「ガンQの次は、どうするか……」
そうつぶやきながら、彼は山中を歩いていた。光ヶ丘の巨大な山、多々良山。怪獣の生息が多く確認されるこの場所は、一部を除いて侵入禁止とされている特別な区域。
その中を歩く彼は、この星の人間の姿をしてはいなかった。まるで、エビとセミを組み合わせたような怪人であった。
彼はウルトラマンラルバと宇宙で戦闘していた、バルタン星人の男だった。ボロ布のような衣服を纏う彼の姿は、まるで荒野をゆく旅人のようである。
彼自身は特段、擬態能力を持つ訳ではなかったため、人間の姿に擬態はできないのである。そのためこの山に隠れ、次の一手を打つべく行動していたのだった。
「この山中には怪獣が多いと聞く。ならば、私のこのレイオニクスの力で、怪獣を覚醒させれば……」
そう、少なくとも眼下の町は制圧できる。バルタン星人がそんな想像を巡らせると、ふと彼の頭に、誰かの声が去来した。昔、父に言われた言葉が、父の声で再生されたのだ。
『レイオニクスの力は、怪獣と共に生きるための力だ。私欲のために使って、怪獣を傷つけてはいけないよ』
「……やめてくれ」
これは彼自身の病気であるが。バルタン星人はそう呟き、自らの手(彼らのそれは既に書いたが、蟹のようなハサミの形をしている)に携えた、携帯端末を見た。青と白のツートンカラーのその携帯端末には、三つの画面がついている。それらには光がなく、何も映っていなかった。
それこそが、彼の怪獣使いの証。バトルナイザー、であった。
「やはりガンQは確保しておくべきだったか。むぅ、ラルバの手際はいいからな……」
そう呟く彼は、バトルナイザーを懐にしまった。ラルバの実力や、彼の動きの速さを考えるに。ウルトラマンにバレぬよう怪獣を得る必要がある。
それならばどう行動すべきか。いっそのこと、自分からこの地の怪獣を呼び出してでも。
「お困りですかな?」
「っ、誰だ⁉︎」
突然聞こえた声に、バルタンは振り向く。この星の人間が、そこに立っていた。黒いローブに身を包み、袖に纏うケープも黒く、そして顔を隠すフードも黒い。黒一色のその人間から聞こえる声は、澄んだ男声である。
「お前は、なんだ?」
バルタンは男にハサミを向ける。そのハサミの奥に、強烈な冷気のエネルギーが宿る。それを放てば、目の前の男は氷解と化して砕け散るのみだ。
男はその状況を理解しているのか、していないのか。フードの奥の不敵な笑みを崩さず、バルタンに告げた。
「私はレイオニクスの、ジンといいます。君の父の友人……と言えばわかりますかね?」
「友人、貴方が? ……確かに、男性だとは聞いていたが、そんな服装とは」
「最近の趣味でしてね。いいでしょう?」
「……コメントは控える」
夜に紛れそうなくらい黒い、センスを疑う。バルタンはそう思ったが、それを口には出さなかった。
さても彼は協力者だ、これはありがたい。怪獣を操ることのできる彼がいれば、百人力だ。だが気になることがある。
「……貴方は、私の目的を知っているのか? 知っているのなら、何故私の側に」
「友情は大事にしたい主義でして。私としても、君たちが何を成すのかを見てみたいのですよ?」
「……なる、ほど。……こう言ってはなんだが、その」
「イかれていますか? 結構。ですが、貴方にとっては非常に嬉しい誤算なのでは?」
「まぁ、そうだな」
彼の存在は非常にありがたい。早速だが、その怪獣を操る力を、見せてもらいたいものだ。
「すまないが、君は怪獣を仲間にしているのか? できることなら見せてもらいたいのだが」
「わかりました。では、私のバトルナイザーをお見せしましょうか」
彼が言うや、虚空より紫の光が溢れ、一振りの杖が現れた。杖の先端には紫の星が付いている。ジンはそれを振りながら、懐からカードを二枚取り出した。怪獣の姿が描かれたそれを、彼は杖の先端にカードをかざす。
カードは青い紐のように変わるや、空へと飛び立ち。二体の怪獣となって実体化した。地面を抉り、轟音と共に降り立ったそれらの、咆哮が響く。
「レッドキング、それにブラックキング……同時に二体も操るとは……!」
「あれらは私の操る怪獣の一部でしかありませんが。行きなさい、レッドキング、ブラックキング。まずはあの町に、その力を示してきなさい」
二体の怪獣は虚な表情を浮かべ、歩みを進めていく。
怪獣二体が見えた時点で、もぬけの殻となっている今の光ヶ丘に、再び警報が響き始めていた。
〜○○○〜
その警報が響く、少し前。
ぼうっと避難所の部屋で天井を見ている、白夜がいた。彼女は大きくため息をついた。
「兄さん、どこ行ったんだろ」
先ほど、兄が不思議な男の人と一緒に外に出ていくのを見た。それから彼らを追いかけたが、途中で警備員に「部屋に戻ってください」と止められてしまい。結局、部屋で待機することになってしまった。
兄たちはどこに行ったのだろうか。白夜は思いを馳せるが、わからなかった。あの兄が変身した姿はなんだったのだろうか。何故か女神の話をしていたりしたが。
男の人からは、自己紹介を受けていた。嵐山丈というらしい。星の友人だとか言っていたが、嘘くさい。
というより、白夜は星の交友関係を把握している。故に彼が嘘をついていると言うのはすぐにわかるのだった。
「……なんで嘘つくんだろ」
兄に対する不信感が募る。
兄が、自分に嘘をつくなんて滅多にないのに。そう、思いを燻らせていると。不意に部屋の扉が開き、誰かが入ってきた。
兄かと思い、白夜の表情がぱあっと明るくなる。だが、入ってきたのは合鍵を渡していた人物。
「はろ、白夜ちゃん!」
黒髪の女の子、霊島極夜だった。嬉しくない訳ではないが、白夜は彼女を見て複雑な表情を浮かべた。
「なぁにそんな顔してるの! せっかく親友が来てあげたのにさ!」
そんなことを言って彼女は白夜の隣に座る。白夜はたじたじとしつつも、彼女を受け入れた。
「極夜ちゃん、何しに来たの?」
素朴な疑問をそうぶつけてみると、極夜は「暇だったからきちゃった」などと返した。マイペースさが売りの彼女らしい言葉だ。
「それは建前だけどね。ほんとは白夜ちゃんに会いに来たの」
「私に? なんで?」
「んー、怪我してたって聞いたからさ。でも、元気そうで何よりだよ。こっちは兄さんがさ、走ってる時にこけて骨折っちゃって、大変だったんだよ」
兄さん、その言葉に反応する白夜。だがその兄さんというのが極夜の兄、然のことだと、白夜は理解した。
だが、その時に表情が曇ったのを、極夜は見過ごさなかった。
「ねえ白夜ちゃん。お兄さんとなんかあった?」
「え? ないよ、なにも」
そう告げる白夜を、疑り深く見る極夜。こういう時親友は、必ずこっちの嘘を見抜いてくる。そんな経験則を白夜は覚えていた。
「ま、いいけどさぁ。白夜ちゃん、あんまり無茶しないでね?」
「無茶って……し、しないよ。兄さんじゃあるまいしさ」
「白夜ちゃんはお兄さんのことになるとすごーく心配性なのに、自分のことは顧みないんだからさ。そこ星さんと同じだもんねぇ」
「そうかな……兄さんは、私なんかよりずーっと無鉄砲で、勝手で……」
「かっこいい?」
「……かっこ悪いよ」
赤くなってそう言う白夜に、極夜は「そっか!」とだけ言った。なにが「そっか」なのかは、白夜にはわからなかった。
と、そんな折。
「警報だ」
避難シェルターの全域に、警報音が鳴り響いた。怪獣の出現を知らせるその音は、さらにアナウンスにより、詳しい状況を知らせてくれた。
『真王市、光ヶ丘近辺に怪獣が出現しました。町民の皆様は、シェルターにて待機してください。繰り返します』
「……また怪獣」
「まだ三日しか経ってないよね? 流石に早くないかなぁ……?」
極夜がそう呟くのに、白夜はこくんとうなづいた。いつもなら、次の怪獣はもっと遅く、二週間後とかに現れるはず。
なにか、なにかがおかしい気がする。だが何がおかしいのか、白夜にはわからない。確実に何かが起こっているのはわかるのに。それが、白夜にはとても歯痒かった。
部屋のテレビがパッとつく。外の映像が、画面に映し出された。