シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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第16話

 結論から言えば外に干していた洗濯物は全滅していた。どれもこれもびちゃびちゃに濡れている。体操服なんかは泥だらけになっていた。途中でコハルが転んでしまったせいらしい。

 

「すみません。私が全部一緒にと言ってしまったせいで」

「大丈夫だ。もう一度洗濯すればいい」

「とりあえず着替えませんか? 洗濯物取りに行って濡れちゃってますから」

「ちょ、ちょっと先生いるんだからまだ脱がないでよ! なんでそんなに脱ぎたがるの!」

「おっとそれはまずい」

 

 先生が部屋を出てから四人はそれぞれの鞄を漁ったが、ほぼ同時に全員が気付いた。服は全部昨日洗濯していた。その洗濯物は今全て濡れた状態である。つまり替えの服がないのだ。

 

「どうしましょう。私も服がないのですが」

「下着はたくさん持って来てあるし靴下も履けば保温になる」

「え、し、下着だけで過ごせってこと!? そんなのダメ! エッチじゃん!」

「あら、私はいいと思いますよ? 下着姿で勉強……想像するとわくわくしますね」

「わくわくするな! 洗濯物はもう一度洗濯するとして今着てる奴はドライヤーで乾かせばいいでしょ!」

「それなら先に使っててくれ。私はもう一度洗濯機に持っていく」

 

 アズサは洗濯物を持って部屋を出ていった。私も手伝おうと二つあるドライヤーを一つもってコンセントに挿した。温風が出ているのを確認し、コハルの服に当て始めてから少しして、一際大きな雷が落ちた。直後部屋の電気が落ち、ドライヤーも止まってしまった。私の車椅子についている画面だけがぼんやりと光を放っていた。

 

「うわっ! な、なに、どうしたの?」

「停電でしょうか」

「まずいことになった」

 

 部屋に誰か入って来た。声からしてアズサだろう。こちらに近づくと薄暗い中でアズサの困った顔が見えた。

 

「洗濯機が止まってしまって蓋もあかない」

「え、それじゃあ服はこれしかないってこと?」

「ドライヤーが止まってしまいましたし、服も濡れたままですね」

「ど、どうすんのよ着る服もうないじゃない!」

『包帯ならあるよ?』

「包帯だけですか……いいかもしれませんね」

「いいわけあるか!」

『あ、もう数がない。皆の分は無いかも」

「巻かないから!」

「あっはは……でも着替えないと風邪ひいちゃいますよ。なにか着れる服はないでしょうか」

「うーん……あ、ありますよ」

「え、なんかあったけ?」

 

 

 一同は暗い部屋から広い体育館に移って来た。広く窓もたくさんあるおかげか、寝室よりもほんのり明るかった。雷が鳴ると一瞬お互いの水着姿がはっきりと見えた。

 

「第一回水着大会ですね」

「大会じゃないし二回目とかないから」

「ふむ。水着はいいな。通気性もいいし動きやすい。ハナコがずっと着ていたのもうなづける」

「分かってくれましたか? 今度一緒に水着で学園内を歩きましょう」

「歩くな! 歩いたら捕まえるわよ!」

「一先ず停電が直るまではここに居ましょうか」

「落雷で停電するなんてセキュリティが心配だ」

「ま、まあこの建物古いですからね」

『そういえば私の機体にライト付けてたんだった。少しは明るくなるかも』

「気遣いはありがたいけどこんな雨の中だとレイヴンも風邪ひいちゃうよ」

『そっか』

「うふふ。実は私今結構興奮してるんですよ。こうしてみんなでお話ししてみたかったんです」

「楽しそうだね」

 

 停電が直るまで勉強も何も出ないので必然的に談笑が始まった。自分でしてみたかったと言っていた分、ハナコは自身の知っている話題をいろいろ話してくれた。最近水族館で展示されたゴールドマグロの話だったり、廃墟になったアミューズメントパークの話だったり、水着の上から覆面を被っている犯罪集団の話をしてくれた。恐らく犯罪集団はヒフミのことだろうなと彼女と先生の方を見てみると二人とも苦笑しながら相槌を打っていた。

 

「皆とこうして話すのが楽しいとは思わなかったな。ありがとうハナコ」

「いえいえ。楽しんでいただけたなら幸いですよ」

「コハルもいつも感謝してるぞ」

「え、なにいきなり」

「いつも勉強を教えてくれて感謝している」

「ん、ま、まあ私が教えてるんだから当然よね」

「もちろんヒフミにも感謝しているぞ」

「え、えへへ。なんだか照れちゃいますね」

「先生たちにも感謝している。今があるのは先生たちのサポートがあったからこそだ」

「僕はただ顧問をしているだけだよ。皆が合格してくれたらそれでいいんだ」

『私は特に何もしてないけどね』

「いや、前にレイヴンがしてくれた話はとても興味深いものだった。また聞きたいと思っている」

「へえ、レイヴンさんとアズサちゃんが二人で話しているところを見たこと無かったんですがいつそんな話を?」

『昨日お昼ご飯を食べてたときだったかな。ちょっとだけ話したよ』

「因みにどんな話を?」

『前に居た場所での仕事の話。あんまり面白いものではないよ』

「ちょっと興味あるかも。それって外のロボット使った話でしょ?」

『そうだけど、この雰囲気で話すようなものではないかな』

 

 私はふと窓の外を見た。まだ雨は降りそうだ。一つぐらいは話してもいいかもしれない。アズサもこころなしか私の話を期待しているようだ。

 

『でもしょうがないから一つ話そう。アズサにもまだ話してない話だよ』

「ほ、本当か? それは楽しみだ」

 

 話をすると言ってから私は何の話をしようと考えた。数秒の思考の後、アイスワームの話をすることにした。

 

 アイスワームの話をする前に、まずアイスワームが一体どんな姿形をしていたのか思い出した。それからその姿を一体どのように表現すればいいのか考え出した。頭と胴体の腹にドリルが付いた、芋虫のような兵器だ。ACの何百倍も大きい、もはやACと比べるのが不適切なほどに大きかった。

 

「あれの何百倍も大きい鉄の芋虫ってこと?」

「んー……想像できるようなできないような感じだな」

「レイヴンさんはそのアイスワームを倒したんですか?」

『最終的にはね。そこまでちょっと時間がかかったけど。初めて遭遇した時は驚いたよ。どんな武器も通さないんだから』

「どんな武器も? ミサイルも通さないのか?」

『うん。ミサイルも近接武器も何もかも。唯一通ったのは頭の部分。そこも二つのバリアが張られてて剥がすのに苦労したんだけどね』

 

 

 それからアイスワームの対処法が協議されて、一時的に争っていたベイラムとアーキバスが共闘することになった。RaDも奪われたレールガンでアイスワームのバリアを剥がせると言った。ブルートゥの件は端折った。それからベイラムとアーキバスそれからRaDの三つの勢力が協力した。あの時のブリーフィングは今でも覚えている。あんなに皆が仲良くお話をしたのはあれが最初で最後だったからだ。私はアーキバスのスタンニードルランチャーを貸してもらい一枚目のバリアを剥がす任を受けた。あれだけの巨体で信じられないほど素早く動くのだから当てるのには本当に苦労した。

 

『三回目にようやく当たったんだ。それだけで軽い達成感を得たね。でも本番はここから。今度は二つ目のバリアをレールガンで剥がすんだ。これについては私が撃ったわけじゃないからあまり話せないけどとにかく彼は当てたんだ。何十キロも先からね』

「そんなに遠くから? 目標が巨大とは言えすばしっこいのだろう? よく当てられたな」

『私もすごいと思うよ。で、剥がれた後は当然殴りに行くんだけどこれが一回じゃすまないんだよね。すぐにバリアが復活して地面に潜っちゃった』

「それじゃあ一体どうするんですか?」

『簡単だよ。もう一度すればいい』

 

 二回目は慣れていたので一回で済ませた。しかし二回目でもアイスワームを倒しきることはできなかった。しかしダメージを与えた影響なのかアイスワームの抵抗は激しくなっていく。範囲攻撃やどういう訳かバウンドするミサイルまで撃ってくる始末。加えてもとからある地中からの奇襲によって僚機は全滅、残るは私だけとなった。

 

『それでも何とか一瞬の隙を捉えて撃ち込むことができたんだ。でもスタンニードルランチャーの弾数はあってもレールガンは三発目で限度。それで倒せなかったら任務は失敗。加えてダウン後に攻撃できるのはもう私だけ。今思えば絶望的なシチュエーションだったね。でも当時の私はそんなことには気づかなかったよ。とにかく倒さなきゃいけないと思った。無我夢中で攻撃したね。でもアイスワームのバリアが展開される予兆が現れた。これで倒せなかったら任務は失敗。祈りを込めて左手のパイルバンカーを打ち込んだ。その瞬間確かに手ごたえを感じたね。アイスワームは体を反らして誘爆が起こり始めた。最後は体を大きく反らし直立してから大爆発を起こして倒れたよ。後はそのままドリルも止まって任務完了ってわけ』

「結末は分かっていたとしてもなかなか手に汗握る話だったな。あの大きなロボットが小さく見えるほどの兵器か」

『もう二度と戦いたくないね。強いとかそういうんじゃなくて面倒くさい』

「レイヴンさんってやっぱりすごい方なんですね」

『そこまででもないよ』

「あれ、雨やんでない?」

 

 コハルの声に一同は同じ窓を見た。耳を澄ましてもさっきまで聞こえていた雨音はない。加えて見ていた窓からは日が差し込んでいた。更に停電も直ったようで薄暗かった体育館は一瞬で眩しいほどに明るくなった。

 

「一度に全部直ったね」

「停電も直ったようですしこれで洗濯機が回せそうですね」

「あら、これで水着大会は終わりでしょうか」

「とても楽しかった。二回目が開催されたらぜひ参加したい」

「するな! てか二回目とか無いから!」

 

 

 復活した洗濯機を回し、雨に濡れた服を乾かす。今日はそれだけで終わってしまった。乾いた洗濯物を取り込んだころにはすっかり遅くなっており、一同は寝室に入った。今日は予想外な一日だったが楽しくもある一日だった。また明日から頑張ろう。

 

「終わっていいはずがありません!」とハナコは突然叫んだ。

「なに? もう遅いんだから寝なさいよ」

「何を言ってるんですかコハルちゃん。今日はせっかくの休みだったんですよ。もっと楽しみましょうよ」

「楽しむっていったい何を?」

「うふふ。合宿の醍醐味と言えば合宿所を抜けることも一つじゃないかと思いませんか? トリニティの商店街は遅くまでやってるところも多いですし皆さんで今から向かいましょう」

「は? そんなのダメに決まってるじゃない。校則違反よ」

「でも皆さんこっそり抜け出したりしてますよ? 校則だなんて案外そういうものじゃないですか? ねえヒフミさん?」

「あはは……でも私たちは補習授業部ですけど大丈夫でしょうか」

「大丈夫ですよ。ちょっと行って帰ってくるだけですし。先生もいますし。コハルちゃんだって興味はあるでしょう?」

「う……ま、まあ無いわけでは無いけど」

「私は興味がある。ぜひ行きたい」

『私もついでに包帯を調達しておきたいかな』

「レイヴンさんもこう言ってることですし、先生も行きましょう」

「うん。面白そうだね」

 

 こうして一同はハナコの突発的な提案により夜の商店街に繰り出すことになった。

 

 

 もうすっかり遅い時間であるが存外商店街は賑わっていた。お昼ほどではないと思うが時間を考えると相当だと思う。私もついて来たが当然こんなところにACで来るわけにもいかなかったので車椅子で付いて来た。世間体を気にしてか先生からジャケットを貸されてそれを羽織っている。

 

「うふふ。ついに来てしまいましたね。禁じられた行為をしているという背徳感、興奮せざるを得ませんね」

『今日ずっと興奮してるよね。ハナコ』

「楽しいんだろうね」

「深夜の商店街も案外にぎわってるんだな」

「トリニティは二十四時間営業のお店が多いですからね。スイーツ店なんかも二十四時間やっているところがありますよ」

「スイーツ店も? それは心が躍るな」

「あ、この先にモモフレンズのグッズが売ってるところがあるんですよ。その向かいには限定グッズも売っているところが……」

「あら、ヒフミちゃんは詳しいですね」

「あ、あはは」

「それも捨てがたいな。とはいえまずは目的がしっかりしているレイヴンの包帯から調達するとしようか」

「包帯なら薬局ですかね。薬局なら間違いなく二十四時間やってるところがあるはずですよ」

「う、うう。思わず便乗しちゃったけどこんなところ見られたらハスミ先輩に怒られちゃう」

「正義実現委員会のハスミさんですか? 後輩の方には優しいと聞いていますが」

「そ、そうよ。ハスミ先輩は私たちに優しいけど、怒ると本当に怖くって」

「そういえば前に本気で怒った時はすごかったって」

「えっとね。前にこんなことが有って——」

 

 コハル曰く、前にゲヘナの生徒とエデン条約について会議に行ったことが有るそうだ。そこでゲヘナの生徒会長からいろいろ言われたらしく特に「デカ女」と言われたことが一番腹が立ったらしい。教室中の備品を壊し、ダイエットを宣言したそうだ。

 

「会議も駄目になっちゃったし、ハスミ先輩もそれからあんまり食べなくなっちゃったから心配で」

「あら……それは大変ですね。ゲヘナの方々に怒るのも分かります」

「ハスミ大丈夫かな」

 

 周りの反応が思ってたのと違った。てっきり笑い話になると思ってそういう感じの返信を打ち込んでいたのだがなんだか神妙な雰囲気になっていたので急いで文字を消した。

 

「でも先輩はいろいろと強いから! 今も自分との約束を守ってるし」

「あ、こんなところにもスイーツ屋が」

 

 歩きながら話を聞いていたが、偶然なのか話を聞き終わったところにスイーツショップが現れた。

 

「なんだか食べ物の話してたらお腹がすいてきちゃいましたね」

「あ、ここの限定パフェすごくおいしいんですよ! 二十四時間開いてるとは知りませんでした。あ、でも先に包帯を買わないといけませんね」

『いいよ。どうせパフェを食べた後でも買えるんだから』

「そういうことなら入りましょうか」

 

 スイーツショップの中には私たちのほかにもう何人か来店していた。店員に案内され席に着くと早速注文を聞かれた。

 

「あの、限定パフェってまだありますか?」

「申し訳ありません。限定パフェは先ほど別のお客様が三つ頼んで終わってしまいまして」

「一足遅かったか」

「まあ限定だからね」

「あ、あら?先生?」

 

 急に私たちではない別の声が聞こえた。どこかで聞き覚えのある声だ。声のした方向を向くとそこには数日前に私の機体に声をかけた少女の姿があった。

 

「ハスミ!?」

 

 どうやら彼女がハスミらしかった。彼女の前には店の入り口にあった限定パフェの写真と同じものが三つ並んでいた。




何周してもアイスワーム戦は面倒なんですよね。一応スタンニードルランチャー無くても攻略できるみたいですし今度やってみようかな?
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