しゃちくな生徒のひとりごと   作:古典派*

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先生がキモい回です
水着ハナコいません助けてください



三話『過ぎたるは猶及ばざるが如し』

 

 

 

 D.U.地区。乱立するビルの合間、迷路のように広がる路地で赤熱する弾丸が飛び交い、ミサイルや手榴弾が電柱を、自販機をなぎ倒していく。

 

『右手前障害物、飛び出し二名…今!』

 

 指示に従い二丁の銃口を向ければ、黒の塗装が施されたオートマタが身を乗りだし──殺到した弾丸に穿たれた二つのがらくたが出来上がる。

 合図をしていたのだろう、前衛の二機を援護するために降着したドローンは先読みするかのように置かれた射線にその身を晒し、遇えなく地面に精密部品をブチ撒けた。

 

『右方の路地へ前進。…カナタ、グレネード用意。…三…二…一、今』

 

「…!」

 

 不思議とスルリと抜き出す事が出来た柄付きグレネードを放り投げ、ごく自然な所作で左手を添えた銃口は微塵も緊張することなく、微塵もブレることなく、描く放物線から三つの花火とそれよりも多くの爆発を作り出す。

 

『そのまま前進。ジュンコ、見えてくる戦車に向けて全力射撃お願い』

 

「そんなの見えてない…うわホントに来た?!っうぅ~!」

 

 赤髪を二つに結わえた少女、ジュンコの抱えたアサルトライフルがたった一つの砲口で火線を形成し、先回りするように駆けつけた戦車を展開していた歩兵部隊ごと火の玉に変えた。

 

『少し前進したところから左側自販機手前の路地に入って。シュン、路地を出たところで射撃準備お願い』

 

「は~い先生」

 

 後ろからジャキンと響く物騒な音に構うこともなく狭く暗い路地を走り抜ければ、丁度待ち伏せしていたのだろう。隊列を組み配置についたブラックマーケットのオートマタが背中を向けて待機していた。

 当然そんな好機を見逃す筈もなく、「こっちだよ~」とどこか間延びした台詞のまま大きな盾を構えた少女がその盾で敵を押し潰し、右手に携えたサブマシンガンで敵陣を蹂躙する。

 

「おいっ!こっちだ!こっちにいる!」

 

「くそっ!どこから来やがった!?前に出てた奴らはどうしたんだよ?!」

 

「戦車の支援をくれ!支援を…ぐわあ!!」

 

 高価な装備を纏い、横暴な振る舞いを恐れられるブラックマーケットの部隊は今や見る影もなかった。

 溺れた犬を棒で叩くように迫撃砲の砲弾が降り注ぎ、ただ只管に黒塗りのジャンクが量産されていく。

 そのままがらくたを踏みつけて進んでいけば、マヌケにもようやく回頭を終えたらしい最新式の戦車が砲塔を此方に向けていた。

 

『コタマ、支援お願い。カナタ、一台一つって行けるかな?』

 

『了解。データフィードバック開始』

 

 そんな通信が響けば、頭の奥から蒙が啓いていくような感覚がすうっと広がって行く。ベルトホルダーからグレネードを抜きながら開いた瞳には何もかもが克明に映っていた。

 

「お任せください。殲滅してご覧にいれましょう」

 

 放った放物線に無駄はなく、マズルフラッシュと硝煙を背景に飛んでいく弾丸は神秘を纏ってグレネードを穿ち、そのまま分厚い筈の前面装甲を貫いていく。

 拡張された感覚は弾がエンジン部分で止まり、装甲に開けられた風穴からグレネードの爆風が戦車の内側を焼き尽くしていく瞬間までも鮮明に写していた。

 

目標達成(ミッションクリア)。皆、お疲れ様』

 

「…まるでピクニックですね」

 

 カナタはそう呟き、血を振り払うように硝煙を掻き消すと、流れるようにホルダーに愛銃を納める。

 破壊の跡ばかりが残る路地には、もはや役目を為し得ない最新鋭のがらくたが三台、炎を撒き散らしながら佇むばかりだった。

 

 

 

 

 

         ◆

 

 

 

 

 

「今日は随分早かったですね~」

 

 “シャーレ”に帰って以来、安らかな寝顔ですやすやと眠り続ける少女を膝に乗せて、花の意匠を散りばめた黒いチャイナ服を身に纏う女性──シュンがどこか楽し気にそう言う。

 

「そうなのですか?」

 

 カナタは口に含んだ紅茶を嚥下しながら──あまり良い茶葉ではないなと思いつつ──音もなくカップをソーサーに置いてそう問うた。

 確かに殆どが走って撃つ(ラン&ガン)だけで終わる遠足のような任務だったが、カナタの所感では“先生”が率いたならば誰が出ても似たようなものになるだろうと思っていただけに、シュンの言葉は意外なものだった。

 

「ええ、出動があれば大抵夕方までは掛かりますから。酷い時は深夜まで現場にいたこともありますよ~」

 

 「手当は出ますけど、お肌の大敵ですねえ」と頬に手を当て溜め息を吐く姿は憂鬱そうだが、慣れた仕草で眠りこける少女の頭を撫でているのを見るに、この仕事に対する不満はそこまでないのだろう。

 ちらりと壁掛け時計に目を向ければ、針は三時の半ばを示している。成程彼女の言が確かであれば、この時間にここにいるというのは珍しいことに違いない。

 とはいえ、当番は基本的に定時制だ。待機は夕方の五時までとなっており、その時間まではここで待機する必要があった。

 

「ところで…ジュンコさん、でしたか。何をそう怯えていらっしゃるんですか?私が何か?」

 

 時間潰しも兼ねて、寝こける少女が足を投げ出している方向とは逆の、シュンと腕置きとの間でせせこましく身を納める赤毛の少女に話を振る。

 どういうわけか現場で何かに気づいて以来、訪ねた家の猫が警戒するような態度を取られている理由がわからず、カナタは遂に聞いてみることにしたのだ。

 

「あ、あんたトリニティの執行部長でしょ?」

 

「ええ、そうですが」

 

「じゃあいい!どっちかっていうと覚えてて欲しくないし…」

 

 警戒しつつもテーブルに並べられた茶菓子に手をつけるジュンコにこれ以上話をするつもりはないらしかった。

 

 ふむ、とカナタは思索を巡らせる。

 覚えていて欲しくないと言うことは会ったことがあるのだろう。とくれば十中八九、何かしらの犯罪グループに所属している可能性が高い。

 何故ならカナタがトリニティの外へ出る時は大抵公的な立場と使命を帯びるからだ。

 そんな中で出会うゲヘナの生徒と言えば、風紀委員を除いてしまえばあとは襲撃にきた連中か、間抜けにも近場で騒ぎを起こす犯罪者くらいなものだ。それか態々トリニティ自治区まで入ってくる気合いの入った犯罪者とか。

 

 と、そこまで考えて何かが引っ掛かり、カナタが埋もれた記憶を漁ろうとした時だった。

 

「ジュンコちゃんは美食研究会の期待の新人なんですって」

 

「…ああ、あの過激派一派の」

 

「一派っていうなあ!!」

 

 言われてつい二週間前に対応し、正実の上層部と揃い踏みでようやく捕縛した面子の中に彼女がいたことをカナタは思い出した。

 立ち上がって抗議したジュンコの涙目の激発だが、カナタはそれにはちっとも同情が出来ない。

 

「態々他の自治区まで来て「本物を出せ」などと主張した挙げ句店舗を粉微塵にしたり、店主の不在を良いことにレシピを変更して集団食中毒を発生させたり、辺り一帯の店の食糧を根こそぎ食い尽くす行為を繰り返すのは反社会的な行動で、それが「美食の名の元に」という思想の基行われているならそれはもう立派な恣意的行為ですよ、ジュンコさん」

 

「………ぐう…」

 

 ぐうの音は出たらしい。

 というかその件で捕まった時は結構前で殆ど単独犯だったと記憶しているので、時系列的に彼女がぐうの音が出る程度に覚えがあるのは本格的に討伐も視野にいれるべき危険集団と認識せざるを得ないのだが、ゲヘナでは一体どんな教育的指導を行っているのだろうか。カナタは訝しんだ。

 

「詳しいんですね?」

 

「事情聴取は何度か行いましたので」

 

 不思議そうな顔で尋ねるシュンだが、カナタは苦々しい表情でそう返す。

 彼女らは先に述べたものの他にも大小様々な犯罪行為を重ねており、捕縛される都度如何なる収容所からも脱走を果たすため、キヴォトスに於いて大抵の自治体でブラックリストに指定されている危険団体なのだ。

 当然その被害は敵対的な(本来入れない)区域である筈のトリニティ自治区まで及んでおり、カナタや正実の頭痛の種の一つである。

 

「…まあ、場所が場所ですのであなたの事も例の先輩方も取って食ったりはしませんよ。自治区に来た時は覚悟してもらう必要があるでしょうが」

 

「いや、うん。先輩達はちょっとこらしめてもらった方が良いと思うけど…」

 

 どうやら彼の先輩方の所業を庇い立てしない程度には善良かつ常識的であるらしい。

 これがいつかゲヘナに染まるのかと思うと少しやるせない気持ちになるが、それはカナタにはどうすることも出来ない事だ。

 カナタは諸行無常という言葉の苦味を含んだような安物の紅茶を飲みながら、次の差し入れは取り寄せた紅茶缶を持ってくる腹積もりを決める。

 

「うふふ、仲良しさんで安心しました」

 

「え、どこが?私今こっちきたらボコボコにするって聞こえたんだけど」

 

「そうだ。これからお仕事が来そうな感じもないですし、先生に作るお夜食をカナタちゃんとジュンコちゃんにお願いしても良いですか?」

 

「ねえちょっと聞いてる?やんないけど?」

 

「そうですね。ツバキさんを起こすわけにもいきませんから…料理はあまり得意ではありませんが、やってみましょう」

 

「やるの!?それが一番意外なんだけど!?っていうかやんないって!」

 

「ジュンコさん、あまりうるさくするとツバキさんが起きてしまいますよ。早くキッチンへ行きましょう」

 

「やんないってばあぁー!!」

 

 ジュンコの悲鳴は他所に、カナタに首根っこをひっ掴まれてズルズルと引き摺られていく。

 “シャーレ”の待合室にはすよすよと安らかな寝息だけが残るのだった。

 

 

 

 

 

         ◆

 

 

 

 

 

 妙に設備の整った“シャーレ”のキッチンで調理器具の確認をしながら、カナタは冷蔵庫を開け閉めする。

 

「…ねえ、なに探してるの?」

 

「うなぎを少々」

 

 話しかけてきたのはダイニングでミレニアムの生徒同士ディスカッションをしていたらしい、少し露出の激しい格好をジャケットで巧妙に隠すイカしたファッションセンスの持ち主、猫塚ヒビキだ。

 先の“シャーレ”としての任務で迫撃砲の砲手として後方で待機していた要員の一人である。

 

「今は旬じゃないから、買ってないと思う…」

 

「やはりそうですか」

 

 チルドを探してその存在が見つからない時点で諦めていたが、早速得意料理の一つが頓挫してカナタは落胆する。

 今から買い物に行けば用意できるかもしれないが、まず間違いなく当番としての定時は過ぎるだろう。下手なことをしてあらぬ憶測を立てられるのは避けるべきである以上、カナタは今非常に難しい判断を強いられていた。

 

「他にもなにか探してた?」

 

「白身魚かイワシがあればと思ったのですが、あるでしょうか?」

 

「基本的にナマモノは置いてないかもしれない。手をつけられない日もあるし、先生も料理する人じゃないみたいだから…」

 

「道理ですね。ジャガイモは見つかりましたが、こればかりではなんとも…」

 

 その手には丸々とした男爵芋が握られているが、「先生これどうぞ」でうら若き女子生徒から蒸かし芋が出てくるのはカナタの女子としての沽券に関わる展開だった。

 それにポテト単品ではメインにしようとしていたバゲットとも相性が良いとはいえないだろう。

 

「…因みに何作ろうとしてるわけ?」

 

「魚があればフィッシュ&チップスを」

 

「……ウナギは?」

 

「ハギスですね」

 

「…まさかイワシって…」

 

「おや、スターゲイジーパイをご存知ですか?感心ですね」

 

「こいつ厨房に立たせちゃダメなやつよ!!」

 

 無理に連れてこられた故か不貞腐れながらも粛々と問いを投げ掛けていたジュンコは、すこぶる激発するとどこか恐怖を含んだ表情で糾弾するように指を突き付け声を張り上げる。

 背景ではカナタの挙げた料理を知らなかったらしいヒビキが検索をかけたらしいコタマのスマホを覗き込み青い顔をしていた。

 

「なんですか?なんだというのですか」

 

「一旦落ち着こう。一旦落ち着こう?」

 

「ちょっといいから離れなさいよ!こいつ力強っ?!」

 

「やめてください先生がしんでしまいます」

 

 尚もキッチンに立とうとするカナタに、真実を知った少女達がわらわらと止めに掛かる。スマホの検索画面でメニューの完成品を目の当たりにしたばかりのミレニアムの二人は特に必死だ。

 しかし悲しいかな、基本的にインドア派としか言い様のない二人と名目上文化部の所属である一年生では、例え三人掛かりに加えカナタの寝不足というハンディキャップがあっても年中現場に出ずっぱりのカナタのバイタリティには敵わないらしい。

 虚しくも抵抗叶わず彼女らは揃って体力の限界を迎え、フラフラとダイニングへ待避した。椅子に引っ掛かるようにダウンする姿はさながら洗濯物のようだった。

 

「刃物も扱うのですから料理するときにじゃれついてはいけませんよ。…おや、冷凍された白身魚ですね。最低限には出来そうです」

 

 目当てのものとは少し違うものの、冷凍品のそれを見つけるとカナタは慣れた手付きで封を開け、皿にあけたそれを解凍するべくレンジに入れる。

 「使い古しの油がないではありませんか」などと不穏なことをぼやきながらも油を余熱にかけ、ジャガイモを適当な大きさに切り分ける手際に淀みはなかった。

 

 それからしばらくして、油の弾ける音が響くキッチンダイニングに廊下と繋がる扉が開く。

 調理に勤しむカナタが目を向ければ、いつの間にか居なくなった洗濯物達(ジュンコ達)の代わりにそこにいたのは“先生”だった。

 

「やあ、カナタ」

 

「こんにちは…今はこんばんはですか?如何なされたのですか?」

 

「用を足した帰りだったんだけど、通り掛かったらいい匂いと音が聞こえてね」

 

 そう言われてカナタは手元に目を落とす。

 成程、揚げ物が揚がる音は小気味良いといっていい。香ばしさが廊下まで届くのならば、まさに今が良い頃合いというやつだろう。

 カナタは火を止め、次々と完成した揚げ物をキッチンペーパーに上げていく。

 

「美味しそうだね。それ」

 

「フィッシュ&チップスです。晩餐にしても構いませんが、夜食として作りましたので後程温めて召し上がっていただくのが宜しいかと。…危ないので手を出さないでくださいね」

 

 すべての揚げ物を油から上げた後、油から不純物を濾すべく準備していたカナタは、余りにも長い間応答のない“先生”が気になり顔を上げる。

 “先生”はなんか俯いて涙を流していた。態とらしく目頭を押さえている辺り何かに感動しているのだろうか。

 

「カナタがデレた…」

 

 マジでキモかった。

 カナタはその言葉遣いにドン引きしつつ、盛大に溜め息を吐く。

 

「…夜食を作ったのはシュンさんのご厚意で、彼女が動けない状況でしたので私が代わりに作ったまでです」

 

「うん…うん…。これ食べても良いかな?」

 

「貴方のために作ったのですから、他の人に食べられても困ります。後程夜食にするのなら食べすぎないようにしてください」

 

 言動については努めて無視するのが良いだろうと腹を決め、カナタは油濾しの作業を始める。

 その間“先生”は涙を流しながら白身魚のフライを口に運んでいた。キモい。

 

「ほくほくで美味しいよ。でもちょっと味が薄いかも?」

 

「役不足ではありますがトリニティ式に則りましたので、お好みで調味料にディップしていただくのが基本です。塩やケチャップなどはすぐに用意できますが如何致しますか?」

 

「お願いします!」

 

 “先生”の満面の笑みにやや呆れつつ、恙無く油濾しを終える。喜んでくれるのに悪い気はしないが、まだ皿に盛り付けていないのでつまみ食いするのはやめて欲しかった。

 一先ず調味料を揃えるべきだなと器具を片付け、大小の皿を用意していると、今度は勢いよく廊下に繋がるドアが開く。

 

「無事ですか!先生!」

 

 飛び込んできたのはシュンだった。何故か左手には彼女の愛銃が抱えられており、その背後にはそれぞれ完全武装の今日の当番の面々が警戒状態で待機している。

 すわ敵襲かと身構えるが、カナタなりに敵意の向かう先を探ってみればどういうわけかそのベクトルは自身に向いている。

 どういう状況なのかわからない以上後手に回るのは避けたかったが、どうすることも出来ない以上目を丸めて固まっている“先生”同様ただ彼女らの次のアクションを待つよりは他になかった。

 

「んー、美味しそうな匂い…」

 

「わっ、ほんとだ!美味しそうな揚げ物!」

 

 どうするべきか睨み合っていたシュンの横から、ぴょこぴょこと頭が二つ飛び出す。

 一つは先ほどから眠りこけていた少女、ツバキと、もう一つは匂いに釣られ爛々と目を輝かせるジュンコであった。

 

「…結局、何の騒ぎなのですか、これは?」

 

「おかしい、トリニティの料理は科学兵器の筈…」

 

「偽装かもしれない。口に入れた瞬間爆発するのでは?」

 

「美味しいよ?」

 

 ヒビキとコタマにヒソヒソと立てられたド級に失礼な仮説は、塩を振り掛けた芋をもっさもっさと貪る“先生”によって即座に否定された。

 未だ皿に並べられてはいないものの、黄金色に揚がったポテトやきつね色の衣を纏うフライは確かに美味しそうな見た目で、辺りにはよく熱の通った小麦粉が香るいい匂いが漂っている。

 現状において問題視すべき光景は何処にもないが、ミレニアムの二人の発言から推察するにトリニティ料理の画像に衝撃を受けた結果、カナタを止めるために援軍を求めたのだろう。

 

「…成程。確かに得意料理として挙げたあれらはインパクトのある見た目であることは否定しませんが、人が食べられないようなものがレシピとして残る筈がないでしょう」

 

「確かに、その通り。ごめんなさい」

 

「ごめんなさい。反省する」

 

 やや口を尖らせ溜め息を吐いたカナタに、ヒビキもコタマも素直に謝罪した。言葉としては淡白なものだが、特徴的ととらえられる犬のような耳とアホ毛が力なくぺしょりと垂れているため、本当に反省しているように見える。

 

「構いません。それより、盛り付けと調味料の用意を手伝っていただけますか?淡白な味付けであることは否定できないことですので」

 

 カナタのその言葉を皮切りに、キッチンは(かしま)しさで包まれることになった。

 カナタが手早く大皿に揚げ物を盛り付けながら指示を出し、ジュンコやヒビキが揃えた調味料をコタマやツバキが小皿に取り分ける。シュンは全体に目を配り、よくフォローすることで和気藹々と夜食の準備は進んでいった。

 

「…そういえばさ、カナタ」

 

「はい、なんでしょう、先生」

 

「役不足ってなんのこと?」

 

 ニコニコとその光景を見守っていた“先生”がふとそんな問いをカナタに投げ掛ける。問われたカナタは「ああ、その事ですか」と問いに答えた。

 

「トリニティ料理としての本来の形は、使い古した油を使い、もっと長い時間火にかけるのです。今回は時間もありませんでしたし古い油もありませんでしたが、次の機会があればもっと()()()料理をお出しできるでしょう」

 

 何処か誇らしげに「料理はあまり得意ではありませんが、次の機会が楽しみですね」と付け加えるカナタだが、部屋の空気は死んだように静まり返っていた。

 

「……カナタちゃん」

 

「はい」

 

「次の当番は私と一緒に料理のお勉強をしましょうね?」

 

「……何故?!」

 

 有無を言わせない圧を秘めたシュンに、カナタは問いを叫ぶのだった。

 

 





固有武器『ウェルス&プライド』

 入学当時からカナタが所持していた二丁のオートマチック拳銃。
 使用する機会が多いためかよく手入れされており、幾度か改修されたあとが見える。
 行きつけの職人が施してくれた銃身のラメ加工がお気に入り。

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