第1話
『——621。お前を縛るものはもう何もない。これからのお前の選択が…お前自身の可能性を広げることを祈る』
最後に聞いた彼の声。私の門出を祝うその声。たった一度しか聞けなかったその言葉。私は未来永劫忘れないだろう。
暗い機体の中で目を覚ました。一体何が起こったのか記憶を振り返る。ザイレムがバスキュラープラントに突っ込んだ後、爆発するコーラルから逃げて、それから……駄目だ。記憶はそこで途切れている。とりあえずここはどこだろう。起動して外を見なければ。
『メインシステム起動』
聞きなれた音声とともに機体内の照明が付き、目の前に外の様子が映し出される。ここは……廃墟だ。あれから地上まで落ちてきたのだろうか。視界が低い。どうやら座り込んでいるらしい。
立ち上がろうとした時、不意に声が聞こえた。
「うわっ動いた!?」
「ひ、ひぃ!?」
「先生! アリスの後ろに!」
「だめ! 後ろから追手が!」
よく見れば足元に人が居る。そしてその後ろには多くの機体がいる。普段見ているものよりもとても小さい。が、一機だけMTのような機体が見えた。私は反射的に戦闘モードを起動させた。
『メインシステム。戦闘モードへ移行』
数が多い。両腕の武器より両肩のミサイルが有効だ。直ちにマルチロックを行い完了次第放つ。MTだけロックしきれなかったので右腕のバーストライフルで追撃を行った。そのMTは一発当たっただけで爆発四散した。そのほかの機体もミサイルの直撃や爆風に飲まれて全て砕け散った。広域レーダー上に他の機体は映っていない。全滅したようだ。
再び足元を見ると、私を見上げ惚けている彼女たちの姿があった。
私はミドリやユズ先輩、アリスとあと先生と一緒に廃墟へG.Bibleを探しに行った。結論から言えばG.Bibleは見つかった。でも私がうっかり叫んでしまったせいで廃墟内のロボットに見つかってしまった。応戦したけども数が多すぎたしゴリアテまで出てきたので私たちは急いで逃げ出した。
ようやく巻いたところで私たちは廃墟に横たわる巨大なロボットを見つけた。前にアリスを見つけた時にはいなかったはずだった。恐る恐る近づくとそのロボットは突然動き出した。まずいと思った。このロボットも襲ってくるかもしれない。しかもタイミングの悪いことに追手が私たちを見つけてしまった。すると突然ロボットは追手を一瞬で全滅させてしまった。私たちはそのわずかな出来事に呆けることしかできなかった。
恐らく数秒ほど呆けていただろうか。ふと我に返り、私は慌てて飛びのいた。
「大丈夫!?」
ミドリがみんなに安否を確かめている。私たちは全くの無傷だ、この謎のロボットのおかげで。皆このロボットに釘付けになっていた。勿論ミドリもだ。
「これって前からここにあったの?」
先生がロボットを見ながら呟いた。
「い、いや。私は見たことない」
「私も初めて見た」
「ど、どうするこれ?」
「どうするってどうしようもないよ。とりあえず今は襲ってこないようだし、今のうちに離れよう」
「そ、そうだね」
そうして足早に立ち去ろうとしたところロボットが突然動き始め私たちの進路を妨害するように頭上に覆いかぶさった。私たちは恐怖で固まりロボットを凝視していた。すると胸の一部分が開き、そこから何か落ちてきた。それは全身を包帯で巻かれた人間だった。
私たちはすぐに駆け寄った。結構な高さから落ちたので怪我なんかしていないだろうかと思ったがヘイローがなかったので一瞬嫌な想像をしてしまったが幸い胸の辺りが動いているのに気づいた。私たちは見捨てることができず、結局その人を抱えて学園に戻ることにした。
また目を覚ました。なんで私はまた……そうだ。あの人たちにここが何処か尋ねようとしたんだ。それで咄嗟に呼び止めようとして、声が出なかったから機体で足止めしようとした。それでどうしようか悩んでいたら手が滑って緊急脱出ボタンを押してしまったのだ。当たり所が悪かったらしく、そのまま気絶してしまったようだ。
背中が柔らかい。視界も明るい。いつも眠っている場所より幾分も居心地がよかった。
上体を起こすとここがどこかしらの建物であることが分かった。
「あ、気づいた?」
そう言って入ってきたのはあの時いた人たちの一人だった。
「大丈夫? 頭打ってたようだから心配したよ」
私は大丈夫という旨を伝えようとした時自身に巻かれている包帯が新しく、真っ白になっていることに気づいた。全身を確認してみたが全て巻き直されているようだ。いつも黒い包帯を巻いていたのでどうにも落ち着かない。
「包帯もね、古くなっていたようだから巻き直してもらったんだ。で、起きて早々で申し訳ないんだけどちょっと付き合ってもらっていいかな。実は君が乗ってたロボットが改造されちゃいそうで」
そう言って彼は車いすを取り出した。私はほぼ自力で動けないので彼の力を借りて何とか車いすに乗れた。
「そういえばその格好で外で歩くのはちょっと良くないな……とりあえずこれを着てて」
彼は来ていたジャケットを脱いで私に着せてくれた。仄かにあったかい。それとこの男の匂いだろうか。不思議と落ち着く匂いだ。不意にウォルターのことを思い出してしまった。だがこの男には私の落ち込んだ顔など見えていないのだろう。構わず部屋を出た。
部屋もそうだったが、廊下も見たことない風景だった。なにより明るかった。いや、なんというか温かいような心地いい明るさだった。
謎の建物を出ると驚きはさらに増えた。人がたくさんいる。今までこんなにたくさんの人を見たことがなかった。
「あ、先生!」
一人の少女がこちらに手を振った。どうやらこの男は先生と言うらしい。
「アリス、エンジニア部は?」
「モモイたちが止めているそうですがいつまで持つか分かりません」
「よし急ごう。ちょっと揺れるけど我慢してね」
彼は走り出した。アリスと言う少女も一緒に横を走っている。すれ違う人々が皆私の方を見ていた。だがそのことを意識する間もなく通り過ぎてしまう。彼は揺れると言ったが本当によく揺れる。あまり指に力が入らないので持ち手に掴まるのも一苦労だ。途中で落ちなければいいが。
数十分ほど揺られていただろうか。先生は途中で疲れてしまったらしく車いすをアリスに譲った。アリスが車いすを押し出すとスピードが急に上がった。同時に揺れもひどくなりより一層落ちそうでひやひやした。進むたびに人は少なくなり、ある場所を境に人が居なくなり建物は全て崩れていた。まるで廃墟だった。道はまるで舗装されておらず、揺れがひどい。起きてからずっと揺れっぱなしだ。
「だからあんまり触らない方がいいって!」
「せめて持ち主に許可を!」
「あ、あの、えっと」
「こんなものを前にして私たちが黙っていられるだろうか。いや無理だ」
「そうですよ。こんな大きなロボット今まで見たことがありません! 私たちの探求心を止められるものなど誰もいないのです!」
「すごい。どれも見たことない技術」
何やら話し声が聞こえてきた。ある角を曲がるとその声の正体が明かされる。私の機体によじ登っている三人と、足元でその三人を止めている様子のもう三人だ。
「モモイ、ミドリ、ユズ! 連れてきました!」
「あ、アリス! よかった。早くこっちに」
「持ち主来たから一回降りて!」
「何? それなら仕方が無いな」
三人は私の姿を見るとすぐに降りてきた。
「先生は?」
「残念ながら途中で力尽きてしまいました。ですが先生の意思は私が引き継ぎます」
「途中で置いて来たんだね。まあ後から追いつくか」
「あなたがこのロボットの所有者か?」
よじ登っていた三人の内一人が私の前までやってきて尋ねた。私は首を縦に振った。
「おお。おっと紹介が遅れた。私はミレニアムサイエンススクールのエンジニア部白石ウタハ。三年生だ」
「一年生の猫塚ヒビキだよ。よろしく」
「同じく一年の豊見コトリです!」
三人とも自己紹介をしてくれたが生憎私はしゃべることができないので黙っていることしかできない。
「君の名前は?」
案の定ウタハは私の名前を聞いて来た。どうにか喋れないことを伝えようと喉を指さして口をパクパクさせてみた。
「もしかして喋れないのか?」
どうやら察してくれたらしい。私は首を振って同意を示した。
「そうか……それは厄介だな。ん? よく見たらヘイローもないじゃないか」
「え、あ! 本当だ。ヘイローがない。じゃああなたも先生と同じキヴォトスの外から来たってこと!?」
ヘイロー? キヴォトス? 聞きなれない言葉だ。ルビコンにそんな地名があったなんて聞いたことがない。私は首を傾げた。
「いや、とりあえず今はそんなことはどうでもいい。重要なことじゃない。頼む、どうか私たちにこのロボットを調べさせてくれないだろうか?」
「いや、いやいや。結構重要なことだと思うよ!?」
ウタハは真剣な表情でお願いしてきた。ヒビキとコトリも同調して私に期待のまなざしを向けている。
「止めといた方がいいよ。絶対余計なことするから」
「下手したら壊れちゃうかもしれない」
後ろから制止の声が聞こえてくるが、まあ別に変なことはしないだろうと私はウタハのお願いを聞いてあげた。
「そうか。ありがたい。では早速調べたいところだが、ここじゃ何もできない。だから一度学園まで戻ってから……そうだ。君はこのロボットの持ち主だったな。じゃあこのロボットを動かせるな?」
私は首を縦に振った。
「ではこれを学園まで持っていってくれないか」
「えぇ、学園にこれを? 絶対騒ぎになるじゃん」
「大丈夫。ミレニアムなら巨大ロボットの一体や二体いてもおかしくない」
「ですです!はあ、早く動いているところみたいです!」
「まあアリスのスーパーノヴァ作ったぐらいだしエンジニア部の仕業だと考えれば不自然ではないよね」
「話もまとまったことだし早速動かしてほしいのだが」
私は機体の胸部分を指さした。あそこに行かなければ動かすことができない。
「あそこ……ああ、あの部分か。あそこに乗ればいいのか? 少し高さがあるな……よし」
ウタハは残りの二人と何やら話し始めた。短い会議ののち三人は辺りに散らばる廃材を集め、どこからか取り出した工具を持って何か作り出した。突拍子もない行動に私含めた全員が呆けているうちに一つの脚立ができていた。その脚立は丁度、機体のコックピットに届くぐらいの距離だった。
「さあ、これで乗れるはずだ」
しかし私は這って進むならともかく、自力で立ち上がり歩くことができない。ウタハが手を差し出したのでそれを掴んだが、当然ウタハが私の体のことを把握しているはずもなく、立ち上がった瞬間に私はバランスを崩しウタハを押し倒すような形になった。
「だ、大丈夫?」
すぐに誰かが起こしてくれた。頭にピンクの輪っかのようなものを浮かべた女の子だ。そういえばここに居る人は皆頭に変な輪っかを浮かべているな。
「いたた。立てないのか。すまない、その事をすっかり失念していた。車いすだしそのことも配慮するべきだったな。またしばらく待ってくれないか」
そう言ってウタハたちはまた何か作り出した。私はピンクの輪っかの子と緑色の輪っかの子に助けてもらいながら車いすに座りなおした。
ウタハたちの作業風景を見ているうちに先生が追い付いてきた。
「おーい……はぁ、やっと追いついた」
「あ、先生」
「ごめん。遅くなった。あれ何してんの?」
「この人をあのロボットに乗せるための何か、かな?」
「あー、そう」
「よし、できたぞ!」
ウタハが声を上げた。そして私の車いすを押して謎の建造物に近づけた。それはさっき見た脚立とは打って変わって垂直カタパルトのような見た目をしていた。
「これはあなたに配慮して自動でロボットに乗せてくれる装置だ。手持ちの工具では最低限の機能しか取り付けられなかったが、今はあなたを乗せることが最優先だから仕方がない」
アームのようなものがついているそれはウタハから車いすを預けられるとそのまま上に上がった。垂直カタパルトの動きをスローで再現したような動きだ。コックピットは開けられたままだった。高さは丁度いいが車いすから操縦席まで乗り移るのは難しそうだ。するとどこからかさらにアームが伸びてきて私の体を抱き上げた。そして私を操縦席まで運んでくれた。ウタハが作業していたのは数十分ぐらいだったと思うがあの短時間でよく脚立をここまで作り変えたものだ。
ともかく再び機体に乗り込めた。コックピットを閉め、直ちに起動する。
『メインシステム起動』
真っ暗な機体内に外の風景が映る。機体の下にいる彼女たちの姿が見て取れた。私はすぐに立ち上がった。ああ、やっと見慣れた高さだ。周りも廃墟でなんだか落ち着く。
足元を見ればエンジニア部の三人が興奮しているのが分かる。何か言っているようだが流石に立ち上がると何を言っているのか分からない。なので再びしゃがんだ。
「本当に動くとは」
「こんなロボットが廃墟にあっただなんて」
「すごい! すごいです!」
「でっかぁ」
「立つとこんなに大きいんだ」
「ちょ、ちょっと怖い」
「大丈夫です! いざというときには私がこの光の剣で守ってあげます!」
「ちょっと流石に無理があるんじゃないかな」
「今すぐにでもいろいろ調べたいところだが」
広域レーダーに何か映った。後方から何か迫っている。振り返ると、そこには一度見たMTが十機ほど、そのほかに小さなドローンなどがこちらに近づいていた。
「このロボットが目立ちすぎてしまったみたいだ」
「う、うわあ!? ゴリアテがたくさんいますよ!」
「まずいね」
「と、とりあえず戦闘準備を!」
前と一緒だ。所詮ライフル一発で壊れる代物。すぐに終わる。
『メインシステム。戦闘モードへ移行』
私は引き金を引いた。が、弾が出ない。どうやら弾切れらしい。ではショットガン……も弾切れだ。ならばミサイルの方は……これも弾切れだ。なぜだ。さかのぼる記憶の中で原因はすぐに見つかった。封鎖区域でエアと戦った時にほぼ全て使い切っていたのだ。ならば仕方がない。蹴り倒すしかないか。そう思って行動に出ようとした瞬間、横のがれきの中から何か反応するものがあった。退かしてみると、そこには補給シェルパが埋まっていた。運がいい。早速中を開けるとそこにはもう一丁のショットガンに二基のニードルミサイルがあった。肩武器を換装している暇はない。私は右腕のバーストライフルをパージし、ショットガンを手に取った。そして敵MT部隊に突撃した。
最初書いたときは機体はHALシリーズを想定して書いてたんですがS評価の旅をしているうちに逆足装備でもいいなぁと思い始めましたね。皆さんは好きな機体を想像しながら読んでおいて下さい。そのうち明記しようと思います。