少年少女よ、大人になれ   作:四苦八苦

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8話

放課後、パトロールをしていたマミ、まどか、さやかの三人は廃墟から飛び降り自殺をしかけていた女性を発見した。女性はマミの魔法に救出され、今は安静な状態にある。魔女の口付けから魔女が近くに潜んでいる、そう推察したマミ達は廃墟の中へひそひそと入り込む……

 

というのが、本来の筋書きだ。ここでの変更点はパトロールの面々に杏子も含まれていること。改変により見滝原に帰ってきた杏子までこの場面に登場した。

 

して……今、彼女らは俺を待っているらしい。マミからのメールに速攻で5分足らずで行くって返信したけど5分じゃ遅いのよね。普通にあいつら1分で逃げちゃう。でもここからあっちまで1分もかからない。縛りに縛られてんだ、瞬間移動くらいの自由はなくちゃ困る。

 

「えー格好ヨシ、エヴァヨシ、『変声ヨシ。うん、いけるね。』

 

自室で装備を整えた後は旧NERV本部の大穴までのランニングだ。戦いに比べればこの程度の運動はへでもないが、やるぜやるぜって感じがしてくるから個人的には好きだった。

 

この褪せたヨモギ色の廊下も後何度見れるのかね。寂しいなあ。

 

『とか何とか言ってたら到着だあ』

 

っと危ない危ない。時速40kmくらい出てるから油断してると真っ逆さまに落ちてしまう。あれ怖いんだよね。踏み外して落ちるのと自分からひょいって落ちるのじゃわけが違う。重力にひっぱられてな、体が制御できねんだ。最初にやらかした時は頭からいったもん。頭だよ頭。普通にもげるからね?でも懐かしいな、あの時マミめっちゃ笑ってたな。

 

『MAGI、行ってきます』

『いってらっしゃい。』

 

はい、せーのっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏子とマミさん、それからエヴァの中で誰が一番強いんですか?」

 

不意に訪れた待ち時間をさやかは持て余し、何でもない質問をした。杏子はチュッパチャップスの袋をピロピロ開け、マミはエヴァに連絡を取ったところだった。

 

その質問に二人は迷うことなく断言した。

 

「エヴァね。」

「エヴァだな。走って斬って無敵バリアで押しつぶす、とんでもねえ奴だよ。」

「無敵バリア……?」

「何それ、チートじゃん!最強無敵のエヴァさんってこと!?」

 

まどかは若干の困惑、さやかはインチキに対する驚愕、といった反応だ。それも当然だろう。イオリはATフィールドを扱うことができ、そしてこの世界にATフィールドを自覚するきっかけはない。故にイオリの持たされた力は比喩抜きで無敵の壁となり、全てを拒絶するのだ。

 

この世界がまともであるならば。

 

「ただ、完全に無敵ってワケじゃねぇ。見て、どの方向に、どのくらいのバリアを作るかとか決める必要があるらしい。面倒な手順踏んで、その見返りとしてのズルなんだとよ。」

「そ。」

 

 

 

 

 

 

まどかは驚愕した。無敵バリアは、まあわかる。そういう魔法もあるだろう。だが、杏子が槍、マミが銃に対して、エヴァは……何?なんと言うか、世界観が違う気がしたのだ。大口開けてびっくりするまどかを見て、杏子は抑えきれずにくっくっと目を瞑って軽く笑い、話を続けた。

 

「あとあいつ、アレだ。血を触媒だの何だのして腕生やしたりすんだよ。アタシらが魔法ならあいつは無法。魔女との戦いならアイツが一番だろ。」

「そうね。……ここだけの話なんだけど。正直、彼がいれば死ぬことはないかしら。」

 

その続けたマミにほう、とさやかは好意的に反応する。死ぬことは無いとわかったからだ。エヴァさえいればどうとでもなる。その認識が、魔法少女契約のハードルが大きく下げたのだ。

 

そんな迂闊な考えを見透かしてか、マミは再度警告する。

 

「美樹さん、エヴァは来れない日もあるの。魔女退治は基本はペアだけど、昨日みたいに偶然入り込んじゃった時は一人でどうにかしなきゃならない。……まぁ死なないとか言っちゃった私が言うのも何だけど、本当、よく考えて。一生残る選択だから。」

「そりゃ十分わかってますよ、マミさん。」

「ならいいんだけど……」

 

どことなく楽観視しているさやかに対してマミがしどろもどろになっていると、廃墟の正面入り口からぷらぷら手を振ってエヴァが歩いてきた。

 

『はい、おつかれさん。』

「おーエヴァ、おつかれー。」

『っとー……まどか、だっけ君。言い方悪いが見込みなしって聞いてたんだが……』

 

手のひらを上にしてまどかを指し示すと、まどかはほんの少しビクッとした。昨日のアレが祟ったのか、語彙が強かったか。苦手意識が染みついたようだ。

 

「私はその、ついてきただけです。魔法少女になれないのは知ってるけど、ちょっと気になって。」

 

やっちまったと内心エヴァは思いつつ、リカバリーするため指で丸を作り気さくに答え、要項を全員で再確認する。

 

『オッケー、了解。予定通り俺は見学の保護。二人は道中の使い魔、やっちゃって。』

「よしきた!」

 

元気よく杏子が立ち上がると、軽く背伸びしながら結界のドアの目の前へ向かう。

 

『ほら行けちっちゃいものクラブ。君たちは俺が死んでも守るさ。』

「……ふふっ、わかりました。」

「はいっ!」

 

抑揚なくボケを挟んでくるエヴァが、どうにもおかしくって。すっかり安心したまどかと、やる気を漲らせるさやかは軽い足取りで階段を登った。

 

『先輩、行きましょっか。』

「了解。さ、今日も一日張り切りましょう。エイエイ?」

 

ぐっと握りしめた拳を掲げたマミにエヴァはまたか、といった様子で歩を止め、同じように拳を掲げる。

 

『……オー。』

「満足。毎度ありがとうね。」

『……ふっ』

 

いくら機械の合成音声であれど誤魔化しきれないくらい、鼻で笑った音がした。マミはぽかんとした表情で、エヴァに首を傾げる。

 

「どういう感情?」

『めんどくさいなって。』

「めんどくさって何よ?」

 

表情がコロコロ変わる。今度はむっとして、ゴンゴンエヴァの腹をつっついた。それにエヴァは何か対応するわけでなく、ハイハイ、といった様子で両手を上げてなすがままになっていた。

 

「おいイチャつくなそこ!さっさと行くぞ!」

『はい怒られたー。』

「あ、ごめんなさい。」

 

先導するように結界に入った杏子に続いてまどかも入り込むと、ひそひそ声でさやかに話しかける。

 

「マミさんって……」

「可愛いよね。お茶目、って感じ。」

 

 

 

魔女の結界の道中は驚くほどサクサク進んだ。先程までちょけていたマミが、別人のように縦横無尽に無双しているのだ。

 

マミの弾丸で殆ど使い魔は撃ち落とされ、ほんの少し取りこぼしをエヴァがATフィールドで防御する程度だった。

 

うわ、先輩本気出してる。使い魔に撃つんじゃなくて、使い魔が出るところに弾丸置いてリスキルしてる。俺もやろうと思えばできるけど、めっちゃ疲れるだろあれ。やば。

 

「おい、エヴァ。なんかマミさん覚醒してねえか?」

『未来の後輩の前だからね。そりゃかっこいい方が良い。』

「……あたしは契約してほしくねえけどなあ」

 

その独り言は足音にかき消され、誰にも聞こえないまま結界最深部に辿り着いた。

 

青々と芝生が茂る中で中央に佇むのはグロテスクな化け物、薔薇園の魔女だ。その見た目にまどかが慄いていると、見た目などどこ吹く風のさやかがひとつ提案する。

 

「あたし、エヴァが最強って聞いたんですよ。だから戦い、見たいなーって。」

 

そのリクエストにエヴァはどうにも消極的だ。あんまりやりたくない。そんな雰囲気を醸し出して、腕を組みうーんと唸る。

 

「あーっと……ダメ?」

『生きるために戦ってんだ。見せ物のみたいに扱うのは良くないでしょ。───ま、いいけどさ。』

 

両腕を自由にしてそう告げた次の瞬間、バギィと金属がへし折れる音が鳴り響く。エヴァからだ。エヴァが顎部ジョイントを無理やりこじ開けたのだ。

 

「エヴァさん!?」

「何やってんのエヴァ!?」

 

その予想外の行動に素っ頓狂な声をあげたさやかとまどかを横目に、エヴァは戦闘システムを覚醒させる。目の部分の装甲は消え、中からぎょろりと目玉を覗かせた。結膜*1の緑色に黒い瞳のその目は、爬虫類のそれに近かった。ぎょろぎょろとしておどろおどろしく、とうてい人間のものとは思えない。システム起動の鼓動を感じながらゆっくり、高台の淵まで歩いた。

 

『ハァー……』

 

荒く、深く、息を吐き出すエヴァの、口内が見える。やけに綺麗な歯並びと血の気のいい内頬肉が、その中にいるものが生物であることの証明だった。天を仰ぐと、血を体全身に巡らせる感覚がなんだか気持ちいい。

 

『先輩、頼みます。』

「誰に言ってるんだか。」

 

先ほどの無双があっても息一つ切らしていないマミの言葉に安堵し、跳んだ。突風がマミの前髪を靡かせたかと思うと、エヴァは既に結界の芝生に降り立っていた。魔女との距離は20m程度。魔女がその巨体を向けるより先に、土埃を巻き上げ二歩で接近し、そのままの勢いで手を伸ばす。

 

魔女の胴体に馬乗りになると、エヴァは背中から血を吹き出した。鮮血はやがて四本の腕となり、肩の部分でエヴァに結合する。すべての血腕には大振りの日本刀、マゴロク・E・ソードが握られていた。

 

『さて。』

 

虐殺が始まった。

 

「ウオオォォォッ!!」

 

四方八方から津波のように押し寄せエヴァを捉えようとする触手のことごとくを、4本の血腕と刀で正確に斬り落とし、自分は魔女本体を芸もなく、貪るように殴り、蹴り潰し、引きちぎる。魔女は衝撃にたじろき、ろくにその体躯を動かせない。

 

があがあ獣のように叫び、血を漏れ出し、全てを見通し全てを殺すその姿、まるで三面六臂の阿修羅だ。

 

入った時にはあれだけ綺麗だった結界の芝生は血に侵され、魔女は苦しみ悶え身をよじる。その凄まじい戦場に青い顔をしたまどかは口を覆い、目を背けた。そんなまどかを介抱するように、マミはそっと頭を撫で、微笑んだ。

 

「大丈夫。大丈夫よ。」

「あ……ありがとう、ございます。ああいうのは苦手で……」

 

マミが安心させている傍らで、さやかと杏子は変わらず戦いを見ていた。杏子はマミの代わりに流れ弾が来ないか見張るためだ。さやかは、エヴァの戦いとも言えないその蹂躙にどこか、心が惹かれていた。自分を押し付け他者を殺すその姿が、さやかの目には格好良いものに見えたのだ。

 

「すっご……」

「ハハッ……バケモンが。」

 

後のなくなった魔女は触手で壁をひっぺがし、自傷覚悟でエヴァの張り付いた地点に勢いよく叩きつけた。これにはたまらずエヴァもぶつかる前に一度引き、地面に着地する。

 

すると魔女は追撃の手を緩めることなく、触手を用いて自身をパチンコ玉のように打ち出した。ゆっくり押しつぶすように迫り、苦し紛れの特攻なのは明らかだ。

 

『良いだろう。』

 

それに対しエヴァは逃げるわけでも迎撃するわけでもなく、四本の血腕も消し、構えた。腰に新たに生やしたマゴロクの柄に手を添えたまま、刀身を鞘に納め、姿勢を低くする。居合だ。

 

魔女が触れる寸前、プログラムを実行するロボットのように、何の迷いも、寸分の狂いもなく刀を振り下ろす。

 

マッハ8.5。それは、刀を振るい真空波を飛ばすための最低限の速度である。素のフィジカルに魔力による身体強化、ATフィールドの反発を掛け合わせ振るった腕は、そんな速度とうに超えている。

 

一瞬の自我の喪失の後、気づけば刃は飛んでいた。

 

てっぺんからつま先まで一刀両断され、エヴァの目の前で動きを止めた魔女は、空気のチリとなって消えていった。

*1
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