はい、まだTS野郎です。
自分でもこいつに何をさせたいのかぶれてきた様に感じる。大きすぎる(胸部装甲)、修正が必要だ。
イベント会場は、アリーナとは聞いていたが想像以上の広さだった。
何と、デカいデュエルフィールドが10は下らない数設置されているのだ。
今も大勢の参加者がデュエルをしており、その中でも2つのデュエルフィールドには他より多くの参加者が集まっている。どうやら、あそこの2つに件のプロデュエリストが居るみたいだ。看板が立ってるな......「プロのデュエル指導実施中」か。本気のデュエルをする訳では無さそうだけど、あそこに参加している人にとっては心に残る良い思い出作りなのかもしれんな。
前を歩き案内してくれているのは、同業者のカード・プロフェッサー『アップルボーイ』。
何でも俺がイベントに来ている事を知ったイヅモマテリアルの偉い人が、俺に話があるとの事で現在、この人の案内で偉い人の元へと向かっている最中である。
「今日の、イベントって、プロと戦える、っていうもの?」
「ん、まぁそうですね。あくまで戦えるというだけですが」
ただ静かに歩くのも暇なので、少しだけ歩調を早めて林檎少年の横に並んで歩きつつ、イベントについて質問する。
「あくまで、って?」
「イベントとはいえ相手はプロなので、当然ハンデやら特殊ルールやらが盛り込んであるんですよ」
そう言って林檎少年は、胸元から1枚の紙を取りだし俺にくれる。受け取って見てみると、どうやらイベントの詳細が書かれている物のようだ。
「まず形式は逆ボスラッシュ。プロが順番に参加しに来た一般の人とデュエルする、その際のLPはプロが4000、参加者側は8000。これだけでも結構なハンデですが、更にプロには使用デッキのレベルを落とすよう要請が出ています」
「ふむふむ」
「こんな感じで色々縛りでもしないと参加者には勝ち目がゼロでしょうしね、プロ側もこの条件で了承した人しか来てないですよ」
なるほど、延々と続く参加者とのデュエルとか、普通に疲れそうだしハンデもあるとなれば相当嫌がるプロは居そうだな。よくこんなイベント参加してくれたな、今やってるプロ達。
「でも、プロ側はともかく、参加者に、何か勝った、場合のメリットでも、ある?」
「ありますね。イベント中の参加者側の勝利者には、イヅモマテリアルから粗品が贈呈されるようになってます。ついでにプロからも、サイン色紙とか用意されていますよ」
「なるほど」
「粗品よりはプロのサインやら握手会やらが目当ての参加者が大半なので、企業から用意されたものはほぼ副賞扱いです。こういうイベントはプロの知名度ありきで開催出来るので、しょうがないことではありますが」
「ふーん」
プロにとっては、ハンデとかのそれなりの言い訳はあるからファンサとか言っとけば仮に負けてもその格が落ちたりしないし、上手いこと参加者を気分よく勝たせるとかで堕とせばファンを大量獲得できる場でもある訳か。そんで企業からすれば宣伝もできるしプロとのコネクションも出来る、と。うーん、色々あるんだなぁ活躍の場。
(あれ、でもなんで林檎少年がイベントで働く必要が?聞く限り、別にカード・プロフェッサーが出張る様な場所でもなさそうだけど)
企業お抱えの、とは言っても雑用のために働くような人でもないだろう。でも、ここまで聞く限りではマジで何をする為なのか分からない。
「カード・プロフェッサーは、何で必要?」
「ん?ああ、それは......っと、話は一旦後にしましょう。着きました」
歩みを止めた先には、SPっぽい厳ついグラサンかけた男が2人立っている扉。
林檎少年が胸元のバッジを男たちに見せる。グラサン越しにそれを確認したSPは、1つ頷いてから俺たちに道を譲り、静かに扉を開けた。
「失礼します」
「失礼、します」
林檎少年に続いて中に入ると、中には前回少しだけ見た事のある初老の男性がソファに座って待っていた。
「おお、来ましたな。その節はどうも」
「......ハイ」
朗らかに笑い、目を細めながら軽く挨拶してくる代表さん。よくよく考えると、今の俺はこの人からすると元敵な訳だ。なのによく笑顔で対応出来るなこの人。
「ホッホ、カード・プロフェッサーと関われば昨日は相手側についていた者へ依頼を出すことだってあるんです、いつまでも引き摺ったりはしませんよ」
「企業専属とかでもないフリーを相手に恨み言を言う企業なんて滅多に無いですよ」
「う、うぃ......」
なるほど、たしかに。カード・プロフェッサーは依頼さえ受ければどんな企業の代表としてもデュエルするんだから、蒸し返して文句言うのは無意味ってなるのか。
またひとつ学びを得たな、とカード・プロフェッサーの慣習について心の中で考えていると、代表さんが軽く咳払いをする。
「さて、今回呼んだのはあくまで顔合わせ、前回の仕事で魅せてくれた事もある。軽くコネを作っておこう程度のものだったんですがね......」
「?」
なんだろうか、言い方的に他の目的があるっぽいが。チラッと林檎少年の方を見るが、何も知らされていないらしく少しだけ首を横に振っていた。
「急な話だ、断ってくれても良い。ひとつ、依頼を受けてはくれんかね、機械万歳」
「......依頼、ですか」
まさかの依頼である。ど、どうなんだろう?こんな形での依頼とかはカード・プロフェッサーでは普通なのか?......いや、イレギュラーな事っぽいな。林檎少年がすっごい目を見開いて驚いてるし。
「うむ。実は、本日のイベントの締めに予定していた一般参加枠とプロデュエリストによるタッグ・デュエルなのだが、抽選で受かっていた一般参加者が急遽出れなくなったとの連絡が入っての」
そう言って代表さんが軽く指を鳴らす。その合図を受けて、後ろで控えていたSPっぽい人が何やらスイッチを取り出す。
それを押すと空中にホログラムディスプレイが現れる。表示されているのは、さっき林檎少年から見せてもらったイベントの詳細が書かれた紙と同じっぽい内容だが、そっちよりはかなり詳しく日程やらが表示されている。
「本イベントに参加してくれておるプロ・デュエリストは、プロ・ランキング圏外ではあるがそれなりに知名度はあるデュエリストが2名」
「イベントの大トリとして既に周知されておる以上、中止にするのは我々としてもよろしくない。が、生半可なデュエリストを参加させても盛り上がりに欠けるだろう。故に機械万歳、君に要請したいのだ」
「......」
まとめると、中止したくないイベントがあるからそれに参加する人員として雇いたい、ということだろうか。なるほどプロのデュエルを見れる機会が急遽中止なんてなるとクレームも来るだろうし、開催企業としてのマイナスイメージが出来て困るわけだ。あと、たぶんデュエルするプロからの印象も運営能力がダメという判断を下されそう。確かにそれは避けたいだろうな。
......でも、元から一般参加枠で考えていたんなら、その場で挑戦者募るとかで良いのでは?
的なことを質問したのだが、このイベントチケットのシリアルコード番号で抽選をしており、当選者の告知は既に入ってるので今更変更ありましたというのが出来ないそうだ。
まぁそうだろうな、結局シリアルコードまで使って用意した枠がドタキャンでイベントそのものが崩壊は地獄が待ってそうだ。うーん、企業も企業で大変なんだなぁ。
「報酬は十分に支払おう。また、タッグにはそこにいるアップルボーイをつけよう」
「!?」
「ちなみに、おいくらほど?」
百面相しながら「え、俺!?」みたいな表情の林檎少年は放っておいて、報酬について尋ねてみる。
代表さんが軽く微笑みながら指を鳴らすと、再びホログラムディスプレイが点き、今度は報酬金額が表示される。
..................でっっっっっっっっっっっ!?(金額)
「これに、デュエルでの勝利などあればさらに追加をだそうかね」
「受けます。準備の時間だけ下さい」
即答である。
だってさぁ!昨夜の仕事の報酬よりも高いんだもん文字通りの意味で桁が違うもん!!
俺の即決依頼受諾を受けて、代表さんが笑みを深めつつ控えていたSPに声をかけ、書類を持って来させる。
「では、正式に依頼を提示させてもらおう。不備や訂正を確認してくれたまえ」
「はい」
こうして、急遽依頼を受けてのイベント参加が決定したのだった。
「......というわけで、あと10分ほどしてからラストのタッグ・デュエルが開始となります」
機械万歳の参加が決定した後、アリーナにある控え室。不機嫌さを隠そうともしないで椅子にふんぞり返るドレッドヘアーの男に、イベントスタッフが冷や汗をかきつつ説明を行っていた。
ドレッドヘアーの男の対角の方には同じく男が待機しているが、こちらは落ち着いてじっと腕を組んで座っており、その様子からは感情などは伺いしれない。
「予定を大分超過してるじゃねぇか。流石にスケジュール調整が杜撰じゃねぇのかオイ?」
「す、すみません。参加予定だった一般参加の学生さんが急遽居なくなってしまったので......」
ドレッドヘアーの男は、ふんぞり返ったままスタッフへと文句をグチグチと繰り返す。末端も末端のスタッフはそれに対しどう言うことも出来ず萎縮しつつ謝罪するしか無い。
しかし、そんなものでは男の不満は収まらない様で、先程以上に不満げな様子で手慰みに自身のデッキをシャッフルしながら鼻を鳴らす。
「ったく、そんななら学生なんて当選させんなよなぁ。アンタは何も無いのかよ?」
「......今ここで当たり散らしても意味は無いでしょう。代役は見つかったとの事ですし、最後のデュエルをただこなせば良いでしょう」
もう一人の男はそう言って用意されていたお茶を飲み、我関せずとそっぽを向く。
ドレッドヘアーの男はつまらなそうにケッと息を吐き、同じくそっぽを向いた。
「これで雑なデュエルする相手だったら、二度とこのイベント参加しねぇからな」
(......か、帰りたいぃ)
互いに険悪な空気を漂わせる2人に、スタッフは心の中で悲鳴をあげるのだった。
「......これは今日は抜くか。あとこれも―――いや、むしろ入れとくべきか?」
依頼を受諾してからすぐ連れてこられた控え室で、デッキ調整を行う。今回はまさかのタッグ・デュエルという事で、普段通りの構築から大幅に変えている。
相方の林檎少年のデッキも考えるとマイフェイバリットを用いたデッキにするより、彼のデッキに合わせた調整をしておいた方が良いだろう。何せ、俺のデッキと彼のデッキでは相性がキッツイからな。
「......何時もそんなに調整をしているんですか?」
「?うん、その時の、デュエルに合わせた、デッキにするよう、頑張ってる」
暇になったのかね、俺の調整を少し離れて見ていた林檎少年がそっと尋ねてくる。......そんなに珍しい事してるかね俺。
「まぁ、兎に角。企業の者として感謝はしておきます。イベントを台無しにするのは非常に不利益だったので」
「ん、受け取って、おく。それは、それとして、ちょっと、良い?」
「?何を......」
イベント会場であるアリーナ、その中でも一際大きなデュエルフィールドには、イベントに参加・観戦している全ての人々が集まっていた。
集まっている人々はプロとのデュエルに参加し敗北した者、勝利しサインなど欲しい物を手に入れホクホク顔の者。デュエルは参加せずただプロのデュエルを観戦しに来た者、イベントそのものをお祭りとして楽しみに来た者など様々である。
多少の悔しさ・涙を流す姿は見受けられるが、それでもほぼ皆一様に満足げであり、このイベントにおける満足度が見て取れる。
イベントはここまでは大成功と言えるだろう。予定していた参加者数を大幅に超え、最後のイベントを見る為観客席は満席、それでも足りず立ち見をする者までいる程の盛況ぶりだ。
今か今かと観客達がざわつきながら待っていると、デュエルフィールドへと1人の男が現れる。男はフィールドまで静かに歩いていくと、その中央で止まり手に持ったマイクを口元へと持っていく。
『――――――皆盛り上がってるかー!?』
『ワアアアアァァァァ――――――!!!』
大歓声。フィールドに上がった男のかけ声に応えるように観客が声を上げ、それを聞いた男は満足そうにウンウンと頷く。
『オーケィッ!!素晴らしいッ!! ―――皆様、本日はこのイベントに参加して下さり本ッ当にありがとうッ!本日のラストイベント、vsプロタッグ・デュエルの時間だァァァ!!』
歓声に負けない程の声量をマイクに叩き込む男、場を盛り上げる口上に観客のボルテージも急上昇していく。
『本日の実況兼ジャッジは、プロ公式大会でもマイクを持たせていただいているこの俺!ベルナールが務めさせていただくぞッ!!盛り上げていくぞぉぉ!!』
司会として名乗りをあげる男に観客から盛大な拍手が降り注ぐ。それはジャッジと実況を両立する男への激励か、はたまた試合を待ちきれない人々の催促だろうか。
『さぁさぁもう待たせることは無いぞ!早速だが行くぜ!まず最初に入場するのは―――チームプロ!』
男がサッと指さした先、デュエルフィールドの出入口へとスポットライトが当たる。
そこからゆっくりと現れた2人のプロデュエリストへ、司会の男へ向けられたもの以上の盛大な歓声が浴びせられる。
『ドレッドヘアーがトレードマーク!超攻撃的かつ運が非常に絡む彼のデュエルはいつも過激!通り名は「ギャンブルガンマン」、「クライゼン」ンン!!』
司会の紹介に、ドレッドヘアーの男クライゼンが不敵な笑みを浮かべファンサービスに大きく手を振る。
『静かなその佇まいは自信のあらわれかぁ!?「静かな電虫」こと「ストリートエネミー」ィィ!!』
クライゼンとは対照的に、物静かな雰囲気を醸し出す青年ストリートエネミーは、これまたクライゼンとは正反対でファンサービスもせず静かに歩みを進める。
そうして2人のプロがフィールドに揃うと、先程まで相手をしてもらっていた一般参加者達は雰囲気に気圧され少しだけ背筋が伸びるのを感じていた。
『では、続いて!対戦相手となる特別参加者をご紹介!プライバシーに配慮して、プロ同様にDネームでの紹介となります!』
司会の宣言と共に、先程とは真反対の位置にある出入口へとスポットライトが移動する。
『それでは登場してもらいましょう!Dネーム「アップルボーイ」さんと、「機械万歳」さんです!』
紹介を受けて、観客席から拍手が起こる......が、当然プロと比べれば無名のただの対戦相手である以上だいぶおざなりなものである。
最初に入ってきたのはアップルボーイ。その整った容姿に惹かれてか、観客の中から黄色い声援が増える。
それを受けて笑みを浮かべながら手を振って応えるアップルボーイの姿は、傍から見れば好印象だろう。
観客からは遠すぎるため気づかれていないが、アップルボーイの口元は僅かに引きつっているのだが。
そして、アップルボーイに続いて機械万歳が入場する―――入場してしまった。
『......は?』
「あ?」
「?」
対戦相手は何者かと視線を向けたプロふたりと司会、3人が同時にフリーズする。観客席からの歓声すら、一瞬止んでいた。
機械万歳が、ゆっくりと。それでいて自信満々に胸を張ってデュエルフィールドへと歩みを進める。緊張など欠片も見せないその姿は威風堂々として――――――
――――――そしてどうしようもなく、着ぐるみであった。
「「「「「「「「ええええええええええええ!!!???」」」」」」」」
「おいおい、マジかよ」
「誰、ですあれ?」
『ななな、なんとー!?一般参加者枠「機械万歳」、まさかまさかの着ぐるみで登場だぁぁ!!これは一体、どういう意図があるんだー!?』
「俺は何も知らない、俺は何も知らない、俺は何も知らない......」
驚愕から来るフリーズから復帰した人々が驚きの絶叫をあげる中、気楽にペタペタと歩いてゆく着ぐるみ機械万歳。
特徴的な四角い消しゴムのようなボディと、背中から生えている申し訳程度の大きさの翼。針金で頭頂部へとドッキングされた輪っかはまるで天使の輪の様。
そして肝心の前面、そこに施された顔は全てを悟ったようにも、全てを忘却したようにも見える無感情な糸目と引き結ばれた口。
観客たちは、否、機械万歳以外の全ての人々が気づいた。その着ぐるみの正体に。そして全ての人々が、この瞬間だけ完全に考えが一致していた。
(((((((な、何故に「もけもけ」...!?)))))))
「さて、プロってのはどのくらい強いんだろうか。お手並み拝見といこうか」
そんな凍りついた空気の中、機械万歳だけは一切気にすることなくデュエルフィールドへポテポテと歩いてゆくのであった。
次回、まさかのタッグ・デュエル。
プロデュエリストの2人、デッキは決めてるけど名前とは一切関係ないので今回は流石に当てられないな......これ当てたらサイコ・デュエリスト名乗って良いレベル。