ウルトラマンアース   作:アカイタマ

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嘘ツキ①

 怪獣も直ぐに退治され、平和の戻った光ヶ丘。秋空家以外の面々は、我が家に戻り。星と白夜は、残骸と化した我が家の修復が終わるまで、霊島家にお世話になることになった。

 ここは神社の隣に位置する、広い日本家屋の中の、秋空家のために備え付けられた一室。夜の十時、星と白夜は、広げられた二つの布団に潜り込んでいた。

 

「白夜」

「…………なに」

「いや、こないだからずっと機嫌が悪いじゃんか。どうしたのかなって、思ってさ」

 

 星は布団に入りながら、自分に背を向けている白夜に、そう告げた。白夜は星の問いには答えず、布団をさらに深く被る。どうやら星には、答えたくないらしい。

 

「……答えたくないなら、いいんだけどさ」

 

 あまりこう言う時、彼女を刺激しないほうがいい。そう、星は理解していた。だから彼女の方を向いて、目を閉じて眠りに着こうとした。白夜はその時、彼に語りかけていた。

 

「兄さんは、私に隠してることとか、ないの?」

「……ねえよ。そんなの」

「……ほんとに?」

「……まあ。お前に隠し事を、するつもりはないからよ」

「そっか」

 

 白夜はそれだけ聞くと、あとはもう何も言わなかった。彼女の問いを聞くたびに、胸がズキリと痛んだが、星はそれを我慢した。それから改めて、彼は目を閉じ眠りについた。

 疲れていたのか、星の寝つきは早いモノだ。白夜はそれを見届けてから、布団から出て、携帯を取り出した。その画面に映すのは、ウルトラマンアースの姿。

 

「兄さん、また嘘つくの……?」

 

 そう呟く彼女は空に、星をじっと見ていた。とくん、とくんと響く心臓の音色。兄と自分のその音が、混じり合うのが、聞こえる気がする。

 白夜はそっと星に近づき、彼の髪を撫でた。それから、きゅっとそのひとふさを握りしめる。

 

「許さないからね。私にもちゃんと、話してくれないと……許さないから」

 

 そう最後に言ってから、白夜は自分の布団に潜り込んだ。彼女はそれから直ぐに、ゆっくりと寝息を立て始めた。

 

 

「正体を誰にも言うな、です?」

 

 特訓の最中、丈にそう言われた星は、思わず聞き返していた。丈はうなづきつつ、告げる。

 

「我々ウルトラマンの正体は、バレてはいけない。それが例え、友人や家族であってもだ」

「……なんで、です?」

「ウルトラマンの力は強大だ。それを狙うものも一定数存在する。家族や友人を、ウルトラマンの力を得るために使う者も、やはり存在するんだ」

 

 なるほどと星は思った。ウルトラマンの力は先日の戦いで、その強力さを理解した。丈は以前、怪獣を操った人間を追ってやってきたと言う。彼の追ってきたその人間がもし、星たちをウルトラマンだと理解した時、その周囲に危険を及ぼす可能性は拭いきれないのだ。

 

「……だから、言ってはダメなんですか? 白夜にも」

「白夜ちゃんにも、言ってはいけないぞ。彼女に危険が及ぶのは、君も嫌だろう?」

「それは、そうっすけど……」

 

 星はどこか、納得できないでいるようだった。どうやら、妹には話すつもりでいたらしい。

 それを見て、丈は続ける。

 

「君と妹に、何か約束事があるのかもしれないが……君の妹や、友人たちの安全のためだ。理解してほしい」

「……わかりました」

 

 星は渋い顔をしながらも、納得した。丈は彼の様子に少し、気になるものを見たが。だがそれ以上詮索はしなかった。

 星はアースへと変わり、両手を組んで火を生み出す。それを、弾丸として目の前の人形に放っていった。

 

「君たちに……君たちには、いったい何があるのだ……?」

 

 丈はただ、そう呟いた。

 

 

 

 

 

〜○○○〜

 

 

 

 

 

 今日、嵐山丈は、秋空家の邸宅があった場所に来ていた。倒壊し吹き飛んだその邸宅で、彼はあるものを探そうとしていた。

 

「バトルナイザーは……やはりここにはないのか」

 

 バトルナイザー、そう呼ばれる道具を探す彼。しかしどこにも、その痕跡は見られない。

 怪獣を操り服従させる力を持つバトルナイザー、おそらくそれを無理やり起動させ、あのガンQを呼び出したのだと思うのだが。しかしその痕跡はどこにも見られなかった。

 星はガンQのことを、地底怪獣だったんじゃないか、と言ったが。ガンQは地底怪獣ではないと言うのを、丈は知っている。

 

「一体どこに……」

「火事場泥棒でしょうか?」

 

 不意に聞こえた声の方に、丈は振り向く。黒髪の少女が、瓦礫とかした壁の向こうに立っていた。

 

「君は」

「大和田蓮。星の友達ですよ、火事場泥棒の丈さん」

 

 瓦礫を掻き分け、彼女は丈のところまでやってきた。

 大和田蓮、星の友人の一人だったと、丈は記憶している。どこか人を食ったような表情を浮かべる彼女は、丈に手を出すように言った。

 

「探し物はこれですよね、丈さん」

「……これは」

 

 蓮が差し出したそれは。金色の縁で彩られた、虫のような光沢を放つ携帯端末だった。丈の記憶にあるそれの名前は“ネオバトルナイザー”と言ったか。蓮はそれを丈に手渡した。

 

「なぜ君がこれを」

「持っているのか、ですか? 先ほど回収したばかりなんですよ。貴方が来るよりも前に、ね」

「……何故、回収したんだ? これは一見すれば、ただのおもちゃにしか見えないはずだが」

「星たちの大切なものだった、と言えばわかります?」

 

 蓮は丈の手から、バトルナイザーを取る。どうやら渡してくれるわけではないらしい。

 

「これは星の、お父さんの形見なんですよ。私も以前見せてもらったんですけど、なかなか珍しい代物ですよね、これ。昔見た時とは違って、中にいた“眼”は、どこかに行っているみたいですけど」

「やはり、ガンQはバトルナイザーから現れたのか……」

「御名答ですね、丈さん」

 

 ククッ、と笑った蓮を見て、丈は彼女を不審に思った。バトルナイザーを、そしてガンQを何故知っているのか。丈はその疑問を、いつのまにか口に出していた。

 

「君はなんなんだ、蓮くん」

「……地球防衛隊ナイツ、直属の密偵員。それが私、大和田蓮です。この町の“最初の嘘つき”ですよ」

「嘘つき?」

「ええ。貴方も、そして星も。これから嘘つきになるのだから。それなら、私も正体を隠した嘘つきなのです」

 

 笑う彼女のその表情は、少し皮肉めいていた。ネオバトルナイザーを空中でポンと飛ばし、そしてキャッチする。尖っているそれが少し痛いと感じたのか、蓮はギュッと目を瞑った。

 

「嵐山丈さん。いえ、ウルトラマンラルバさん。少々昔話と。そしてあの子のことを、お伝えしてもよろしいでしょうか」

「……昔話?」

「ええ。これからこの星にいる上で、必要になることですよ」

 

 それならば、聞くべきか。丈は迷わなかった。目の前の少女の浮かべる不敵な笑みに「聞かせてくれ」とだけ、丈は答えた。蓮はフッ、と、また笑って見せる。

 

「では、お話ししましょうか。丈さん」

 

 

「星と白夜ちゃんに、お父さんもお母さんもいないのは、聞いていますよね?」

「ああ。既に聞いているさ」

 

 瓦礫に塗れたその場所で、蓮はまずそう問いかけ、丈もその言葉に答えた。「なら、話は早い」。蓮はそれだけ言うと、言葉をさらに紡いでいく。

 

「彼らの家族は、十五年前。真王大災害によって、亡くなっています」

「真王大災害とは?」

「この真王市で起きた怪獣災害のことです。太平洋上に現れた、極小のホワイトホールより怪獣が出現。便宜上“ゼロダーク”と名付けられたその怪獣によって、この真王市、特に光ヶ丘は大打撃を受けました」

「……ゼロダーク、だと!」

 

 丈は“ゼロダーク”と呼ばれたそれに、強く反応を示した。ゼロダークのことを、彼はやはり知っているようだ。そのことを確信してか、蓮は彼に問う。

 

「ご存じで?」

「……俺の親友が戦い、倒した怪獣だ。まさか、他にも存在していたとは……」

「どうでしょうかね。そのゼロダークは、何かを追うように光ヶ丘に接近。被害を出しました。多数の犠牲者とともに。その犠牲者の中には、星達のお父さんも含まれていたんですよ」

「星の、父達か……」

 

 その“父”が、レイオニクスだった。ならば星も、その血を受け継いでいるのだろう。もしや、彼には“あの巨人”と同等の兆候があるのか? いや、そんなわけはない。彼には自分の、親友の力が宿っているのだから。

 

「話を続けますよ、丈さん」

「あ、ああ、すまない」

 

 蓮は丈の表情の変化を見ながら、話を続けていく。

 

「ゼロダークが被害を出す中。巨人が一人現れました。それは、我らの女神たるウルトラヘカーテではなく。男神、ウルトラマンでした」

「ウルトラマン……まさか」

「そう。ウルトラマンアース、でしたか? 彼は出現と同時に、ゼロダークと戦闘を開始。苦戦を強いられながらも、ゼロダークを自爆によって撃破しました」

「自爆によって、か……ゼロダークは何に惹かれてやってきたのか、わかっているのか?」

「一応は。ウルトラマンアースに宿っていたとされるエネルギーの奔流を感知してきたようです。つまり、最初からアースが光ヶ丘にいることをわかって、やってきていたんですよ」

 

 光ヶ丘にアースが居た。そしてそれを追ってやってきたゼロダークは。

 

「アースの倒した個体と、同一なのか……?」

「ゼロダークは出現時から、アースと同じ波長のエネルギーを纏っていましたから。別の世界に飛ばされたのち、アースを追ってその世界からやってきたのでしょう、と、先達の皆様は考えていました」

 

 そう告げつつ、蓮は丈をまっすぐと見た。その顔に笑いは滲まず、ただ一筋の眼差しを、彼女は丈に向ける。

 

「貴方は異世界からやってきた、ウルトラマン。そうなんでしょう? アースも、ラルバも。どちらもこの世界の女神と、似ているようで違いますから」

 

 どうやら蓮は。いや、彼女を有する地球防衛隊とやらは。ラルバとアースの正体を、見抜いていたようだ。それも、アースについては十五年も前から。

 

「アースについては、現在秋空星に宿っていると言うのが判明しています。私は彼を見るためだけに派遣された、特殊密偵員というわけですね」

「なるほどな……現在、ということは、アースは以前は別の人間に宿っていたのか?」

「はい。星の父と母、秋空未来さん、そして秋空明日菜さんに宿っていたそうで。アースは彼らと共に自爆したものと考えられています」

「……あいつ」

 

 何を考えているんだ。融合した人間を犠牲にして、そして自分はいけしゃあしゃあと星の体に宿って生きながらえて……

 

「丈さん? 異世界から来た貴方の話を、私はもう少し聞きたいのですが」

「……地球防衛隊の回し者だと聞いたが。やはり、星間連合とも繋がっているのか、君は」

「もちろん。ハーフですからね、私は」

 

 そう言って懐から銀色の仮面を取り出し、見せる彼女。それを丈は見たことがある。マグマ星という星の人類の間に伝わる、戦闘用の仮面だ。

 

「星間連合は、さらに貴方の情報を知りたいと、考えているのです。貴方がこの世界に来て、星間連合に身柄を渡し。その際に連合が得た情報だけでは、物足りないようなのですよ」

 

 星間連合、その言葉を聞いて、丈の眉がぴくりと動いた。

 この地球の防衛隊、それを統括するのは政府でも、国連という組織でもない。銀河の星々同士の間に作られた組織、それが地球で言う国連の役割を果たしているのだ。

 その組織の名は星間連合という。星の間に芽生えた、連合。地球もそこに、名を連ねている。そして多くの宇宙人がやってくる、星々の間の交易路となっているのだ。

 とはいえ、地球は他の星々と比べて文明が非常に劣っており、星外の人間に対しても差別的な対応を取ることが多い。故に、星間連合と地球間の協定によって、地球に生きる一般の人々には、地球が星間連合に所属していること、そして地球にやってくる宇宙人たちのことは秘匿された。

 それは、ラルバやバルタン星人のことも同じだろう。

 

「対価は?」

「この星での滞在時、さまざまなことを取り計らいましょう。貴方は現状、不法滞在者なのですよ?」

 

 丈は歯噛みした。乙女はくすくすと笑い、丈に告げる。

 

「丈さん。貴方とは先ほどより他にも、情報を共有したいのですが。良いでしょうか?」

 

 そう彼女が聞いてくるのを見て、丈は上の空ながら答えてみせた。

 

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