで、地面に叩きつけた。ガンQから奇妙な音が漏れ、さらに彼の体が地面を抉る。家屋が潰れ、吹き飛んでいった。
「まずい……! やっぱり俺が」
「ダメだよ、絶対ダメ……!」
「でも、ならどうすんだよ!」
自分の代わりにガンQがやられてしまう。変身したところで、自分が敵わないのはわかっているが……
丈はどうしたのか。彼にすがりたいと、心の底から星は思ったが。だが、肝心の彼は、今どこにいるのかはわからないのだった。
〜○○○〜
銀の刃が空中に閃き、それをバルタンが受け止めた。ラルバは即座に、バーンスラッガーを自らの元に戻し、頭部に付ける。バルタンはハサミから冷凍弾を放ち、ラルバを氷漬けにしようとする。
「っ、ハァ!」
額からのレーザー、“エメリウムメーザー”によって、それらを打ち消す。バルタンとラルバの間には、大きな距離が空いた。そこを、バルタンの背後から現れたジンが攻撃しようとするが。
「下がっていてくれ、ジン」
「ですが」
「私たちの目的の遂行のためにも、お前は必要な存在なんだ。ここは私がやる」
バルタンはハサミをラルバに向けつつ、そう告げる。ジンは言われた通りに、彼らから離れた位置に立った。
その様子を見て、ラルバは構えを解かず、バルタンに問いかける。
「その男はお前の協力者か、バルタン」
「そうだ。父の友人だ」
「……やはり君は、騙されているのだな」
ラルバがそう呟くのに、バルタンは「何?」と反応を示す。ラルバは自身のスラッガーを構え、バルタンを見据えた。
「君たちを拘束し、星間連合に引き渡す。君たちの悪行は、ここで終わりだ」
「……悪行だと? ラルバ、君はまだそんなことを」
「たとえ君がどれほどの大義を胸にしていようと、他者を考えず己の我だけを通すのなら、それは悪でしかない!」
バーンスラッガーが空中で閃く。バルタンはそれに、腕に取り付けていたブレスレットを変形させ、ぶつけた。ブーメランとなったブレスレットを、バルタンはハサミで受け止める。
「それは」
「君のブレスレットだ、私が確保していたが……使わせてもらうぞ!」
再び、ブレスレットブーメランが投げられる。ラルバは念をスラッガーへと飛ばし、自らを守るように軌道修正を行なった。スラッガーとブーメランがぶつかり合い、火花が散る中、ラルバはその場に接近。そこに、バルタンもまた接近する。
「っ!」
「ハァ!」
ブレスレットブーメランをバルタンがつかんだ瞬間。ブレスレットはブーメランから、刀の形に変わった。ラルバはそれを確認するや、スラッガーを刀の刃に当てがう。
「……やはり念力の扱いは上手いな、君は」
「今褒められても嬉しくはないな!」
刀に氷のエネルギーがまとわれ、それをバルタンは刀を振るい、飛ばす。ラルバは両腕を組み、マグナカノンを照射。その氷の刃を打ち砕いた。
「若干不利なようですね、バルタン」
「ジン、黙って見ていろ!」
「ですがそうも行かないのですよ。あちらを」
ジンは杖で、山の向こう、町の方を指した。あちらにはラルバを誘き出すために作り出した、ブラッドキングが暴れているはず。だが、そのブラッドキングと戦う者の姿が、バルタンとラルバの目に映った。
「あれは!」
「……ガンQ、だと? 一体誰があれを操っているんだ⁉︎」
「やはりあの程度では死んでいなかったのでしょうね。ウルトラマンアースは」
その言葉にバルタンは驚いた。ブラッドキングによって胸を貫かれ、アースは粒子となって消え去ったのだ。あれで死んでいないと言うのか? いや、もし生きていても、すでに戦える精神状態ではないはず……!
「ウルトラマンはカラータイマー内に存在するコアを破壊せねば死にません。いわば不滅の存在なのですよ」
「それを知っていながら、何故奴の胸を狙わなかった!」
さらりと述べるジンに対し、バルタンは怒りをぶつける。やれたのならば、何故やらなかったと。
だがジンは、これまたさらりと。いや、どこか冷淡に、バルタンを見て言葉を述べた。
「狙いが逸れただけですが。私の狙いは的確ではありませんのでね」
言い終える間もなく、彼の杖が輝く。彼はそれを見るや杖を振り抜き、星型の弾丸を撃ち放った。その狙いはラルバ……ではなく、バルタン星人だった。
「なっ……ガグァ⁉︎」
星型弾の切先が、バルタンの胸を突き破った。彼の体は宙を待って吹き飛び、近くの木に叩きつけられる。
「バルタン!」
「うら、ぎったな……?」
バルタンはジンを睨みつける。ジンは冷淡な目線は崩さず、しかしフッと笑って見せた。
「裏切ったとは、元から仲間だった者に対しての言葉でしょう。私は貴方の仲間ではありませんよ」
「なに……?」
やはりか、と、ラルバは心の中で思う。バルタンを騙し、ジンは彼を利用していたのだ。
「貴方は私の嘘に……容易く騙されてくれました。故に操るのがとても楽だった。レイオニクスとしての力は、非常に低かったので、使い物にはなりませんでしたがね」
「っ……」
「ですが、そこは私が補えばいい。私が欲しいのはあくまで……貴方のレイオニクスとしての力なのですから」
そう告げるや、ジンはカードを一枚杖に据えた。カードに描かれた名は“PEGILLA”。冷気を操る怪物の力が、杖に宿りてバルタンを襲う。
「っ、マグナカノン!」
それをラルバのマグナカノンが弾いた。炎のエネルギーと冷気のエネルギーはお互いを相殺しあい、そして消し飛ぶ。それが終わると同時に、ラルバはがくりと膝をついていた。
「ラルバ、どうした⁉︎」
「……マグナカノンを、撃ちすぎたようだ」
ラルバの額の緑の宝石、ビームランプが点滅を始める。それもまた、アースのカラータイマーと同じように、点滅することで危険を知らせるのだ。ジンはそれを見て「ほう」と笑った。
「貴方もやはり、ウルトラマンの一人ということですね。貴方のタイマーはそちらでしたか」
「……そういうことだ。っ、だが、まだ撃てるぞ!」
「その体たらくでよくほざきますね。では、第二打を!」
ジンは杖に、カードを二枚かざす。先ほどの“PEGILLA”に続き、“GIRADLLAS”と描かれたカード。どちらも氷の力を操る怪獣、ペギラとギラドラスの力を持つものだ。さらに威力を増した氷の一撃が、今度はラルバに襲いかかる。
「マグナカノンを……ぐっ」
L字に組んだ腕から、炎の光線を出す前に、彼は力尽き再び膝をついた。動けぬラルバに、肉体の芯までを凍てつかせる冷気が迫る。ラルバは少しでもダメージを減らそうと、体を丸めた。ラルバの体が、冷気によって一瞬で凍りつく。
だがその前に、バルタンが割って入り、彼を守った。バキッ、と氷が生まれ、バルタンの肉体を凍り付かせる。
「ガッ……ラル、バ……」
「バルタンッ⁉︎」
バルタンは何事かをラルバに伝えようとし、しかしその前に氷となった。氷像となった彼の体に、ジンは星型弾を放ち命中。像は粉々に砕け散った。
「きさ、ま……!」
「おやおや、あっけない幕切れですね……」
砕け散ったバルタンの体から、光が舞い散り。それがジンの杖に宿った。その杖からさらに青い光が生まれ、一つの形を形成する。バルタンが持っていたものと同じ、バトルナイザーであった。それと共に彼の手元には、一枚のカードが生まれるが、ジンはそれを投げ捨てた。
「このようなものはいりません、無価値もいいところです」
そのカードは、バルタン星人の力を宿すタロットカードだった。ラルバはそれと、氷の中で唯一残っていたブレスレットを、とっさに拾い上げる。
「……目的は達成しましたし、貴方も用済みなのですが。まぁ、このまま捨て置いていても、問題はないでしょう。あくまで今回の目的は、レイオニクスの力を手に入れることですから」
杖をトンと叩き、彼は呆然とした様子のラルバを、ニヤリと見る。彼は目の前で砕けた友人の死体を見て、何も反応ができない様子だった。
「あとはブラッドキングにお任せしましょう。秋空未来の遺した怪獣には、アレよりも強いものがまだ、この地に眠っていますからね」
そう告げるや、彼の体が虚空に消える。ラルバはそれに気がつけず、自らの体が人間の姿に戻っていることにも、気づいていなかった。
「丈さん!」
そんな彼を現実に引き戻したのは。彼を追って山の中まで来た、蓮の声だった。蓮は息を切らした様子で、しかしなんとか腕を上げて、丈の肩を掴む。
「バルタンの居場所がわかった途端、突然出ていって……見つかったんですか?」
「……ああ。だが、彼は」
丈は自らの手に眠る、一枚のカードを蓮に見せる。バルタン星人の描かれた、それ以外は何の変哲もないタロットカードだ。
「これが、どうしました?」
「……バルタンの魂はその中だ。奴を利用していた男に、肉体を破壊された」
「そんな! ……やはり、未来さんの名を騙る者が?」
「いや、どうやら少々違うらしい。俺はあの男を、杖の男を探さねばならない」
バルタンのカードを、丈は自らの胸に据える。最後に何も話せず、逝ってしまった友の名は、そういえばついぞ、聞くことができないでいた。
悲しむ間も無く彼は死んで、今その力のかけらだけが、手の中にあるのだ。
「……感傷に浸っている場合ではないな。行かねば……ぐっ⁉︎」
「丈さん!」
丈は膝をつき、倒れる。エネルギーを多く消費し、反動も多いマグナカノンを何度も撃ち、彼の体は疲弊していたのだ。今の彼は、もう動けそうにない。
「後は、星たちに任せましょう」
「……だが」
「……あの子は、やる時はやる子ですから」
そう、蓮が呟く瞬間。キィン、と、空から音が響いた。そちらに目を向ければ、幾つもの二つの機影が、空を飛んでいくのが見えた。アレは、確か地球防衛隊の。
「地球防衛隊の……ナイツの、戦略機体……」
銀色の機影は地球防衛隊に配備された、トライデントファイターと呼ばれる航空戦力である。その防衛隊、正式な名称をナイツと言うそこでは、主にこの武器の名を冠する機体が使用されている。そのうち、トライデントファイターは特に戦闘能力に特化した、特別性の機体だ。
「何故防衛隊が?」
「普段は星がすぐに倒してしまうので、彼らの出番はありませんでした。ですが、見ての通りガンQが今、苦戦しながら戦っていて、戦いが長引いています。恐らくそれを見て、トライデントを手配したのでしょう」
二つの銀影は宙を舞い、気付かれることなく戦う両者に迫っていく。二つの機体は備えられた銃口を構え、その内部に稲妻を宿し、解き放つ。それこそがトライデントファイターに内蔵された小型レールガン、“トールハンマー”であった。