―機械万歳―
どうも。TS系美少女労働者の機械万歳です。
よくわからねぇ黒づくめの不審者とのデュエルを制したのも、つい昨日の出来事。あのGAN〇Zとその中に閉じ込められてたっぽい人たちのこと全部丸投げして帰っちゃったけど、大丈夫だっただろうか。……後はあのキレーなお姉さんが何とかしてくれたと思おう、そうしよう。
今日はいつもの日課、リョウさんのカドショでアルバイトでござい。現在時刻は朝7時半、草木も起きるニワトリ=アワーだ。ジッサイ、眠い。
あくびを必死に噛み殺しながらの店前の掃き掃除なうである。手や身体は辛うじて動くが、目がじぇんじぇん開かねぇ。
「いらっしゃ、いませ」
「やぁキーちゃん!今日も可愛いねぇ、パック1つくれるかな」
「どうも、です。もうすぐ、開店、ですので。その後、店内へ、どうぞ」
「キーちゃん!俺だー!デュエルしてくれー!」
「いらっしゃ、いませ。デュエルは、今無理、です」
「キーねーちゃん!こんにちは!」
「おはよう、だ。今、あさ。学校遅れる、よ?」
前世の基準で考えるとカドショが開くには早すぎる時間だと思うが、まぁそこは遊戯王世界。生活に密着しまくっているデュエルモンスターズのカードを求めて、この時間に開店しても出待ちして買いに来る猛者がまあまあ居る。実際さっき話しかけてきてた人らはほとんどそのたぐいの人だし。
......最初のころはパチンコの待機列みたいだと思った。
今日は普段の開店日とは違い、特別な日となっている。さっきまでは二人しか並んでいなかった(もう一人は小学生なので登校していった。)列も、掃き掃除をひと段落終えて振り返ればなんと10名以上の行列となっている。今見ている間にも、6人組くらいの若者が並んだ。
「キーちゃん整理券まだー?」
「落ち着けよ、キーちゃん困らすな」
「落ち着いていられるか!?今日は新パックの発売日だぞ!?」
「だからそれでキーちゃんを急かすのは違うだろって」
「新たなカード……モリンフェン様を高めるカード、いや新たなるモリンフェン様の降臨もありうる……!?」
「ふふふ、我が心眼に見合う強さのカードが手に入るなら購入も考えてやろうではないか!」
「整理券、配る、ので落ち着い、て」
ソワソワしすぎて若干喧嘩になりかけの人や、平常運転な常連組をなだめ、こんなこともあろうかとあらかじめポケットに入れていた整理券を取り出す。
そう、何を隠そう今日はカードパックのラインナップが増える日。カードゲーム界隈で俗にいう新弾が発売される日なのだ。
前世でもそうだったが、カードパックや構築済みデッキなど、新たなカードに出会える新弾の発売日には人が集まる。人間新しいものには目が無い、それが自分の人生にもかかわってくるかもしれないものなら尚更だ。何度も言うみたいだがここはTCGの世界とは違う。アニメのようなカード至上主義世界なのだ。
前世でのOCGプレイヤー達ですらお祭り騒ぎに最寄りのカドショへ集まったものだと記憶している。かくいう俺も、ボーナスひっさげ開店と同時に店へつっこむなんてやったもんだ。
遊戯王で職すら決まるこの世界では、もう祭りどころか戦争だ。パックは有限、人の集まりは半無限。何と商店街の店のおよそ4割が休業もしくは午前中のみ半休である。
そりゃあソワソワもするし殺気立ちもする。自分のデッキに入るようなカードが見つかればホクホク顔だろうし、レアカードなんて当てればもうそれは金を掘り当てたと同義だろう。
売れば文字通り値千金だ。言っちゃ悪いが商店街の中に紛れたこじんまりとした店である我らがカードショップRYOでも、この日だけはまじで何もイベントが無くても人が集まる。
いや、もはや新弾の発売そのものが並のイベント以上の集客を見込める催しだろう。
「てんちょ、整理券、足りない」
「おうちょっと待ってろ今用意してる!」
常連はもちろんのこと、普段来ないようなデュエリストの方々もいるもんだから、整理券はあっという間になくなる。……いや待って番号100まであったんだけど?
普段20くらいまでしか使わないんだけど?急ピッチでリョウさんが手作りしてるけど絶対間に合わないよねこれぇ!?
「最後尾、こちらに、なります」
「お、キーちゃんやってるねぇ。頑張れよぉ」
「あい」
「キーちゃんからの手渡し整理券……あったけぃ……」
「おい待てやめろ。yesキーちゃんnoタッチを忘れたか」
「触れてはいない!ちょっとぬくもりを感じているだけだ!」
「ならセーフ……いやアウ、いやう~ん……セウト?」
おいこら常連どもぉ!聞こえてるんだよ、普通にアウトだからな!?
あ、さっきから聞こえてくるキーちゃんという呼び方。これは常連の人たちが始めたこの俺、機械万歳の愛称である。
最初は「バイトちゃん」やら「バイトのねーちゃん」などと呼ばれていたのだが、いつからかこう呼ばれるようになった。
一回リョウさんが聞いていたのを小耳にはさんだところによると、「機械万歳だと呼びづらいしなにより女の子の呼び名としてあまりにもあんまりだ」という訳らしい。
……いいじゃんかよ機械万歳。発言の前と後につけろよ機械万歳。
本名を言わないスタイルなのはすまんな、教えてあげたくもあるが俺自身知らんのよ。
そんなわけで、最近はもうDネーム「機械万歳」はカード・プロフェッサーとしての活動の中以外では全く呼ばれなくなり、胸元の名札もこころなしかすすけて見える。
あと、最近リョウさんの機嫌と気前が良い。俺が働き出してからというもの、客のリピーター率が上がっておりそれに伴って収益が急上昇しているんだとか。もしかして:変態紳士。
給料の方も結構色を付けてくれるし、俺が幸せなのでオッケーです。変態紳士諸君にはバインダーチョップの刑で対応してるしな。
「終わったぁぁぁ……やぁっと整理券ラッシュ終了か」
「てんちょ、もう時間。シャッター、上げる?」
「まじかよもうそんな時間か?まぁいい、そんじゃ今日も始めますかぁ」
「うい」
こうして、長く激しい一日が、シャッターと共に幕を上げたのだった。
「そろそろ掃けてきたかな」
「……」
開店から数時間。ようやく切れ目の見えてきたレジの行列に対応しながらリョウさんが呟く。手は止めず接客もしっかり熟しながらそれでもなお余裕のありそうなその姿は、流石カドショの店長と言ったところだろう。
俺?今日一日、ショーケースの呼び出しや在庫補充やらで走り回りすぎて足が死んでる。ついでに疲労で精神的にも死んでる。
新弾発売日だからって、それしか売れないわけじゃないのだ。ショーケースのレアカードの単品買い、別の常在パックの購入、ストレージ漁りの戦利品購入など、減るどころかむしろ新弾の発売によりそれらの売り上げも跳ね上がっている。そして当然、そうなれば店員である俺も引っ張りだことなり足のライフがゼロ、という寸法だ。
ここまで賑わう理由は単純。新弾に入っているカードによって、カードの強さ、有用性は刻一刻と様変わり、その結果現存するカードの評価もまた上下する。
既存のカードを買い求める客が増えるのも、仕方のない事だろう。
昨日までは役に立たず投げ売りされていたカードが突如脚光を浴びたり、もとから強かったカードがさらなるコンボの発見により更に評価を伸ばしたりする。そうしてカードの価値は目まぐるしく変化していくのである。スタン落ち―――過去のカードが使えない環境のこと―――がないデュエルモンスターズならではの特色でもあるわけだが。他にもスタンの無いカードゲームはあるだろうが、ここまで影響力のデカいカードゲームはこれくらいなもんだ。
「こっちはアタシが見てる。お前はいい加減起きていつも通りイベントの進行やってこい」
「は、はい……」
無慈悲な店長の一声により、新たな仕事を仰せつかる。このまいぼでー、まじで体力がなさすぎる。着ぐるみの時も思ったけど少し勤労しただけでこれとは恐れ入る、これじゃあアクションデュエルもライディングデュエルも夢のまた夢だな。鍛えねばならない……!アニメ時空のデュエリストとして!ここらの近くに、熊が出てくる森なんかあるだろうか?
「お、来た来た!」
「うおおおキーちゃああん!」
「待ってましたぁ!......揺れっ!?」
「うお、でっk……」
適当なバインダーといつもの紙、鉛筆をもってデュエルスペースへと行く。そこにはいつも遊んで帰る常連が集まっており、小走りでデュエルスペースへ登場した俺へと喜色をはらんだ声をあげる。
稀によくあるんだけど、俺が小走りしてるとよく歓声が上がるの何でだろうか。
今日はやっぱり常連以外もたくさん参加するみたいだな。イベントのある日はいつもわんさか変態紳士含むデュエリストが集まってくるが、今日はいつも以上に気が触れ……失礼、テンションの高い人が集まっている。
「お待たせ、しました。本日、のイベント、フリー交流会を、開始、します」
まばらな拍手が、大きくはない店内に響く。
交流会とは読んで字のごとくデュエリスト同士の交流の場である。参加条件や参加費用無し、時間内なら何戦デュエルしても良しの1デュエル制(一戦終われば終了)で気が済むまでデュエルできる至福のイベントだ。デッキの途中変更も大いにありなので、新しく組んだデッキを試すのにも向いているし、大会の特性上初心者でも気軽に参加可能なのが良い。
しかも素晴らしいことに、イベントの最後にはイベントパックという限定のパックを一つもらう事ができるのだ。中身は二枚しか入っていないがそれでもタダでもらえると考えれば非常にありがたいだろう。……ま、今回俺は企画運営側の人間なので参加できないがな!
「では、ここに、Dネームを、書いてくだ、さい」
「かわっ……ふぅ、書きますね」
「うお、でっ……あ、はい書きます」
「ふふふ、私のデッキで魅せましょう!モリンフェンのすばらしさを!」
「機械万歳がいないのは不満だが、まぁ良い。我がデッキの深淵なる力で悉く粉砕してやろうではないか!」
「ま、間に合った……あ、参加します、今日は数か月ぶりのお休みですし」
Dネームを集計していると、我こそはというデュエリストたちが群がってくる。……お、いつもの常連もいるね。モリンフェンLOVEさんも厨二さんもいるし、入り口から手を挙げてるのは月月火水木金金さんかな。
……ふむ、そろそろ打ち止めか?
「……では、今日の、交流会、始めます。1卓、「もちすけ」さんと、「モリンフェンLOVE」さん。2卓、「ヘキガ・イカレティウス」さんと、「お前」さん。3卓、「太陽サン」さんと、「超重量武者オデ—Bさん」……」
今日は一段と増して変なDネーム多いなぁ!?
―才羽リョウ―
「ありあとやしたー」
レジ列の最後の一人をさばき切り、ふぅと一つため息をつく。デュエルスペースを見れば、交流会でいい感じに賑わっているようだ。先ほどから切り札であろうモンスターの召喚を高らかに宣言する声が届いてくるし、それに合わせたどよめきや歓声も聞こえてくる。
「モリンフェンを特殊召喚ですぞ!さぁ、素晴らしい提案をしよう!君もモリンフェン様を使ってみないか!」
「ふはははは!わが最強の切り札、降臨!」
うん、あそこの常連ふたりは後でお話だな。周囲は笑ってくれてるが正直迷惑だわ。布教すな狂信者、吼えるな厨二。
どのようなしばき方で制裁するかを考えつつ、ふと目に入った少女―――機械万歳を見て、感慨にふける。
(いやぁ、この三年でいーい感じに賑わうようになったな)
三年前までは、イベントもあるし商品のラインナップも決して悪くなかったと思うのだが、それでも客足は伸び悩んでいた。それこそ、人来ないからと私自身店仕舞いを早めるなんて事が出来るくらいには過疎っていたのだ。
それが今や、新弾なんかの目玉が無くても開店と同時に客が来るし、閉店時間ギリギリまで店内に人がいたりする程に繁盛しているではないか。
店の雰囲気なんか変えちゃいない。この三年での大きな変化は……言うまでも無く、目の前でセクハラしようとした常連をバインダーで処している機械万歳だろう。
実際店を訪れる昔からの常連や、アイツが来てからの常連に話を聞いてみても機械万歳は大多数から気に入られており、バイト中でもお構いなしに話しかけられる程度には愛されている。
今じゃ「キーちゃん」なんてあだ名もつけられて、店長の私が公認してないのに看板娘として認知されているしな。
……最古参の一人(モリンフェンキチ)は、「いやぁ~ようやくこのショップにも華が出来ましたな!」なんて言っていた。おい、華ならここにも、最初からあったんだが???
ちょっと納得いかない気分ではあったが、まぁそんな訳でここ最近の売り上げはすこぶる良好だ。
アイツ自身が気づいているのかは知らねぇけど、アイツを一目見るために来店する客も多い。
『不思議ちゃんだが、無口な可愛い店員のいるカドショ』という噂が流れてるらしい。おい、華なら(ry
少しばかり噂へ不満を感じつつも、レジ裏に置いてたパイプ椅子を引っ張り出す。……っと、来店か。
「こんちはー!リョウさん、今デュエスペ空いてる?」
「なんだ遊笑かよ。ってか、珍しいなお前が一人で来るなんて。遊鮮と遊香はどうした?」
「今日はここで待ち合わせてたんだ……うぉっ、新パック出てんじゃん!?1パック頂戴!……いやこれは無駄遣いじゃねぇって!」
「お前情報誌見てないのかよ……ほいよ。DP払いか?現金か?」
「今日はDP!」
お、珍しいな。こいつがDP持ってるなんて。他の市じゃあそこまでって感じだが、童三乃坂市は天下のカード産業最大手GCCのお膝元。なもんで、デュエルが盛んどころの話ではない。
商談でデュエル、学校の休憩時間でデュエル、道端での喧嘩の決着にデュエル。デュエル尽くしなのだ、この街は。そうなれば必然、現金よりもDPの方が手に入りやすく、需要も高くなってくる。
なんなら実は現金対応の店よりDP対応の店の方が多いくらいだ。現金の持ち歩きよりもDP払いの方が端末一つでやり取りできるしな。
そして目の前のアホガキ遊笑は、ちっこい頃から知ってるが超がつくほどの浪費家でもある。しかも金ではない。DPの浪費癖が最悪という、この町で暮らすうえで致命傷レベルの悪癖を持っているのだ。まぁ私からすりゃあ金もDPも落としていく素晴らしい客だ。できる限り絞り取ってやろゲフンゲフン。
「分かってるよ、今探して……!このパック頂戴」
「?おう、ほらよ」
パックの並んだ陳列棚をにらみつけていたかと思えば、何かに気づいたように一つのパックを手に取ってくる遊笑。……サーチか?いや、触ってみたりもせずただ睨みつけていただけだしンなわけねぇか……。
「よし、イベントしてないところのスペース借りるな!」
「ん、遊鮮と遊香が来たら伝えといてやるよ」
「あんがとー!……うわっ、そんな急かすなよ!」
こいつこんな独り言多かったっけ?と思いつつも、元気にたったかとデュエルスペースへ行く遊笑を見送り、改めて引っ張りだしたパイプ椅子へと座り新聞を広げる。
「んー、『プロデュエリストの行方不明、今年に入り4件目』……物騒だねぇ」
適当な見出しを、これまた適当に流し見していると遊笑の来店からあまり時間を空けずまた来店のベルが鳴る。
「こんにちはー!リョウさん今日はおさぼりさんせずにちゃんと起きてrむごああああ頭ああ!」
「どうも」
「おう、らっしゃい。お前らも来たんだな。遊笑はあそこだぞ」
遊鮮と遊香だった。相変わらず元気に失礼な事ぬかす遊香には無言でカウンター越しにアイアンクロ―を見舞い、遊鮮には軽く声をかけてから遊笑の向かった席へ案内した。
「……ん、見ねぇ顔もいるな」
「あ、ど、どうも。遊笑くん達のと、友達になりました、高良コウと申します」
「おう、よろしく。よろしくついでにパック何でもいいから買って売り上げに貢献してきな。ほら、今日は新弾でてんぞ」
「え、えっと……」
「あーもうリョウさん、コウちゃん怖がってるでしょ~?ただでさえ顔が普段から不機嫌そうでこわああああああああいだだだだ!」
「うるせぇ、しばくぞ遊香」
「も、もうしばかれてるぅぅぅぅ!?」
「あはは……高良さん、気にしなくていいよ。これは二人のじゃれ合いだから」
「そ、そうですか……な、仲良しなんですね!」
「それはいいからたすけてえええええいああ!」
もらい泣き。……失礼、つい。
若干ひきつった笑いで後ずさる……高良だっけか。とりあえず緊張は少しはほぐれたみたいなので茶番はもういいだろうと遊香を解放。そのまま三人とも遊笑が手を振るデュエルスペースへと向かっていった。それを見送りながら、ポケットからスマホを取り出す。
「さて……こちらも準備を始めるとしますか」
―機械万歳―
最後の一戦が終了し、優勝した参加者のモリンフェンLOVEが他の参加者からの喝さいを浴びて無事今日のイベントは終了を迎えた。
……いや、なんであんなデッキで勝てるのこの人???普通に怖いんだが。素材にするんでも無くマジでモリンフェンで戦うのになんでそこまで勝ち星あげれるの。
「あ、ねーちゃん丁度良かった!今大丈夫?」
「?」
イベントの終わりに伴い、ざわざわと喧騒が広がっていたデュエルスペースも人が散り比較的静かになってきた。周囲ではまだ満足できなかったデュエリストがデュエル相手を誘いデュエルしてたり、知り合いや連れを捕まえてイベントでの対戦の感想を話したりしている。
そんな中で片づけをしていると、不意に背後から聞きなれた声が聞こえてくる。振り返って見れば案の定見知った顔―――遊笑くんがいた。背後にはいつも通り遊鮮くんと遊香ちゃんもいる。お、知らない子もいるね……いや、ちょっと前に一回来てた気もするな。
遊笑くん達との出会いは実は結構古い。というか三年前、俺がここで働き始めた頃に初めて来店してきたのが初対面だ。
『ねーちゃんすっげー!かっこいー!』
『……?』
『ねーねー、俺にデュエル教えてよ!』
キラキラした目でこちらを見てくる遊笑くん。俺が働き始めて大体1か月くらいのころだったか。ショップでのイベントを運営していた際、害悪デュエリストが紛れ込んで大会を荒らしに荒らしていた時があった。
よりにもよって子どもばかりを狙いアンティルールを強引に取り付け、まだ上手く戦うこともできないような子からカードを巻き上げていたクズである。
出禁にすることも出来たし、何なら実際にリョウさん直々に出禁が言い渡された。
......のだが、質の悪いことにこのクズ、出禁にしたら店の前で同じことをしてやがったのだ。
ただ道端でデュエルしてるだけでは出禁にすることは無理だろう、などと勝ち誇るように脅迫までする始末。うーん、営業妨害ってのをご存じでない?とはリョウさんの呆れた様子での一言だった。
その後は特に語るようなことはあまり無い。リョウさん直々に処刑許可が出て、俺がバチボコにひねりつぶした。相手の害悪デュエリストが泣いて謝るまでライフミリ残しからのモンスターを嬲り殺しにする外道プレイに興じていたところを、カード片手に観戦していたのが何を隠そう遊笑くんだ。
当時はこの虐殺を見てかっこいいは大分いい趣味してるねぇ少年、なんて思っていた。今にして思えば、あれは多分害悪デュエリストの被害に遭っていた自分を助けに颯爽と現れてぶっ倒していく姿がかっこよく見えていたのだろう。
そう信じたい。
それと、師匠になってから気づいたけどそんなに歳離れてなさそうだったのは驚いた。いやまぁ、俺のこの体の年齢は多分学生くらいだろうと思ってるだけで実際の年齢分かんねぇから何とも言えんけど。
それ以来、遊笑くんのデュエルの師匠的な立ち位置に俺は収まったのである。ちなみに機械族の布教は失敗した。「俺は父さんのデッキもらう!」だって。ちくせう。
まぁ布教は失敗したがそれでもデュエルを教えるのは承諾し、実際色々教えた。その後、幼馴染だということで遊鮮くんや遊香ちゃんを紹介されたところから三人とも仲良くさせてもらってる。
年下という事もあったが、まるで弟妹ができたようだったのですごくうれしかった覚えがある。いやぁ良く成長したもんだ。遊香ちゃんは何とは言わないがまだ成長しきっていないけど……ま、まだ成長の余地はある!多分!
そんな訳で、この三人に対しては非常に仲良くさせてもらっているし、常連として贔屓もさせてもらってる。最初はクソガキだ何だといら立っていたリョウさんも、今では客として(金づるとして)大切に扱っているようだ。副音声は気にしないで。
しかし。この機械万歳、伊達に長年遊戯王に浸かってきちゃいないのだ。
わかる、私にはわかる!明るくとっつきやすい性格。名前の「遊」の字。そして極めつけは三人とも若干この世界の同年代と比較してデッキが強い。すなわち!
この三人の誰かが、この遊戯王世界の主人公だ!
髪色や髪形だけならそこまで珍しくない。前世ではえぐいほど奇抜な髪でもこの世界じゃ気にも留められないレベル、なんてこともよくある。その辺歩いてたら薄ピンクの髪色の人が歩いている日常ってすごいよね(一般転生者並感)
だが彼らは間違いなく主人公だろう!特に遊笑くんはその可能性がすごく高い。
だって……この子、髪形が海産物だし!髪色は意外にも結構普通の範疇な薄目の茶色。しかしその髪型は十代みたいなくらげヘアなのだ、前髪は遊馬みのある若干エビっぽくもあるけど!
遊戯王の主人公の髪形は海産物の法則で言えば、間違いなくこの子だ!……トマト?遊我?ユウキディアス?……はっはっは。
「何か、あった?」
「あのな、今友達のデュエルの腕を鍛えてるんだ!でもそいつ、さっきから俺たちに負けまくってて落ち込んじゃってて……」
「なる、ほど」
ふむふむ、子どもらしく説明が随分と拙いけど俺にはわかるぜ遊笑くん。皆まで言うな、つまりあれだ。サンドバッグがほしいんだろう?
ふっふっふ、おねーさんに任せんしゃい!
「てんちょ、に伝えて、くる。少し、待ってて」
「いいの!?ありがと!」
手早く片づけを済ませてリョウさんに許可を得る。なんかどこかに電話しているようで適当に許可が出た。……新弾はもう入荷してるし入荷の電話じゃないと思うけど……まぁいいや。
最近になってクソダサジャージから変更になった従業員用の緑のエプロン(リョウさんは最後まで変更に抵抗していた)を一旦ほどき、遊笑くん達が対戦をしている卓へと向かう。
「おまた、せ。良いって」
「あ、キーさん!」
「きききききききき!?」
「お、来た来た!ねーちゃんありがとな!」
どうやら待ってくれていたようで、卓には友達だという眼鏡の少女のみ座っておりそれを取り囲むように三人が立っていた。遊香ちゃんは俺が来たのをみて嬉しそうにしており、遊鮮くんは驚きのあまりバグったみたいにきを連呼している。おもしろ。
「ゆゆゆゆ遊笑!?相手を連れてくるとは聞いてたけど、機械万歳さんかよ!?」
「あ、あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてない!」
あ、遊鮮くんが遊笑くんにつかみかかってる。はっはっは動揺しすぎワロタ。
何を隠そう遊鮮くん。この私機械万歳に対して恋慕の情を持っているのだ。ちなみに本人は隠しているつもりだが大体の常連にはバレてる。というか俺にもバレてる。
そのつもりはあんまりなかったんだけど、どうやら昔簡単な指導をしていた頃から想いを寄せてくれてたらしい。大分拗らせてんな。
気づいたのは割と最近なので明確な理由は分からんのだが、リョウさんに相談したらドン引かれた。
『おま……あれ誘ってたとか、好かれたかったわけじゃなくてやってたのか……?』
って言われた。うーん解せぬ。
理由は不明だがこちらを好いている遊鮮くん、俺に不意に出会うとこのようにバグるのがお決まりとなっている。もう他二人は何も思わないようで、「またか」みたいな顔しかしない。
俺?中身男だし別に。ただ揶揄うと面白いから無知ムーヴで遊んでる。
別にひどい事はしてないぞ。ちょっと指導の中で背後からのしかかる感じでπを乗せてみたり、わざと耳元でささやく感じでアドバイスしたり、デュエル中や会計の時に自然に手を取ってカードや小銭を渡すようにしたりしただけだ。
あ、そういえば偶に膝の上にのせて日向ぼっこという名目で体を抱きかかえて数十分拘束もしたな。
正直楽しかったです(小並感)。
「それで、相手、はこの子?」
「あ、うん。コウっていうんだ。ほらコウ、このねーちゃんがここのバイトしてる、バイトのねーちゃん!」
「遊笑、それじゃわかんないよー?コウちゃん、キーさんです!キーさん、コウちゃんです!」
「遊香、その言い方も分かりづらいと思うよ?」
「よろ、しく」
イエイイエーイ、コウちゃんね。よろしくー。フレンドリーに見せるため真顔ダブルピースで挨拶。すまんね愛想笑いも出来んで、マイフェイスは鉄仮面なのだよ。
件の対戦相手―――コウちゃんは、慌てて席を立ってお辞儀を返してくれる。おういい子。
「それ、で。デュエルの、何が、苦手?」
「あ、はい……実は……」
「……なる、ほど。デッキ構築、はあえて何も、言わないけど。デュエルの、駆け引きが、弱いと」
「うっ、そ、そうです……」
聞いた話をざっくりとまとめてみると、少ししょんぼりしながら頷くコウちゃん。多分アニメとかならグサッて効果音と矢印でも刺さってそうなくらい落ち込んでら。なんか話の中では駆け引きが苦手以外にも相手の動きを妨害する破壊効果系カードが使いこなせないとのこと。……え、それ遊戯王の何が楽しいの?あ、これ禁句?
「おっけ、とり、あえず一回、戦う。それで、どの程度、練習がいる、か確認」
「わ、分かりました!よろしくお願いします!」
「ん。じゃ、ついてくる」
「え?」
コウちゃんがやる気を出したところで、おもむろに立ち上がる。どうやらここでやると思ってたみたいでデッキ片手にフリーズしているコウちゃんと、後ろで話を聞いて言いた三人も少し首をかしげていた。
「え、ねーちゃんデュエルするだけでしょ?どこいくの?」
「デュエルフィールド」
「え!?いいの!?」
「だいじょぶ。怒られる、のはこちら、だけ」
「そ、それは良くないんじゃ……?」
申し訳なさげに言ってくるコウちゃんと、心配そうな遊鮮くん。一方の遊笑くんと遊香ちゃんはと言えば……うん、デュエルフィールドめったに使わないし楽しそうだね君ら。
コウちゃんが自分のせいだとか思わないように大丈夫大丈夫といいつつ流れでさらっと移動する。
だって今日も仕事でストレスマックスなんだもん!俺だってデュエルではっちゃけたいやい!ふふふ、仕事で出た疲れは、デュエルでリフレッシュしないとな!
「お、キーちゃんデュエルするのか!?」
「うおおおキーちゃんがデュエルするぞ!」
「しかもソリッド・ヴィジョン!?見るっきゃねぇよ!」
デュエルスペースにまだ残っていた人たちが何やら興奮している。俺が数合わせとかでイベントに参加したときもそうだけど、いっつも俺のデュエルだけ観客が多いんだよなぁ。
なんでやろ。
「ね、ねぇ遊笑くん。何かこの店員さん人気があるの?」
「ああ、ねーちゃんすげー上手いんだよデュエル。だからねーちゃんがデュエルするときは毎回勉強するために人だかりができる」
「そうなんだ……」
(そうなんだ……)
知らなかった……みんな暇人で何となく観戦しているものだと思ってた。
ソリッド・ヴィジョン装置の設定を終えて、デュエルディスク片手に中央のフィールドへと立つ。この瞬間が一番生を実感するぜぇ……。
反対側には若干自信なさげな表情のコウちゃんが立っている。恥ずかしがり屋なのだろうか、周囲の視線にオドオドしている。
「コウちゃーん!がんばれー!」
「気張れよー!コウー!」
「…………機械万歳さん頑張れ」
「「遊鮮今何か言った?」」
「い、いやなにも!」
コウちゃんの後ろには遊の字三人衆が集まっており、コウちゃんへと声援を飛ばしている。フィールドは円形なので、取り囲むような形で観戦しに来た常連たちも良い観戦ポジションを求めて我先にと集まってきていた。
「だい、じょうぶ?むり、そうなら、やめる、けど」
「だ、大丈夫、です!上手くなるためにも、このくらいでへこたれちゃ……!」
うんうん、緊張は抜けてないけど結構やる気がすごいねコウちゃん。何がモチベになってるのかは分からんけど、少し話しただけだがそれでも分かるくらい気弱そうなコウちゃんが、頑張っているのだ。これは俺もしっかりと本腰入れて指導しないとな!
「では、はじめる」
「は、はい!」
互いに構えたデュエルディスクが起動し、デュエルモードとなる。ソリッド・ヴィジョン装置がうなりを上げ始め、それにつられて周囲の観客の興奮度合いも上がっていくのが感じられた。
そうして高まった場の空気に呑まれぬよう、俺とコウちゃんでデュエルの開始を宣言した。
「「デュエル!」」
LP4000 機械万歳
vs
LP4000 高良コウ
次回、機械万歳vsコウちゃん。
実際イベントじゃないけど、新しいパックの発売日って凄いそれっぽい人がたくさんいる気がします。店内に入っただけで何となくパック売り場とかストレージの人の数が多く見えますね。
実際のところどうなのかは怪しいですが、まぁ「この世界ではこうなってるんだよ」の精神でお願いします。
機械万歳「キーちゃん呼び別に良いんだけど、おじいちゃん世代達から『キー坊』って呼ばれるのはなんかヤダな......」