その光は、彼らの預かり知らぬところではあるが、秋空家の邸宅に侵入し……神棚の中に入り込んだ。その瞬間。
家を出ようとしていた秋空白夜の体を吹き飛ばし、その光はあるものを実体化させた。それによる爆発で地面が大きく揺るがされる。
突如として起こる地面の揺れに、星たちは一斉に体を屈める。何が起こったのだ。そう思い、星だけが顔を上に上げると、巨大な目玉が目に映った。爆発の中に、その目が光っていて。それがぐにゃりと曲がって、笑った。
「かい、じゅう……⁉︎」
怪獣の中でも、あまりに気持ちの悪い姿。怪獣は「ギィ」と鉄を切り裂いたような轟音を鳴らし、爆炎の中から現れた。怪獣どころか奇獣とも言えるその出立に、星だけでなく周りの人々も恐怖を示す。
『怪獣警報発令。多々良山近辺に怪獣が出現しました。屋外の方々は、お近くのシェルター入り口までお急ぎください。繰り返します』
不意に聞こえるその音声に、気づいていない人たちも怪獣の出現を感じたようだ。波紋のように、恐怖が広がって行く。
「うわっ、あ……⁉︎」
「怪獣だぁ!」
最初に逃げろと言ったのは誰だったか。ともかく皆、その言葉に乗せられて一目散に駆け出していった。然たちもまた、逃げ出そうとするが、ただ一人星だけが動かない。
そんな星の背を、蓮が引っ叩いた。
「何してるの! 早く行くわよ!」
「いやっ……あそこって……俺の、うちの」
星は辿々しく、そう言葉を発する。「俺のうちの」と、その言葉を聞いて、蓮たちはハッとして声を上げた。極夜が、彼らを代弁して声を上げる。
「白夜ちゃんが、まだあっちに……」
その言葉を聞いた瞬間、星は自転車に乗り、駆け出していた。その様子に呆気に取られ、蓮たちは動くのを忘れたが、然が真っ先に駆け出した。
「星! 待ってよ!」
星は聞く耳を持たず、自転車を走らせていく。急な斜面さえもそれで無理矢理超えて、家の方まで直走る。家の方、つまり丘の上のその場は、怪獣の出現位置に非常に近かった。だからだろうか、星がついた頃にはその一帯は火の手が走り、ボロボロになっていた。
それらを見て、妹が生きていることを祈りながら、自分の家の方へ。
家は内側から破裂したように、炎を発して燃えていた。すぐそばには怪獣がいるが、星には気づいていないようだった。
「白夜、白夜! ……あっ!」
玄関から少し離れた、近くの塀に、白夜の倒れ込んでいる姿を星は見た。頭から血を流し、右の腕と左の足が酷い方向に曲がっている。生きているとは、到底思えないようなその惨状。
だが彼女の胸に手を当てれば、心音が聞こえ息を吐いているのも確認できた。だがこのままでは死んでしまうのは明白だ。星は彼女を背に抱え、走ろうとする。
それに気づいた怪獣は、目から紫の光を発した。その光が家屋を、公園を吹き飛ばしていく。星はなんとか走ってそれを掻い潜るが、途中で瓦礫に足を取られ、倒れてしまった。
「白、夜……うぐっ……」
目の前で倒れる妹に、星は覆い被さる。すぐに次の攻撃が来てしまう。
怪獣は星たちを見て、紫の光を目に溜めて……それを撃ち放った。
それが、兄妹を包み込む寸前で。赤い光が彼らを、守るように立ちはだかった。
爆発の音が響くのを聞いて、星は空を見上げる。そこには赤い色の巨人が、彼らを守るように立っていた。
「赤い……巨人?」
瓦礫と化した、町の中。巨大な赤色の勇姿が、星たちを守っていた。黄金色の瞳で彼らを見つめる巨人は、逃げろ、と二人に促すかのように、何らかの音を発する。
「っ、わかった! しょっ、とぉ……逃げるぞ!」
血を流す白夜にそう伝え、星は彼女を抱えて駆け出す。巨人はそれを見届けるや、大きくうなづき立ち上がった。
〜○○○〜
「奇獣ガンQ……パートナーとなる人間は、いないのか?」
暴れる怪獣、ガンQの行動には指向性が見られない。ガンQはただただ、何かの力に引っ張られるようにして暴走しているのだ。
巨人、ウルトラマンラルバは、彼を止めるべく構えを取った。ガンQは目の前の巨人を敵と判断したのか、顔を変形させ睨みを効かせる。だがウルトラマンも、顔の形を変え敵を睨みつけた。
「ギィ……」
ガンQの方が怯んだ。ウルトラマンはその隙に、額からのレーザーでガンQを攻撃する。ガンQはそれを受け、吹き飛びながら動きを止めた。
「ジェア!」
ラルバは接近、ガンQをすれ違いざまに転倒させる。そこから更に、彼の足を掴み、ジャイアントスイングの要領で投げ飛ばした。ガンQは倒れ伏すが、立ち上がってラルバを睨む。
「ギイィ!」
「ジェア……シェアァッ!」
右手のブレスレットに頼ろうとした時。そのブレスレットがないことに気づくラルバ。先ほどの戦いの時、おそらくブレスレットはバルタンの手元に。
仕方あるまいと、ラルバは頭部のトサカに手を当て、それを取るや投げ飛ばした。それはトサカ型のブーメランなのだ。ブーメランはガンQの命中し、彼を吹き飛ばしてしまう。
ブーメランが頭部に戻った瞬間、ラルバは両腕をL字に組んだ。光のエネルギーをそこから撃ち放ち、ガンQに命中させると、ガンQは内側から膨張して爆発した。
「……よし」
ガンQが粉砕された位置はクレーターとなった。そこを、何かを探すように見つめるラルバ。だが目当てのものは見つからなかったらしい。
「バトルナイザーがどこにもない。どこかに飛んでしまったのか? それとも……」
考えている暇はない。そのバトルナイザーを回収しなくてはならないのだ。
ウルトラマンは体を縮小させ、人間と同じ姿に変わった。赤い髪のメガネをかけた青年になったのだ。彼は瓦礫と化した秋空家邸宅に入ろうとする。だが、そこで声が聞こえた。
「白夜! 白夜、おい! しっかりしろよ!」
その声は先ほど助けた青年の声だった。鬼気迫るその表情に、ラルバはすぐさま走ってゆく。青年が、少女の胸の上で何度も手を押している。彼は倒れた少女を必死で介抱しているようだった。
「死ぬな、おい! 死ぬなよ、白夜ァ!」
死にかけの彼女を何度も、何度も助けようとする彼。ラルバはその姿を影から見ながら、彼に何かを重ねているようだった。
「……シェア」
ラルバは一瞬姿を変え、額から光を放つ。桃色のその優しい光は、死の淵に瀕した少女の体を満たし、癒した。少年が無理矢理治した腕や足も、中身の骨を修復し、そして穴の空いた内臓も塞いでいく。
その光が彼女に浸透した直後、秋空白夜は息を吹き返していた。
「……えほっ、けほっ……にい、さん……?」
「っ、白夜! よかった、生き返った……!」
息を吹き返した白夜を、ぎゅっと抱きしめる星。白夜は驚くが、状況がわかってか、彼の体を抱きしめ返す。
「……あの少年は」
そんな二人を見ながら、ラルバは星の方をじっと見やる。彼の体の中に、何を感じたのか。
ラルバは、瓦礫の影から現れて、星たちに近づいた。
「……わ⁉︎ って、人? 大丈夫ですか?」
星はラルバを見てそう言う。白夜もまた、星の言った言葉を聞いて、ラルバの方を見た。
「大丈夫だ。君たちを助けに来たんだ。……まず、君と話がしたいんだがね」
ラルバは星の方を見て、そう言った。星は「話?」と一瞬首を傾げるが、それから言った。
「あの、貴方名前は……?」
「そう、だな。嵐山、丈……タケルだ。よろしく頼む」
そう告げる、赤いウルトラマン。
これが、彼ら秋空兄妹と、ウルトラマンの初めての邂逅であったことは、誰も知る由がない。