シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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誤字報告ありがとうございました()
ここに謝罪します。私はセイアちゃんの名前と間違えて某百円ショップの名前を書いていました。本当にすいません。これはセイアちゃんファンに刺されてもおかしくない……


第15話

「あ、先生、レイヴンさん!」

「ごめん遅くなった」

「なんでレイヴンが先生と一緒にいるんだ?」

『丁度先生にも用があったんだよ。終わらしてから一緒に来た』

「あら、私たちに隠れて何をしていたんでしょうね、コハルちゃん?」

「え、な、なんで私に聞くの!? し、知らない! でもエッチなのは駄目! 禁止! 死刑!」

『問題集を見てもらってただけなんだけど』

「あはは。ヒフミたちは何の話をしていたの?」

「そうだ。先生見てください。さっき自分たちで試験をしたんですけど、ほら!」

 

 ヒフミは四枚の解答用紙を見せてくれた。特筆すべきなのはアズサが五十八点を取っていることだ。本人も紙一重だったと言っている。コハルも五十点近くとっていた。前回の試験の結果とは大違いだ。両者ともに目標点数にぐっと近づいた。ヒフミはまるで自分のことのように喜んでいる。実際これで自分たちの退学がぐっと離れるわけだから自分のことでもある。ヒフミの喜びようにアズサも喜んでいるし、コハルも照れているがその口元には笑みが見える。

 

 しかし一方でハナコの点数は八点と、合格ラインには程遠いものだ。ヒフミの顔も歓喜から苦笑に切り替わった。

 

「ハナコちゃんはその……はい」

「あら、私だって前回から点数が上がってますよ? 最初が二点、次は四点、そして今回は八点。このまま指数関数的に行けばあともう三回目には合格ラインを突破してます」

「そ、そうですね。このままいけばですけど。ともかく、私たちは着実に成長しています! このままいけば第二次特別学力試験で皆合格できますよ!」

「ああ、全てはあのかわいいものをゲットするためだ。全力で事に当たるのは当然」

「え、えっと目的は学力試験に合格することですよ? モモフレンズはそのための手段と言いますかモチベーションを保つための道具で」

「ん? ああ。そうだな。ついでに合格もしないとな」

「つ、ついで!? あ、いや。モモフレファンとしては嬉しいんですけどできれば試験合格を目標にしてほしいなあって」

 

 にわかに暗雲立ち込めていた私たちの心境も現状の四人を見て晴れてきた。いろいろ守ってだの裏切り者だのどろどろとした話を聞かされたが要は四人を退学させないように試験に合格させるのが先生の目標だ。私はあくまで保険。事が上手くいけば私が動く必要も無いだろう。それにアズサなら一人で十分身を守れそうな気がする。

 

 

 爆発音が鳴り響いたのは突然だった。爆音の直後、私たちは目を見開いて互いを見合わせた。コハルは「な、ななな、なになになにっ!?」と慌てふためいている。

 

「これは……入り口の方向からでしょうか」

「ブービートラップを仕掛けておいたんだ。襲撃者が掛かったに違いない」

「トラップ!? え、いつの間に掛けてたんですか? ちょ、ちょっとアズサちゃん!?」

 

 アズサは途端に教室を出ていった。私と先生もアズサの後を追いかける。あんな話をした後なので余計に気になってしまった。もしかしたら本当に襲撃者かもしれない。その考えがどうしても頭をよぎってしまった。ロビーに到着するとそこには煙に巻かれている一人の少女に銃口を向けているアズサの姿があった。少女は「一体何が……」とつぶやきながら煙を手で払っていた。その少女は黒い服に身を包み、頭までもを覆っていた。動物のような耳をつけているのが服の上からでもわかる。見たことのない服装だった。

 

「アズサ! 大丈夫……あれ、君は」

「だ、大丈夫ですか!?」

「きょ、今日も平和、けほっ、と安寧が……けほっ、あなたと共にあり、けほっ、ありますように」

「まずは自分の安寧と平和を確保した方がいいと思いますよ!?」

「マリーちゃんじゃないですか」

『知り合い?』

「あ、ハナコさん」

 

 どうやら先生とハナコはこの少女のことを知っているようだ。ハナコ曰く、この少女はシスターフッドのマリーと言うらしい。シスターフッドと言えばミカが言っていた組織の一つだ。詳細は何一つ知らないが先生とハナコの知り合いであるらしいし怪しい人物ではないようだ。ではなぜこんなところに来たのだろうか。一先ずマリーを教室まで案内した。

 

 コハルから水を渡されようやく落ち着いたマリーの前にアズサがヒフミによって連行されてきた。アズサの顔は少々不満そうに見える。

 

「ほら、アズサちゃん」

「うっ……す、すまなかった」

「い、いえ。私は大丈夫ですから」

「ところでどうしてここに? また私に用ですか?」

「い、いえ。今回はアズサさんに用があって来たんです」

「私に?」

「はい、いじめにあっていた生徒さんからアズサさんにお礼がしたいというので探していたのですがなかなか見つからなくて、補習授業部にいるということだったのでここまで」

「いじめ!?」

「トリニティでもいじめはありますよ。陰湿で狡猾な分、表には出にくいですけど」

「その生徒さんがいじめにあっていたところをたまたま通りかかったアズサさんが助けて下さったようで。それで主犯の方たちが腹いせに正義実行委員会に事実を歪曲させて伝えたせいでアズサさんとの戦闘が始まってしまい最終的に三時間立てこもる事態にまでなったと」

「え、あれそういうことだったの!?」

「あの事なら別にいい。私はただあの行為が気に入らなかっただけだ。その子に伝えておいてくれ。いつまでも無抵抗なのはダメだ。どこかで抵抗しなければ自由は得られない」

「はい。分かりました。では私はこれで失礼させていただきます」

「僕が送るよ」

『じゃあ私も』

 

 先生が見送りに行こうとしたので私もついて行った。少し焦げた匂いのするロビーの玄関の前で振り返ったマリーはもう一度私たちの前で挨拶をした。

 

「お見送りありがとうございました、先生。それとあなたがレイヴンさんですね。自己紹介が遅れました。私は伊落マリー、シスターフッドに所属しています。レイヴンさんの話はかねがね聞いていました」

『初めまして。よろしくね』

「今回はゆっくりお話ができませんでしたがもし今後機会があればその時にまた」

『うん、また。そういえばさっきああいいやなんでもない』

 

 私はさっきハナコが言っていた用について聞こうと思ったが多分ミカが言っていた勧誘のことだと気づいたので打ち込む途中で無理やり断った。マリーはすぐに玄関から出ていった。私たちはしばらくの間マリーが出ていった玄関の扉を見つめていた。

 

『襲撃じゃなくてよかったね』

「うん。あの話を聞いた後だったから心配しちゃったよ」

『でもアズサって別に私の助けとかいらなくない?』

「まあ、言いたいことは分かるよ。でも一人よりも仲間がいた方が安心できるでしょ?」

『それは……そうだね』

 

 仲間、というか僚機を伴う任務を請け負ったことは何度かあった。賑やかで、いつもより被弾も少なくてお財布に優しい任務になる。任務で仲良くなる僚機もいたが終始因縁しかつけてこないような奴もいた。私を褒めてくれる僚機もいた。どれも最後は私が殺した。傭兵だから仕方がないことだった。実際そこまで気にならなかった。死体が目に入らないからかもしれない。でもわずかに悲しみと寂しさが湧いて出てくる。キヴォトスではそうならないといいな。

 

『ところでここ煙臭いね』

「ブービートラップ仕掛けてたらしいからね」

『でもその割には焦げてないみたい』

「そうだね。理由は良く分かんないけど焦がさないように爆発させたみたいだね?」

『器用だね』

「とりあえず換気だけしておこう」

 

 先生はロビーの窓を開けにかかった。私は手が届かないので見ていることしかできなかった。窓が開くと風が入って来た。すぐに煙の臭いが抜けるわけではないが夜までには抜けてくれるだろう。

 

 窓を全開にした後、すぐに教室に戻った。その日は夜まで何も事件は起こらず、ずっと勉強をしていた。コハルやアズサも試験の結果のことが有ってか普段よりも集中して机に向かっていた。それに影響されたのか私も今日は集中して問題集に取り組めた気がした。

 

 

 その晩、皆で談笑をしているとハナコが洗濯カゴを取り出した。そして皆から洗濯物を募った。ヒフミたちは次々と洗濯物を手渡した。生憎と私には洗濯物の類は持っていなかった。

 

「下着も一緒に洗っちゃいましょう」

「え、下着もですか?」

「下着は各々でいいんじゃない?」

「いや、洗濯物は一度で洗濯した方が水の節約になる。ハナコ頼めるか?」

「はーい、預かりますね」

「じ、じゃあ私も」

「あら、かわいい下着ですね」

「あ、あまり見ないでください」

「さあコハルちゃんも」

「え、なに、これ私が何かおかしいの? そういうものなの?」と言ってコハルは私を見た。

『私に言われても、下着付けてないから何とも言えないよ』

「え、レイヴン下着もつけてないの!?」

『傷の部分がかぶれちゃうんだよ。前にも言わなかったっけ』

「そ、そうだったっけ?」

「さあコハルちゃん。早く貸してください」

「う、うう……分かった、分かったわよ! はい。これでいいでしょ」

「あらあら。コハルちゃんもかわいいものを穿いてるんですね」

「そんなにじろじろ見ないでこの変態! さっさと洗濯に行きなさいよ!」

「うふふ。先生も一緒にどうですか?」

「僕は遠慮させてもらうね」

 

 ハナコが洗濯物と一緒に部屋を出ると、ヒフミが先生に何かを耳打ちしていた。残念ながら私のいる位置からはヒフミが何を耳打ちをしたのか分からなかった。私はやることが無くなったのでベッドに転がり天井を眺めた。規則的な四角いタイルが見えた。この建物、外見や教室は古風な見た目をしているが居住スペースは案外現代風な内装をしている。トリニティは伝統を大事にしているらしいから建物の外見や教室だけは昔から同じなのかもしれない。

 

 私は手持無沙汰から車椅子にしまっていた読みかけの本を取り出した。少年が赤い砂漠で迷っているところまで読んでいたはずだ。ぺらぺらとめくると丁度そのページで栞が落ちてきた。顔の側に落ちてきた栞を拾い、手に持ったまま読みはじめた。

 

 

 ふと目が覚めた。辺りは真っ暗だった。さっきまで本を読んでいたはずなのに一体どうしてこんなに暗いのだろう。体を動かすと手に何か当たった。暗闇の中その何かが本であることを手探りで暴いた。近くに栞もあった。多分本を読んでいる間に寝落ちしてしまったのだ。そして間の悪いことに尿意に気づいてしまった。全く、喋れなくなったり歩けなくなったりするのなら尿意も殺してほしかった。普段から夜中に尿意を催すことがたまに有った。その時はいつも先生に連絡を取ってトイレまで連れて行ってもらってたので今回も先生に連れて行ってもらおうとした。その時誰かがごそごそと動く音が聞こえた。

 

「うぅん、トイレ……」

 

 コハルの声だ。私は壁を叩いてコハルを呼んだ。コハルは突然聞こえた音に驚いたもののすぐに私のところまでやって来た。

 

「なに、レイヴン?」

『私もトイレに行きたい』

「レイヴンも? 分かった。ちょっと待って」

 

 コハルは車椅子を近くまで持ってきて、私を抱えた。車椅子に乗せると一緒に部屋を出た。夜の別館は恐ろしいほどに静かだった。元々私たち六人しかいないので建物内は静かだったが、同じ静寂でも雰囲気が違った。まるで異世界にいるようだった。コハルは何もしゃべらない。眠いのかもしれない。静かすぎて普段は全然聞こえない車椅子の駆動音がとても大きく聞こえた。

 

 先生の部屋の前を通った時、何の脈絡もなく扉が開いた。私たちは驚きのあまりその場にとどまって開いた扉をじっと睨んだ。中から出てきたのはヒフミだった。

 

「え、な、なんでヒフミが?」

「あれ、コハルちゃんとレイヴンさん? なんでこんなところに?」

 

 それはこちらのセリフなのだが私がキーボードを打ち込む前にコハルが口を開いた。

 

「こ、こんな夜中に何してんの!?」

「あら、お二人ともどうしたんですかこんな夜中に」

 

 中からさらにハナコまで出てきた。

 

「二人!? な、なな……変態! エッチなのは禁止! 死刑!」

 

 コハルは何か変な想像をしたようだ。静かだった別館はにわかに賑やかになったが尿意の強かった私はコハルたちを置いて一人先にトイレに向かった。

 

 

 次の日、目を覚ますと外から雨音が鳴っていた。いつも部屋に入ってくる朝陽がない。外の景色を映していた窓の向こうは暗い灰色に染まり、代わりに私たちの姿を映していた。まるで未だに夜中のような、そんな暗さだった。私の起きる姿が窓にでも映ったのか、先に起きて窓を見ていたヒフミとハナコがこちらを向いて「おはようございます」と言ってきた。それからすぐにコハルも起きてきた。ただ珍しく今日はアズサが起きてこなかった。その内先生も部屋に入って来た。

「おはよう皆」

「あ、先生。おはようございます」

「すごい雨だね」

「ええ、朝からずっと降ってたみたいです」

「あれ、アズサは? まだ寝てるの?」

「あ、はい」

「きっと普段からずっと起きてたので今日は限界が来たんでしょうね」

「雨が降ってるからっていうのもあるかもね」

「とりあえず起こさないでおきましょう」

 

 時折雷が鳴るほどのひどい雨空をしばらくの間眺めていた私たちだが、ハナコが突然「あ」と何かを思い出したようにつぶやいた。

 

「すっかり忘れてました! 洗濯物が外に!」

 

 そう言って部屋を飛び出していった。少し遅れてその言葉の意味することを理解したヒフミとコハルと先生もハナコを追って部屋を飛び出していった。私はベッドに置かれたまま置いて行かれてしまった。部屋には私とアズサだけになったわけだが、アズサは三人が飛び出して行ってから直ぐに目を覚ました。

 

「ん……あれ? 皆は? ああ、レイヴンおはよう。皆が何処に行ったのか知らないか?」

『皆なら外に干してた洗濯物を取りに行ったよ』

「洗濯物? ああ雨が降っているのか。だから……雨が降ってる!?」

 

 起きたばかりで寝ぼけていたのかアズサはぼーっと外を眺めていたが、事の重大さに気づくとハナコたちと同じように、しかし少しふらふらとしながら部屋を飛び出していった。とうとう部屋の中には私だけが取り残されてしまった。

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