シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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誤字報告ありがとうございました(挨拶)

今回でエデン条約編一章は終わりです。割とサクサク言ったんじゃないでしょうか?


第13話

 ヒフミの持ってきたぬいぐるみは今のところそんなにいらないみたいな空気が流れていた。しかし、一名違う反応を示すものがいた。

 

「か、かわいい」

「あ、アズサちゃん!」

 

 アズサはヒフミの持っているペロロ様を見てそう言った。その言葉をヒフミは聞き逃さなかった。素早くコハルからアズサの元まで移動する。

 

「ですよね! かわいいですよね!」

「ああ、この何を考えているのか分からない目に突き出した舌、私の中に言いようのない気持ちを湧きあがらせてくれる。この……長い胴体をしているのは一体なんだ? キリンか?」

「これはウェーブキャットさんです!」

「この小さいのは?」

「Mr.ニコライさんです!」

 

 ヒフミとアズサはそのまま談義を始めてしまった。その熱狂ぶりは私たちが入り込む隙間を見せないほどである。完全な二人だけの世界だ。

 

「レイヴンも一つもらったら?」

『え、私?』

「うん。せっかくなんだし」

『いや、あれってご褒美でしょ? 私がもらったらダメだよ』

「だからご褒美でもらうんだよ」

 

 そう言って先生は紙束を出した。それは何かと聞くと私に用意した中学生用の問題集だそうだ。

 

『私に構っていて大丈夫なの? ヒフミたちの方を優先させた方がいいんじゃない』

「大丈夫だよ。ちゃんとヒフミたちの方も見るから。でも大方彼女たちだけでもなんとかなりそうだし。せっかくならレイヴンもね」

 

 準備してくれたのなら私も無下にすることはできない。仕方がないので私も先生に勉強を教えてもらう流れになった。

 

 

 その日の勉強は夜遅くまで続いた。私も問題集を前にうんうん唸りながら先生の助言を得つつ問題を解いていた。

 

「これが葉緑体。葉っぱが緑色に見える理由ね。植物はこの葉緑体を使って光合成をするんだけど——」

「うわぁぁぁあ!?」

 

 先生の講義を聞いていると、突然コハルの叫び声が教室中に響いた。何事かと振り向くと、コハルが一冊の本持って慌てている。コハルはすぐにその本を隠してしまった。

 

「ち、違うの! これは違うの!」

「いえ、私は見逃しませんでしたよ。さっきの本、しっかりR18と書かれていましたよね。しかも表紙を見た感じ相当なハード物です。トリニティ、いやキヴォトスの中でも相当上位の本ですね」

「こ、これは私のじゃなくて」

「コハルちゃんって実はむっつりさんなんですね。そんな本を持ってくるだなんて。もしかして実際に試してみようと、そういう魂胆ですか? コハルちゃんたら案外大胆なんですねえ」

「だから」

「うふふ。心配しないでください。私も一緒に楽しみますから」

「違うのぉ!」

 

 コハルが弁明しようとするとハナコはそれを押し切って話をかぶせてくる。だんだん自分の言いたいことを遮られハナコによって違う人物像を植え付けられそうになったコハルは、とうとう泣き出してしまった。そしてそんな事態に先生は珍しい表情をした。

 

「ハナコ」

「す、すみません。話が合うと思って」

「僕じゃなくてコハルに」

「そうですね。ごめんなさいコハルちゃん。私が少し言いすぎてしまいましたね」

 

 コハルの顔は俯いて肩を震わせている。時折鼻をすする音が聞こえる。泣くのを我慢しているかのようだ。

 

「え、えっと、それってコハルちゃんが押収したものですか?」

「ぅん」

「じゃ、じゃあ、あれですよね。きっと押収したものを渡しそびれてそのまま持ってきちゃったんですよね」

「ん……たぶん。私押収品の管理してるから」

「なるほど、トリニティの地下には古書館があってそこには多くの禁書が積みあがっているという噂です。でもそれなら戻してきた方がいいのでは?」

「そうですね。数が足りないなんてことになっちゃいけませんし」

「今からこっそり返してくるのはどうですか?」

「え、今から? でも私教室入れないし」

「それじゃ僕も一緒に行くよ」

「先生が?」

「先生が一緒ならまだ誤魔化しが効くかもしれませんね!」

「うん。それじゃ僕はコハルと一緒に正義実現委員会のところまで行ってくるから皆は勉強続けてて」

 

 そう言って先生とコハルは教室を出ていった。ハナコは二人が出た後も意気消沈したまま席に座った。

 

「はぁ、コハルちゃんには悪いことをしてしまいましたね」

「大丈夫ですよ。コハルちゃんならすぐ許してくれますって。多分急にあんな本が出てきたからパニックになっちゃっただけですよ」

「それにしても先生のあんな顔は初めて見たな」

「先生は大人ですからね。生徒が間違ったことをした時に正すのが先生の役割ですから」

「あ、レイヴンさんもお勉強してたんですか?」

『うん。先生が用意してたみたいだから無下にするわけにもいかない』

「へえ、一体どこを……わあ懐かしい!」

 

 その声にハナコとアズサも集まって来た。二人とも私の問題集を見てはヒフミと同じように懐かしいと言っている

 

「理科は得意だったな。特に化学は好きだ。独学だがよく理解できた」

『だろうね。そんな感じがするよ』

 

 でなければ即席で爆発物を作れないし作ろうとしないだろう。ヒフミは私の解いた問題集をぺらぺらとめくっている。中身は拙い字で書かれているうえに、先生に懇切丁寧に教えてもらってようやく理解しているので解けているページも少ない。

 

「レイヴンさんも勉強頑張ってるんですね」

『先生に教えてもらってやっとって感じだよ。ヒフミたちに比べれば全然』

「いや、レイヴンのことを思えば十分やってると思うよ。その、君の体をみると相当苦労したんだろう?」

『まあそれなりには』

「それにレイヴンさん脳を」

 

 そこまで言いかけてヒフミは口をつぐんだ。「脳を焼かれている」と言おうとしたのだろう。多分気遣ってくれたのだ。それが私に対してなのかアズサとハナコに対してなのかは分からない。ヒフミは鞄からモモフレンズのグッズを一つ取り出した。

 

「レイヴンさんには特別にこちらを差し上げます!」

 

 そう言ってヒフミは私に小さなぬいぐるみを渡してくれた。これは……何だったか。確かMr何とかというやつだ。私はそのぬいぐるみを受け取り、じっくり眺めてみた。横でアズサがうらやましそうにしているのが目の端で見えた。

 

『でも私いい成績取ってないよ』

「レイヴンさんは特別です!」

『でもそれじゃ不平等』

「でもレイヴンさんは特にテストがあるとかそういう訳ではないので別に大丈夫だと思いますけど……そうだ。じゃあ私のために受け取ってくれませんか?」

『ヒフミのため?』

「はい! 私がレイヴンさんにあげたいと思ったんです。だから私のこの思いを満足させるために受け取ってくれませんか?」

『まあ、そういうことなら』

 

 なんだかすごい回り道をしたような言い方だったがそれでヒフミが満足するというなら受け取ろう。そのぬいぐるみはよく見ると頭にチェーンがついていた。私はチェーンを掴みぬいぐるみをぶら下げた。

 

「そのMr.ニコライのぬいぐるみはキーホルダーにもなってるんですよ! だから何かにつけることもできるんですよ」

 

 私はMr.ニコライをぶら下げながらヒフミの話を聞いていた。どこに着けようか考えたがいい場所が思いつかなかったのでこのまま持っておくことにした。

 

 

 先生とコハルが戻って来たものの、今日はもう終わってもよさそうな時間だったのでそのまま今日の合宿は終わりを迎えた。部屋に戻るとヒフミは早速シャワー室に向かった。三十分後にはホカホカと湯気を立てながら部屋に戻って来た。

「さっぱりしました!」

「ヒフミちゃん、今日寝坊したからシャワーも浴びれず一日中ありのままの匂いでしたからね」

「や、やめてください!」

 

 私は会話に加われないのでベッドに転がったままMr.ニコライのキーホルダーを見つめていた。あとでACのコックピットにつなげておこうか。あの中は殺風景だし一つぐらいぶら下がっててもいいかもしれない。でも戦闘中に気が散ったら危険だろうか。なら気が散らないような場所に置けばいい。

 

 今日も今日とて部屋の電気が消されると私はすぐに眠ってしまった。

 

 

 翌日、今日は何かに起こされるわけでもなく自然と目を覚ますことができた。ヒフミも昨日のように二度寝を訴えることもなかった。今日もハナコに包帯を変えてもらった。昨日と同じように、かつ素早く変えてくれた。私にも教えてほしいぐらいだ。教室に向かおうとするとモモトークに通知が来ていた。開いてみれば先生からメッセージが来ている。

 

『僕と一緒にプールの所に来てほしい』

『わざわざモモトークで伝えなくても直接言えばいい』

『ごめん。ヒフミたちには内緒にしてほしいんだ』

『分かった』

 

 「レイヴン」とアズサが呼んだ。私だけ部屋から出ようとしていなかったからだ。『ちょっと準備するものがあるから先行ってて』と誤魔化すとアズサは渋々と言った感じで先に部屋を出た。廊下からいなくなったのを見計らって私はプールへ向かった。

 

 途中で先生と会ったので二人でプールにまで向かうことにした。

 

『どうしたの急に』

「呼ばれたんだよ」

『誰に?』

「ミカ」

『ミカって……あのティーパーティの?』

「そう」

『なんで急に呼び出したの?』

「さあ。僕にも分からないよ。僕も朝急に言われたんだから」

 

 私たちがプールに向かうとそこにはプールの水面を眺めるミカの姿があった。先生が「おまたせ」とあいさつをするとミカもこちらに気づき手を振りながら近づいて来た。

 

「先生、レイヴン久しぶり。初日以来かな? 私たち全然会わないね~。まあお互い忙しいから当たり前なんだけど。それにしてもナギちゃん太っ腹だよねえ。こんなところ貸し出すなんて。プールに水が入ってるのなんて久々に見たよ。先生たちが泳ぐの?」

「僕は泳がないかな」

「へえ、残念。見て見たかったなあ、先生が泳いでいるところ」

「あはは。で、話って何?」

 

 ミカは一瞬目を見開き、次に困った笑顔を見せた。

 

「先生は長い前置きとか嫌いな人? しょうがないなあ。じゃあ先生のお望みどおりに本題に入ろうかな。あ、そうだ。その前に前提だけど私は今一人で来ているの。だから私は今ティーパーティの聖園ミカとしてじゃなくてただの聖園ミカ。だから今から話すのも私の個人的な話。ティーパーティだからとかそういうのは全く……とはいえないけどあまり入ってないよ。『トリニティの』は入っているけどね。じゃあ改めて本題だけど、ナギちゃんから取引とか提案されなかった?例えばトリニティの裏切り者を見つけてほしい、とか」

 

 先生は何も言わなかった。わずかな沈黙が流れ、ミカは再び口を開く。

 

「その様子だと持ち掛けられたんだね。全くナギちゃんたら……何か情報は教えてもらった? 理由とか目的とかなんであの四人が疑われているとか教えてもらわなかったの?」

「あまり教えてもらわなかったかな。補習授業部の役割と作られた理由。あとはエデン条約のことを少し」

「そっか。ナギちゃんも酷だね。碌な情報も与えずに裏切り者を探せだなんて」

「そもそも、僕はその提案を断ったからね」

「そうなの?」

 

 そうだったのか? 私はてっきり先生が自分の方法で裏切り者を探すのだと思っていた。あの自分の方法で解決するってそもそも裏切り者を探すという方法を取らないという意味だったのか。

 

「それは僕の役割じゃないからね」

「ふーん? それは先生がシャーレ所属だから? シャーレが独立しているから他学園の事情には介入しないってこと? それってさ独立してるなら他学園の事情にも介入できるってことじゃないの? そもそも先生が手続きなしにトリニティの一部活の顧問をできてるのだって先生がシャーレ所属のおかげでしょ……ごめん。意地悪言っちゃったね。そうだもんね。先生はそういうの嫌いそう。独立してるからどれだけ介入するかも自由だもんね。それじゃあ……先生は誰かの味方なの?」

「僕は生徒の味方だよ」

「生徒の? じゃあ生徒ならだれでも味方するってこと? 例えば不良でも?」

「味方になるべきと思ったらそうだね」

「ふーん? じゃあ……ゲヘナの生徒でも?」

「うん」

 

 先生が答えた瞬間ミカの顔からは表情が無くなった。空っぽの顔で先生を見ている。ただ僅かに見える怒りのようなものが漂う殺気と一緒に見えた。

 

「もちろんミカの味方でもあるよ」

「私の……わーお。さらっとすごいこと言うね、先生。それが大人の話術ってわけ? うん。そうだとしてもそう言ってくれるのは嬉しいかな。えへへ。因みにレイヴンは?」

『私は先生の味方だよ。今のところは』

「今のところは?」

『今は気にしなくていいよ。話が脱線するから。とにかく今は先生の味方』

「そっかそっか。先生の答えは少し意外だったけどレイヴンのは予想通りだったね。でもそれならよかった。うーん、先生のその生徒の味方って裏返せばだれの味方でもないってことだよね。だから私もナギちゃんと同じように取引を提案しようかな」

「取引?」

「私からはトリニティの裏切り者を教えてあげる」

 

 その言葉を聞いて私たちはきっとわかりやすく驚いただろう。肩が跳ね上がり、目線がミカから離せなくなった。呼吸が荒くなり、体勢もミカに対して少し及び腰になっているに違いない。

 

「な、なんでミカがそれを知っているの?」

「そもそも先生を補習授業部の担任として招待したのは私だったからね。あとレイヴンの招待を後押ししたのも私」

「ミカが?」

「うん。ナギちゃんには反対されたんだけどね。先生との借りをこんな形で返すのはどうかって。先生との借りが何なのか分からないけどね。とにかく私の方で先生の力が必要だったの。トリニティでもゲヘナでもない第三の立場が必要だったの。少し脱線しちゃったね。補習授業部にいるトリニティの裏切り者は……白洲アズサ」

 

 そのカミングアウトに私はともかく先生もあまり驚いている様子はなかった。ああは言っていたがやはりどこかで裏切り者のことを考えて、勘づいていたのかもしれない。情報を与えられればそのことについて考えないすることなんて不可能だ。たとえ無意識下でもどこかで考えてしまう。そしてそうやってできた印象は静かに体にしみこんでいくのだ。まるで最初からそう思っていたかのように。

 

「アズサが?」

「そう。知ってるかもしれないけど、あの子は最初からトリニティに居たわけじゃないの。あの子はトリニティの分派、アリウス分校から転校してきた生徒だったの。うーん、でも何かを学ぶということがない生徒のことを生徒って呼べるのかな? 先生はどう思う?」

「少なくともアズサは今、ヒフミたちと一緒に補習授業部で頑張って勉強している生徒だよ」

「ふふふ。そうだね」

「それで、このことを僕に教える理由は何?」

「言ったじゃん、先生。取引だよ。あ、これはレイヴンに対する取引でもあるからね。単刀直入にいうよ。私が先生たちに望むのは、あの子を守る事」




次回からは二章です。

ぶっちゃけペロロ様のぬいぐるみ、ちょっと欲しいなあと思わないこともないんですよね。あとウェーブキャット。あの猫なんか顔に仕事味を感じる……感じるくない?
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