嵐山丈は、皆に留守を伝えたのち。蓮に連れられ、地球防衛隊ナイツの基地に訪れていた。ここは成田空港近郊を立地とし、発着場を共有している。成田に行けば、ナイツの飛行機械が空を飛ぶ様を見ることもできるのだ。
丈はその空港から歩き、基地の中心となる場所へと行き。そこで手続きを済ませ、エレベーターに乗せられた。
「どこへ行くんだ、これは」
丈は蓮に、そう尋ねる。乗ったエレベーターは、ガコンと音を鳴らすや、凄まじい速度で降下して行った。地下に何か施設があるらしいのだが、丈にはそれがなんなのかわからない。蓮はクスリと笑って、それから答えた。
「コロニーですよ。この成田空港、ナイツ基地の地下は、異星人の居住区として設営された巨大コロニーがあるんです」
「異星人専用のコロニーが、地下にあるのか? 他の星では地表に現れているものもあったが……いや、そうか。そもそもこの星では秘匿されているんだったな」
「ええ。異星人の存在が公に秘匿されている以上、政府も連合も、他の星のようにコロニーを作るわけには行かなかったようで。地下に隔離する形で、かつ様々な事象に影響が出ないよう、防衛隊基地の地下に設立されているんです」
聞くところによれば、地球の他の国のナイツ基地にも、地下にコロニーが設営されているようだ。そのコロニー同士の行き来も、この地球で確立された、地球式ワープ技術のおかげで楽になっているのだとか。
「着きましたよ、丈さん」
ピンポン、と音が鳴ると、エレベーターのドアがゴゴゴ……とさらに音を立てて開いた。丈は蓮に言われるがまま、彼女と共に外へと出る。
目の前に広がるのは、様々な星の建造物が建ち並ぶ、ガラパゴス的な駅前の様子。丈たちが乗ってきたエレベーターは、このコロニーと別のコロニーを移動するためのワープ装置がある“駅”であった。
天井を見上げれば、ドーム状の青い空が広がっている。時間によって切り替わるらしく、巨大なデジタル、アナログ時計も同時に浮かんでいた。どちらも日本の現在時刻が明記されている。宇宙基準、世界基準の時間を示す時計もあった。
「……凄まじいな」
「ここは、様々な星の技術者が結集し作り上げた、最初のコロニーですからね。他の星、国とは違って、種族ごとに、異星人の住みやすい環境が整えられています」
この日本のコロニーは、地球で作られた中では三番目のコロニーだと言う。最初はアメリカ、次に中国。その次が日本だったのは、単純に宇宙人がよく来訪していたから、だとか。他に強大で、世界的な権威を持つ国はいくらでもあるが、その中で日本が選ばれたのには、そういう理由があった。
日本に宇宙人が来やすいのは、単純に住み良い環境が整っているからだとも言われている。四季折々の残る故に、うまく環境を整えればどこでも暮らせるのだとか。かつては富士火口や桜島火口があるからと言ってやって来た、地熱を主食とする宇宙人もいたのだとか。他の星の人間にとっては、日本というのはかなり魅力的に映る場所らしかった。
「北アメリカはイエローストーン公園なども、テンペラー星の方々を集めたと聞きます。ですが日本は温泉の宝庫でもありますし、そちらが好きで来るという方も多いようですね」
「日本は山脈を多く内包する火山帯の島でもあるからな。住み良い土地以前に、観光地として来ていた者が多かったわけか……」
「テンペラー、マグマ、ヒッポリト。バルタンはもとよりキュラソもでしょうか。我々としては光栄ですね」
いろんな星から、たかだか一つの島国が人気というのは、珍しいことだ。そんなことを、蓮は丈と連なって歩きながら、話していく。
目指す場所は決まっていた。そこは駅からそう遠いところでもないのだ。このコロニーではタクシーやバスなども運営されているが、それを引っ掛けるほどでもないと、二人とも思ったらしかった。
コロニー内の町を歩いてゆけば、周囲の人間が目につく。地球人と似た姿をした異星人、または全く違う姿をした異星人。エビのようだったり、イカのようだったり、はたまた狼や猫のよう、脳みそに手足が生えたようなものまでいた。この星の一般の人が見れば怪物に映るであろう彼らは、また宇宙に住む一般の市民たちであった。
「……ここか」
そうこうしている内に、二人は一つのアパートの前についていた。昆虫型宇宙人のために設営された、繭型の特殊なアパートだ。ここの一室に、丈の友人だったバルタン星人の親が住んでいるという。
「丈さん」
「わかった」
丈は戸をノックする。向こうから声が聞こえ、慌てた音と共に人が戸を開けた。
「どなたでしょう……あなたは?」
「嵐山丈、と申します。失礼、お名前を伺っても?」
「……イヨ、と申します」
目の前に現れたのは蝉型の宇宙人、しかし彼女は、バルタン星人ではない。目の前の女性はチルソニア遊星人という、バルタンとはまた別の、蝉型の宇宙人であった。
「丈様……お名前は伺っております。こちらに」
イヨと名乗った彼女は、丈と蓮を奥に案内した。中は旧日本家屋の内装のようで、その内畳で仕切られた部屋に、三人は入って行った。イヨは用意してあった席に二人を促し、自身もまた、席に付く。
「では……」
「どのような件でこちらへいらっしゃったのかも、既に。私の息子、アラシのことですね?」
アラシ。彼はそんな名前だったのか。丈はそれを聞き驚くも、顔には出さずうなづいた。
「貴方は、アラシのご友人……ですが、私は名前を聞くのは、つい先日のことでして」
「つい、先日? アラシは貴女に連絡は」
「とっていませんでした。彼は五年も前に、家を出てから連絡も取れませんでしたから」
彼は自分の理念に燃えていた。なればこそ、家族には迷惑をかけられないと思っていたのだろうか。家族との縁を切ってしまっていたようだ。
しかし気になる。このイヨという女性は、先ほども説いたようにチルソニア遊星人である。チルソニア遊星人とバルタン星人は、似ているようで別の種族だ。生殖の方法もまた、違うもの。ならば彼女は、アラシにとっては。
「私と亡くなった夫は、彼の実の親ではありませんから。彼は私たちを、親だと思ったことは一度もないと言っていましたね」
「……なるほど」
蓮が小さく、聞こえぬよう呟いた。
「あなた方……特に丈さんは、彼によくしてくれていたと、他の友人の皆様からお聞きしました」
「いえ。……特に、そんなことは」
「そうご謙遜なさらず。……丈さん、そういえばお渡ししたいと思っていたものが」
そう言うと彼女は立ち、近くの襖を開き。その中から取り出した、一つの剣を、彼に渡した。鞘におさまったその剣を、丈はしっかと受け取る。
「……これは」
「私の先祖が、かつて地球を訪れた時に打って頂いたという刀です。彼、アラシに受け継がれたもので。……彼の友人だった貴方に、この剣を受け継いでいただきたいと、思っていて……」
丈は受け取ったそれを、じっと見つめる。古来の日本の字で、文字が彫られているそれ。丈が読めば“糸繋”というようだ。
「丈さん。その刀を、糸繋を受け取っていただけますか?」
「いとつなぎ……か。貴女が、それで良いのなら」
イヨは「ええ」とうなづいた。思わぬものを、得たものだ。それからの話はすぐに終わり、丈と蓮はまた来るとイヨに告げ、元の道を辿って行った。
その道の間に、丈と蓮は先ほどの話を擦り合わせていく。まず、バルタン星人アラシについてのことだ。蓮は自分から話を切り出した。
「彼はどうやら、養子だったようですね。彼の遺伝子には、チルソニア遊星人のものはありませんでした。ですがご家族の方は、チルソニア遊星人、と」
そのチルソニア遊星人、イヨの夫は、チルソニア遊星公認のレイオニクスであったと調べがついている。だが、丈には悩むところがあった。
「……だが蓮。彼女の夫は、レイオニクスであったと聞いちが、アラシの遺伝子には」
「レイブラッドの物は見つからなかった……ですね。しかしレイブラッドの、レイオニクスの力はあった」
これはどういうことか。レイブラッドの力は、彼の血を引くものでないと扱えない。だが、バルタンには確かにレイオニクスの力があったのだ。この目で見て、確認している。そのことについて蓮は「仮説ですが」と前置きして、言葉を続けた。
「力は弱くとも、受け継げていたのでは?」
「受け継げていた……?」
「女神の力も似たようなもので。アレも次代に継承されるものです」
「……いや、アレは娘にしか受け継がれない。ならやはり」
「違いますよ。女神は自身が認めた相手に、力を全て渡すことで女神に変えることができるのです。または力をある程度だけ受け継がせて、眷属にすることもできますね」
……初耳ではないか? ならば、レイブラッドの血は女神のようなものだとでも言うのか。
「もしや、レイブラッドも女神だったのかもしれませんね」
「……ありえるわけないだろう、そんなこと」
「でしょうね、ふふ。でも、あのアラシという方に、力が受け継がれているということは。……彼はあの方や、旦那さんにとって、非常に大事な息子さんだったのでしょうね」
丈はその言葉を聞く側、自身の手の中の刀を見る。頂いてよいのかと、先ほどからずっと頭の中で反響させているが、受け取ったものならば、活かしていかなければならない。
「丈さん?」
「……いや」
「何もないわけではなさそうですが」
くすくすと笑う彼女に、丈はムッと眉を細める。
そういえば、母のことで思い出したが。蓮の家族はどうしているのか。星の家族のこと、また然たちの家族のことは聞いたが、蓮はそのあたりの素性を丈に話してくれてはいない。
「蓮、君の家族は、ここにはいないのか? 君はハーフなのだろう?」
丈は、そう蓮に問うた。蓮の言葉が一瞬つまり、彼女は丈をじっと見て。それから、その問いに答えた。
「……ええ。地球人とマグマ星人の。いますよ、ここに。父も母も。せっかくですし、挨拶に行きます?」
「挨拶に?」
「ええ。せっかくのデートですから」
「……君はいつでも、冗談ばかり言うな」
蓮はそう言われて尚、くすくすと笑っていた。やはりどこか飄々としていて、捉えどころのない子だと、丈は思うのだった。
〜○○○〜
さても丈たちがやってきたのは。暗い雰囲気を伴う、石の立ち並ぶ空間。そこはこの星で亡くなった異星人を弔うための、墓地であった。
郷に入っては郷に従えと言い、この星の、特にこの日本の様式に合わせて作られたその墓地には、多くの宇宙人が埋葬されていて。その一つに、“大和田”と書かれた墓が一つあった。
「……父さん、母さん。ただいま」
蓮は丈を伴い、そこに手を合わせる。丈が添えた花が、風によって凛と揺れる。
ここまでの間に聞いた話によれば。蓮の家族はすでに亡くなっているのだという。蓮は手を合わせるのを終え、丈に語りかける。
「丈さん、ありがとうございます」
「……蓮、君の家族は、どうして」
「亡くなったんですよ。この仮面は形見なんです」
丈に自分の仮面を見せながら、蓮は微笑む。
「……私の父と母は、私と同じ密偵員で。私の密偵員と言うルーツは、家族にあるのです」
「密偵員の家系だったのか?」
「ええ。私の母、マグマ星人だった母が」
その仮面は女性用、彼女の母の形見なのか。それを、自分に言っていいのかと、丈は思った。
「蓮、この話は」
「いいのです。丈さん、私は貴方を信頼していますから」
「然君たちには言ったのか」
蓮の足が止まった。彼女は振り向き、笑いながら丈に言う。
「言って、どうします? あの子たちも協力してくれているとは言え、しかしその実普通の子供なんですよ。私とは、違うんです」
「……彼らの父母は、怪獣災害で亡くなったと聞くが」
それの何が、関係あるのか。
「それでも彼らには関係ありません! あの子達は、私とは違うんです。例え、あの人たちがあの子たちに、私のことを任せたなんて……そんな嘘を言ったところで……」
「なるほどな」
「……っ⁉︎」
自分の悪い癖だ、いらないことを口走ってしまうのは。丈は蓮に近づいて、彼女の肩をトンと叩く。
「君にとって彼らは大切な存在なのか。……最初の嘘つきというのも、そういう意味か」
つまり、彼女は然たちも騙しているのだ。彼女がマグマ星人のハーフであること、父母が亡くなっていることを。父母が亡くなっていることについては、騙し通せてはいなさそうだが。
彼女の話を聞く限り、彼女が密偵となった理由を知ったのは、彼女の父母が亡くなる寸前、然か極夜に話されたからだろう。
「……もちろん君のことは誰にも言わないつもりだ。君にはよくしてもらっていたからな」
「……はい」
「だが、いつか嘘は言ったほうがいい。君たちのためにはならない。君たちが真にその嘘を明かすまでは、私は黙っていよう」
「お願い、します……」
蓮がわざわざ連れてきたのは、自分を信頼しているためか。丈はそんな彼女に、クスリと笑いをこぼしながら、トントンと頭を撫でた。