燃えた空
真っ赤な雪
誰か生きてる気がして
悴み感覚のなくなった足を動かす
あぁダメだ
救いなんてない
己には救えない
慟哭のような銃声が響く
降る雪の色の髪は
そこらの雪と溶け込んだ
────────
自分の名を呼ぶ声がして朝の惰眠に終止記号を打つ。
雪のような色の長い髪が揺れるのが視界に入った。
「おはよ、イズミ」
オモカゲ イブ
アレが自分の比翼。
どちらか落ちたら飛べない空想の鳥。
自分達がまさにそんな存在だからと、とっくに落ちた偉大なる先輩方がつけたらしい。
「朝御飯の時間です! 支給時間過ぎたら昼まで腹ペコなんだから、急がないとダメですよ!」
食欲なんざ無い、数口で済む栄養食で良い。
デスクの上に置いてあるそれを指差して断る。
「またですかっ!? 確かに栄養素は取れますけど」
仕方ありませんね、と。
部屋からリズムよい足取りで出ていく。
なんとなく、その先が読める。
自分が身支度を済ませてる間に、食事が載ったトレーを持ってきては大層に元気よく。
「あーんの時間です!」
馬鹿だ。
持ってこられては仕方ない、ゴミにするより腹に入れる方が手っ取り早い。
渋々受け取り、腹に入れたし入れさせられた。
「では! ……ストラテーゴスより本日の指示です」
アレは空いたトレーを手に取り、音程を下げた声に切り替えて言う、瞬間に表情も氷のように。
「本日は例のカプセルの受領日、レプリカントランサーを忘れずに。これより本部へ移動します」
持つものなんて、普段からそれと銃だけだ。
身支度は既に済んでいる、トレーを片した足のままそこへ向かった。
────────
ー1966年7月17日ー
当然ながら自分が産まれるよりも昔。
地球に72個の小型隕石が世界各地に墜ちる。
『ソロモンの日』と呼ばれる
幸とすべきか、不幸とすべきか。
隕石からは地球にはない未知の技術が次々と発見され、宇宙からのギフトとして数多の人々の手に渡る。
産業の進歩、経済の安定、貧困の消滅──
無くては生活が成り立たない、文明が生き抜く必須要件になるまでそう時間はかからなかった。
隕石が墜ちた衝撃で眠っていた怪獣が目覚め、何かの逆鱗に触れたかのように暴れ始めた。
同じ要因によりワームホールが発生し、招かざる異星からの客が来訪した。
未だ不規則にでもこの厄災は続いている。
誰もが幸福で不可能がなくなっていく理想の世界。
突如無法地帯に塗り替えられる非情な世界。
どちらも隕石が呼び込んだもの。
人は知恵を使って抗い、人外は力を使って潰し、互いにコストを払って拮抗状態を続ける。
生死と悲喜のアンバランスなシーソーゲーム。
これが、ソロモンの日から35年間の話。
────────
『食品から怪獣退治の兵器まで! 人の暮らしのコア、BaELs!』
『怪獣退治は専門家のBBSにお任せ!』
BaELs。
隕石の解析に最も貢献し、その技術を活かして人類を大きく進歩させた企業。
その貢献度から国とも密接に絡む程の影響力を持つ。
ここが無ければ今の世界は無く、自分達の居場所も無い。
そしてこの企業直下にある組織、BBS。
巨大生物対策、人の暮らしを守る防衛組織。
災害によって身寄りの無い子供を保護する孤児院としても機能している。
もうよく覚えてないほどに小さい頃から、自分はここにいる。
比翼のアレを乗せたサイドカーで、喧しいコマーシャルがギラギラと目につく目的地の街へ入る。
そもそもの用件。
ソロモンの日に墜ちた隕石から見つかった18個目のカプセル、その
この18個目が最も歪な形で見つかった代物。
これまで見つかったカプセルを覆っていたのは宇宙探索専門の部隊が調べた結果、"アステロイドベルト"の物質だったと判明している。
しかし、問題のそれだけは一部が異なっていた。
"人の肉片"が付着し"詳細不明の結晶体"が中から突き出して損壊、内部の情報が断片的にしか残っていなかった。
まるで"限界まで酷使したような擦り切れ方"だったらしい。
この損壊した情報を復元したい大人の好奇心のために、中途半端なレプリカントカプセルを取りにこうして足を運ぶことになっている。
『不服、ですか』
ヘルメット内のスピーカーからアレの声がする。
不服もクソも無い、丁度使っていた
すぐにカプセルがイカれる自分に中途半端なそれはお似合いだ、情報を収集して壊し、新たに作ってまた壊しを繰り返せばいい。
大人の好奇心は満足するし、自分も壊して補填してを繰り返す意味に理由ができる。
理由がないことに、使う時間は意味がない。
だから、別にと、首を横に振った。
────────
本部に着き、自分のレプリカントランサーを研究室のなにかに渡す。
「それでは、データ収集の専用システムの追加と、カプセルとのマッチング設定を行います。お時間を要するのでしばらくお待ちください」
「自分は別件があるのでここで。後ほど合流を」
手持ち無沙汰だが仕方がない、適当に中を彷徨く。
建物内の広場に出ると、耳の中をキンキンとさせる騒々しい無数の声。
好ましくはないが他のものに比べればまだいい、自分だっていつかはあげたかもしれない声だ。
「まってよー! 「ぼくがいちばんあしはやいんだー! 夢はウルトラマンだから! 「わたしだってー!」」」
ベンチに腰を掛け、声の主達の様子を見る。
ウルトラマンなんて、ただの兵器だ。
夢なんて、どこにもない。
だから、
『────、研究室へお戻りください』
はしゃぐ子供達から目を背け、呼ばれた場所に戻った。
「お待たせ致しました。こちらが例のカプセルと調整を終えたレプリカントランサーです」
渡されたカプセルに違和感がある。
これまでのレプリカントは
「18個目がかなり難ありでして。オリジナルの絵柄もわかりませんし、いくつかバリエーションがあるということだけはわかっているのですが」
時に1つから派生した別の姿や同系統の力を持つ別種のカプセルもある、15個目とそれに連なるカプセルなどはそれだ。
そういった物はバリエーションとして
別の姿を持つのなら盤面に応じて使い分けるパターンがあり、その為に絵柄は必須なのだが。
「そもそものバリエーションの内容が再現できずにいます。解析が進めば順次開放できていくかと。少なくても確実にわかっているのは、対象敵対生物の沈静化及び悪性物質の除去に特化している点です」
攻撃手段はあるらしいが、破壊能力については現状解析できた範囲ではそこまで強くない、と。
使い辛いが、破壊能力の解析にもどの道これを使わなければ知る術もない、らしい。
実際に18個目のオリジナルも見せてもらったが想定以上に酷い、“青い結晶体”が中から突き破って出てきている。
明らか異様なそれが妙に頭から離れず、この場をあとにした。
「お待たせしました」
合流場所にアレがやってくる。
「……すぐに戻りましょう。伝達事項があります」
────────
「本部より、狂獣出現の通達がありました」
基地に戻り、すぐに自分らが所属する18番隊に収集がかかる。
他の各隊も同様、部隊内ミーティングが始まった。
「昨年現れた第一狂獣はBBS全体の6割を壊滅させた程に強力でした。その詳細は全く不明、言える事は地球怪獣に本来あり得ない強化・属性付加がされている点」
………………。
「新たに出現した第二狂獣は幸い人が少ない島に滞留中、BBSは総力を挙げてこれを撃滅します」
「本部はこの作戦、イズミに支給されたカプセルの実践投入とデータ収集こそが事態の突破に繋がるとしています」
何故?
「今回支給されたカプセルは、沈静化と悪性物質除去が得意とされています。もしも第二狂獣に現状出せる分を出しきれれば、狂獣に対する切札になる可能性がある。本部の指示は絶対、よってイズミを除く全てはこれを死のうともサポートすること」
「了解」
「承知しました」
「頼みますぜエースさんよ」
「道は作ります」
死のうとも。
18番隊、総勢10人。
全員が、別に生だの死だのにこだわりはない。
だから、この数時間後に自分がいようがいまいが、関係ない。
そういう場所に、自分達はいる。
第二狂獣。
アーダムと命名されたそれは、極めて人型に近い二足歩行のなにかだ。
付加されている属性及び強化内容は捕食能力と推定。
既に島の生態系をほぼ食い尽くしたとされている。
それを踏まえて、内部から破裂させるため爆薬を食わせてダメージを負わせ、新たなカプセルの力で動かない肉片に変える。
沈静化と除去能力でやるのは厳しいが爆薬を食って破裂してるんだ、何したってそうなる。
工程は増えるにせよ、やることに変わりはない。
むしろ、何も残さず食ってくれるならありがたいのだが。
「これより出撃準備、各員の健闘を祈る」
────────
戦車ペオルに乗り込む。
雑な座席に座り各メーターをチェック、エンジン音問題なし、いつもの慣れた空気と振動を感じる。
爆薬を積んだのはこの機体。
どうせ変身したら潰すんだ、丸ごと飲まれても肉片になる前に変身すればいい。
『ゼブル搭乗完了、ペオルとのドッキング開始』
アレは戦闘機ゼブルに乗り込み、こちらに通信を流す。
比翼、2つで1つ。
ゼブルとペオル、双方には致命的な弱点がある。
ゼブルは徹底的に軽量化された戦闘機、高速で動き敵対物を翻弄して潰す事ができる。
だが単独で戦闘できる時間はかなり短い、搭載兵器に重量を使う代わり、燃料の搭載容量が少ないからだ。
ペオルは徹底的に火力と推力に性能を振った戦車、強力なバーニアと自在に動く8本足の先端タイヤで速く敵陣に突っ込める。
だが地に足をつけて戦うこれは戦闘地域への運搬が難しい。
この双方をドッキング、ゼブルにぺオルの推力を回して、ペオルにできない空中移動をゼブルに依託する。
戦闘地域に入ればドッキングを解除し、戦闘行動に入って役目を全うする。
どちらの有用性も残したい、大人のわがまま。
別に改良を進言するつもりはない、不満も何もないからだ。
『ドッキング完了、システムオールグリーン。イズミ、準備はいいですか』
「あぁ」
銃には10発の弾を入れておいた。
これを、どれだけ使うのだろう。
「シナノ イズミ、出撃する」
今日も、自分は引き金を引く。
ー2001年7月7日ー