ウルトラマンマルティス   作:闇夜の月

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 ー本部がある街ー
 ーT-Sエリアー

 ー路地裏ー

 我々の種族はとうの昔に肉体を捨てた。

 理由は単純に肉体を維持するよりも、精神体として生物の夢から生まれるエネルギーを食事とする方が効率が良かったから。
 ……外的要因は、デラシオンやノワール星人によるものが大きかったからだが。

 なのに。

 空気に触れる皮膚の感覚。
 重力に掴まれている感覚。
 重さを受け止めている骨格の感覚。

 この感覚は何万年も生きていて初めて。
 先祖、肉体を持っていた頃を生きていた者達から聞かされていた未知の感覚が降りかかっている。

「……どうして、肉体が生成されたの?」

 重い肉体を引きずるように、喧騒に塗れる明かりある方へ。
 暗がりから出た瞬間、明かりで眼が焼けるように見える物すべてが白くなる。

「おぉー??? おねーさんなにしてんのー???」
「何も着ないで歩いてちゃあだめだよぉー、ほらほらそこ一緒に行こうかぁー!!」

 その間に頭に流れ込む肉欲に塗れた声、空気中に漂うアルコールの成分、皮膚に触れられる感触が過敏になっている肉体を刺激する。

 でも、丁度いい。
 空腹をこれで満たそう。


第2話「夢なくとも呼吸は絶えず」

 

 ー翌朝ー

 

「昨夜、BaELs男性職員2人が本部近辺のホテルで干からびてるのが発見されました」

 

 アーダム戦から2日。

 "元"18番隊は、先日のアーダム戦の損害から見て解体。

 それ以外にも全滅した部隊も多く、自分らがいる「BBS-Tベース」は補填が間に合っておらずだいぶガラ空きになっていた。

 人員整理と再編成のため上からの指示待ちで暇になっていた朝に、そんな一報が入ってきた。

 ただ全員が集められたわけではなく、自分とコレだけの話だが。

 

「幸い、どちらも命に関わる問題にはならなかったようですが。しばらくは身動き取れないほどだそうです」

 

「だからその事件の調査をしろ、だな」

 

「察しがいいようで助かります。現場の状況から、異星人案件と予想されていますが……」

 

「「イブお姉さーん!!」」

 

「おや、今日も来ましたねー?」

 

 アーダム戦終了後数時間で新たに配属された4人の子供。

 まだ機体操作の訓練途中だが、あと数日それを終えれば正式に戦力に加わることになる。

 

「今日もいろいろ教えてよー!」

「今度筆記試験もあるんだー」

 

「よろしい! それでは復習も兼ねてまずはBBSについて説明しましょう! イズミも手伝いよろしくお願いします!」

 

「パスだ、勝手にやってくれ」

 

「コミュニケーションしっかりー。……こほん、では、改めて『おしえてイブ先生!』開講です! 助手、ホワイトボードを!」

 

 意気揚々と赤眼鏡を取り出し、でゅわ! とか言いながらかける。

 それと、助手って自分のことか?

 ……面倒だが放置したらその分別に時間がかかりそうだ、要望通りもはやレトロなホワイトボードを引っ張り出して卓上に持って行った。

 

 ────────

 

 BBS(Brave Blitz Savers)

 

 BaELs、高い技術力で人類を大きく進歩させた企業。

 そこの社長であるサザキ ナギが投資、各国にも呼びかけて結成した防衛組織。

 巨大生物災害や異星人犯罪の鎮圧が主な業務だが、それ以外に孤児院として災害孤児の保護・教育活動も実施している。

 

 各国各都市に基地が設置されており、ここ「BBS-Tベース」はその中でも有数の大型基地。

 BaELs・BBSの合同本部がある日本の中心都市「T-Sエリア」に最も近いここは国内の別エリア基地からの要請にも多数対応できるよう保有戦力も人員も国内一、部隊の数も30近く“あった”。

 

 ────────

 

「先日の狂獣案件の際は現地の基地が機能を失い、予測される被害の規模を鑑みてここの全部隊や周辺基地の部隊が多数動員されました」

 

「でも30個近くもグループがあるのなんでー?」

 

「ふっふっ良い質問です」

 

 ────────

 

 部隊の編成には、個人の技能から振られたクラス(役職)が参考にされる。

 現地での最重要攻撃役である「イポティス」

 重要拠点や対象の守備役である「アミナ」

 長距離射撃など遠距離攻撃役の「トクソティス」

 負傷者看護や兵器類の補給を担う回復役の「セラピア」

 各部隊に必ず1人配置される部隊指揮「ストラテーゴス」

 

 これらをバランスよく編成したバランス型。

 ひとつのクラスに偏らせて編成した特化型。

 怪獣や異星人といった予想外が当たり前な昨今、様々なパターンに対応できるよう本部から受注した内容を考慮してストラテーゴスが編成している。

 ちなみに隊のナンバリングは1〜15番隊はバランス型、以降は特化型が通例。

 

 ────────

 

「私達18番隊はイポティス特化型部隊として、前線に向かってました」

 

「他の人たちはー?」

 

 ………………

 

「あぁーそうですねぇ、かなーり遠いところに行ってしまったんです。えぇ、昇級しての異動です」

 

「「すごーい!!」」

 

 戦死による昇級だがな。

 

「イブ先生! 次は武器について教えてください!」

 

「いいでしょう!」

 

 ────────

 

 全基地共通で配備されている兵装

 

 レプリカントランサー/レプリカントカプセル

 BBSに所属すると必ず各員に配備される基本装備。

 身分証や通信などの機能を選択してホログラムで投映することができる他、BBSが保有する兵装の認証キーにもなる。

 支給されるレプリカントカプセルを装填してトリガーを引けば、適性ランク次第では変身することも可能。

 そうやって変身した存在は、ウルトラマン《巨人型兵器》と呼称される。

 

 ウルトラマン(巨人型兵器)

 活動限界3分(一部例外あり)の制約はあるが、怪獣相当へのサイズ変換、腕力・脚力・耐久力増強、光子エネルギーの使用など強力な力を発揮できる。

 ただし怪獣と直接戦闘することになるためダメージがそのまま反映される他、変身者の元のステータスに性能が左右される場面も多い。

 

 対獣用多脚戦車 ペオル

 火力と推力に性能を振った蜘蛛のような外見の戦車。

 節足動物のように動く8本足で地面を這い、的確かつ迅速に対象を殲滅する。

 ただしその性質から現地への単騎移送は困難。

 

 対獣用戦闘機 ゼブル

 機動力に優れた高速戦闘機。

 空中戦では現行機最強格を誇る性能を持ち、ヒット&アウェイによる攻撃を得意とする。

 ただし徹底した軽量化の末、単独で戦闘継続時間はかなり短い。

 

 それぞれのデメリットを補うため、ペオルとゼブルをドッキングして戦地へ移動するのが通例。

 また武装についてもクラスや部隊によって異なり、人によっては独自のカスタムが施されている場合もある。

 

 ────────

 

「主な兵装はこの通りです。皆さんも必ず触れる物、仕様書とかはしっかり読み込んでくださいね!」

 

「「はーい!」」

 

「ではここで助手から兵装について何か一言!」

 

「別に、ボードに書いてる話で十分だ」

 

「そーじゃなくてですねー? イズミも所属歴10年なるんですから、そういう先輩からのアドバイス的なやつを」

 

「……特にない。足手纏いにならなければなんでもいい」

 

「イズミお兄さん怖ーい」

 

 ほら見なさいと言わんばかりの視線が飛んでくる。

 人員が入れ替わるこれを機にコミュニケーションを取れるようにしろ、と言われたが。

 

「好まれてない奴から教えられたって仕方ないだろ、飲み込みできるわけがない」

 

「またそういうことを言う。ごめんなさいねー、この人ほんと不器用で」

 

「イブ先生の解説わかったから大丈夫ー!」

「ありがとー!」

 

「いえいえ、お力になれたなら良かったです。それじゃ私達もそろそろ調査任務へ向かいましょう」

 

 子供に別れを告げ、兵装を整え目的地へサイドカーで向かった。

 

────────

 

 ーT-Sエリアー

 

「しかし、まともに情報がないのは困りましたね。何から始めたものか」

 

「そういえばまだ詳細を聞いてないな。事が起きたのは何時だ」

 

 干からびて発見されたのが深夜2時。

 ホテルの監視カメラに被害者が映ったのはその前の0時。

 つまり0〜2時の合間の出来事というわけだが。

 

「ただ監視カメラには被害者以外の人も映っていたらしいです。若い女、だとか」

 

 犯人確定じゃないか。

 

「しかしその女の行方がわかりません。以降その女の姿は何処のカメラにも映っていない」

 

 まだホテルに隠れている可能性も0じゃないな。

 

「自分がホテル内部を調べてくる。そっちは聞き込みを進めてくれ」

 

「わかりました。異星人案件の可能性が高い件です、無茶はしないよう」

 

「どうせ無茶でもやれというのが、上の方針だろ」

 

「まぁそうですけどね。なら死ぬにしても答えくらいは残しといてくださいね」

 

「了解」

 

 ────────

 

 BBSによる現場検証として事件が起きた部屋へ案内され、生々しい部屋を見る。

 ……やはり自分が来て正解だったか。

 予想はしていたがアレが見るには適してない、血ではない体液が飛び散ってるなど、別方向でグロテスクな荒れ方をしている。

 肌にまとわせたくもない湿度、混濁している臭い……屍の溜まり場とは違ってるが、長いこといるとその内に胃液が上がってくる。

 

 だがそこからわかるのは、速攻で干からびたわけではない事実、2人分だったにせよ無造作に捨てられているゴミの数々からして1時間は確実に盛んだったな。

 それ以外の状況も見て回る。

 被害者の荷物はそのまま、漁った形跡もないことから物取り目的でもない。

 ハンガーにかけられていた服は、BaELs内のそれなりに高い位を表す勲章付き男物2着のみ、女のがないのはなぜだ?

 監視カメラや盗聴器の類がないことは、レプリカントランサーにインストールしておいた探知機で確認済。

 殺傷性能のある凶器や血痕は残っていない。

 

 仮に犯人が地球人と異星人双方の可能性を考えても、犯行動機はなんだ?

 

 髪の毛などから女の素性はそれなりにわかりそうだが……それらの解析なんかせずともこの中で完結する話か、何処からか気配がする。

 混沌とした室内に、まだ新しい水の臭いが紛れていた。

 おそらくは直前までシャワーを使っていたかなにか、やはりホテルから出ずにこの中にいる。

 銃を手に隠れられそうな場所を片っ端から開けていく。

 

「ここが最後」

 

 浴室の扉に手を伸ばした、瞬間。

 内部から勢いよく開けられた扉から、白い素肌を晒した女の姿が飛び出してきた。

 その余りにも無防備な姿に目が眩んだのか引鉄を引くのが遅れた、今から撃っても避けられる。

 少なくてもこちらに敵意を向けている相手、押し負ける前に制圧しなくてはならない。

 腕を女の首に打ちつけて濡れた浴室にそのまま押し返し、

 

「がぁっ──」

 

 滑りやすい床を利用して足を払って転倒させ、そのまま身動きを取らせぬように組み伏せた。

 その姿をまともに見たのはこの体勢で一呼吸できてからだ。

 薄紅色の長い髪、翠色の瞳を持つ切長の目、人間を装った──

 

「……あなた──」

 

「答えろ、何者だ」

 

「……こちらのセリフ」

 

「こちらは仕事だ。それに、この状況下で一番不審なのはアンタだ」

 

「そう。そう見えるの」

 

 異星人だ。

 

「早々に仕事が終わって幸いだ、これからアンタを連行・収容する」

 

「状況を聞かずに相手を一方的に閉じ込めるのが、この星のやり方?」

 

 自分にだけ罪があるわけではない、と。

 

「ならば聞く、この部屋で男2人を喰ったのはアンタで間違いないか」

 

「半分イエス。夢から発生するエネルギーだけは食べた、肉体には自分から手を出していない」

 

「ならば干からびていた理由は?」

 

「勝手に果てただけ。果てて付け入る隙があったから睡魔を与えて、エネルギーを食べた」

 

 ………………そういうことか。

 情けな過ぎて思わず眉間をおさえる。

 大人の過ぎた遊びでしくじった始末を押し付けられたわけか。

 

「……とりあえず場所を変えて聞き取りはする。本当に罪があるか否かも含めて検討しなくちゃならない」

 

「その方がまだマシ」

 

 ……しかし。

 まずは服を着せなければ、余計な火をつける。

 

────────

 

 サイキュラス星人

 

 こちらのデータベースに残るわけもない、肉体が絶滅した種。

 

 とある兵器によって、奴らは自分たちの星とそこでしか得られなかったエネルギー源を失う。

 肉体の維持や種の存続には、元々有していた能力である「精神体となり生物の夢に寄生する力」を利用してエネルギーを得るしか道はなかった。

 しかしそれ自体も効率は悪く、夢の改変や永久に眠らせる術はあっても他種族に依存する以上限界がある。

 追い討ちをかけたのは、その能力に目をつけた別の異星人により同族の多くが切り刻まれ、ただでさえ減りつつあった種はさらなる減少傾向に。

 肉体を残すか精神体だけでも生きながらえるか、究極の二択。

 奴らは後者を選択し、残る種の全てが精神体となり肉体を放棄した。

 その精神体は今でも宇宙中を彷徨い、寄生虫の様に夢の中で子を産み増やし続け、肉体はなくとも世代交代をする程度には種を存続させている。

 

 その中の1人が、今ここにいる。

 

 ────────

 

 ー本部ー

 ー面談室ー

 

 本部に連れていき、奴の素性について聞き取りを行う。

 ちゃんとした服を着せて相応の身形にした上で、だが。

 

 奴の名前は、サイキュラス星人 ルルセ。

 奴はワームホールから落ちてきた漂流者だった。

 

「ふーん……」

「…………?」

 

 珍しく、隠さず眉間に皺を寄せているアレ。

 

「しかし、聞き込みだいぶ進んでわーいって思ってたのに、本人捕まえてしまうとは。流石ですねー」

 

 妙に皮肉めいている。

 曰く、酔っ払いが路地裏から出てきた女をナンパして連れて行っただとか、男達はアーダムが出た頃合からハシゴしまくる飲んだくれ達だったとか。

 その碌でもない話はこの異星人の言葉の裏付けになった。

 

「最終的には上に突き出すか射殺するかどちらですが。って、選択肢を残してる時点で答えはひとつでしょうか」

 

「異星人なのは違いないが、即射殺するまでの罪は犯してない。強制送還が妥当だ」

 

「意外な回答ですね、そういうのは考えなしに撃つものかと。まさか、惚れたわけじゃありません、よね?」

 

「断じてない」

 

「ならばよし。しかし、サイキュラス星人……。これまで多くの異星人が観測はされてきましたが、ここまで未知の異星人がまだいるんですねぇ」

 

「地球では夢魔と呼ばれることが多い。同胞が言っていた」

 

 夢魔?

 

「夢魔、夢の魔物。随分と可愛らしい"物の怪"ですねぇ。もしかしてその化けの皮を剥いだら出てくるのは羊です?」

 

「簡易の擬態時はその姿を使う同胞もいたらしいが、もうそれすら久しい世代。……けれど、この星はおかしい」

 

「おかしい?」

 

「この星に降り立った瞬間、肉体が即座に生成された。それだけのエネルギー、我々にはもう馴染みがないと聞いてきた」

 

 それだけのエネルギーは今は亡き母星にしかないだろう、と。

 

「我々よりも上位の概念がこの星に住み着き、それ以下を等しく管理しようとする……強制力のようなものを感じる」

 

 強制力、か。

 

「ソロモンの日に関連した未知のエネルギーが、まだこの星にあるのかもしれませんね」

 

「ソロモンの日。この星に落ちた隕石群の話か?」

 

「異星から流れてきたにしては、よく知っている」

 

「あの地球人たちの夢で見た。幼い頃に見て、脳裏にこびりついていたのだろう。……あの規模、星全体に影響を及ぼした大災害だったのではないか?」

 

「私達も見たわけじゃあないですからねぇ。ただ、その余波であなたのような漂流者や侵略者が今でも来るとなると、規模感は想像つきます」

 

 …………。

 

「だが同時にこう思った、あれは人為的に引き起こされた事象じゃないかと」

 

 ……なに?

 

「……根拠は」

 

「あれだけの隕石群が一斉に来るとは考えにくい。巨大なひとつが落ちてくるならまだしも、あれは数が多過ぎる。しかも、その全てが"アステロイドベルトから"来たのだろう?」

 

「らしいな。数に関しては学者も総じて未だ首を傾げてる話だが──」

 

 

「この宇宙のアステロイドベルトは、自分が元いた宇宙と繋がりがある」

 

 

 ……?

 

「コスモスペースで起きた戦乱、その首謀者が討たれたのがこの宇宙のアステロイドベルト」

 

 コスモスペース。

 自明なことである多次元宇宙、その中のひとつだろうが。

 

「………………へぇ」

 

「かつてそこを荒らした奴がいると聞いている。COSが情報提供を求めていた」

 

 COS?

 

「なんだ、それ」

 

 “Cosmic Order Society(宇宙秩序協会)”。

 【宇宙正義】デラシオンに対する抑止力として新設された組織、らしい。

 数多の星々の者達によって構成されているというそれは、侵略行為の阻止や災害救助などを行ってるそうだ。

 

「異星人同士によって構成された組織。随分と仲良しこよしの世界だな」

 

「その創設者であり現会長はあなた達と同じ人間だ」

 

 …………。

 

「随分と慈愛に満ちた人がいたんですねぇ。そんな余裕があるなんて、ところ変わればというやつでしょうか」

 

「幸せな頭をしているの間違いだ。そんな遠い世界の話は正直どうでもいい」

 

 話の本筋からズレている、今問うべきはそこではない。

 

「その肉体を作った強制力のようなもの、それがなんの由来かも正直言ってどうでもいい。問題は、お前がこの星にいて有害か否かだ」

 

 サイキュラス星人の特性を聞く限り、肉体を持っているだけでデメリット。

 もしコイツが居続ければ、同じ被害が増えるのは確実。

 なら、さっさとこの星から出てもらうか死んでもらうしかない。

 

「有害、だな。理解している」

 

「特に反抗する意志がないなら、本部を介して宇宙へ強制送還だ。居られるだけ迷惑だからな」

 

「賛成です。上に連絡取ってきますねー」

 

 アレは部屋からスタスタと出ていき、連絡しに行く。

 これでこの件は終わり、傍迷惑な怪獣災害にならずに済んだなら良い。

 ……こっちが一息つけた時を見計らってか、今度は向こうから質問が投げられる。

 

「……あなたは、どれだけ夢を見てないの」

 

「夢?」

 

「組み伏せられた時、あなたの目を見てわかった。あなたは毎日薬を飲んで、夢を見ない深い眠りについている」

 

 …………。

 答えは正、だがコレに言う理由はない。

 

「夢へ誘うのは我々にとって当たり前の催眠術。それが効かないのは、眠りの概念がない生物しかいない。……あなたは人間なのに、その域にいる」

 

「夢なんか見なくても、死ぬわけじゃない」

 

「それはウソ。あなたはとっくに壊れている。……“夢を見たくないからまともに眠りたくない”、違う?」

 

 ………………。

 

「わかったようなことを言う。人の中にズカズカと入り込むような真似をするなら、精神体だろうがなんだろうが殺す」

 

「そう。わかった、これ以上は追求しない。けれどこれだけは伝えておく」

 

 

「その心の隙間のせいで、良くないものに魅入られている。気をつけて」

 

 

 

 

 サイキュラス星人の身柄を本部の何かしらに引き渡す、今日中の強制送還は確実だそうだ。

 もっとも、送還というより放流するのが表現としては正しいのだろうが。

 レプリカントランサーを翳して、サイドカーのエンジンをかける。

 

「しかし、早く終わって良かったです。今回干からびた職員は別途追求にはなるとは思いますけど、大事には至らなそうで一安心」

 

「それで、本部から何か言われてるのか」

 

 連絡に行ったアレは、引き渡しの段取りを決めているにしては時間がかかっていた。

 ……内容は、想像つくが。

 

「Tベース全体で部隊全てを編成し直すことが正式に決定しました。なので、これから自分直下以外に未帰還部隊の編成案レポートも作成せねばならんのです」

 

 見るからにめんどくさい、という顔をする。

 

「こっちは大事なっちゃいましたねぇ、いやまぁ仕方ないですけど。今回の狂獣による損害、前回よりはマシにしても他所の基地は誰も戻らなかったとこも多かったようで。育成期間も考えたらしばらくは何処も人手不足です」

 

「それでもやれが上からのお達しだろう。余り物でやるしかない」

 

「ですねー」

 

 *******

 

「…………」

 

 慣れてきた肉体を動かして、引っ張られる拘束具に従って歩く。

 強制送還、という名の放流ならば好都合だ。

 仮に肉体が死んだとしても精神体に戻れる。

 この星に満ちてる瘴気はまともじゃない、魔性の力を持つ者は長く居るのが毒だ。

 

「……嫌な空気だ」

 

 ふと、吐き出した言葉。

 それが原因なのかわからないが、拘束具を引っ張っている男が足を止める。

 

「ほう、夢魔には些か強過ぎるか」

 

 赤髪の男がその赫い眼をこちらに向ける。

 血の色、様々な血を取り込んできた赤黒く濁った色。

 太陽に当たっていないであろう青白い表皮を除いて、この男を形作る色は全てそうだった。

 本性を表した瞬間に漂ってきた鼻を貫く血の臭い。

 

「少々喋り過ぎたな夢魔。この世界の人間に要らぬ知識をつけてはならない」

 

「貴様がこの瘴気の正体、ではないと見た。主人に尾を振る飼い犬程度か」

 

「寝言なら夢魔らしく夢の中で言え。気に食わん」

 

 ……あぁ、ダメだな、これは。

 おそらく、死ぬことができなくなる。

 否、死なせてくれない肉体と魂に変生させられる。

 

 コイツは血肉を喰らう吸血種、魂を犯す邪鬼。

 

 食屍鬼、吸血鬼──

 

 

 

 

 ──死徒、だ。

 

 

 

 

 *******

 

 日は沈み、暗く。

 その帰路、を逆行。

 

 サイキュラス星人が急に暴れ始めたらしい。

 道理がない、わからない。

 アレは実際さっさと放り出されても射殺されても、どちらでも良かったはずだ。

 反抗する意味はないのに今になってどうしてか。

 

「本部でやらかされると厄介ですねぇ。私は避難誘導を、イズミはサイキュラス星人の討伐に」

 

「あぁ」

 

 幸い、現場は本部と異星人処置用別館の境にある薄暗い5階連絡通路。

 壊されてもまだ復旧は容易い場所だ。

 1人、銃を片手にサイキュラス星人の様子を陰から見る。

 

「uuuaa……」

 

 ……なんだあれは。

 奴に着せた服は首筋から滝のように流れた血で汚れている、首を斬られた? 違う──

 

 噛まれている。

 

「冗談じゃない」

 

 おそらく止めに入ったさっきまで血が通っていたであろう何か達が血を撒き散らして辺りに散らばっている。

 今にでも吐き気を催す澱んだ血の臭い。

 “あの光景を想起する”がここは戦場じゃない。

 “あのハイエナ共”がいるはずがない。

 

 サイキュラス星人の脳天を撃ち抜く。

 

「t.a……aaa」

 

 効いていない。

 もう1発、1発、……血こそ出ても効果なし、これ以上は無駄弾。

 ……異星人だから効かない、違う。

“あぁなると死なない”、元の種族が何だろうと。

 

 あの動く屍を、自分は知っている。

 

 やがて脳天を撃たれ噴き出した血がぼこぼこと膨れ上がり、屍を包み込み──

 

巨人に変容した羊(グールインキャラス)が出現する。

 

 通路の天井と床を破られ、崩落に巻き込まれた。

 

「くっ……!」

 

 瓦礫と共に真っ逆さまに落ちていく。

 このままだと、下でミンチだな。

 そうなる前にレプリカントランサーにカプセルを装填、トリガーを引いた。

 

 

「ティァ……!」

 

 

 平手を前にして巨大化、その勢いで羊を突き飛ばし本部と街から遠ざける。

 さっさと殺す、有害以外の何者でもない。

 

 突進してくる羊を正面から受け止め、その勢いのまま投げ飛ばす。

 しかし無駄に身軽な羊なのか、上手く着地し反撃の回し蹴りを喰らった。

 こちらも反撃でブレードヴァレットを撃つが避けられた上、歪な口を開いて向かってくる。

 あれは噛まれたらアウト、リバースパイクで抑え込むが……。

 身軽なステータスに不釣り合いな剛力に押され続け、こちらの筋力的に長くは耐久できないのは明らか。

 リバースパイクごとマルブートストライクを口内にぶち込み、どうにか距離を取る。

 だが至近距離の光線技でも多少怯む程度、いや、“一瞬頭が吹き飛ぶ程度”ですぐに持ち直す。

 

 どうしたもんか。

 

 脚力自慢を見せつけるかのように周囲を飛び跳ね続け、何度も攻撃を仕掛けてくる。

 こっちの最高速度でなら追走・迎撃が可能だが、長引けば無駄に消耗するだけ、ならば。

 その場で高速回転、ブレードヴァレットの乱れ撃ちで足を止めて即座に蹴り込む。

 そこへ素早くマルブートストライクの連射、再生が追いつかない速度で肉を削る。

 

「gauuuu‼︎‼︎」

 

 いや、それでもダメだ。

 

 コイツの再生能力、この程度の技で肉を削るだけでは上回れない。

 方針を変え、浄化技であるブルームーンカタルシスを浴びせる。

 効果は、ない。

 浄化の程度はよく知らないが、効果がないとすれば今は無意味なのは確定。

 使える技はないのか、明らかに火力も何もかも不足している。

 

『聞こえますかイズミ!!』

 

 通信、息を切らしたアレの声がする。

 

『近隣の避難は完了、状況を視認! 周辺基地からウルトラマンが向かってます、堪えて!』

 

『火力は足りるか』

 

『火力? ……まさか、一瞬で消し炭にしないとダメなタイプですか!?』

 

『数を揃えたところでランクが不足してるようなら詰みだ』

 

『援護部隊の筋力や光子のステータスは……、全て標準のBランク……!』

 

『帰らせろ、邪魔だ。……まぁ、自分もそうだが』

 

 それなのに来てしまった増援のウルトラマン5体は、統一性がないタイプばかり。

 光線を一斉射したところでやはり再生能力を上回れない。

 

『なんだコイツ! 全然効いてないぞ!』

『も、もう一度!』

『撃て、撃てぇぇえ!』

 

 羊は攻撃をものともせず進撃を続け、増援のウルトラマンに噛みつき、吸血する。

 

『や、やめ、う、ぁ、ぅあぁ……』

 

 青かったカラータイマーは一瞬で消灯し、ピクリとも動かなくなる。

 

『チッ……』

 

 次々と血を吸われて同じ末路を辿っていく増援共、吸血された以上ほっとけばおそらく羊のお仲間になる。

 

 仮に阻止をしようとも作り物とはいえウルトラマンの血を吸ったコイツは、ブレードヴァレットもマルブートストライクもついに一切無意味になる程に強化されていた。

 おそらくはAランク以上の火力は必要。

 マルティスの筋力も光子も標準以下である以上、コイツを討つには足りない。

 

『火力のランクがAを超えてる周辺のウルトラマンはいません。増援に来てもらうにも時間も足りないし、本部近くでそんな技を使えば……!』

 

 自分のカラータイマーも鳴り始める。

 

 

『その力は、月の光だけじゃない』

 

 

 唐突に頭の中で声がする。

 

『太陽の光も、その中にはある』

 

 テレパシー、というやつか。

 太陽……?

 

『イズミっ!!』

 

 アレの声で集中力を取り戻し、羊の噛みつきをギリギリ回避する。

 激しく点滅するカラータイマー、もう時間はない。

 

 太陽の光とやら、本当にあるんだろうな?

 右腕に生えてるクリスタルに力を込め、空に掲げる。

 途端、身体が燃えるように熱くなると同時に周囲に赤い太陽の光が身体中を駆け巡り、マルティスの姿が青から赤へと変わった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ステータスが更新されている。

 

 固有名称 マルティス

 現形態名 エリュトロス

 身長47m

 体重4万2000t

 基本活動時間 3分[標準]

《警告 残時間 1分》

 

 STR(筋力)A++

 PHO(光子)A+

 CON(耐久)A

 DEX(敏捷)D

 

 マルブートストライク[威力大 破壊光線]

 レッドソーラーエクリクスィ[威力大 破壊弾]

 ブレードヴァレット[威力小 連続斉射可能]

 

 ……!

 

 羊は太陽の光に目が眩んだのか、動けなくなっている。

 いや、コイツは陽の光に弱いのか? どんな攻撃も寄せ付けなかった肉体が焦げついていた。

 

 肉体のバランスは悪い。

 身体の右側にクリスタルも筋肉も集中していて、肉で出来たガントレットのようになっている。

 ステータス通り、スピードは大きく下がる構造はしているが──

 

 クリスタルに陽の光が発現、その光を放ったまま羊の顔面を殴り、空高くに打ち上げる。

 

 ──これだけ力を偏らせた分、その一撃は重い。

 

『……太陽の光……』

 

 鈍重な身体で空を飛んでる暇はない。

 右肩のクリスタルから発現させた陽の光を右腕、右手へと流し込んでそれ外へ放出、巨大な赤い光球を作り出し、落ちてくる羊を目掛けてそれを全力で殴り飛ばす。

 

 レッドソーラーエクリクスィ

 

 羊は光球を喰らい、空で塵も残さず大きく弾けた。

 

 …………とりあえず、戦闘自体は終了。

 

 あとは噛まれた増援も焼き払えば始末共々終わり──

 

 ……?

 

 5体のウルトラマンは既に人間に戻っていた。

 それどころか、吸血された後なのにも関わらず起き上がっている。

 本人達が一番動揺している様子だが──

 

『殺す必要なんてない。穢された部分のみ斬り落とせば間に合ったからな』

 

 …………。

 

『誰だ、お前』

 

『さぁねぇ。でも、怪しいもんじゃないさ』

 

『人の頭に話しかけてくるんだ。十分、不審人物だ』

 

『はは、そりゃ確かに? 怪しいか? ま、精々頑張れよ、“後輩”』

 

 その言葉を最後にテレパシーが切れる。

 エネルギーが切れ、変身が強制解除したからだ。

 

「…………」

 

 パキン、と。

 手元のカプセルが割れていた。

 新しい力を発現した負荷に耐え切れなかったのか。

 データは取れたんだ、すぐに新しいものが来る。

 

「イズミ!」

 

 アレが駆けてきた。

 

「良かった、勝てたんですね。……でも結局、殺しちゃいましたねぇ、あの人」

 

「妥当だ」

 

「まぁあんな暴れたらそうですよね。って、カプセルもう割れたんです? ちょうど本部にいた時で良かったです、すぐ新調しましょう!」

 

「あぁ」

 

 *******

 

「u、gう……AAa……あ……」

 

 肉体が蒸発、精神体となってもすぐ肉体が生成された。

 建物の陰、灯りは月明かりしかない暗闇の中。

 独り寂しく、身体の中で血が蠢き、汚染された魂と肉が何度も朽ちては蘇える、苦痛に悶える。

 

「いい傀儡を手に入れた」

 

 あの赤髪の男が再び目の前に現れる。

 

「死徒は特定の条件でなくては死なない。そして夢魔である貴様は肉体が死のうと精神体が死ななくば蘇生する。犬として、お前は有効利用できる」

 

「あ……a……」

 

 男の手が私に伸びてくる、ただでさえおかしくなりそうな頭を弄ろうとしてくるように。

 

「たaす、け……t」

 

 

 

「悪趣味なことをするなぁ?」

 

 

 

 その男の手が、スパンと斬れて宙を舞う。

 

「なに……!?」

 

 それに気を取られた男は、何者かに蹴飛ばされ壁に叩きつけられた。

 

「貴様、何者だ……! いや、この前見ていたのは貴様だな……!」

 

「ははは、この前はどうも? なーに、名乗る程のもんでも、怪しいもんでもないよ。なぁ、ピックマンさん?」

 

「a……?」

 

 赤髪の男をピックマンと呼ぶ、もう1人の男。

 黒いロングコート、銀色のメッシュが混じる黒髪、右腕につけた見慣れない銃剣、そして感じる気配。

 ……この男は間違いない、“本物のウルトラマン”、だ。

 

「いやぁ本部にしちゃセキュリティが甘い。君みたいな役割を持ってる奴は、もう少し隠匿しとかないとだろ? それとも、君もやはり使い捨て程度なのかなぁ?」

 

「言ってくれる、気に食わん」

 

「おっと図星ぃ?」

 

「貴様は殺すに限る……!」

「おいおいいきなり過ぎやしないかなぁ!」

 

 ピックマンの血肉で出来た槍と、もう1人の男の剣がぶつかりあう。

 男は槍をいなし、すぐ装置を剣から銃に切り替えてピックマンへ光弾を撃つ。

 

「たかが光弾で……!」

 

「って思うだろ?」

 

「……!?」

 

 ピックマンの身体からわずかに瘴気が放出され、膝から崩れ落ちた。

 

「君レベルとなると完全に浄化するのは無理だけど、足止めにはなる」

 

「貴様は……!」

 

 男は装置から弾倉らしきパネルを引き出すと、そこにはメダルが既に1枚。

 

“ウルトラマンコスモス ルナモード”

 

 自分がいた宇宙に存在する、光の戦士。

 そこに追加で、“コロナモード”、“エクリプスモード”を連続で装填、トリガーを3回引くとメダルが装置に流し込まれていく。

 

「動かないで、今すぐ楽にする」

 

 装置を剣に再び切り替えると、そこから伸びた金色の光の剣で斬りつけてきた。

 途端に身体が楽に、血が浄化された……?

 

「じゃ、また今度? 飼い主にもよーく伝えておいてくれよ?」

 

 男は自分を抱え、大きく飛び跳ねて遠くへ。

 

「あなたは、誰だ」

 

「名乗る程のもんじゃないと言ったろう?」

 

「コスモスペースのウルトラマン、だな」

 

「おっとバレてる? ……って、君、サイキュラス星人だったっけ。いやぁ、君の同族の力には昔、こう、色々世話になったな」

 

「好きな相手の夢でも見たか」

 

「あん時はほんと大変だったからな!? ……ま、今となっては笑い話だがな、お互い」

 

 男は不敵に笑い、人の気配がしない場所に降り立つ。

 

「しかし、君達が肉体を作らされる程とは。やはりこの地球は相当なものらしいな」

 

「あぁ。この空気は嫌いだ」

 

「それに穢れは浄化したとはいえ目をつけられたからな。目立つようなことはしない方がいいし、無茶は禁物。そこでだ、俺に協力してみるってのはどうかな?」

 

「名前を聞いてからだ。はぐらかすなら断る」

 

「答えれば協力してくれるわけだ、いいだろう」

 

 

「俺はX(イクス)コスモス。COSの会長をやらせてもらってる」

 






ーMaterial 3ー
「COS(Cosmic Order Society)」

 ある戦いの際に信頼を大きく失った【宇宙正義】デラシオン、宇宙警備隊やデラシオンに属する“ウルトラマン”の活躍によりその信頼を取り戻しつつある。

 だが、宇宙正義に反抗する存在や悪意を持つ者達の手によって引き起こされる戦いは消えることはなく、その抑止力として新設された組織が“COS”。

 ギャシー星人やバルタン星人など数多の星々の人々によって構成され、侵略阻止や災害救助や復興支援を行っている。
 時に宇宙警備隊やギャラクシーレスキューフォースとも連携・協力して事件に対応することもあり、“コスモスペースの宇宙警備隊”とも言える存在。

 創設者であり現会長は、X(イクス)コスモス──

 ⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎である。


 ー次回ー

「その力はなんのために」
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