怪獣も直ぐに退治され、平和の戻った光ヶ丘。秋空家以外の面々は、我が家に戻り。星と白夜は、残骸と化した我が家の修復が終わるまで、霊島家にお世話になることになった。
ここは神社の隣に位置する、広い日本家屋の中の、秋空家のために備え付けられた一室。夜の十時、星と白夜は、広げられた二つの布団に潜り込んでいた。
「白夜」
「…………なに」
「いや、こないだからずっと機嫌が悪いじゃんか。どうしたのかなって、思ってさ」
星は布団に入りながら、自分に背を向けている白夜に、そう告げた。白夜は星の問いには答えず、布団をさらに深く被る。どうやら星には、答えたくないらしい。
「……答えたくないなら、いいんだけどさ」
あまりこう言う時、彼女を刺激しないほうがいい。そう、星は理解していた。だから彼女の方を向いて、目を閉じて眠りに着こうとした。白夜はその時、彼に語りかけていた。
「兄さんは、私に隠してることとか、ないの?」
「……ねえよ。そんなの」
「……ほんとに?」
「……まあ。お前に隠し事を、するつもりはないからよ」
「そっか」
白夜はそれだけ聞くと、あとはもう何も言わなかった。彼女の問いを聞くたびに、胸がズキリと痛んだが、星はそれを我慢した。それから改めて、彼は目を閉じ眠りについた。
疲れていたのか、星の寝つきは早いモノだ。白夜はそれを見届けてから、布団から出て、携帯を取り出した。その画面に映すのは、ウルトラマンアースの姿。
「兄さん、また嘘つくの……?」
そう呟く彼女は空に、星をじっと見ていた。とくん、とくんと響く心臓の音色。兄と自分のその音が、混じり合うのが、聞こえる気がする。
白夜はそっと星に近づき、彼の髪を撫でた。それから、きゅっとそのひとふさを握りしめる。
「許さないからね。私にもちゃんと、話してくれないと……許さないから」
そう最後に言ってから、白夜は自分の布団に潜り込んだ。彼女はそれから直ぐに、ゆっくりと寝息を立て始めた。
〜
「正体を誰にも言うな、です?」
特訓の最中、丈にそう言われた星は、思わず聞き返していた。丈はうなづきつつ、告げる。
「我々ウルトラマンの正体は、バレてはいけない。それが例え、友人や家族であってもだ」
「……なんで、です?」
「ウルトラマンの力は強大だ。それを狙うものも一定数存在する。家族や友人を、ウルトラマンの力を得るために使う者も、やはり存在するんだ」
なるほどと星は思った。ウルトラマンの力は先日の戦いで、その強力さを理解した。丈は以前、怪獣を操った人間を追ってやってきたと言う。彼の追ってきたその人間がもし、星たちをウルトラマンだと理解した時、その周囲に危険を及ぼす可能性は拭いきれないのだ。
「……だから、言ってはダメなんですか? 白夜にも」
「白夜ちゃんにも、言ってはいけないぞ。彼女に危険が及ぶのは、君も嫌だろう?」
「それは、そうっすけど……」
星はどこか、納得できないでいるようだった。どうやら、妹には話すつもりでいたらしい。
それを見て、丈は続ける。
「君と妹に、何か約束事があるのかもしれないが……君の妹や、友人たちの安全のためだ。理解してほしい」
「……わかりました」
星は渋い顔をしながらも、納得した。丈は彼の様子に少し、気になるものを見たが。だがそれ以上詮索はしなかった。
星はアースへと変わり、両手を組んで火を生み出す。それを、弾丸として目の前の人形に放っていった。
「君たちに……君たちには、いったい何があるのだ……?」
丈はただ、そう呟いた。
〜○○○〜
今日、嵐山丈は、秋空家の邸宅があった場所に来ていた。倒壊し吹き飛んだその邸宅で、彼はあるものを探そうとしていた。
「バトルナイザーは……やはりここにはないのか」
バトルナイザー、そう呼ばれる道具を探す彼。しかしどこにも、その痕跡は見られない。
怪獣を操り服従させる力を持つバトルナイザー、おそらくそれを無理やり起動させ、あのガンQを呼び出したのだと思うのだが。しかしその痕跡はどこにも見られなかった。
星はガンQのことを、地底怪獣だったんじゃないか、と言ったが。ガンQは地底怪獣ではないと言うのを、丈は知っている。
「一体どこに……」
「火事場泥棒でしょうか?」
不意に聞こえた声の方に、丈は振り向く。黒髪の少女が、瓦礫とかした壁の向こうに立っていた。
「君は」
「大和田蓮。星の友達ですよ、火事場泥棒の丈さん」
瓦礫を掻き分け、彼女は丈のところまでやってきた。
大和田蓮、星の友人の一人だったと、丈は記憶している。どこか人を食ったような表情を浮かべる彼女は、丈に手を出すように言った。
「探し物はこれですよね、丈さん」
「……これは」
蓮が差し出したそれは。金色の縁で彩られた、虫のような光沢を放つ携帯端末だった。丈の記憶にあるそれの名前は“ネオバトルナイザー”と言ったか。蓮はそれを丈に手渡した。
「なぜ君がこれを」
「持っているのか、ですか? 先ほど回収したばかりなんですよ。貴方が来るよりも前に、ね」
「……何故、回収したんだ? これは一見すれば、ただのおもちゃにしか見えないはずだが」
「星たちの大切なものだった、と言えばわかります?」
蓮は丈の手から、バトルナイザーを取る。どうやら渡してくれるわけではないらしい。
「これは星の、お父さんの形見なんですよ。私も以前見せてもらったんですけど、なかなか珍しい代物ですよね、これ。昔見た時とは違って、中にいた“眼”は、どこかに行っているみたいですけど」
「やはり、ガンQはバトルナイザーから現れたのか……」
「御名答ですね、丈さん」
ククッ、と笑った蓮を見て、丈は彼女を不審に思った。バトルナイザーを、そしてガンQを何故知っているのか。丈はその疑問を、いつのまにか口に出していた。
「君はなんなんだ、蓮くん」
「……地球防衛隊ナイツ、直属の密偵員。それが私、大和田蓮です。この町の“最初の嘘つき”ですよ」
「嘘つき?」
「ええ。貴方も、そして星も。これから嘘つきになるのだから。それなら、私も正体を隠した嘘つきなのです」
笑う彼女のその表情は、少し皮肉めいていた。ネオバトルナイザーを空中でポンと飛ばし、そしてキャッチする。尖っているそれが少し痛いと感じたのか、蓮はギュッと目を瞑った。
「嵐山丈さん。いえ、ウルトラマンラルバさん。少々昔話と。そしてあの子のことを、お伝えしてもよろしいでしょうか」
「……昔話?」
「ええ。これからこの星にいる上で、必要になることですよ」
それならば、聞くべきか。丈は迷わなかった。目の前の少女の浮かべる不敵な笑みに「聞かせてくれ」とだけ、丈は答えた。蓮はフッ、と、また笑って見せる。
「では、お話ししましょうか。丈さん」
〜
「星と白夜ちゃんに、お父さんもお母さんもいないのは、聞いていますよね?」
「ああ。既に聞いているさ」
瓦礫に塗れたその場所で、蓮はまずそう問いかけ、丈もその言葉に答えた。「なら、話は早い」。蓮はそれだけ言うと、言葉をさらに紡いでいく。
「彼らの家族は、十五年前。真王大災害によって、亡くなっています」
「真王大災害とは?」
「この真王市で起きた怪獣災害のことです。太平洋上に現れた、極小のホワイトホールより怪獣が出現。便宜上“ゼロダーク”と名付けられたその怪獣によって、この真王市、特に光ヶ丘は大打撃を受けました」
「……ゼロダーク、だと!」
丈は“ゼロダーク”と呼ばれたそれに、強く反応を示した。ゼロダークのことを、彼はやはり知っているようだ。そのことを確信してか、蓮は彼に問う。
「ご存じで?」
「……俺の親友が戦い、倒した怪獣だ。まさか、他にも存在していたとは……」
「どうでしょうかね。そのゼロダークは、何かを追うように光ヶ丘に接近。被害を出しました。多数の犠牲者とともに。その犠牲者の中には、星達のお父さんも含まれていたんですよ」
「星の、父達か……」
その“父”が、レイオニクスだった。ならば星も、その血を受け継いでいるのだろう。もしや、彼には“あの巨人”と同等の兆候があるのか? いや、そんなわけはない。彼には自分の、親友の力が宿っているのだから。
「話を続けますよ、丈さん」
「あ、ああ、すまない」
蓮は丈の表情の変化を見ながら、話を続けていく。
「ゼロダークが被害を出す中。巨人が一人現れました。それは、我らの女神たるウルトラヘカーテではなく。男神、ウルトラマンでした」
「ウルトラマン……まさか」
「そう。ウルトラマンアース、でしたか? 彼は出現と同時に、ゼロダークと戦闘を開始。苦戦を強いられながらも、ゼロダークを自爆によって撃破しました」
「自爆によって、か……ゼロダークは何に惹かれてやってきたのか、わかっているのか?」
「一応は。ウルトラマンアースに宿っていたとされるエネルギーの奔流を感知してきたようです。つまり、最初からアースが光ヶ丘にいることをわかって、やってきていたんですよ」
光ヶ丘にアースが居た。そしてそれを追ってやってきたゼロダークは。
「アースの倒した個体と、同一なのか……?」
「ゼロダークは出現時から、アースと同じ波長のエネルギーを纏っていましたから。別の世界に飛ばされたのち、アースを追ってその世界からやってきたのでしょう、と、先達の皆様は考えていました」
そう告げつつ、蓮は丈をまっすぐと見た。その顔に笑いは滲まず、ただ一筋の眼差しを、彼女は丈に向ける。
「貴方は異世界からやってきた、ウルトラマン。そうなんでしょう? アースも、ラルバも。どちらもこの世界の女神と、似ているようで違いますから」
どうやら蓮は。いや、彼女を有する地球防衛隊とやらは。ラルバとアースの正体を、見抜いていたようだ。それも、アースについては十五年も前から。
「アースについては、現在秋空星に宿っていると言うのが判明しています。私は彼を見るためだけに派遣された、特殊密偵員というわけですね」
「なるほどな……現在、ということは、アースは以前は別の人間に宿っていたのか?」
「はい。星の父と母、秋空未来さん、そして秋空明日菜さんに宿っていたそうで。アースは彼らと共に自爆したものと考えられています」
「……あいつ」
何を考えているんだ。融合した人間を犠牲にして、そして自分はいけしゃあしゃあと星の体に宿って生きながらえて……
「丈さん? 異世界から来た貴方の話を、私はもう少し聞きたいのですが」
「……地球防衛隊の回し者だと聞いたが。やはり、星間連合とも繋がっているのか、君は」
「もちろん。ハーフですからね、私は」
そう言って懐から銀色の仮面を取り出し、見せる彼女。それを丈は見たことがある。マグマ星という星の人類の間に伝わる、戦闘用の仮面だ。
「星間連合は、さらに貴方の情報を知りたいと、考えているのです。貴方がこの世界に来て、星間連合に身柄を渡し。その際に連合が得た情報だけでは、物足りないようなのですよ」
星間連合、その言葉を聞いて、丈の眉がぴくりと動いた。
この地球の防衛隊、それを統括するのは政府でも、国連という組織でもない。銀河の星々同士の間に作られた組織、それが地球で言う国連の役割を果たしているのだ。
その組織の名は星間連合という。星の間に芽生えた、連合。地球もそこに、名を連ねている。そして多くの宇宙人がやってくる、星々の間の交易路となっているのだ。
とはいえ、地球は他の星々と比べて文明が非常に劣っており、星外の人間に対しても差別的な対応を取ることが多い。故に、星間連合と地球間の協定によって、地球に生きる一般の人々には、地球が星間連合に所属していること、そして地球にやってくる宇宙人たちのことは秘匿された。
それは、ラルバやバルタン星人のことも同じだろう。
「対価は?」
「この星での滞在時、さまざまなことを取り計らいましょう。貴方は現状、不法滞在者なのですよ?」
丈は歯噛みした。乙女はくすくすと笑い、丈に告げる。
「丈さん。貴方とは先ほどより他にも、情報を共有したいのですが。良いでしょうか?」
そう彼女が聞いてくるのを見て、丈は上の空ながら答えてみせた。