「トライデントファイターだよ、兄さん」
「今頃来たかよ……おせーぞー!」
二機の攻撃が、ブラッドキングに命中したのを見て、星と白夜は彼らにヤジを飛ばした。ガンQは味方が来たのが嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛んで喜びを表現する。
が、それが命取りだった。トールハンマーを受けはしたが、対して怯んでもいないブラッドキングは、口に溜めた炎を放ち、ガンQを吹き飛ばしたのだ。
「キュウウゥゥ⁉︎」
吹き飛んだガンQの体が転がり、光に変わってカードに戻ってしまう。星の手元に飛んできたそのカードは、黒くなってしまっていた。
「ガンQ、もう一度……って、ダメか」
黒くなったカードは、どうやらもう使えないらしい。
……ラルバの現れる気配もない。彼がどうなっているかはわからないが、現れないのなら自分がやるしかない。
星は虚空に念じ、一つの人形を生み出した。ウルトラマンアースのスパークドールズ。それを手に取る。
「……やっぱり、兄さんがやるの?」
白夜はそう、兄に聞いた。星はうなづきつつ、答える。
「世の中、どーしてもやらねーといけねーことってあるしよ。今は味方もいる。なら負けはしねーさ! すぐ戻ってくるよ!」
「……じゃあ、約束だよ」
白夜は自分の小指を、差し出した。古風だし、子供っぽいな。そう思いつつも、星は彼女のその好意を受け止めて。小さな指を絡ませる。くるっと絡まったその指の間で、星と白夜は一つだけ約束をする。
「俺はしっかり戻ってくる。もちろん五体満足、無事で!」
「私は兄さんを信じる。兄さんがどんなに危なくても、大丈夫だって信じてる」
二人はその約束を交わして。星は指切りを解き、今度こそアースブレスレットに、スパークドールズを合わせた。星の体はみるみるうちに巨大化し、ウルトラマンアースに変わる。
赤と青の色を持つ大角の巨人は、すっと構えを取り、暴れるブラッドキングを見た。
「ガルッ……?」
小蝿の攻撃を鬱陶しいと思いつつ、空中に稲妻を放っていたブラッドキングは、その姿を見てニヤリと笑った。なんだ、つい先日叩きのめした相手ではないか。またやられに来たのか? と。
もちろん。秋空星にそんなつもりはないし、負ける気も毛頭ない。あるのは約束を守るという思いだけ。
「今度こそてめえをぶちのめしてやるからな……行くぞ!」
アースは構えるや、飛び出した。ブラッドキングはそれを、両腕を交差させ受け止めた。
〜○○○〜
受け止めたその両腕から、ブラッドキングは雷撃を放つ。アースはそれを飛び退いて避け、返しに火炎弾を両腕から放った。ウルトラファイヤーボールは、敵の体で爆ぜて炸裂し、ダメージを与える。
「グオォ!」
吠えると同時に両腕を構え、雷を放つブラッドキング。紫色のその雷を、アースは空中を飛びながら避けた。だが敵の方がアースを捉えるのが早い。アースは咄嗟に着地し、水を作り出し盾に変えた。それを高速で回転させ、雷を弾いて、敵に向けて投げつける!
「喰らえ!」
アクアサークルカッターは、ブラッドキングの胸を容易く切り裂いた。鮮血が舞い散る中、アースは敵に接近。その胸に蹴りを叩き込みふらつかせ、さらにホーンサンダーで空中に吹き飛ばした。
「グッ、ギイァ!」
「っし……どーだ!」
以前よりも、戦えている。アースが、星が強くなった……というより、敵の動きを見て学習することができたから、ここまで戦えているのだ。
ブラッドキングは剛力も持つが、しかし主な攻撃手段は口から吐く火炎と、両腕から放つ紫色の電撃。特に電撃は使う機会が多い。確かに便利なのだろうが、避けやすい攻撃でもある。
同じ攻撃ばかり多用する、他の技で戦うという能がないのか、それとも別か。おそらくその別の方……この怪獣もまた、何者かに操られているのだろう。
「このまま今度こそ倒して! お前のカードも手に入れて、元の姿に戻してやるからな!」
その様子をどこかから見る彼は、懐から二枚のカードを取り出していた。彼、ジンが取り出したのは、“AVORUS”と記されたカードと、“BANILLA”と記されたカード。
「このまま彼のレイオニクスの力も、いただきたいところですね……四体合体と行きましょうか」
欲張ってみようか。
星の杖に二枚のカードをかざすや、それらは光り輝いて空を飛び、ブラッドキングの方へと伸びていった。ブラッドキングの両の腕にそれぞれ、怪物の青い顔と赤い顔が現れる。それらは溶解液を吐き出す怪獣アボラス、そして火焔で焼き尽くす怪獣バニラの力が宿ったものだ。
ブラッドキングは溢れた力に苦しむかのように吠えながら、アースを睨みつけた。
「どうしたってんだ……⁉︎」
「怪獣の腕が、怪獣の顔に……兄さん!」
妹の叫びが聞こえるや、ブラッドキングは青の腕を星に向けた。パペット人形のように口が開き、溶解泡が解き放たれる。咄嗟に両腕をクロスしてガードするが。
「つあっ、がっ……⁉︎」
「ギイィ……!」
溶解泡とされる通り、アースの腕の表面が、ドロリと溶解した。焼け爛れた両腕を庇う星は、大きな隙を晒してしまう。ブラッドキングはバニラの腕を構え、火焔を撃ち放った。アースは全身に攻撃を喰らい、その場で膝をついてしまう。
「やめっ、からだがぁ……」
炎が止む頃には、アースのその全身は火傷に塗れ傷ついていた。胸に纏ったプロテクターも、その中央で輝くカラータイマーも溶けかけている。そのタイマーは高速で点滅を繰り返し、アースの体が限界であることを伝えていた。
「っ……兄さん! 一旦逃げて!」
「つっても、体がっ……」
変身を解除しようとしても、すでにエネルギーが足りず行動できない。ブラッドキングはそんな彼に、さらに溶解泡と火焔を浴びせかけていく。
「アギィッ……やめろっ、やめろぉ……!」
このままではなぶり殺しだ。再び、ウルトラマンアースの敗北が、この町の大地に再演されるのだ。
だれも望まぬその再公演を、特等席で見せられる妹は。もはや両手を合わせ、神に祈ることしかできなかった。
「もうやめて……兄さんを、兄さんを助けて……」
どれだけ叫べど、助けは来ない。兄はこのまま、骨となり物言わぬ骸と変わるのか。それを想像してしまうと、白夜の心がどんどん曇りに満ちていく。
「っ……」
助けてほしいと願えばいいのか。自分が助けに行かなくていいのか。出来ないと分かっているから、彼を助けに行くことができないのか。
「何の力もないもの……だから」
“ならば。力が欲しいか”と。そんな声が、どこからか聞こえた気がした。白夜は思わず、周囲を見回す。
「何の、だれの声……?」
“力が欲しくば授けよう。上手く使ってみせなさい”。それだけ、その誰かは告げた。瞬間、彼女の手に巻いたミサンガが、白く輝き形を変える。
「っ、何⁉︎」
止まった時の中で、変わったそれは橙色の筒だった。夕焼けの空のような美しい色合いのそれは、彼女を誘うように、底を照らす。白夜はそこに、己の右手を添えた。
「何が起こるの……いや」
何が起こるか分からずとも、きっとこれは私の力になってくれる。なら、今考えるべきは分からないことではなく、今自分のすべきこと。
「力を貸して、お願い……!」
筒の底はボタン式、カチリと押せば光が溢れる。それらは帯となって輝き、白夜の全身に浸透していく。まるで、リボンのように。
体は瞬時に白く輝き、さらに赤い光のリボンが巻かれ、アースと似た形の線を描く。髪も輝くや伸び、短髪のボブカットからウェーブのかかる長髪に変わった。前髪の方には、白い冠のようなカチューシャと、胸に輝く青い宝石。
体は、瞬時に巨大化する。四十メートル弱、と言ったところか。アースより数メートル小さいその背は、彼に対して妹と言った風貌。彼のように惑星の名で表すなら彼女は。
ムーン、であろうか。
《ムーンライズ》
《ウルトラガールムーン・ホワイト》
〜○○○〜
巨大化した彼女の、ミサンガから変わった筒。のちにムーンランサーと呼ばれるその武器から、光の槍が伸び、敵の両腕を切り裂いた。泡と炎が止み、アースは息も絶え絶えながら、自らを救った救世主の姿を見る。
その姿は一見、見知らぬものであるのだが。纏う雰囲気にどこか、見知ったものを感じた。
「白夜……お前、白夜か⁉︎」
「えっ、兄さん? あれ、兄さんが同じくらいに……あれ?」
白夜は自分の手足を見る。ウェーブのかかったロングヘアーも、肩の方から見ることができた。自分のものなのに自分のものでないように感じるそれら。頭には何やら、異物までくっついてるし、体は何だかスースーする。というかこの格好は。
「兄さん……わ、私、私!」
「ウルトラマンに、なってる、な?」
「そだね、そうだけどさ! ちょっとこれじゃ裸同然じゃない!」
「何言ってんだよお前、」
敵が怯んで動けていないのをいいことに、白夜は自分の格好を恥ずかしがってチラチラと見てしまう。星は咄嗟に起き上がり、その頭にデコピンをぶつけた。
「いたぁ!」
「っ、こちとら動けねーってのに、たくっ……」
「……動けてるじゃん、兄さん」
何を言うのだと思えば、確かに今動けていたではないか。身体中溶けてボロボロのはずなのに、なぜか。
見ればカラータイマーの点滅も収まり、色も赤から青に変わっていた。
「……そういえば、私が変身した時に光が溢れて」
「それが傷を癒してくれたのか? ……よくわかんないけど、すげえな、白夜!」
「すごい……うん、そうだね」
願った通りの力、かもしれない。兄と並び立ち戦えて、彼を支えられる力。それがこの、白い乙女の力なのかもしれない。
「兄さん、あと任せて!」
白夜はそう宣言するや、頭のティアラを手に取り、それを放り投げた。瞬間、ティアラは風を纏い鳥のように、立ち上がったばかりのブラッドキングの腹を切り破る。
「ギッ⁉︎」
「回復したんだ、任せるばっかにゃならねえぜ!」
星もまた飛び、ブラッドキングの腹を殴りつける。ブラッドキングは痛みに悶えながら後退し、反撃とばかりに口から炎を放とうとするが。
「せや!」
白夜のハイキックが命中し、顎を外した。さらに続け様のかかと落とし、頭部に唯一残っていた角が音を立てて吹き飛んでゆく。
「はやい……」
白夜の素早さに驚きながら、星はブラッドキングに拳を叩きつけた。ブラッドキングの体がさらに後退する。
敵との距離が空いたあたりで、星は落ち着いて息を吐き。彼の隣には、飛び回っていた白夜が着地していた。
「兄さん、光線でトドメ刺しちゃお」
「オッケー」
アースは両腕にエネルギーを溜め。それを左の手に集中していく。白夜もそれを見て、ムーンランサーのボタンを押し。光のエネルギーを右腕に集中させた。
鏡合わせのように二人は構えを取り。立ち上がる敵を前に、同時に光線を撃ち放つのだ。
「ストリウム……」
「……私は、スピニング……!」
竜巻のようにエネルギーが渦巻き、白夜の右手を包む。星の炎のようなエネルギーとは、対象的な、風のようなエネルギーであった。それらを二人は、拳を、手刀を重ねて突き出す!
「ナックル!」
「……シュートォ!」
二つの攻撃を重ねて。それが立ち上がったばかりのブラッドキングの胸を突き破った。光の螺旋は遥か空の方へと突き抜けていく。
貫かれたブラッドキングの体は、風船のように膨らみ、巨大化して破裂した。その体は粒子に変わって、四枚のカードに戻る。それがどこかへと飛んでいく前に。
「よいしょと」
白夜はそれらを、自分の手に収めた。四枚のカードは“RED KING”、“BLACK KING”。
そして“AVORUS”、“VANILLA”。先ほど撃破した怪獣のカードが一枚出てくるものと思ったのだが、どうやらそれは違うらしかった。
「兄さん、これ」
白夜はなんとか確保したカードを、星に見せようとする。が、星はそれを遮り、自分の胸と白夜の胸を指した。カラータイマーが赤に変わって点滅していた。
「どっちも疲れてんだ。もどろーぜ?」
「……うん、そうだね」
そう告げて、二人の体が光に変わって溶けていく。いつしか夕焼けに包まれつつあった光ヶ丘の町並みから、二つの巨影は煌めきに包まれ消えていた。
それを、どこかから見ながら。ジンは自分の手に残ったバトルナイザーを、自然と摩っていた。流石に欲張りすぎたなと反省しつつ、しかし新たな発見が得られたことを、喜ぶ。
「やはりまだ、力は残していたか……ウルトラヘカーテ」
かつての宿敵の名を呼んで。彼は微かに笑いながら、どこかへと姿を消していく。夜の闇に溶ける彼の姿を、それから見たものはいなかった。