今日も今日とて特訓中。白夜と共に星は、山中の特訓場にいた。ストリウムシュートを発展させたストリウムナックルをさらに強化するための特訓と。白夜がしっかりと戦えるように、技を身につけようとしているのだが。
「……参考になる人、いないし」
白夜は今、一人で修練に励んでいた。ぼやきはそんな時に出たもので。
参考になる人がいないと言ったが、では兄はどうなのか。
星は一言で言えば参考になるところはない。彼の戦い方は単純で、丈からほんの少しだけ防御の方法を学んだくらいしか、武術と言えるものを学んでいない。つまるところほとんど素人なのだ。とはいえ喧嘩術、彼が戦うに連れ身につけた技は、使えるところもあるだろう。そこは学べるところなのか。
対する白夜は、“格闘戦においては”素人であった。ただし彼女は、自身の所属する部活のおかげで、ある技を習得できている。
「っと、せや!」
白夜が振るうのは、薙刀。中学の一年ごろより身につけた薙刀術。光ヶ丘中学校には、珍しい薙刀部があるのだ。部長から学んだ技を、今ここで活かしているというわけだ。
ムーンランサーから光の刃を生み出せば、まるで剣のようにも槍のようにもなれる。ランサーの通り、槍のようになるのなら、薙刀術も応用できる。
愛用の薙刀で風を切り、吊り下げた的を叩き切る。この技だけならば、兄貴以上であるか。とはいえ兄貴は喧嘩には強い、はず。それに実戦で、この薙刀術ばかりが通用するわけでもなさそうであるし。
そう、通用しないはず。だから兄に教わりたい。のだが。
「兄さん、ガンQ落ち着い……てないね」
「助けてくれよ白夜ぁ……」
星の周りには、先ほどからガンQが現れていた。ガンQは目を瞑りながら、必死に星に、ぎゅうと抱きついている。
「きゅう……」
「怪我したのは大丈夫だからよ……気をつけるからさ、離れてくれよぉ」
「きゅうぅ!」
星はさっき腕を怪我したのだ。原因は光線の暴発によるもの。ストリウムナックルを強化しようと、技の改造を行っていたのだが……エネルギーを腕に溜めすぎたためか、腕が爆発したのだ。
変身が解除され、腕は黒焦げで湯気を立てていた。そんな星を見て、ガンQは慌ててなのか怪獣カードから無理やり実体化、星を介抱し始めたのだ。
「ガンQは過保護だね。兄さんは大丈夫だよ、ガンQ」
「きゅっ……きゅきゅぅ!」
ガンQは白夜に抗議するように、手を振りしかめっ面をする。彼(もしかしたら彼女かもしれないが)は、言葉を喋れないのでこうして、身振り手振りで会話するしかないのだが、その手も触手のようであるため、どんなことを言いたいのかはちょっとよくわからなかった。
「きゅきゅ」
「……ごめん、それはなんて言いたいのかわかっちゃった」
ガンQは星が心配なようだ。それだけは伝わってくる。必死に彼を抱きしめる様は、まるで、幼い子供を心配する母親のようにも見えた。
彼と呼称したが、白夜にはガンQが、女の子のように思えた。声色が高い故か、それとも身振りが可愛い故か。どちらにせよ、彼女と呼称するのがよさそうな気がする。
彼女……と呼ぶとなんだか。そう、妹ができたみたいだ。
「ガンQ、兄さん困ってるから、ちょっとだけ離れてねー」
「きゅ」
「大丈夫大丈夫。兄さんの腕の傷も、火傷みたいなものだしさ」
白夜は言って、星の腕を取る。傷ついた彼の腕に対して、自分のエネルギーを移動させ、壊れた細胞等を復活させ。そうすることで、火傷まみれの星の腕は、元の姿を取り戻した。
「……これでよし、と」
「おお! ありがとな白夜……って、これできるならさっきやってもらえりゃよかったな……」
「さっき考えたばっかりなんだから無茶言わないでよ」
ポンと星の腕を叩き、そう言う白夜。
「私の中の光が溢れたら、兄さん回復したでしょ? だったら、体を触れ合わせて傷を回復させるとか……できるかなって思ってさ。兄さんの体はそんな私の実験場になったと言うわけで」
「……なーんかお前のいいようにされてるみたいでやーだな」
「きゅきゅ」
「……兄さんもガンQも、なんでそんな顔するの」
二人ともジト目で白夜を見ていた。白夜はまた大きなため息をついて、変身を解き、普段の姿に戻る。
「治したんだからいーでしょ。それよりさ兄さん」
「ん?」
「姉さん明日の何時ごろ帰ってくるか、わかる?」
「あー」
そういえば、秋空黒江がそろそろ帰ってくる頃か。すでに六日経ち、帰ってくると言っていた日付は明日。白夜は何か準備をしたいらしい。
星は携帯を見て、確認した時間を白夜に告げた。
「明日の……えーっと、十時くらいか」
「十時かぁ。なら、そろそろ帰って準備しないと」
白夜は言うや、星の手をとった。
「行こ、兄さん。ガンQも……っと、カードに戻ってね」
「きゅー」
ガンQはカードの姿に戻り、白夜の手の中におさまった。それを、白夜は星に手渡す。
ガンQは星にも、白夜にも懐いている様子だった。どちらの方が程度が大きいかと問われれば、白夜の方に、であろうか。
〜○○○〜
地面が揺れて、警報が響き始めたのはその時だった。
「兄さん!」
白夜が星を呼び止めるよりも早く、彼はアースブレスレットに手を触れていた。呼び出した人形を素早くプレスに当てがい、変身。ウルトラマンアースへと、その姿を変える。
《ウルトライブ》
《ウルトラマンアース》
「ちょっ! あーもう、また勝手にぃ!」
飛び出した兄に文句を言いつつ、白夜もまたムーンランサーを操作する。ランサーのボタンを押し、光を溢れさせ身に纏い、姿を変えるのだ。
《ムーンライズ》
《ウルトラガールムーン・ホワイト》
巨大化した二つの巨人は、現れた怪物を凝視……しようとして、それがその場にいないことに気がついた。
「あれ?」
「……いない、どこなの?」
そういえば、警報の放送はなんと言っていたのか。ちょうど流れている部分に、二人は耳を澄ましてみる。
『光ヶ丘上空に怪獣出現。市街地の皆様は、速やかに避難を』
「空だな!」
言うが早いか星は飛んだ。文字通り、空へと舞い上がっていった。白夜は目を丸くして驚き、声をあげてしまう。
「飛べるの⁉︎ あ、ちょっと待ってよ!」
白夜は、星を追いかけて自分も空へ飛んだ。後に聞けば、ウルトラと名のつく戦士たちは、皆一様に空を飛べるのだとか。それを先に教えてくれと、後に教えてくれた丈に二人は言ったのだが。
さても飛び上がり、光ヶ丘より遥か高空の、雲よりも高い位置へとやってきた二人。白い雲に閉ざされた絶海とも言えるか、そのような空間で、怪獣の存在を探る。
「どこにいやがんだ」
「何も見えない、けど」
いや。白夜はその目に、空の向こうに飛ぶ影を見た。夕日に向かう町を背に飛ぶあれは、銀色の体色の、小さな体躯の。鳥のような、怪獣であった。夕日に照らされ赤くなる彼の名を、人は“天色怪鳥ゲルシェール”と呼んだ。
「綺麗……」
「言ってる場合か! こっち来るぞ!」
銀の怪鳥は火の鳥のように、二つの巨人に迫りゆく。二人は咄嗟に構えを取り、いつでも攻撃を受けられるよう体制を整えるが。
ゲルシェールは二人の間を通りぬけ、空の向こうへと飛んでいった。
「え?」
アースが首を傾げた直後。二人の体が火に焼かれた。
「おわぁー⁉︎」
「あつっ、なにぃ⁉︎」
突然の爆発と熱のような痛みに吹き飛ばされ、アースとムーンは空中を転がる。その攻撃を行った何者かを、星は目に捉えていた。高速で飛行する怪鳥だ。
しかし、その両手の鎌によって、色は違えどカマキリのようにも見える。その怪獣は、その姿に準えて竜と呼ばれる、“超古代竜メルバ”である。
「キイイイィィィ」
黒板消しを爪で引っ掻く様を思わせる、奇怪な鳴き声はメルバによる威嚇のサイン。アースとムーンが咄嗟に耳に手を当てた瞬間、奴はさらに二人に接近し、まとめて彼らを切り裂いた。
「うあぁ⁉︎」
「くあっ……っ、てめぇ!」
逃がさない、とばかりに星は、角から雷を放つ。天の雲を刺激し、威力を増した雷鳴は、メルバを狙うが全く届かない。あの怪獣はどうやら、雷が届く前に、どこに攻撃が来るかを察知し、回避を行なっているようだった。
「なんつー速さだよ……!」
「だったら!」
スピードには自慢がある。ムーンは空を蹴り空をゆく。できるのは直進だけ、方向転換は無理矢理に光線を放って行った。つまるところ、弱めに調整したスピニングシュートで空中を制御し、メルバへと迫ったのだ。
メルバもこれには驚き、なんとか白夜を交わそうとするが、彼女は次第に的確に、メルバに追いつき。そしてついに、その翼に一太刀を叩きつけた。
「キョエ⁉︎」
「さっきのお返し!」
メルバの腹が貫かれ、奴は白夜から逃げるように離れる。その様子や、先ほどこちらを通り抜けていった怪獣の存在を見て。白夜と星は、ある考えに至っていた。
「あの怪獣……白夜、ちょっとここ頼めるか⁉︎」
「えっ……う、うん!」
星は「ありがとう!」と告げ、宙域から離れた。白夜は正直、心細さを感じながらも、剣を構えてメルバを見やる。メルバはかちりと刃を鳴らしながら、ムーンに向けて飛び、連続で攻撃を放った。
「このぉ!」
それを受け、剣を振るって打ち返す。二つの刃のぶつかりは、そこだけでは終わりそうになかった。
その間、星は空を飛び、先ほどの怪獣を追っていた。あれがあの怪獣に襲われて、それから逃げ出してここまでやってきたのなら、なだめて落ち着かせた方が賢明だと考えたのだ。
あのスピードなら、動くだけで街々に被害を出しかねない。それを宥めて止められるのなら、それが最善だ。
「つっても、どこに……」
この大空の上では、なかなか見つけることができない。隠れられる雲もあれば、そもそもが広大な空間のため、どこにいるかもわからない。
それに空は、赤の色から段々と、暗闇に包まれていっている。
頼りの月も、今日は新月で休んでいる。どうにかして探したいところだが、これでは到底見つかりそうもない。
「……いや、そうだな」
アースは一つ、考えを得た。自身の体には、光を血のように流した、流体状のエネルギーが存在する、らしい。それを用いて、自身の体を強く発光させるのだ。
アースを中心に放たれた光が、周囲の雲をも切り裂いていく。と、その雲の中から、銀色の影が慌てて飛び出していた。アースの放った光に照らされたそれこそ、先ほどの怪鳥ゲルシュールだ。
「いた! おーい、こっちだ!」
星はゲルシュールに向かって、精一杯の声をかける。パニックのゲルシュールは、しかし星の方へと向かい、彼の腹にドンとぶつかった。
「ぐぇ……っ、やんちゃつーか、怖がりだなお前……」
ゲルシュールはその声を聞いて、パッと顔を星に向けた。次いで、彼は驚いたように声を上げ、アースの手を両翼で取った。
「キュエ、キュオゥ!」
「……あら? なんか懐かれてる?」
そう口にするや、アースのカラータイマーからカードが一枚飛び出た。ガンQのカードだ。そのカードが小さな姿のガンQに、突然変わったので、アースはそれを慌ててキャッチした。
「危ねえだろガンQ!」
「キュキュ……キュイ、キュルルィ!」
謝りつつ、ガンQはゲルシュールに挨拶を交わす。ゲルシュールもそれに応えるように、頭を下げた。
知り合い、のようだ。ということはこのゲルシュールは、星の父親がらみの怪獣か。
「お前も、俺の父さんの怪獣だったのか?」
父のバトルナイザーに入っていたガンQが知っていると言うことは、そういうことなのだろう。そしてゲルシュールも、こくんとうなづいて答えてくれた。
彼はアースに、自身の手を渡す。星はそれを受け取って、握った。
「キュエオゥ」
瞬間、彼の体は光と共に瞬き、粒子となってカードに変わり。アースの手の中におさまった。“GLARCIEL”と、書かれたそのカードには、今までのカード同様未来のローマ字名が書かれており。さらに、追記なのか小さく“ゲルシェール”と書かれていた。読みにくい怪獣たちの名前の、唯一の読み仮名だった。
「ゲルシェールか……っし、よろしくな、ゲルシェール! ……で、早速でわりーけど」
いざいざ! と、星はゲルシェールのカードをブレスレットに当てがった。が、ゲルシェールは実体化しない、音も鳴らなかった。
「って、あいつに追いかけ回されてたんだから、そりゃ嫌だよな。つっても、俺のスピードじゃあいつには追いつけないし……」
ゲルシェールは頼りになると思ったのだが、メルバ相手には弱そうだ。残る五体は飛行能力を持ち得ない、この空中のエアバトルを制御できるのは、妹のムーンのみ。とはいえ彼女に任せっきりというのは、兄貴としてやるせないものだ。
「どーにか良い方法はねーのかぁ?」
アースのまま、星はゲルシェールのカードを見やった。