慟哭。謝罪。それで、どよめき。
モモとの再会により少々感傷的になり、イオリの剣幕をまともに取り合っていた。しかし、これはあまりにも変だ。自虐にも程がある。イオリのムードに感化され、杏子は逆に冷静になっていた。
「いや……いいよ。そんな……そんなに、謝らなくて。」
「それじゃ報われないだろ」
イオリの目は、杏子を捉えているようでそうでない。虚。つまりは、現実を直視していない。
すると、イオリがぱっと杏子から離れた。2、3歩たじろいだかと思えば、目線と共に木の床に擦り落ちた。
「それとも、そうだな、そうだ。だからさ、俺はもうこの家を出ていくよ。あとは二人でやれ。」
うわごとを繰り返す最中、声のトーンが、変調する。ノコギリのように掠れ、しかし確かな理性の籠るそれから、急激に朗らかな物に変わっていった。
「だから……そうじゃなくて!いいって!ってか、無理に決まってんだろ!?そんな、神様でもねぇんだから!」
それができるからおれは
「……そっか。そうか。そうだったか。ごめんね。ちゃんと、苦しまなきゃね。見ないとね。黙れよ。気持ち悪い。」
またしても、トーンが変わる。意思のないマシーンのように、自罰の言葉を連呼する。
「……」
杏子は頭を抱え、微かに息を吐いた。おそらくこれには、何を言っても無駄だろう。何を言っても自虐に帰着する。では、どのようにこの場を収めれば良い?
「困ってる?」
イオリが嘯く。
「……ああ。」
と杏子。
「……ごめん。気持ち悪いよね。でも、赦してくれ。今はまだこうでいたいんだ。」
「……」
「こうでもしなきゃ、おれの生きる意味がないんだから。」
そうして彼は、自分を慰めるように。愛するように、その、自分の細身を抱いたのだった。
「な……るほどね。」
一通り話が終わった折、おもむろにさやかは相槌を打った。腹の底からひり出したように重々しい。杏子はというと、その空気感を嫌い、ぽりぽり頭を掻いて誤魔化していた。
「今はもうこんな感じじゃないんだが、まあ……初めて会った時はとんでもなかった。」
「だろうね……私今引いてるもん。イオリってそんな……なんだ。」
「だから、さやか。アタシは今日、イオリに謝るよ。自分のやったこと、全部吐いてさ。なんて言うかな、アイツ。」
杏子は、笑った。いや、嘲った、というやつか?自分を嘲ったところで終わらない自虐に包まれるだけなのに。やめてくれ。
「……嫌うかな。アイツ。」
何言ってんだ。俺のせいだ。その苦しみは、俺が見惚れたせいだ。
「だからさやか。お願いだ。一言でいい。いってらっしゃいって、アタシを……肯定してくれ。それだけでいい。」
さやかは直感、あるいは啓示よろしく悟った。この返答は運命を変える。この返答は、世界を揺るがす。それ以上に、一人の友人の生死を分ける。決して健全でない熱が身を包んでいた。
「杏子」
「頼む。」
両者、短く受け応える。真摯に見つめられたさやかは、杏子に───
「……はあ。」
その光景は、全てイオリに見られていた。三滝原市の監視カメラ映像は、全てリアルタイムでイオリにフィードバックされている。だから今も、こうして自分の部屋で鬱に打ちのめされているのだ。
椅子に腰掛け、体のどこも痛くない。けれど心はちっとも休まらない。
「馬鹿いってんじゃないよ」