大体一章7話と8話の間くらいの時系列です
幕間1
気温が上がるようになり、ほんのりと汗ばむ季節。“シャーレ”の執務室のガラス張りには少しばかり雲の掛かった青空が見えている。
カナタは書面に目を通し、分類する作業に従事していた。
左から、却下、返却するもの。判断を仰がなければならないもの。“先生”が判を押すだけのものや署名すべきものだ。
たまに極めて個人的な手紙なども混じっているが、封は切らずひとつところに除外するだけに留めている。…品物入りの封筒は先んじて廃棄すべきか、少々悩むところだが。
「…ところで先生」
「どうかした、カナタ?」
「先だって、数日程シャーレを空けていたようですがどこかへ旅行に行っていたのですか?」
実の所、“先生”が外出することはそれほど珍しいことでもないが、何日も職場兼住居である“シャーレ”を留守にするのは中々珍しいことだった。
モモトーク等連絡口では返信を確認できていたそうだが、カナタ自身の興味本位と友人からのたっての頼みで探りを入れてみたのである。
「あー…うん。アビドスの子達から手紙が来てね。ちょっと何日か迷子になってたんだ」
「…は?」
苦笑を浮かべながら所在無さげに後頭部に手を彷徨わせる“先生”に、カナタは眉根をぎゅうと寄せて半眼をそちらへ向ける。
「現在アビドスは各種インフラが壊滅していたはずですが、食事や交通手段はどうなされたのですか?」
「いやそれが、学校に辿り着けなくて行き倒れた所をシロコ…アビドスの生徒に助けて貰ったんだよね」
「見積もりが甘かったよね」などと言いながら渇いた笑いを飛ばす“先生”の能天気ぶりに、カナタは眉間を抑えて突発的な頭痛に歯止めを掛ける。
一歩間違えれば死んでいたというのに、どういう訳で誤魔化し笑いを続けられるのか、カナタには理解できなかった。
「偶々そのシロコさんが通り掛かったから良いものを…もう少し御自愛下さい。誰かに手を差し伸べるためには、まず自分の力でしっかりと立たねば助ける相手ごと沈んでしまうのですから」
「うっ、うん、ごめんねカナタ」
「…いえ、お忘れください。いけませんね、先生に説教などと…」
カナタは自責の念に駆られ、溜め息を吐いて頭を振った。
どうにも最近“先生”に感情移入し過ぎだと断じる。彼は後輩でも部下でもない。何なら所属先の上長なのだ。
カナタが言ったことなど理解している筈だし、自身の立場から言うべきことなどありはしないのだから。
「…先生は確か、車両はお持ちではありませんでしたよね?運転免許は取得されていましたか?」
「一応持ってはいるけど、キヴォトスで車はちょっと怖いし、そもそもペーパードライバーなんだよね…」
その言葉にカナタは心の中で同意する。正直言ってキヴォトスで車両や建物が吹き飛ぶのは平時でさえ日常茶飯事なのだ。
そんな最中、車を個人所有すると言うことは中古車両の購入ですら金を溝に捨てるような行為である。実際日常で爆発炎上する車の大半は企業の持ち物かレンタカーだ。
まあそもそも買う場所がどこであれ、車は安い買物ではないのだから、ちょくちょくと趣味の何かしらで散財するところを見られる“先生”が車を持っていないのは無理もない話だった。
「であれば来週の定期会合の時、運転が可能な生徒が常駐出来るよう当番制度の改訂を打診しましょう。一先ず今週中は執行部から人員を供出しますので予定をお教え願えますか?」
「えっ、みんな運転できるの?」
「他の学校はどうか分かりませんが、執行部では送迎や兵員輸送、兵器運用等に欠かせませんので、私をはじめとした役員は全員習熟しております」
外の世界では年齢制限を掛けられる車両運転だが、先にカナタが語った通り、少なくとも役員として執行部に就いたものは一通り免許を取ることを義務付けられている。
これは、このキヴォトスで不良が戦車を乗り回す場面が週に一度程度は見られるという末法振りから始まった規則のようなものだ。
一部の上澄みは平然と破壊していく戦車だが、それは彼女達がおかしいのであって、物理法則が変更されたわけでもないキヴォトスでも(装甲が)硬い、(移動が)速い、(主砲が)強いは変わらない、戦車とは正しく陸戦の王者なのだ。
実際被害が出るケースは不良達がこれらを運用している場面が多く、その戦車を破壊できる上澄みが都合良く配置できるわけもない以上戦闘車両の配備と運用は治安維持組織において昔からの必須事項だった。
まあ執行部においてはティーパーティーの方々の送迎や護衛要員の輸送がメインとなるので、戦車の運転に必要となる大型特殊自動車免許まで取得している者は少ないが、そこはそれ、戦闘が本分である正義実現委員会に任せれば良いだけの事だ。…最近はそうとも言いきれないのが困り物だが。
「いやあ、でも、ちょっと悪いような…」
「ですが先生、アビドスは特殊な例としても、公共交通機関が使用出来ない場合や緊急対応が必要な場面に備えておいて損はありませんよ」
「うーん…じゃあ今週だけお願いしても良いかな?」
「今週だけ、ですか?構いませんが…」
“先生”の言葉にカナタは
「一先ずリンちゃんに聞いてみるよ。この間、何かする前は相談してほしいってお願いされちゃったしね」
「──そうですか。それが良いでしょう」
とん、と指を机に置く。
そもそもの話、“シャーレ”は連邦生徒会に所属を置く組織だ。
それが代理とはいえ上役である七神リンを頼るのは別段不思議でもなんでもない話だろう。
「それでね、今週の木曜日にもう一度アビドスに行こうと思うんだけど、お願いしても良いかな?」
「少々お待ちください。…ええ、朝は遣いの者を行かせますが、それでよろしければ予定を変更しておきますね」
「うん、ありがとう。…いや実際車が使えるのは本当に助かるよ。迷わなくても学校まで遠くてね…」
まあそれはそうだろうなと思いつつ、カナタは予定の確認を終えた手帳を閉じる。
何せアビドスと言えば、キヴォトスにおいて屈指の広さを持つ自治区だったのだ。その広さに比例して人口も多く、しかしとある事情で多くの住人が去った今、噂では人気の無い住宅地ばかりが延々と続いているのだという。
そんなゴーストタウンを
「…先生」
「ん?どうしたの、カナタ?」
「本日のお夜食は如何致しますか?良ければ私が腕を振るいますが」
「…今日は良いかな…」
「…何故…」
◆
砂塵が僅かに舞い散る空の下、閑静な住宅街を一台の車が軽快に走っていた。
大型車用の物と見紛う大きなタイヤに載った大柄で武骨な車体は白地で塗られ、金のラインがパーツの各部を縁取るそこには主張も控えめにトリニティのマークと『トリニティ総合学園委員会執行部』の文字が刻まれている。
「思ったよりも砂塵が酷いですね…帰ったら洗車した方が良いでしょうか…」
運転手はカナタである。助手席に“先生”を乗せ、憂鬱そうにフロントガラスを睨み、人気の無いアビドスの
「…本当に運転できたんだね。しかもこんなにごっついのを」
「疑われていたとは、少しばかり心外ですね。…もう少しシャープな方がお好みでしたか?」
カナタは前方を見据えたままにくすりと微笑を浮かべ、問いかける。
まあ「あのトリニティが、こんなのに乗っているのか?」と驚かれるのは、実の所始めてではないどころか、馴れたものだ。
「こちらは渉外用かつ兵員輸送車ですから、オフロード仕様かつ板金をそこかしこに仕込んでいるのです。お陰でティーパーティーの方々からは大変不評ですが、我々兵隊からすれば中々頼りがいのある子ですよ」
「こんなにガッチガチな車で渉外って…」
「
「ええ…ああ…えぇ…?」
困惑、後、納得、後意味を理解し困惑。
まああまりに倫理観に欠けた所業だ。“先生”の反応も
この話のお笑いポイントは連中にロンダリングする知恵があると言うところだと
尚、この件について
ついでと言わんばかりに煽られたのは彼らの性根をよく表したやり取りと言えるだろう。
以来この車でゲヘナまで出る時は、正義実現委員会の武闘派を数人同行させるのが規則となっている。担当者によればギャングもどきがよく釣れるらしい。
「カナタ」
「はい」
「アビドスの件はどこまで知ってたの?」
“先生”は何でもない世間話のような軽さでそんな話題を切り出した。
それなりに重い話題であると知らずに話題にしたのか、それともその重要度を知っての上でこの態度なのかは運転中のために顔色を窺えないカナタには知るべくもないが、アビドスという自治区が抱える問題がここを根城とするギャング程度で済まないのだと言うことは理解した上での質問なのだろう。
「恐らく、概ねは把握しております」
「恐らく?」
「先生がどこまでを問題としているのか、先程の質問では分かりませんでしたから。…それに──」
カナタは区切り、見るものも居ないというのにウインカーを出して、徐行しながら大廻りで右折する。
「──アビドスが抱える問題は大きく根深いものです。しかし別段、先生が知るべきものでもありません」
結局の所、カナタの視点から見ればアビドスから出された救難の手紙の件は、“シャーレ”としてギャング団を退け、連邦生徒会からの支援を取り付けた時点で終わっているのだ。
そもそも、誰であれ今のアビドスが抱える問題を解決しようと臨むのは無謀であるとカナタは判断していた。
「そうかもしれないね。でも、皆がそうやって見て見ぬふりをするべきじゃないと、私は思うんだ」
「…ハァ…長生きできませんよ、先生」
眉根を寄せ、口を尖らせ、溜め息を吐く。
態とらしいとさえ言えるカナタのそんな仕草を見ても、“先生”は困ったように「あはは…」と笑い、それでも頑とした意思を持ったままでいる。
あまりにも頑ななその姿勢をカナタはよく知っていたし、“先生”が決して譲らないことも判っていた。
「…そもそも、何故アビドスがこのような状態になったかはご存知ですか?」
「何十年か前から砂嵐が吹き荒れるようになった、とは聞いてるよ」
「ええ、この
砂とは単体で見ればただの粒でしかないが、遥か昔から、圧し固めれば建材、袋に入れれば土嚢、石灰と混ぜれば
その真髄は「何処にでもあるものが用途によってあらゆる形を取れる」というところにあるわけだが、それが天災としての形を取ったのが、正しくアビドスの不幸だった。
強い風によって巻き上げられ運ばれた砂は嵐となってアビドスの町を傷つけ、その爪痕を覆うように降り積もる。
流れ行く雨とは違い、堆積するそれは排除する方法に乏しく、当時の生徒会の対応が後手後手に回った結果、アビドスは運営能力を喪失したのだ。
「無論この事態を重く見た連邦生徒会は調査部隊と復興支援を送りますが、ご存知の通り、今は行われなくなりました」
「それはどうして?」
「リスクとリターンが釣り合わなくなったためでしょう。当時のアビドスは発展途上ながら人口が多く、盛んに都市開発が行われていましたが、この災害を前に多くの商業プランが崩壊しました。その損害は天文学的な金額と聞き及んでおります」
無論損害を受けたからといって引き下がるのでは、統治機構足り得ないとしか言いようが無いが、連邦生徒会が退かざるを得なかった理由は勿論存在する。
「それでも解決出来れば十分にリカバリ可能だったこの件から連邦生徒会が手を退いたのは、
「…この砂嵐が発生する理由が、解らなかったってこと?」
「はい。少なくとも公開されている連邦生徒会の調査記録には原因不明としか書かれておらず、トリニティが数年間派遣していた義勇軍が記した記録にも、成果足り得る記述はありませんでした」
他の学校も似たような事はしていたため、恐らくこの件に関しての記録はあるだろうが、どれも似たような記録と結論が記されているだろうことは想像に
つまり、アビドスが抱える問題とは、かつてあらゆる学校、組織が揃って匙を投げた大事件なのだ。
「アビドス高校が抱える根本的な問題は、これを解決しないことには進展しないでしょう。この砂嵐はかつて発生して今より、重大な問題としてアビドス自治区を覆い続けています」
今も横目に空を見れば大気の色が黄土色に染まり、細かな砂塵がガラスに吹き付けている。今日はこの砂嵐が止む気配は無いようだった。
「ということは、融資とかも無理だよね…」
「融資とは見返りがあって初めて成り立つものでしょう。問題も解決しておらず、生徒も僅か、住民もほぼ退去済みのアビドスでは産業が育つ気配もないどころか数ヶ月もすれば元の木阿弥です。私から稟議には上げられるかもしれませんが、予算が出ることはないでしょうね」
「お金はありそうだったけど…」
「トリニティが富んでいるのは、一重に歴々が適切な資金運用を為し、その責務を十全に果たしたからこその結果です。道楽に見える使い方とて、地域に根付く職人に適切な金額を支払い、その繋がりを強くするための方策に過ぎません。アビドスに見返りを用意する何かはあるのですか?」
「うう"ん」と“先生”は唸りを上げ、悩み始める。
まあ、いくら“先生”が聡明であれ、この答えを導き出すのは
彼は今のところ尊敬すべき人物であり、断じて
「…土地、とか」
「先に復興費用を捻出すべく連邦生徒会経由で競売に掛けられたと記憶していますが、一体どれ程自由に使える土地があるのですか?」
「建物の貸し出し…?」
「態々アビドスでしなければならないことはありませんね」
「ぶ、武力…」
「実質的にアビドスがトリニティの傘下に入ったと見られかねませんよ。何より、彼女達の許可は得ているのですか?」
「…ダメかな?」
「ダメですね…」
我ながらにべもない回答だが、概ねカナタのこの回答がトリニティの公式見解だろう。
何より、恐らくティーパーティーの面々の大多数がアビドスに興味がなく、その存在を知らない可能性さえある。
そこから金銭に関わる何かしらを通すというのは無理無謀の類いであり、今のカナタがそんなことをしている暇は欠片もありはしなかった。
「…実のところ、生徒だけは救う方法はあります」
「…シャーレなら出来る方法でしょ?」
「ええ。シャーレとしての介入権を行使すれば、生徒の所属を連邦生徒会に移し、彼女達は普通の学生生活を送る事が出来るでしょう。…沈んだ船と共に沈む必要など、誰にも、何処にもありません」
白々しい言葉だと感じながら、それでも口に出すのは何故なのか、カナタには判らない。“先生”がそれを選ぶ筈もないのに、体の良い
あまりの馬鹿馬鹿しさに内心己に溜め息を吐いたと同時、“先生”が口を開いた。
「申し訳ないけど、それは選べないかな。きっと皆、逃げるよりも戦うことを選ぶから」
「…そうですか」
閉じた口の中で「そうでしょうね」という言葉が音もなく消える。
知ってしまえば見過ごせない。そんな必要もないのに、ごく自然に生徒に寄り添い、共に戦おうとしている。
カナタが知る“先生”とは、そういう人だ。
カナタは早速、アビドスの情報を打ち明けたことを後悔し始めていた。目に見えた展開だったが、先に伝えた筈の「ご自愛下さい」という言葉がここまで軽んじられると少し憂鬱な気分になる。
しかして、この先アビドスの彼女達が報われるまで“先生”が諦めることもないのだろうと予測するのは実に容易いことだった。
「では一つだけ」
「…うん?」
「カイザーPMCは砂漠に基地を作り、そこに兵力と資金を投入し続けています。ただの慣熟訓練にしては、あまりにもこの砂漠を出るものが少ない」
「それは…つまり?」
「何かしら、カイザーが兵力を投入し、消費し続ける理由があります。アビドス高校に莫大な利息を付けて資金を回収しているのは、彼らがそこに留まる理由付けにしている可能性が高いでしょう」
目標達成に目処が立ち、成果はなく、されど兵力を投入し続ける。
実に典型的なコンコルド効果だが、例え強権的な人物がその企画を推し進めていたとしても、ある程度は歯止めを利かせる構造になっているのが企業というものである。
しかし、カイザーでこの企画を動かしているのが思い描いた通りの人物だとすれば、切れる寸前の堪忍袋の緒を「延々と搾り取れる顧客」という言い訳で収め、兵力をアビドスに繋ぎ止めるだけの手腕はあるのだろう。
「彼らを辿れば、この砂嵐の理由が分かるかもしれないってこと?」
「それも悪くありませんが、このような僻地にある以上、彼らの抱える基地や拠点には莫大な維持費が掛かっている筈です。それらを目標に
あくまで希望的観測という冠言葉は消えないが、莫大な維持費と兵力を消耗しているところに再建費も掛かるとなれば、それを賄う経理担当が多少真っ当でなくとも「損切り」の三文字が浮かぶことだろう。
カイザーコーポレーションが複合企業体であればこそ、その言葉が示す状況の悪さは理解している筈だ。
と、ちらりと横目に“先生”を見ると、頬をヒク付かせてカナタを見ていた。ドン引きの構えである。
「き、聞く限りではかなり危ない橋を渡るような話だと思うけど…」
「ああ…ご安心ください」
カナタはハンドルを握りながら柔らかな笑みを浮かべる。誰もが見惚れるようなアルカイックスマイルだ。
「ドライブレコーダーを確認するのは私ですし、ヴァルキューレは民事不介入ですよ」
「そういう問題ではなくない?!」
「ハハハ、まあ手段の一つとして頭の片隅にでも置いておいて下さい」
「冗談とかじゃないんだね…?」
「真面目な話、カイザーを真っ当な手段でどうにかするにはアビドスの影響力ではまったく以て足りません。かの会社の資本力の大きさもあって、小細工などは
そもそもの話、アビドス高校対カイザーコーポレーションの話をすると、アビドス側は既に詰んだ所から勝負することになる。
真っ当に何かしらを訴えるとしても、用意周到なことにアビドスは既にあらゆる正当性をカイザーに剥ぎ取られているのだ。
何が悪いとなればアビドス高校にその責はないのだが、長年溜め込んだ負債は如何ともしがたく、弱みに漬け込み勝利条件を限定してようやく希望が見出だせるようになるだけ奇跡と言えるだろう。
その事を知ってか知らずか、“先生”は頭を抱えているが、提案だけしたカナタは気楽なものである。
「ちなみに、カナタがどうにかできたりは…」
「それが“シャーレ”の“先生”としての発言ならば総力を奮いましょう。アビドスほどの広大な地の復興産業は絶大な利益をもたらすことを期待できますしね」
「お、お代は…?」
「残念ながら私個人の力では問題解決に及びませんので、恐らくティーパーティーの預りになるかと思いますが、ご安心下さい。“シャーレ”の“先生”からお代などいただきませんよ?」
出てきた言葉は凡そ頼もしいものだが、その余所余所しさと後ろ暗さを湛える作り物めいた笑みは、時折“シャーレ”に訪れる営業マンを遥かに越える迫力を持っていたと“先生”は回顧する。
実際、この提案を通すのだとしたら、カナタはこの件に恩を着せて“シャーレ”を乗っ取るつもりでいた。
失踪したとはいえ、連邦生徒会長に付与された「自治区への絶対介入権」は“シャーレ”の価値を示す、万魔殿辺りは喉から手が出る程欲するものだ。
劇物に過ぎるが故使い道は限定されるだろうが、先んじてトリニティの所有物になるとすれば、その地位は磐石なものとなるだろう。
「やっぱりいいです!!」
「ええ、そうした方がよろしいかと」
“先生”が叫んだ瞬間にカナタはすん、といつもの鉄面皮をその
古来、笑顔とは攻撃的な表情であり、タダより高いものはないのである。
二人が乗る砂に塗れた乗用車は、アビドス自治区を抜けようとしていた。
アビドス編は多分一章二章併せて五話くらいの構成になるかと思います