「バルタン星の移民問題……やはり地球にも、何人か来るか」
霊島家の一室で、丈は蓮と共に何かを確認しながら、そう呟いていた。確認しているのは、バルタン星のデータ。
バルタン星は地球の時間で数十年前に消滅した星だ。バルタン星の女神が自らの力で惑星の一部をコロニーに変え、飛ばしたことで住民の一部は助かったが、全体人口の三分の二、バルタン星に住む生命体、そして女神は消滅に巻き込まれた。
消滅の原因は、現在この宇宙で使われている移動技術、“恒星間ワープ技術”の実験が失敗したことによるもの。当時まだ、しっかりと理論も確立されていなかったそれを、バルタン星のとある一派が完成させて、商品として売り出そうとしていたものが、暴走したのだ。
バルタン星は宇宙の地図から消え去り、そんな事件を起こしたことで、迫害の対象にもなりつつあった。それを、星間連合が重く見た結果、バルタン星人のイメージ復興と、彼らのこれからの行く末を、二年の歳月を掛けて、決定していた。その結果、残るバルタン星人を、宇宙各地に分散させることで決定したのだった。
「バルタン星人の総人口は現在二十億人ですからね。その人数をまとめて一つの惑星に置くことはできないと、連合参加惑星のほとんどから回答があったそうで。なので人数を分けて、各星に割り振るようです」
「まあ、地球もそうだが、異星人専用コロニーというのはどの星にも設営されている。大丈夫だろう」
そういえば、と丈は思い出し、蓮に尋ねる。
「バルタン星人の繭は、どうなるんだ? 確か今の、バルタン星人の“船”に、新しく生まれたのだろう?」
繭、というのは、バルタンという種族を生み出す核たるものだ。バルタンはエビのような出立と言ったが、その本質は地球の虫のようなものである。彼らの繁殖方法は、以下の通り。
一人の“クイーン”(かつては女神がそれにあたっていたらしい)がその身から、巨大な糸の塊、“繭”を用意する。これにメスの個体が、ヒューマノイドで言うところの卵子にあたるものを排出し、オスの個体が子種を排出することで子を作るのだ。
バルタン星人のメス個体は、努めて記すが哺乳生物ではなく、単独で子供を育てる能力を持たない。そのためクイーンが生み出す繭を盾の代わりにして、種族総出での子育てを行うというわけだ。
「新たな女神となった現在のクイーンが、どうやら星間連合に身を預けるそうです。以降バルタン星人の繁殖は、星間連合による保証がつく、とか」
「……ふむ。なかなか面倒な手続きを踏んだな」
「バルタン星人という種族を成り立たせるためには、致し方のないことですよ」
そういうものかと、丈は唸る。
「しかし女神が再び生まれるというのも、個人的には度し難いが」
「あら、これはわかりやすいことですよ?」
「そうなのか?」
複雑だというのは、蓮もわかっているらしい。彼女は「ある程度噛み砕いて説明する」と言ってから、解説を始めた。
「女神とは、文明の生まれた惑星が、その文明を生み出した種族を守護するために生み出す、ヒューマノイド型の生命体のことです。ヒューマノイド型ながら、各種族に似通った特徴も併せ持っていたり、その種族の繁栄に協力できる力を持っていたりするのです」
「だが、バルタンは惑星を失った。女神は例え死のうが、肉体が残っていれば復活する。それに、新たな誰かに力を受け継いだり、ヒューマノイドタイプ式の生殖によって成した子供に、力を受け継がせることもできる。だが、今回は女神ごと惑星は消滅しているんだが……」
「……ほんの少しだけ残っています。今のバルタン星の一部が変化したコロニー。それが、女神を生み出したのでしょう」
「……惑星の一部が、か?」
蓮はうなづく。彼女は自分が使っていたパソコンを、丈の方に向けた。書いてあるのは、最近生まれた女神についてのことらしい。
「ウルトラエーヴァ……は、従来の女神よりも能力が低いことが確認されている。だが、惑星間の守護においては戦力となり得る存在、か」
「コロニーが生み出したというのも、どうやら研究によれば正しいようで。論文もある程度上がっています。エーヴァさんはどうやら、世間的にも引っ張りだこのようですね」
女神というのはこの世界の守護神ではないのか……それじゃアイドルのようなものではないか。よく見れば蓮が見せた文章はゴシップ記事らしく、エーヴァとされる青髪の少女が、困りながらもドレスを着ている様子が映されていた。
女神を、なんだと思っているのか……。
「私たちの星のウルトラヘカーテが、あくまでこの星を守るのに徹しているのとは違って。惑星ごとに女神の理念も違うわけですよ。まぁ、我々の星はヘカーテが現れなくなってからすでに十五年経ちますし、他の星からどのように見られているのかわかりませんね」
蓮はお茶をついと飲みつつ、そう呟く。やはりこの世界、自分のいた宇宙とは違うなと思いながら、丈は記事をじっと見ていた。
「……女神というシンボルを自らの手で殺害した星は、迫害の対象になるか。この世界、女神を中心に回っているところも多いな」
「それがこの世界の特徴ですよ、丈さん。……まぁ、迫害の対象となるのは理由がありますが。だいたい女神を殺害した星というのは、他星の侵略を行おうとしているものが多いですし。そうでない星もそう思われることがあるんですよ。厄介なことに、ね」
関係のない他者によって迫害される、というのが強いらしい。そういうことであれば、バルタン星が迫害されたというのは、なかなかのとばっちりではないか。
「ままならないな、この世界は」
「そうですね……ところで、丈さん」
蓮は自分の方にパソコンを戻し、丈に話を切り出した。
「どうした?」
「この星の方に、貴方の友人だったバルタン星人の、ご家族の方が来られるそうで。その日に、この星の異星人コロニーに行ってみては?」
「コロニーに? いいのか?」
異星人コロニーは、この地球においては一般に秘匿されている場所だ。丈も一応、一般人で登録されているはずだが、行っていいのか?
「いいんです。私から話はつけておきますから。丈さん、ちゃんとお話ししてきてください」
「……ふむ」
丈は懐からカードを一枚取り出し、それを見る。友の姿が刀と共に記されたそれは、彼の力だけが結晶化したものだ。
ある意味で彼の形見のようなもの。それを彼の家族に返すためにも、一度は会っておくべきだろう。そう思い、丈は腹を決めた。
「わかった、行ってこよう。ありがとう、蓮くん」
「……いえ、どういたしまして」
蓮はわらって、そう告げた。日程を入れておかねばと、丈は携帯を取り出し、入力を開始するのだった。