虎杖悠仁に憑依したけど一億呪霊が出来た件について   作:仁羂最高

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第1話

 咲き乱れる桜の花びらすら散ってしまいそうな、分娩室という外界から隔離された場所を持って尚震えてしまう程に凍てつく風の下で虎杖悠仁は産み落とされた。

 

「可愛いお子さんですよー」

 

 助産師は言葉を吐く、何が因果の巡る世界に舞い降りてしまったかすら知らずに。

 赤ん坊は泣かなかった、ただの一言すら発する様子はなくひたすらに手を動かすのみ。

 だがもしも赤ん坊の手の届く場所にカッターなどがあったのならば、どれほど鈍い刃物だろうと赤ん坊は自らの首を掻っ切って死んでしまっただろう。

 それを額に縫い目のある女だけが感じとっていた。

 江戸や都で散々と言うほど見た絶望の瞳が、自らが腹を痛めて産んだ子の瞼の下に存在している事に驚きを隠せなかった。

 だが、母も医師も何もかもをどうでもいいと言わんばかりに、希望など何もないかのように彼は世界を嘲笑っていた。

 

「君は……誰だい?」

 

 思わず羂索がそう尋ねてしまったのを責めれる人間などは存在しないだろう、異質という言葉すら陳腐に感じてしまう程に黝く澱んだ瞳が、困惑する羂索を見つめていた。

 そして、次の瞬間虎杖悠仁はこの世界で初めての意味のある言葉を発した。

 それは決して赤ん坊に出来うる発音ではなく。

 

「まい……さん……」

 

 名家に産まれた落ちこぼれの名前を、彼は呼んだ。

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

「聞いた?今度の新入生の話」

 

「新入生?またクセの強い奴なの?」

 

 2018年、春。

 京都校の一角にて西宮桃と禪院真依は世間話をしていた。

 高専の一学年辺りの人数は非常に少なく、居ても四人程度であるため、新しく入ってくる新入生が話題になるのはおかしな事じゃない。

 だが真依は桃の表情から良いニュースではないと当たりをつけていた、東堂が何かやらかした時の歌姫先生の顔と似ていたので、また変人がきたのかと思ったのだ。

 

「メカ丸が言ってたんだけど苗字が虎杖って─────」

 

 

 

 

「今、僕の噂してました?」

 

 

 

 二人が話すすぐ隣、その場所にいつの間にか一人の人間が立っていた。

 談笑する二人に気取られる事なく、ただただ歩いてきたのだ。

 

「……アンタが新入生?気配隠すなんて先輩相手に随分と生意気じゃない」

 

 舐められたら終わり、それが呪術界の基本。

 彼の気配に微塵も気づくことのなかった真依は、動揺を隠しながら新入生に高圧的な態度で話しかけた。

 

「別に隠してませんよ、これが僕のいつも通りです。対外放出呪力はオフにしてますがそれだけ、単純に貴方の気配察知能力が低いのでは?」

 

 真依を煽る虎杖悠仁、彼も口が悪い。

 桃が彼を初めて見た感想は()()()()()()()()()()というものだった、次いであまりに澱んでいる眼球へと注目、不気味な人間だと思ったのだった。

 

「へぇ……陰気な見た目によらず好戦的じゃない」

 

 煽りに煽りを重ねる真依、見かねた桃は止めに入った。

 

「真依ちゃんも君も喧嘩しないで、これから一緒に戦う仲間なんだから」

 

 二人の間に立って喧嘩を仲裁する桃の手つきは手慣れていた、東堂などで慣れているのだろう。

 まあ、言っても止まらないのは東堂葵ではあるが。

 

「……チッ、それもそうね。それで、なんの用?」

 

 苛立っていた、禪院真依はどうしようもなく苛立っていた。

 確かに彼女は呪術界や術師に対して苛立ちの念を覚える事が多い、だが初対面の人間にこれほどの感情を抱くのは初めてだった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いえ、特に用事はありませんよ。ただそろそろ入学ですし寮入りがてら同じ学校の生徒を見て回ろうと思って。自己紹介ついでですけどね」

 

「そう、私は禪院真依。真依って呼んで」

 

「僕は虎杖悠仁、知ってるかは分かりませんが虎杖香織の息子です。これからよろしくお願いします」

 

「香織さんの⁉︎息子がいるとは言ってたけど術師……⁉︎」

 

 それは真依にとって驚くべき情報だった。

 一級術師である虎杖香織は東京校を拠点としているが、仕事の都合で関西に来ることも多く、真依も世話になっていたのだ。

 今の真依が二級術師であるのも全て香織さんのおかげといっても過言ではないだろう、それほどまでに真依は虎杖香織を慕っていた。

 

「あ、やっぱり?虎杖が苗字だってメカ丸が言ってたからもしかしたらとは思ってたんだけど」

 

 虎杖香織とあまり接点のない西宮は驚き少なめに、自分の予想は合っていたことを確認した。

 

「……母は有名なんですか?」

 

 二人の反応が意外だったのか悠仁は真依に質問した、いくら一級とはいえそこまで京都校との接点はないと思っていたのだ。

 

「私が個人的に仲がいいだけよ……でも全く似てないわね。香織さんとは目が全然違う」

 

「よく言われます。僕はどっちかっていうと父親似なんですよね。ですが母と何故親交を?あぁいや、プライベートな事なら言わないくて良いんですが」

 

 先程の苛立ちはどこへいったのやら、尊敬する香織さんの息子だと分かった今、真依は穏やかに話していた。

 

「別に良いわよ去年構築術式の使い方に関してレクチャーしてもらったの、それで作るべき武器を教えてもらったってわけ」

 

「成る程、あの人にそんな甲斐性があったのか……しかし構築術式で武器?」

 

「そう───────『真球』を作るべきだって言われたのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────、

 

 

 

 

 

「悠仁、君もなのかい?」

 

 とある昼下がり、腕に赤ん坊を抱えながら虎杖香織は疑問を呈していた。

 

「君も、あの場所から戻ってきたのかい?」

 

 仁さんのための料理を考えながら、彼女は問いかける。

 

「そうか、ならば君は今でも──────

 

 

 

 

 

 ──────禪院真依を愛しているのかい?」

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