無駄に長くなったので一話を二つに分割して投稿。
読みづらいからね、しょうがないね
どうも。初仕事終えて帰る所で不審者に遭遇しました、記憶喪失系TS美少女機械万歳です。
「貴様......何者だ?」
こっちのセリフなんだよなぁ?
(どうしよう、何か近道に路地裏通ったら空から謎の人物降ってきただけなんだよなぁ)
さっきまでは初仕事で大成功したのですっごい良い気分でいたのに急激に冷めてきた。
空から落ちてきた男だが、まず全身黒ずくめの時点で怪しい。名乗ったりしないでこっちに一方的に自己紹介強要してくるのも何か怪しい。
極めつけは、こっちを見てすぐの発言で貴様呼びである。礼儀面で考えても怪しいヤツである。
「......答える、意味が、分からない」
「......まぁ良い」
そう言って黒ずくめはこちらに背を向け去っていく。マジでなんなんだこいつ??
「っ、待て。貴様......『持っている』な?」
「?」
今度は何だ?急に振り返って、驚いた感じの声色で問うてくるけど......持ってるって、今持ってるのはさっきの仕事で得た報酬の小切手......は!?
(まさか、カツアゲ!?小切手を『持ってる』......ってこと!?いやなんで気づいてんの怖っ!?)
思わずポケットに入れていた小切手を握りしめ、後退りながら不審者を睨む。
「なんで、それを、聞く?」
「まさか一日で2人も見つける事になるとは......ちょうど良い、先程は油断した結果少々失敗したのでな。貴様からは全力で狩り取らせてもらおう」
「断る」
「......だろうな」
冗談じゃない、せっかくの初仕事で得た報酬だ!明日ショップで欲しかったカードを入手するための軍資金でもあるんだ、渡すわけが無い!
「貴様がそれ(精霊)を渡す気がない、というのなら。デュエルだ。俺が勝てば見逃してやろう。だがもし負ければ......それ(精霊)をいただく」
「これ(報酬)は、絶対、渡さない。デュエル、なんて、やらない」
そう言ってサッと踵を返し走り去る。付き合ってられるか、報酬をこんなカツアゲの賭け金にする気は無いっての!
不審者を置いて走り去る......走り、去、る?
路地を出て行こうとした。確かに、開けた道へと繋がっていたはずなのに。背後へと振り向くと、そこには―――闇が広がっていた。
(は?何だこれ?)
そっと近づき触れようとするが、闇に手が当たる直前に見えない壁のようなものに遮られ、触れることが出来ない。
何度か触れたり叩いたりしようとしたが、何をしようと触れることはおろか通ることも出来なかった。
「何を、した?」
「無駄だ、貴様と話している間に既にデュエルの準備をさせてもらった。既にこの領域は、デュエルフィールドが展開されている」
「......そう」
透明な壁から手を離し、そっと不審者へと向き直す。
マジか。マジなのか。確かにここデュエル世界だよ?デュエル関係の技術めちゃくちゃ高いし、デュエルでDP貯めれば通貨になるし。何ならリョウさんから聞いた話だとジャッジが国家資格になってるらしい。プロの中にはジャッジの資格を持つ事がアピールポイントな人もいるらしいし?
その辺は置いておいて、そのくらい遊戯王―――この世界だとデュエルモンスターズか―――があらゆる物事の中心に居るってのはこの世界に迷い込んでからずっと理解させられてきた。
......でもさぁ!まさかカツアゲの方法すらデュエルとは思わないじゃん!?カツアゲに言うのもどうかとは思うけど、効率悪すぎんだろ!何だお前ナンバーズハンターか!?弟でもおるんか!?
(とにかくここはデュエルするしかない。勝てば良いんだ、報酬は盗られずに済むしこの変なフィールドからも逃げられる)
全く、まったく納得はできないが。それでも俺は、デュエルディスクを構えた。
え、何か逃げてったんだけど?
(デュエルディスクを構えた......ようやくやる気になったか)
目の前の女がデュエルに応じ、デッキをデュエルディスクへとセットするのを見つつ思考する。
最初は放置してしまう程......否、気づかなかった程に希薄な精霊の気配。女が纏っていたのは、そんな微弱なオーラであった。
(見たところデュエルを生業とする者。なるほど、それならば無意識にでも持っていても不思議では無い、か)
自前のデュエルディスクを持っていた点から女の正体を推測する。カードに携わる人物や職業に就いている者の中には、この女や先程の学生の少年のように精霊のカードを意図せず手に入れている事が稀にある。
この童三乃坂市は、デッキが住民登録に必要なほどデュエルモンスターズが盛んな場所だ。
しかし、デュエルだけして過ごせるなんて考えるほど馬鹿ばかりでもない。当然だが、デュエルをしない者、出来ない者もいれば立場上デュエルしない様な者も存在している。仕事中にまでデュエルをするサラリーマンだって、料理しながらデュエルをする料理人だって存在しない。
そのため、デッキの携帯はほぼ暗黙の了解だがデュエルディスクまで持ち歩く様な人口はごく少数だ。
それこそ、プロ・デュエリストやカード・プロフェッサー、授業で扱うであろうアカデミア生徒程度。
(この女。見覚えは無いという事はプロ・デュエリストの可能性はかなり低い。となれば......どこかの決闘塾の塾生かアカデミア生徒か)
自身のデュエルディスクへとデッキをセットする。先程自分が使ったデッキは『ヴェルズ』デッキ。......『組織』から支給されたデッキであり、愛着も無ければ使いこなしてもいない。
(今回は俺の、本当のデッキを使う。これで負けることはない)
先程の子ども、彼が持っていた精霊は非常に強力な力を持っていた。かの伝説の黒魔術師の精霊にも匹敵しうる、そう思わせるほどのオーラだった。
対して、目の前の女。彼女の持つ精霊のオーラは......並、と言えるだろう。
決して弱い訳では無い。手に入れた精霊の力で、精霊のオーラを感じ取ることが出来る能力を得た男は、これまで何度も数多くの精霊を視てきた。
その中でも、大体「中の下」。平均的と言えるオーラ量であった。
(だが、それでも精霊には変わりない。ならば手に入れる、どんな事をしてでも......!)
互いのデュエルの準備が終わり、デュエルディスクのスイッチを押す。ワイヤレスでマッチングが行われ、女のディスクとのペアリングが開始される。
「俺が勝てば、貴様からそれ(精霊)をいただく」
「......こちらが勝ったら、二度と関わるな」
「いいだろう」
ここにデュエルの準備は成った。互いにデッキへと手をかけ、カードを5枚手札としてドローする。
「さぁ、行くz......!?!?」
「?」
デュエルを開始するまで、あとほんの少し。その時、気づいた。......気づいてしまった。
(こいつ......!なぜ、これ程の......!?)
精霊のオーラを見れる、というそれだけで。俺は、自身が相対している相手のことを分かった気でいた。
中の下程度だった精霊のオーラ。それが一瞬消え、そして――――――爆発的に増えた。
「貴様っ!何を、ナニを持っているんだ!?」
「???」
首を傾げる女の背後で、何かが蠢く。いや、軋む。
ガコン、ガコンと。断続的に、それでいて規則的に鳴り響くそれは、女には聞こえていないようだった。
異常事態が、もうすぐそこまで来ている。もうすぐ、あと一つの宣言、デュエルを開始してしまえば、後戻り出来なくなる。
そんな確信がとめどなく溢れて......気づけば俺は、デュエルフィールドを発生させていた自分の精霊へと指示を出し、女の前から全速力で走り去って―――いや逃げ出そうとしていた。
(見えた......!一瞬だけ!)
逃げる瞬間、一瞬だけだが視認出来た。女の背後に現れた精霊が―――精霊達が。
赤・緑・黄色・金・銀・プラチナ。それぞれの色に輝く機械仕掛けのモンスターが、それぞれ三体ずつ。更には重機のようなモンスター、楽器のようなモンスター、超大型の兵器のようなモンスター......そしてその背後にそびえ立つ、途方もなく強大なエネルギーを発している三体の大型モンスター。
(くそっ!完全に誤算だ!!)
最初に感じた精霊の気配は1つだった。しかし先程デュエルを始めんとしたタイミングで視えるようになったのは、精霊の群れとも言えるレベルの数の暴力。
「撤退、しか無い......!あれほどまで集まった精霊達など、俺一人で相手できるか......!」
『............』
「ああ、わかっている!退くだけだ、今は!」
己の所持する精霊からの交信へと返事をしつつも足は止めない。今はただ、一刻も早くあの女の存在とその情報を『組織』へと届ける。
それだけを胸に、俺は夜の街を駆け抜けて行った。
(えぇ......。やれやれ言うからやったのに、いざやろうってタイミングで帰るんは流石に酷すぎちゃうん?)
何だか知らんうちに、不審な男が走り去っていくのを呆然と眺める。まぁ、やらなくて済むなら全然そっちの方がありがたいんだけどね?
不審な男は走り去っていき、気づけば周囲を覆っていた謎の闇も消え去っている。
......帰れるからいっか。
そうして俺は、若干釈然としない気分を覚えながらも再び帰路に着いた。
「もしもし」
『やぁ、機械万歳で合っているかな』
謎の不審者とのデュエル未遂の被害に遭った帰り道、端末へと連絡が入る......非通知?
「宗教は、間に合って、ます」
『クレストの企業代表だったものだ。先程はどうも』
「おつかれさまです」
電話だから相手がいないけど無意識に90°お辞儀してしまった。通りすがりの通行人の人がびっくりしてる。
『かしこまらなくて結構、ちょっとした挨拶に連絡しただけだ』
「挨拶?」
一瞬何でだろう、と考えてしまったが、カード・プロフェッサーには良くある事らしい。
何でも、初仕事で優秀な結果を残した者は、その実力を買われて直接依頼を受諾できるよう端末の番号を与えるついでにこうして連絡をするんだそうだ。
『君のデュエルはとても素晴らしかった。今後とも是非仕事を回させて貰いたいと思っている』
「あり、がとう」
(よしよしよし!贔屓にしてくれる企業ができた!これならカード・プロフェッサーで金稼いで俺の前世のマイフェイバリットデッキを完成させるのも夢じゃない......!)
端末にアドレスが登録されたアナウンスがポコンと表示され、リョウさんとアキさんの番号しか無かったアドレス帳に『クレスト』の文字が追加されるのを見て思わず道端でグッとガッツポーズ。
......案の定、通りすがりの人に変な顔で見られた。
『ああ、そうだ。君のデュエルを見て、相手方の企業―――イヅモマテリアルの代表が君と話をしたいと言っていたよ。都合がつけば、明日の昼頃に童実乃坂アリーナへ行くと良い。何やら面白い催しを行うらしいからね』
「?催し?、って?」
『さぁ、それは行ってからのお楽しみだろう。では、これで失礼。また仕事の依頼をする時はこの番号で連絡する。今後ともよろしく頼む』
それだけ言ってから、クレストの人は通話を切った。......うーん、昨夜の仕事の相手企業かぁ。なんだろう、催しって言ってたしなにかイベント事だろうけど。
「バイト、どうしよう?」
興味はある。わざわざカード・プロフェッサーとしての機械万歳へとこの話を持ってきたんだ、仕事にも関わる何かである可能性が高い。
問題は、昼頃という時間帯だ。明日は普通にリョウさんの所でバイトが入っている。
「サボり、はいやだ。というか、出来ない......リョウさん、にしばかれる」
(でもなぁ〜。カード・プロフェッサーをするって決めた以上、そういったイベントは出たい。さて困ったなぁ............)
「んぉ〜......いいぞ......」
「え、てんちょ、いいの?」
結局1人で唸っていてもどうにもならない。
という結論に至ったので、帰宅した際まだ起きていたリョウさんへと急遽休みたいという旨を謝罪9割の弁論で伝えた、のだが。あっさり休みの追加をゲットしてしまった。
えぇ、前日にほぼドタキャンレベルに休みたい要望が通るって......。
なんてことを考えていると、リョウさんはウンウン唸りながらこちらを見る。うわっ、酒臭っ!
「明日はイベントもねぇし常連も来ない日だから、アタシだけで問題ねぇんだよ......あ゛〜喉痛ってぇ......」
「でも、ショーケース、追加がいる、って」
「舐めんな、これまではほぼアタシだけで店回してたんだから問題ねぇよ。んでも、珍しいなアンタが急に休みたいなんて」
「あ゛っ、いや、その」
フラフラと危なっかしい感じに体を揺らしているリョウさんからの質問に思わずどもってしまう。
リョウさんにまだカード・プロフェッサーの事は伝えてないし、流石にまずいか?
(いっそ、もうカミングアウト......いやいや、プロ断っといて相談も無く始めてる時点で誠実じゃないしリョウさんにバらすのはまだ時期尚早......いつなら良いとかないのは分かってるケド)
「......ま、なんでも良いや。そこまで興味ねぇし」
「う、うぃ」
(助かったー!)
リョウさんが割と適当な人で助かった。何はともあれ、これで明日のイベントとやらを見に行く事が出来る。
「ほぁ〜......」
あっという間に翌日。イベント会場として聞いていた童実乃坂アリーナへと到着した訳だが......めちゃくちゃ人が多いな。アリーナの入口付近には、チケットを持った人が列を成しており、周囲には出店や屋台、キッチンカー等が並んでいる。子連れや恋人同士っぽい人や、凄い興奮した学生っぽい集団など、多岐にわたる人々が集まっているようだ。
「これが、イベント......?」
(なんだなんだ?そういえば特に何も調べてこなかったし、そもそも参加出来るのかこれ?当日券的なの売ってない可能性もあるか?うーん、でもだったらクレストの人がわざわざ昨日連絡するか?)
不審に見えるのを覚悟で列の周囲をウロウロし何処かに売り場、若しくはイベントの内容が分かるものがないかを探す。
その時、風に乗って1枚の紙が俺の顔面へと飛んできた。
「へぶっ......な、何?」
紙を引き剥がし見ると、どうやらイベントのチラシ......いやビラ?まぁそんな感じの物だった。さて、一体どういうイベント......
『大挑戦!プロに勝てるのは誰だ!現役プロデュエリストと戦おう!』
「......ほぉ?」
なるほど、こういうイベントか。プロと一般の人がデュエルする機会なんて皆無に等しいだろうし、こういうイベントの需要はかなりありそうだ。......でも何でここにカード・プロフェッサーとして来る必要が?
「うん?君は......」
「?あ、林檎」
「いや林檎じゃなくて、俺のDネームはアップルボーイです......」
不意に背後から声をかけられた。振り返ってみれば、見覚えのある記憶に新しい好青年、林檎少年がいた。俺の初仕事の相手であり、スキドレバルバというこの世界では中々にやっちまってるデッキの使い手でもある。
「確か、機械万歳......でしたよね?どうしてここに?まさか、また仕事が被りましたか」
「今日、は仕事じゃ、無い。クレストの人、から今日イベントが、あるって聞いて見に来た」
「ああ、なるほど......」
「林檎は、仕事?」
「だから......いや、もういいです。そうですよ、俺はイヅモマテリアルの専属なのでイヅモマテリアル関連の仕事は必ず参加義務が発生するんです」
そう言って林檎少年は着ている服の胸元をぐいっと摘んで見せる。見てみれば、そこにはイヅモマテリアルの社章が象られたバッジをつけている。
「ん、失礼......はい、え?はい、まぁ。ええ、今そばにいますが......はい、分かりました」
不意に林檎少年が、耳元に手を当ててブツブツと呟く。インカムでも付けてるのか。
んで、何故か話しながらこちらを困惑顔でチラチラと見てくる。なんだよ、減りはしないけど見られると落ち着かないんだけど。
「あー、機械万歳。今ヒマでしょうか?」
「?まぁ、うん。イベント、見に行きたい、から。暇じゃ、無い」
「ならむしろちょうど良いです。ちょっと来てください、俺の雇い主―――イヅモマテリアルの代表がお前に話があるそうなので。アリーナの中で話すだろうし、内容次第だが話が終わればそのまま観戦出来るかもしれないですよ」
......イヅモマテリアルの代表って、確か代表デュエルの時いたお爺さんだよな?何だろう、急なんだけどどこか狙ってたみたいな感じを受けるな。というか、林檎少年と一緒にいることわかってるって事は、どっかで見られてる?
まぁいいや。イベントの会場に入れるって言うんなら願ったりだし、これは考えてみればチャンスかもしれん。
(イヅモマテリアルの代表さんとの会話次第では、クレスト以外の顧客ゲットも!そうなれば受ける依頼の幅も広がる......!)
「ん、分かった。案内、よろしく」
「そうですか。......はい、了承を得ました......はい、はい。了解」
再び何処かと通信を行う林檎少年、さぁてどうなる事やら。なんにせよまずは話とやらを聞かないとな。
そんなわけで俺は、林檎少年が歩き出すのについて行くのだった。
TS野郎「報酬は渡さねぇ!」
不審者「そっちじゃない」
次回、まだTS野郎回。
本日はなんともう1話投稿されます。分割しただけですけども。