ウルトラマンアース   作:アカイタマ

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赤きキョジン①

 そんな夢を見た。朝っぱらから変な夢だと。秋空(しょう)は、そう思う。黒毛の寝癖と、緑色の目をどちらもちょんちょんとかきながら、夢のことを考えていた。目の前の朝食の出来の良さと美味さよりも、そっちの方がずっと頭を支配している。

 

「あのさ、兄さん」

「あん?」

「美味しいのかって、さっきからずっと聞いてるんだけど?」

 

 見かねた妹、秋空白夜(びゃくや)が、星にそう告げる。彼女は栗色の髪の毛を、料理のためにポニーテールの形にまとめ、エプロン姿でご飯を星に持ってきていた。

 星は「美味しい美味しい」と心にもなさそうなことを言う。白夜は彼のその態度に怒った。

 

「ああもう! 朝からずっとボケーっとしてさ! 兄さん今日おかしいよ!」

「ん……あ、ごめんな、白夜」

「たく。何考え事してるの、兄さん。心ここに在らずっていう感じだよ?」

 

 星は「そうか?」と首を傾げる。白夜はそれに「そうだよ」と告げた。星は自分でもよくわかっていなかったようだ。

 

「んまぁ、なんだ。今朝の夢のこと考えてたのさ」

「夢? なんだ、ロマンチストじゃん兄さん」

「んなわけあるかよ。変な夢見たんでさ、そのことで悩んでたんだ。なんか鮮明に覚えてるんだよな」

「それどんな夢だったの?」

 

 白夜のその問いに、星は「聞きたいのか?」と尋ねる。白夜はこくんとうなづいた。

 

「別に面白えもんでもねえんだが。変な、なんかヒーローみてえなカッコのやつが、化け物と戦って、その……相打ちになって死んじまう、そんな夢を見たんだよ」

 

 星は簡潔に、その夢の内容を話した。

 白夜はそれを聞いて思った。ヒーローの夢を見るとは、兄さんも子供なところがあるのだな、と。

 

「どんなヒーローだったの?」

「あー……ほら、昔やってたやつ。ミラクルマンだっけか、あれみたいに肌が銀色で目が金ピカで……」

「なっつかしいねぇそれ。兄さん夢中だったやつじゃん」

「ミラクルマンアースとかだっけか。あれカッコよかったよな……って違う!」

 

 話が、逸れた。星は慌てて話の線を戻す。

 

「ヒーローがどうとかじゃなくて、俺そんな夢を最近ずっと見てんだよ! なんか見た後は頭痛くなるし、平衡感覚がわからなくなるっつーか……」

「ふぅん……」

 

 どうやら結構深刻なようだ。白夜は野菜ジュースをストローで吸いながらそう思った。そういえば、おとといとか先週の金曜とかも、兄はこんな感じでぼうっとしていたか。なんだか心配になってくる、病院に連れてったほうがいいんじゃないか。

 そんなことを考えていた時、テレビのニュースの音が聞こえてきた。星が音声を上げたらしい。

 

「なんで急に音上げたの?」

「ほら見ろ、近くに怪獣出たってさ」

 

 星はテレビに指をさす。テレビでは、カマキリのような生き物が、街の中で暴れている様子が写っていた。カマキリと言えどその全長は、見かけだけでも何十メートルもある。テレビのアナウンサーの紹介では、死骸は約五十メートルに達し、腕の鎌は刃渡り二十メートルという、破格の巨大さだったとか。

 

「うっわ、怖いね……」

「あんなんで切られたら、ひとたまりもないだろうな。……防衛隊の戦闘機も、いくつか堕とされてるみたいだ」

「怪獣災害、最近多くなってきたし、こっちにも来そうだよね」

 

 怪獣災害。それら怪獣と呼ばれる超巨大生物によって引き起こされる、大災害の総称である。怪獣とは、遥か古来よりこの世界に現れる巨大な生き物の総称で、四十メートルよりも巨大なものが大多数を占める。その巨体と人智を超えた能力により、生態系の頂点に君臨し、文明を発達させた人類の科学をもってしても根絶不可能、一匹に総出で対処をするのが限界という、恐るべき存在たち。

 人類はその存在に脅かされており、秋空兄妹と彼らの住む、この光ヶ丘の人間たちも例外ではなかった。光ヶ丘は他の地域と比べても特に、怪獣の発見例が多く確認される地域なのだ。

 

「昨日現れて倒されたなら、次は当分現れないって思いたいがなぁ」

「またどうせすぐ出てくるよ、やんなっちゃうなぁ」

 

 怪獣災害によって現れる怪獣たちは、数日おきに何度も出現する。世界各国どこにでも、それらを撃破し一般人に損害を出さぬよう努める、防衛隊も存在している。

 だが、そんな彼らがいても、現れ続ける怪獣全てに対処するのは難しいようで。都市部などでは今も、被害が増加しているらしい。

 

「今日も現れないといいけど。兄さん、私ちょっと準備があるから、行くんなら先出ててね」

 

 白夜がそう言った。しかし星は、彼女がそんな準備が必要とは聞いていなかった。彼女は自分のこととなると、常に用意周到だからだ。

 

「なんかあんのか?」

「んー、まぁ色々と。兄さん、多分みんな待ってるから、さっさとねー」

「……りょーかい」

 

 答えてくれそうもない。星は鞄を持って、外に出た。玄関口までは白夜が来てくれる。学校に行く時なら一緒に行くのに、今日だけは珍しく見送りだった。

 

「兄さん、行ってらっしゃい。すぐ追いつくからね」

「ああ、行ってくる」

 

 そう言って星は自転車に跨り、駆け出した。

 今日は駅で、友人たちと待ち合わせだ。

 自転車に乗って住宅街の坂道を降りていく。降りて行った先は、店の立ち並ぶ商店街。光ヶ丘の中町という箇所。大きめに銀天街が中央にある。そこを超えておけば、目的地の駅に着く。

 一旦自転車を降りて、それを転がしていく。すると一人、友人が歩いているのを見かけ、星は彼女に声をかけた。

 

「お、蓮! おはよー」

「星。おはよう、早いわね」

 

 大和田(れん)、星の友人の少女だった。

 

「まーな。十時からだろ集合」

「そうよ。今八時くらいだけど、もしかして二時間くらい待つつもりなの?」

「ハァ? いや、九時とかそんなもんだろ。家の時計は九時だったし、こっちも」

 

 腕時計を見せる星。きっかり八時半を針で示すそれが、蓮の目に映る。蓮は自分の時計を、星に見せた。ほちらにもきっかり八時半。どうやら星の家の時計は狂っていたらしい。

 

「……時間確認せずきちゃったわけ」

「そゆことらしい。あーやらかした……てか白夜も多分勘違いしてるよなぁ」

「ああ。まあ、連絡しておいたら?」

「メール送っとく」

 

 星は携帯を取り出して、メールを彼女の携帯に送った。電話をすればいいのに、と蓮は思ったが。

 

「星、行きましょ。(ぜん)もそろそろくると思うから」

 

 蓮と連なって、星は歩いた。

 からからと自転車を引きながら、開き始めた商店街を見る。朝は、昼や夜来るよりも閑散としているな、と。星は思った。あまりこの時間帯には来ないからか、自然とそう思えた。

 と、背後から声が聞こえた。カンカン、とタイルの地面を鳴らす音がする。

 

「おーい、星!」

「星さーん!」

 

 赤めのワンピースを着た女の子が、星の背中にくっついた。星は転けて、自転車ごと倒れる。

 

極夜(きょくや)、何やってんの」

「い、勢い余ってこけちゃった……大丈夫です? 星さん」

「だ、大丈夫……ど、どいてもらえると助かるんだけど……」

 

 黒髪ロングヘアーの少女が、星の背中で聞くのに、星は衝撃に身を震わせながら答えた。極夜(キョクヤ)と呼ばれた彼女は、慌てて星の背中から離れる。その隣でメガネの、星と同じくらいの背丈の青年が笑っていた。

 

「よー星。大丈夫かーい?」

「大丈夫つってんだろ、然。極夜ちゃんは大丈夫か? 擦りむいてない?」

「大丈夫です!」

 

 霊島然(ゼン)と霊島極夜。星と白夜同様に、兄妹の二人。彼らは蓮も含め、星たちの幼馴染たちだった。彼らもまた早く出たのかと、星は疑問に思うのだった。

 

「なんか、これならもっと早く集まっても良かったかもな」

「そうね。白夜ちゃんもすぐ来るんでしょう? それなら、もっと早く集まっても良かったかしら」

 

 そう告げる蓮に、星は「そうだな」と笑って返す。四人はそれから、また連なって商店街を歩いていた。目的地はもちろん駅で、白夜を待ちながらゆっくりと、歩いているのだった。

 そういえば、と。星は白夜が今日、いつもより準備が遅れているのを思い出した。

 

「なぁ、白夜今日、準備遅かったんだよ。なんか、心当たりないか?」

「心当たり、ですか?」

 

 極夜がそう言うと、星はこくんとうなづく。極夜は、ふむ、と顎に手をちょんと当て、考える素振りを見せる。それから、ぽんと手を叩き、思い出して言った。

 

「もしかして、この間私が伝えた髪型に、変えてこようとしてるのかも」

「髪型? なんだそれ」

「えっと、ショートの子でもやりやすい、可愛い髪型があってですね! この間、今度のお買い物の時にこの髪型にしてみたらって、白夜ちゃんに言ったんですよ!」

「ほぉ」

「今日の時に試したらーって思って、教えたんです。お兄さんに可愛い髪型、見せてあげたらーって」

 

 可愛い髪型、か。妹のそれなら、ちょっとばかし気になるところだ。あいつは結構、顔の形も整っているから、なかなか似合いそうな気はする。そんなことを星はそらで思った。

 

「星、顔が緩んでるわよ」

「……そうか?」

 

 気づきもしなかったが。蓮はうなづきそう告げる。

 

「白夜ちゃんのこととなると、星は結構いい顔をするわよ。妹だからかしら?」

「そんなとこかもな」

 

 星は笑ってそう言った。

 そんなことを話しながら、星たちはてくてくと歩いていく。

 

 遥か空から小さな光が来て。それが、星の降りてきた丘の方に、やってきたことを知らずに。

 

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