自分がかんじていた将来に対する漠然としていて不明瞭な不安を小説として書き起こしてみました。親や学校に進路を決めろと言われても何を目指せばいいのかなんて分からなくて自分が嫌いになる。そんな毎日から抜け出したかった当時の自分が小説を通して伝えられたら幸いです。

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レンズ

 

    

人口一六万人。高層ビルは無い。町は雑木林と公園が多く夏は蚊で溢れかえる。かといって田舎と言われると田舎特有の上品な静けさは無い。そんな中途半端な町に私は住んでいる。鈍行の窓から紅葉の合間にあるくすぶった灰色のビルを眺め帰宅している私は退屈だった。ドアがゆっくりと開きホームに降り何も考えずに足を家に向かって動かす。改札を出て地下駐輪場への階段を下りる瞬間

 

「パシャリ」

 

シャッター音が駅の広場に溶けこんだ。私は急に夢から醒めたように音の発生源を探した。広場の端にカメラを覗き込む人を見つけたが階段を降りる体が止まらず目に入ったのは一瞬だった。自転車を両手に戻ってきた頃にはカメラの人は居なくなっていて夕日がひび割れたアスファルトを暗澹と照らしていた。

 

「もう早いことで、明日から冬休みになります。冬が明けて春が来たら皆さんは三年生です。冬休み明けに進路用紙を回収するので忘れないように。」

 時の流れは早いもので明日から冬休みが始まる。三年生になれば受験が待っているし何より『進路』を冬休み中に決めなければならないのが憂鬱で仕方がなかった。

 「元気無くない?明日から冬休みなのにさ」

半歩詰めて顔をまじまじと覗き込んでくる。

 「大丈夫だよ小春。ただ進路って言われても何をすればいいのか分からなくて嫌になっただけ。」

 「うーん…何をすればいいのかじゃなくて何をしたいかじゃない?まだ冬休み沢山あるんだしゆっくり考えていけばいいよ!」

 小春はほんとに春みたいに優しくて思いやりのある子だ。私にはもったいないくらい。いつも私を励ましてくれる。その日は二人で寄り道して小春はいちごとみかんのクレープ。私は総菜クレープをベンチで食べた。小春ははぐはぐと食べ終わると自分の夢について話してくれた。

 「私はね国語の教師になりたいんだ。授業を通して文学に興味をもってくれたり、子どもたちと楽しく会話ができるって最高だと思わない?」

 いつもより力のこもった口調で、夕日のせいか顔が赤みがかっていた。私は何がしたいんだろう。小春と別れた後その疑問を口にしたが、すっかり暗くなって人工衛星しか見ることの出来ない夜に吸い込まれるだけだけで、答えは見つからなかった。

 

 

 年が明けた。外は雪がちらちらと降っており手袋をしていても指先が痛い。なんで私がケーキを駅まで買いに行かなければならないのか。道端の枝木には昨晩からの雪がこんもり積もっていて遠くからは子どもの笑い声が聞こえる。いつからだろう。雪が降っても喜ばなくなったのは。なんだか自分が子どもでも大人でもない中途半端な感じがして足取りが重くなったような気がした。自分は食べられないショートケーキを買って店を出る。

 

 「パシャリ」

 

まただ。シャッター音が乾いた駅に溶け込んだ。熱心にカメラを覗き込み何も無いこの駅を写している。どうして写真を撮るんだろう。どうしてこの駅なのだろう。どうしてそんなに楽しそうなんだろう。気づいたら私は話しかけていた。

 「あの…なんでそんなに楽しそうに写真を撮っているんですか。この辺りには何も無いのに…何を撮っているんですか」

 

 「パシャリ」

 

 彼は再度シャッターを切ってから答えた。

 「僕は写真が好きだ。写真は自分の好きな瞬間を切り取とってくれる。その場所が消えていても時間が経っても写真があれば僕の中に現れてくれる。だから僕は町を撮っているんだ。」

 「町?」

 「そう。駅は地元の人が集まるからこそ特色が出る。だから駅は町そのものなんだ。君は高知駅を知っているかい?そこにはくじらドームという太平洋に現れるクジラをモチーフに駅が作られていて面白いんだ。」

 

 「パシャリ」

 

 でもこの町には何もないつまらないところなのに特色なんてものあるのだろうか。沈黙が流れ雪以外のすべてが止まっている。

 

 「パシャリ」

 

 「この駅にも他の駅には無い特色がある。広場の中央にある水車はかなり昔のもので、この辺りはかつて飲料水不足が問題となっていたんだ。そしてそれを解決する為に二十四キロメートルもの用水路が素掘りで作られたんだ。他の町には無い特色で水車として駅に現れている。」

 知らなかった。知ろうとしていなかった。私は知ろうともしていないのに地元を嫌っていた自分が恥ずかしく思えたのと同時に彼が羨ましく思えた。彼はレンズを通して自分の世界を写真に投影している。私も自分の世界を見つけたい。自分のやりたいことを見つけたい。そう思えた。彼はもう何枚か写真を撮ると「それじゃ」と言って居なくなってしまった。辺りは暗くなっていて冬だからか星がよく見える。しばらく水の音を聞きながら夜空を眺めていると不意にスマホが鳴った。

 「あんたどこにいるの!お母さん連絡したのに返信来ないから心配したのよ!」

 アプリを開いてみると確かに何件も通知が溜まっていた。

「冬だからケーキが溶けなくてよかったね」なんて言ったら更に怒られたが悪い気はしなかった。自分が何をしたいかなんて永遠に分からないものだと思っていたけれど、自分を知ろうとしていなかった私に分かる訳がなかった。今日はショートケーキに挑戦してみようか。私は軽い足取りで家に向かった。

 

 

 


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