遊戯王 存在しないモンスターズ   作:コジマ汚染患者

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愛用してるデッキをみんなに知って欲しかっただけ。
それだけなんだ......


序盤によくある世界観説明回
プロローグ


そう遠くない、いつかたどり着く未来。

 

 

 

 

かわいた喉を、一瞬飲み込んだ唾で潤す。

自身の周囲を包み込む熱狂と歓声に全身を打たれながら、それでも視線は目の前の相手から離せない。

今までこんなことは一度もなかった。デビュー戦も、王座を獲得した時も。なんならこれまでの100を超える防衛戦でも、かつてアカデミアで学ぶ学生だった頃に行った無数の野良デュエルでも感じることのなかった渇きを感じる。

 

「ターン進行。カードドロー。スタンバイ、メイン」

 

淡々としたその宣言は、今まで戦ってきたどの相手よりも余裕に満ち溢れたものだった。

良く有耶無耶にされがちなフェイズ確認を常に怠らないその姿勢は、対戦相手としてはとてもありがたいうえに、好感が持てる。

......が、その後に続く動きは一切の優しさと無駄と、そして容赦のないものだった。

 

「...召喚、効果発動。...特殊召喚、さらに効果。チェーンして魔法発動、......召喚。効果で...をサーチ、...をさらに特殊召喚」

 

回る、廻る。デッキが、墓地が、手札がまわる。あっという間に現れる切り札と思しき巨体。さらには、そこに肩を並べる切り札たり得るほどの効果とパワーをもつ更なる巨体、その数3体。

その威圧感は風圧となって我が身を襲う。たまらず目元を腕で隠しながら威圧感の主の足元、変わらず無表情な相手を見据える。

 

「そのデッキ、回りすぎだろ......!」

 

言うつもりは毛頭なかった。

思わずでた愚痴とも賞賛とも言える言葉。

ちょっと呟いただけのその言葉すら聞き逃さなかった相手は、それを聞いて静かに首を横に振った。

 

「......そんな、こと、ない。わたし、よりも、この、デッキ、よりも。つよくて、まわる、デッキはいくらでもある」

 

(この場で、しかもお前がそれを言うか......!)

 

たまらず、それでも今度は口には出さず心の中で叫ぶ。そう簡単に、こいつのような存在がポンポン生まれてたまるか。相手の宣言を聞いていた周囲から、歓声以外に若干の困惑の混じったどよめきが生まれる。

 

最強とは、相手の......彼女のことを言う。

無敵とは、彼女のためにある。

王者の座は、彼女の為に守られてきた。

 

そんな与太話が噂され、そして信じられてしまうほどに、天才。在野に埋もれていた最強、それが彼女だ。

そして今、この場所は......彼女が全ての頂点に立つ、そのための舞台―――世界一を決める舞台だ。俺にとっては処刑台だ、なんて話すら聞いたことがある。

そこで言うに事欠いて、「私より強い人もデッキもいくらでもいる」だと?

 

じゃあ、そいつらを連れてこい。出来るというのなら、連れてきて、そしてどうか戦わせてくれ。

震える拳をゆっくりと緩め、息を吐く。

......この、決勝の場に居ない時点でそのような存在はいない。それはもう証明されているだろう―――目の前の相手を除いて。

 

「まぁ、いい。お前の発言は......今言うことに意味は無いな。何でもない」

 

憤りを抑え、再び右手を―――デュエルディスクを構える。手札は……現状使える手札では無い。盤面......綺麗に更地。相手の切り札の前に蹂躙された。

つまりは、この後のドローに、全てがかかっている。

 

「......ターンエンド」

 

エンド宣言、ターンが回ってくる。そっと山札へと手を添えた。

デッキの残り枚数的にも、覚えている限りの残りデッキ内のカード的にも、このドローで引くべき逆転のキーカードを引き当てる確率はかなり低い。

......しかし、ゼロではない。ならば大丈夫だ。

これまでの研鑽、努力。相棒とも言えるデッキへの誇り、信頼。全てにおいて翳り無し。相手は最上、我が立場を脅かす最強の挑戦者。

最高の決闘、その果てに今、自分は届きかけている。

その確信を胸に、俺の中の魂が鼓動を早めていく。全ては今、この瞬間の為に。

 

「このドローに賭けるしかないな。俺のターン......ドロー......!!」

 

「......」

 

裂帛の気合いと共に引く。手札に来たカードは......違う!これでは無い!......だが、まだ繋がる!

 

瞬間、脳内に拡がったのは、いくつもの細い線。デッキの、墓地の、手札の。先程見せられた、文字通り回るかのような展開に負けることの無い、過去最高の、相棒たるデッキの全力最大駆動!

そのルートが弾けるように脳内で展開され、最後にはひとつの道......勝利へと繋がった。

何が起きたのか分からなかった。しかし、実際に起きた事だ。デッキ内のあらゆるカードの記憶、その全てが自分の中に浸透していくような感覚だった。

それは、一種の麻薬のような多幸感と全能感でもって俺の中を満たしていく。ドローカードを手札に加え、にやりと笑う。この土壇場に来て、どうやら俺の―――世界チャンプとして共に戦ってきたデッキは、生涯最高の反撃をさせてくれるようだ。

 

「......いくぞ、相棒......!俺は手札から、このカードを発動!デッキより、俺の相棒を特殊召喚する!!」

 

ならば最後まで、とことんやろう。もはや王座など関係ない。言葉など意味を成さない。

賞賛も、褒賞も、何もかもいらない。全ての力を今、このデュエルに......この最強の挑戦者へとぶつけるだけだ!

 

「あ、うららで」

 

その日、新たなる世界の王者が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、異端の物語。

どこにも繋がらなかった歯車の集合体。何一つ生み出されることの無かった......はずのその世界へ、一つの異分子が落とされた。

 

「てんちょ。これ、どこ、置く?」

 

「んぁー?それは裏に置いといて、入荷したてだし折角なら先にアタシが開けたい」

 

「......てんちょ、ずるい」

 

「うるせぇ。というかてんちょ言うな店長と言え」

 

「てんちょは、てんちょ。それと、荷運び、終わった」

 

「ごくろーさん。ほれ、休憩だ休憩。アイス食う?」

 

「!てんちょ、いいひと」

 

「うわー......犬の餌付けみてぇ」

 

「てんちょ、早く。はやく」

 

 

 

その異分子であり、この先で新たなる世界を創る歯車は......自分の役割など考えることもなく。

今はまだ、その力を見せることなく、バイト先の店長に遊ばれているのであった。

 

「はっはっは、背が小さい小さい」

 

「むぅ...てんちょは器が小さい」

 

「うるせぇ!?」




Q.こんなデュエルを見せられた観客は、どう反応した?
A.「「「「「「「「えぇ......」」」」」」」
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