シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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誤字報告ありがとうございました(いつもの

ミカさん……話なげぇっす。


エデン条約編二章
第14話


『私も一緒に呼んだのはACがあるから?』

「そうだね。新聞を読んで知ったの。写真が載ったこと無かったらどんなロボットなのか分からなかったけど思ってたより大きくてビックリしちゃった。やっぱり先生だけだとやっぱり物理的な保護は難しいからね」

「アズサが裏切り者」

 

 先生はさっきから何度かそのフレーズを繰り返している。さっきはそこまで驚いているようには見えなかったが、内心ではかなり驚いていたのかもしれない。

 

「ごめん、少し事を急ぎすぎたかな。じゃあもう少し最初から説明しようかな。これは複雑な事情が絡まりあって成り立っていることだし」

「ごめん。お願いできるかな」

 

 私は少し迷っていた。本来私のような存在は依頼主の細かな事情を知る必要はないからだ。良くて依頼をした理由まで。私たち傭兵は盲目的に依頼をこなせばいいだけだ。だがこの状況、どっちみち話を聴く羽目になるだろう。

 

「まずはトリニティ総合学園について。ナギちゃんも言ってたけどこの学校はたくさんの分派が集まってできた学校なの。パデル、フィリウス、サンクトゥス。この分派が集まったっていう話は前にしたと思うけど本当はもっとたくさんの分派があったの。さっきの三つは中心になった分派。例えば今の救護騎士団の前身にあたる派閥とか、シスターフッドもそうなの。言ってしまえば今トリニティにある部活一つ一つが昔はそれぞれの派閥だったみたいなことかな。ちょっと違うかもしれないけど。

 

「そんなたくさんあった派閥が今のトリニティとゲヘナみたいな、互いに互いをいがみ合って紛争ばかりの時代があったんだって。それで、これ以上戦わずに仲よくしようっていう話が出てきた。たくさんの派閥をまとめて一つの学園にしようっていう話。それでさっき言った三つの分派が集まったのが第一公会議」

「うん、聞いたことある」

『私は聞いたことない』

「そうなの?」

「レイヴンはまだキヴォトスに来て日が浅いからね。そこらへんの歴史は全然知らないかも」

「そうなんだ。概要ぐらいは知っている体でちょっと端折った部分もあったんだけど理解できた?」

『うん、まあ一応は理解できたよ』

「ならいいや。えっと……そう。その会議を経て生まれたのがトリニティ総合学園。今でも分派の時の余波はあるけどそこは時代の流れっていうやつかな? 今は気にしてない人の方が多いよ。自分が入学するより昔のことを重視する人ってそんなにいないでしょ?

 

「でもその公会議は円満に終わったわけじゃない。一つだけ反抗していた学園があったの。それがアリウス。教典がちょっと違うだけで他は私たちとほぼ同じだった分派の一つ。そのアリウスだけが最後まで連合に反対していた。最終的には争いにまで発展しちゃったの。連合になったトリニティ総合学園はその強大な力を試すがごとくアリウスを弾圧し始めた。一つの分派が連合の学園に勝てるはずもなくアリウスはつぶされたの。トリニティの地区から追放されて今はどこにあるのか分からない。今の生徒はアリウスの名前自体知らないかもね。だって相当昔の話だもん。歴史と言う名目で語られる話なの。

 

「それでナギちゃんが今進めているエデン条約は正に第一回公会議の再現なの。トリニティとゲヘナ、二つの大きな学園が仲よくしましょうっていう条約。一見してとてもいい条約でしょ? だって長年いがみ合ってた学園が仲良くなるんだから。でもその実作られるのはエデン条約機構通称、ETOと呼ばれる武力集団なの。ナギちゃんも言ってたっけ、もしもの時両学園が力を合わせて事に当たるみたいな。ナギちゃんはおまけみたいに言っていたけどね。トリニティとゲヘナは単体でもキヴォトストップクラスの力を持っている。そんな学園が合わさったらどうなると思う? そんな集団を連邦生徒会長が行方不明になっているときに作ろうとしているの。

 

「ナギちゃんはこの力でなにをしようとしているのかな? 例えば連邦生徒会を襲撃して自分が生徒会長になるとか。例えばミレニアムという新しい芽を摘んでおくとか」

『もしそうなら私はミレニアム側につくよ。先生が敵になったとしても』

「え、嘘」

『本当』

「相当入れ込んでるみたいだね。理由でもあるの?」

『私の機体を整備できるのはミレニアムぐらいだから潰れたら困る』

「ああ確かに……あんなおっきいロボットはミレニアムぐらいしか弄れないだろうね。でもさっきのはたとえ話だからナギちゃんが本当にその力をそういうふうに使うとは限らないよ。でもこれだけは言える。そんなに大きな力を手に入れたらきっとナギちゃんは気に入らないものをつぶす。昔トリニティがアリウスにしたみたいに。もしくはセイアちゃんみたいに……ごめん今のは忘れて」

「セイアは今どこにいるの?」

「セイアちゃんのこと先生に話したっけ?」

「ナギサから聞いたんだ。入院してるって」

「あー、ナギちゃんったらそこまで話したんだね。先生は知りたいの?」

「ミカはそれを教えたくないの?」

「うーん、もしこのことを話したら私はもう戻れなくなる。先生が裏切ったら私はもう終わりだね」

「裏切るだなんてそんなこと」

「そうだよね。先生さっき言ってくれたもんね。それに裏切られたってそんなに悪くないかも……セイアちゃんはね、入院中なんかじゃない。ヘイローを壊されたの」

 

 先生の息が詰まるのが分かった。汗を流している。ミカの表情からもそれがとても大事であることが分かる。しかし私には分からない。それがなぜこんなにも重苦しい空気になる事態であるのかを。

 

『ヘイローが壊れたらどうなるの?』

「レイヴンは知らないの? 私たちキヴォトスの生徒はね銃弾に当たっても痛いぐらいで済むほど体が丈夫なの。でも私たちにだって死はある。それがヘイローが無くなる事。厳密に言えば死んだらヘイローが無くなるってことなんだけど。つまりヘイローが壊されるということは死と同義なんだよ。セイアちゃんは去年何者かに襲撃されたんだ」

『じゃあセイアっていう人は』

「死んだわけじゃないよ。死んだらヘイローが無くなるのは事実だけどその逆は当てはまらない。でも植物状態に近いかな。このことはティーパーティ以外には誰にも知られてない秘密事項なの。シスターフッド辺りには知られてるかもしれないけどね」

「犯人はまだ?」

「うん。まだ何も分かってない。セイアちゃん自身良く分からない子だったからね。話を戻すけどアズサちゃんを入学させたのは私なの」

「ミカが?」

「うん。ナギちゃんには秘密でいろいろ書類を捏造して入学させたの」

 

 何だろうなデジャヴを感じる。でも向こうと違うのはミカの持ってる権力の大きさか。そっちの方が簡単だろうな。

 

「理由が気になる? アリウスはね今も私たちを恨んでるの。私たちや連邦生徒会の助けも断るほどに憎しみが深い。私はアリウスと和解がしたかった。でもそう簡単にはいかないの。だってあんな昔のことをまるで今も根に持つほどだよ? 途方もない憎悪がないとそんなことできない。一言二言言葉を交わす程度じゃ到底拭いきれない。

 

「私の考えはナギちゃんとセイアちゃんには反対された。政治的な理由でね。それが分からないわけじゃないよ。私だってティーパーティだからね。私は政治的なあれこれは苦手なんだけど、でも今から仲良くするのってそんなに難しいことかな? 前みたいにお茶会でも開きながらお話しできないのかな。

 

「私はあの子に、アズサちゃんに和解の象徴になってほしかった。あの子のこと詳しいわけじゃないけど、アリウスでも優秀な生徒だったらしいし、あの子優しいでしょ? まるでアリウスの生徒じゃないみたいでしょ? ナギちゃんを説得して正式に事を進める手もあった。でもナギちゃんそういうの許してくれないだろうなって、信じきれなかった。だから内緒にしてたの。

 

「ナギちゃんがエデン条約を締結させる前に和解したかった。締結したら今度こそ和解は不可能になるから。でもそんなときにナギちゃんが裏切り者がいるって話をしだしたの。なんでナギちゃんが急にそんな話をしだしたのかはわからない。もしかしたら動いているうちに何かバレちゃったのかな。ともかく、エデン条約締結が近かったナギちゃんは急遽補習授業部を作ってその中に怪しい人を全員いれたの。そういえば先生はなんであの四人なのか知らないんだっけ。

 

「ハナコちゃんは変なところがあるけど本当に優秀な生徒なの。もちろん成績と言う意味でもね。ティーパーティの候補としても挙がっていたくらいに。シフターフッドもハナコちゃんを引き入れようとしてたみたいだけどうまくいかなかったみたい。礼拝堂の授業であの子だけ水着で現れた時はびっくりしちゃった」

 

 ああ、簡単に想像できる。なんなら表情までも手に取るようにわかる。

 

「でも、あんなに優秀だったハナコちゃんはなぜか急に変わっちゃったの。落第直前になるまでに。気になっちゃうよね? あの子は上層部にも繋がりがあったから余計にナギちゃんは気にせざるを得なくなった。コハルちゃんはどろどろした政治とか全く関係ない純粋でいい子。だからあの子は疑われたわけじゃなくて人質なの」

「人質? 誰の?」

「正義実現委員会だよ。あの武力集団は本当の意味でティーパーティの下にはついてないんだ。おまけにゲヘナに対する憎しみも人一倍強いからね。エデン条約になんて絶対賛成しないでしょ? だから暴走した時の人質が欲しかったんだろうね。なんでコハルちゃんなのかは……単純に成績が悪かったからかな。アズサちゃんは言わずもがな。あとは……ヒフミちゃんか。

 

「いい子だよねあの子。ナギちゃんもとっても気に入ってるみたいだよ。でもナギちゃんの疑いの目が行っちゃったの。どうやらこっそり学園の外に出て怪しい場所に行ってたみたい。ブラックマーケットみたいな出入り禁止の場所にね。あとはどこかの犯罪者集団とつながってるって情報も出てきた。善良の権化みたいな子なのにね。世の中思いもよらないことが有るよね」

「あ、いやそれは……まあいいや」

『何か知ってるの?』

「何でもないよ、うん」

 

 何か知ってるだろうな。でもミカの前では言いにくいのだろうか。なら後で二人になった時に聞いてみようかな。

 

「こういう事情があってナギちゃんの中で裏切り者は疑惑から確定の存在になったの。そして今につながるってわけ。どう? 今の状況良く分かってくれた?」

「うん。おかげで」

「裏切り者について解釈はいろいろあるんだよね。まずナギちゃんが言ってた意味だけど要はスパイみたいな、そういう意味で言うなら裏切り者はアズサちゃんだよね。経歴を偽って入学しているし何よりアリウスの生徒だし。それからある意味では裏切り者は私でもあるの。エデン条約に私は賛成してないからね。でもこういう見方もできる。トリニティの裏切り者……それはナギちゃん。トリニティ、ひいてはキヴォトスのバランスを変えてしまおうとしてるから。まあ今までの話全部私視点の話だからね。事実もあるけど全部合ってる訳じゃないから。じゃあ私はこれで帰ろうかな。先生とお話できてよかった。ティーパーティの私が下手にうろつくと変な噂が立っちゃうからね。あ、帰りにレイヴンのAC見て帰ろうかな」

『見るだけなら自由に見てっていいよ。なんなら送ってあげようか』

「いいよ、ありがとう。じゃあまたね二人とも。合宿頑張って!」

 

 ミカは私たちに手を振って帰っていった。私と先生はミカが建物の陰で見えなくなるまで彼女を見送った。

 

「戻ろうか。長話しちゃったしヒフミたちが心配してるかもしれない」

『さっき先生何か言いかけてたよね』

「え、なんのこと?」

『ヒフミがどうのこうのっていう話の時』

「あー、あれね……あれはそうだなあ。レイヴンには話してもいいかな。実はねヒフミが犯罪者集団に関わってるって話なんだけどあれは事実だしなんなら僕も関わってる」

『え』

「は、話の流れでそうなっちゃっただけで襲ったのは悪徳銀行だからその……義賊みたいな?」

『へえ。先生が銀行強盗を……へえ?』

「話の流れですることになっちゃっただけなんだよ」

『一体どんな話をしたら銀行強盗する流れになるのか気になるんだけど。つまりヒフミがこうなったのは先生のせいでもあると』

「い、いやそれは……うんそうだね。僕のせいでもあるね……このことはヒフミには黙っててね?」

『いいよ』

 

 

 今朝は雲一つないとてもいい天気だというのに、廊下を歩く私たちの気分は暗く沈んでいた。先生はさっきからずっと床を眺めながら歩いている。多分何か考えているのだろう。何を考えているのかは想像がつく。二人しかいない廊下には先生の足音と私の車椅子の駆動音しか鳴っていない。考え事をするにはうってつけの空間が形成されていた。幸か不幸か私は車椅子の操縦で手一杯で考え事をする暇はなかった。

 

「レイヴン。ミカは君にもアズサを守ってほしいって言ってたよね」

『先生。話をするなら車椅子を押してくれない? 車椅子を動かしながら別のことを思考するのはまだ慣れてない』

「ごめんごめん」

 

 先生は私の後ろにつき車椅子を押し始めた。

 

「君にまで頼むってことはミカはアズサが戦闘に巻き込まれることを加味してるってことだよね」

『そんなに難しく考えなくてもいいと思うけどね。キヴォトスじゃあ銃撃戦何て日常茶飯事なわけだし。まあそういう意味で言うならミカが考えているのはアズサがアリウスの生徒だってバレた時のことだと思うよ。ミカは多分アズサの正体がバレた時、ナギサが武力行使をすると思ってるんじゃないかな』

「武力行使……か」

『とはいえ私が必要になるってことは相当ひどい展開になってるってことだよ。大事にしないのであれば先生で事足りる。要は私はただの保険だよ』

「じゃあ僕はレイヴンに仕事をさせないようにすればいいってことか」

『頑張ってね』

 

 適当に論をでっちあげてみたが存外先生には効いたようだった。話が終わったのなら私はまた自分で動かそうと思ったが先生はついでだと言ってそのまま教室まで押してくれた。

 

 突然二人の間にあった沈黙を破るようにコハルの叫び声が聞こえてきた。いつの間にかヒフミたちのいる教室の前まで来てしまったらしい。先生は床を眺めるのをやめて前を向き、息を一つ吐いた。

 

「せめてみんなの前では笑顔でいないとね」

 

 先生は私に向けてそう言ったが、私は元より笑顔も何もない。

 

 歩を進めるたびにコハルの声は大きくなっていく。大方またハナコに何か言われたのだろう。さらに進むとヒフミたちの声も聞こえた。アズサの声も聞こえてくる。試験結果の話題が聞こえてきた。

 

『私たちが話をしている間に試験が一本終わってるみたいだね』

「そんなに時間が経ってたのか……本当だ。こりゃ思ったより心配させちゃったかもね」




」が無いのはそういう書き方です。
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