シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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誤字報告ありがとうございました(定期)

後輩の家でドーナツ食べてアーマード・コアやってたら投稿遅れましたすみません。


第12話

 プールの掃除が始まった。私は車椅子に座りながらブラシを持ってプールサイドをこする。長年放置された汚れは私が車椅子に乗っているので力がかけにくいのも相まってなかなか落ちない。何度も、何度も何度も擦ってようやく少し落ちた。

 

 三十分ほど経ったぐらいだろうか。プールサイドを擦っているとつい手が滑ってブラシを手放してしまった。ブラシが地面に転がる。私は身を乗り出してブラシを掴もうとした。しかし地面に落ちたブラシには中々手が届かない。もう少し、もう少し身を乗り出せばと手を伸ばしていると、誰かがブラシを掴み私に差し出してきた。先生だった。

 

「はい」

『ありがとう』

「なかなか落ちないね。やっぱり長く放置されてたから汚れも随分と固まってるみたいだ」

 

 一度ブラシを落としたことで集中力を欠いた私はプールに目線をやった。ヒフミたちは楽しそうに掃除をしている。なかなか落ちない汚れにイライラしていた私とは対照的だ。

 

『楽しそうだね』

「うん。本当に。あの子たちにはずっとああやって笑っててほしいよ。退学にはさせたくない」

『でもナギサは試験を好きにできるって言ってたよね』

「ナギサもあんまりそういうのはしたくないって言ってたし、そこは彼女の良心に期待するしかないかな」

『どうだろうね。そもそもあんなこと言ってる奴に良心なんてないと思うけど』

「そんなことはないよ。少なくともヒフミのことはナギサも結構気に入っているみたいだし。部長をわざわざ指名して退学のことも知らせてるみたいだから信頼はしてるはずだよ。さあ、ヒフミたちも頑張ってるんだし僕たちもサボらずに掃除を続けよう。バケツに水を入れてくるよ。濡らしたら落ちやすくなるはずだ」

『信頼してるなら最初からゴミ箱に入れたりはしないよ』

 

 その文章は背を向けた先生に届くことはなく、誰にも見られないうちに消えてしまった。

 

 先生と一緒に掃除をつづけたが、ヒフミたちがプールの掃除を終わらせるまでに終わることができず、結局ヒフミたちにも手伝ってもらった。そしてプールに水を入れ始めたがそこそこの大きさがあったため水を入れるのには随分と時間がかかった。プールに入って遊べるようになる頃にはすっかり日が落ちていた。

 

 

 夜になってようやく溜まり切ったプールを、私たちはじっと見つめていた。ライトが付き、その光が反射したプールの水面はキラキラと光っている。

「こんな時間だと、もうプールには入れませんね」

「すみません。水を入れるのに時間がかかることをすっかり失念していました」

「いや、プールに入れなくても今日は随分と楽しかったよ」

 

 アズサの言う通り、面々の顔はプールに入れなくなった状況でも楽しげであった。ただコハルだけは随分と疲れていそうだ。船をこいでおり、少しふらふらとしている。

 

「あら、コハルちゃん。おねむですか?」

「ん、いや……ちょっと疲れただけ」

「今日は一日中動きましたもんね。疲れててもおかしくはありません。明日からはいよいよ勉強合宿が始まります。今日はもう休みましょうか」

「そうだな。休むのは大事だ。いざというときに動けなくなるからな」

 

 一同はプールを後にして建物に入った。部屋に入るとコハルは真っ先にベッドに寝ころんだ。すぐにでも寝てしまいそうだ。私も先生の手を借りてベッドに横になった。

 

「それじゃ僕は向かいの部屋にいるから何かあったらすぐ呼んでね」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」

 

 先生が部屋から出ると、ヒフミは電気を消した。私の意識は早々に深く潜っていった。

 

 

 翌朝、私はアズサの声で目を覚ました。朝から声が大きい。アズサは朝に強いようだ。

 

「おはようございます。アズサちゃんは朝から元気ですね」

「ああ、睡眠はしっかり取れたからな。レイヴンもおはよう」

 

 私は右腕を上げて返事をした。上体を起こし、両足をサイドに移して軽く背伸びをする。目一杯すると傷が痛んでしまう。アズサは未だ起きないコハルとヒフミを起こしにかかっていた。

 

「コハル、ヒフミ、起きて。もう朝だよ」

「ん……朝? あれ、ここどこ?」

「んんぅ。あと十分、あと十分だけ寝かせてくださいぃ」

「そんなこと言って、もう朝なんだから起きないと」

「まあまあ、ヒフミちゃんは昨日遅くまで起きていたみたいですから、まだ朝も早いですしもう少し寝かせてあげましょう」

「そうか……ヒフミは部長だからいろいろとプレッシャーも大きいし心労も絶えないのかもしれない。それなら仕方が無いな。よし、じゃあコハルシャワー室に行こう。あっちだ」

「え、だれ? ちょ、ちょっと引っ張らないでどこ行くの!」

 

 アズサはコハルを連れて部屋を出て行ってしまう。ハナコは二人の様子を見てほほ笑んでいた。そして私の方を見てきた。

 

「レイヴンさんは一緒に行かなくてよかったですか?」

 

 ダメだ。シャワーは傷が痛む。そう伝えたかったが車椅子は少し離れたところに置いてあるので使えない。そこで近くに置いてあったメモ帳とペンでハナコに伝えた。

 

『シャワーは傷が痛む。あとで包帯を変えるときに体を拭くだけでいい』

「そうなんですね。なら私がしてあげましょうか」

『大丈夫。自分でできる』

「心配しなくても優しく拭いてあげますから」

 

 ハナコは笑顔で言ってくるが何か変なことをされそうで怖い。だから全力で遠慮させていただいた。何回か断るとハナコもそれ以上は言わなくなった。

 

「そこまで言うなら仕方がないですね。でも包帯を変えるのは手伝わせてください。 私は包帯の巻き方に心得があるので変えてあげますよ。自分で巻くのは大変でしょう」

 

 私は一言も包帯を自分で巻いてるなんて言ってないのにどうして分かったのだろう。ところどころ緩くなっていたので察せられたのだろうか。とはいえ、自分で巻くのが大変だというのは事実だ。ハナコにやってもらうというのが不安だがしょうがない。

 

『車椅子に替えがある』

「分かりました。ちょっと失礼しますね」

 

 ハナコは車椅子のポケットを探り、中から包帯を取り出した。全身に巻く必要があるので使う包帯も大きく長い。

 

「それじゃ私たちもシャワー室に行きましょうか」

『シャワーは傷が』

「体を拭くならここだとベッドを濡らしてしまうかもしれません。だからシャワー室で拭きましょう? そこならお湯も出ますし」

 

 ならしょうがないかと車椅子に乗り、ハナコと一緒にシャワー室に向かった。入り口からコハルの悲鳴が聞こえる。

 

「ちょ、ちょっと待って! 脱がさないで! 自分で脱げる、脱げるから!」

「早く脱いで、洗いっこしよう」

「なんで洗いっこするの! 自分で洗える!」

「あらあら、楽しいことになってますね」

 

 脱衣所に入るとすでに二人は去っていた。その先から同様に悲鳴が聞こえている。

 

「それじゃ包帯を外しますね」

 

 そう言ってハナコは包帯の結び目を外した。ハナコが包帯を剥がすと傷と引っ付いたところがペリぺリとはがれていく。これが少し痛い。なるべく勘づかれまいと我慢しているがどうしようもなく体が少し跳ねてしまう。ハナコが気付くのには十分だった。

 

「痛いですか?」

 

 仕方なくうなずくとより丁寧に外してくれた。私やウォルターが外すときよりも丁寧だった。おかげで痛みもあまりなく包帯を全て外すことができた。ハナコは包帯を外し終わった私を見ていつも通り可愛がるわけでもなくただ私の姿を見ていた。

 

 私の体には全身に無数の傷がある。手術でできた物や、仕事で付いたものが大半だ。傷の治りが遅いうえに仕事でよく怪我をするので、傷の上から傷が重なっていく。おかげで私の素肌はあまり見えなくなっている。唯一顔や手先は怪我をしていない。

 

 ハナコがあまりにもじっと見るものだから私は首を傾げた。

 

『ハナコ?』

「あ、すみません……レイヴンさん。私もやっぱり体を拭くの手伝いますよ」

『え、だ、大丈夫だよ』

「いえ、拭かせてください。背中は難しいでしょう?」

 

 大丈夫だと言ったのに今度は譲ろうとしない。まあ割と真面目な顔をしていたので結局了承した。次にハナコは自分の服も脱ぎだした。何故脱ぐ必要があるかと聞くと自分もついでにシャワーを浴びるという。それはそうか。私が変に勘繰っただけだった。

 

 ハナコはゆっくりと私を抱き上げた。そして「痛くないですか?」と聞いて来た。私は頷いた。一緒にシャワー室に入るとアズサとコハルが洗いっこ、もといアズサが一方的にコハルを洗っていた。シャワー室の扉が開いたことに気づいた二人は私たちの方を見たがハナコと同様にじっと見つめた。コハルは私の名を呟き、アズサも眉をひそめて手を止めた。シャワーの流れる音だけが響いた。

 

 残念ながらシャワー室内に座れるような椅子は無かったので仕方がなく洗面器をひっくり返して椅子変わりとした。ハナコはお湯で濡らしたタオルを一枚渡してくれた。私はそのタオルで左腕から拭き始めた。拭くと言っても普通に拭くのではない。それでは痛いので、押し付けるように拭く。ハナコも知っているのか同じように拭いてくれた。

 

「レイヴンさんはキヴォトスの外から来たんですよね。ヘイローが無いですし」

 

 私は頷いた。

 

「一体キヴォトスの外で何を」

 

 ハナコはそう聞くが、今の私には答える手段がない。ハナコもそれは気づいているはずで私に対する質問ではなくただの独り言だったのだろう。背中を拭き終わったハナコは自分もシャワーを浴びると言って隣のシャワーに向かった。私はハナコがシャワーを浴び終わるまでずっと体を拭いていた。

 

 

 ようやく起きたヒフミと一緒に教室に向かうと先生と丁度一緒になった。教室は本館と造りが変わらなかった。ヒフミと先生は教壇の前に立った。

 

「皆さん。今日は六日後の第二次試験に向けた合宿の初日です。今私たちは絶壁に立たされていますが、難しく考える必要はありません。ただ試験に合格すればいいのです。とはいっても闇雲に勉強したって意味はないでしょう。そこで!」

 

 ヒフミは鞄から一つの茶封筒を取り出した。

 

「昨晩先生に手伝ってもらって模擬試験を用意しました!」

「模擬試験?」

「トリニティの過去の問題集を確保してそこから作った模擬試験です。試験時間と合格ラインは本番と一緒です、まずはこれを解いて自分の立ち位置を確認しましょう」

「ふむ、そうだな。自分の実力を知っておくのは大切なことだ。自分よりも強い相手に遭遇したら逃げることも大事だ」

「試験から逃げちゃダメでしょ」

「それでは配りますね」

 

 ヒフミは自身を含めて他の四人に試験用紙を配っていく。全員に行き渡るとヒフミも席に座った。先生が腕時計を確認した。

 

「いいかな? それじゃ……始め!」

 

 先生の合図とともに一斉に記入を始めた。先生は数分ほど皆の様子を見ていたがやがて教壇に座り、持ってきていた鞄から書類の束を取り出した。シャーレから持ってきた仕事の束だ。

 

 私はどうしていよう。相も変わらず自由にしていいと言われたが何もすることは無いのだ。ゲームをするわけにもいかなかった。しばらくぼーっと外を眺めていたときふとあるものの存在を思い出した。前に先生から渡された中学生向けの本というやつだ。少しずつ暇な時に読んでいた。これなら丁度いいだろう。

 

 

 カラスが男の子に鍵を届けに来たところで先生の「そこまで」という言葉が聞こえた。ヒフミが皆の解答用紙を集めて先生に渡した。これから先生は別の教室で採点を行う。私も手伝うことにした。先生について行って隣の教室に向かうと模範解答と赤ペンを分けてもらった。これと同じ回答なら○を違うならば☓をつければいい。

 

 

 十五分ほどで採点は終わった。教室に戻り四人の前で点数を発表する。

 

ハナコ:四点

アズサ:三十三点

コハル:十五点

ヒフミ:六十八点

 

 アズサたちは悔しげな表情を見せた。ハナコだけはそこまで表情に差が見られなかった。まるで動じていないようだ。

 

「残念ながらこれが私たちの現状です。ですが、一週間後の第二次試験までに六十点を取れるようにならないと私たちの道は永遠に暗いままです。ですから残りの日数を効率的に使わなければなりません。そこで、まずコハルちゃんとアズサちゃんの試験が一年生用なので私とハナコちゃんで対応します。ハナコちゃんは一年生の時には問題なかったんですよね?」

「え、はい。まあ」

 

 突然指摘されたハナコはきょとんとしていた。ヒフミが言うには偶然ハナコの答案を見つけたようだが、すべて高得点だったという。今の落ちぶれ様を見るとまるで想像できないが、確かにアズサの質問に答えるときの様は正に勉強ができる者のそれであった。

 

「ハナコちゃんについては後で先生と一緒に相談しましょう。なんで成績が落ちてしまったのか、ちゃんと理由があるはずです。これが今できる最善の選択です!」

 

 ヒフミが言い切るとすぐにアズサが前に出た。

 

「分かった。指示に従おう」

「すごいですね。ヒフミちゃん。昨晩だけでこんなに考えてくださったんですか?」

「い、いえ。私だけじゃなくて先生も手伝ってくれたので」

「確かに私も手伝ったけど、ほとんどはヒフミだよ」

「それだけではありませんよ。なんとご褒美も用意しました!」

 

 そう言ってヒフミはいつの間にか置いてあった大きめの鞄を漁りだした。そして取り出したのは何体かのぬいぐるみだった。そのぬいぐるみは一見鳥の姿をした、しかし目はあらぬ方を向き、舌を出しているおおよそ正気とは思えない表情をしたぬいぐるみだった。他にも同じような、アイスを口に詰められているものだったり、ドクロのような仮面をした謎の黒い生き物がいた。

 

「こちら、いい成績を出せた方にはモモフレンズのぬいぐるみを差し上げます!」

 

 ヒフミは意気揚々と紹介したがこの場にいる全員はモモフレンズと言う単語に聞き覚えがないようだ、斯くいう私も見たことも聞いたこともなかった。皆が首をかしげているとみるみるヒフミは心配そうな顔に変わっていった。

 

「あ、あれ? 皆さん知らないんですか? モモフレンズですよ?」

「さあ、見たことないですね?」

「何これ? 豚? カバ?」

「違いますよ! ペロロ様は鳥です! ほら見て下さい、この立派な羽と凛々しいくちばしを!」

 

 ヒフミはペロロ様なるぬいぐるみを持ってコハルへ熱心に説明していたが、コハルはヒフミの勢いに若干引いていた。ヒフミはそのコハルの態度に気づかずペロロ様の魅力とやらを熱弁し続けた。




ミシガンとエアちゃんのところでSランク取ってあげたら後輩にとても喜ばれました。とても嬉しかったです。
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