もしかしたら次回から毎日投稿ができなくなるかもしれません。正直言って一日で一話分書き上げるの中々大変なので。二日に一本とか最悪三日に一本になるかもしれませんが気長に待っていただけたら幸いです。
「補習授業部の皆さんまで……どうしてこんなところに?」
「は、ハスミ先輩!?」
「あ、いやこ、これは違うんです!」とハスミが狼狽えると「夜中ってお腹が空くよね」とあまりフォローになってないようなフォローを先生が入れた。
「ですが補習授業部の皆さんも合宿所以外の出入りは禁止では?」
「あ、あっはは……それは、まあそうなんですけど」
「ふう……ひとまずここはお互いに見なかったことにしましょう。あら? そちらの方は」
『初めまして、レイヴンだよ。初めましてと言うわけでも無いけど』
「ああ、あなたがレイヴンさんなのですね。あの時は失礼しました。正義実現委員会の副委員長をしている羽川ハスミです。さて、コハル。勉強は頑張っていますか?」
「え、あ、はい。その……」
「コハルは頑張ってるよ」
「はい! コハルちゃんはテストを受けるたびに成長しています。これなら次の学力試験は合格できるはずです!」
「そうですか。言ったじゃないですか、コハル。あなたなら出来ると。いち早く正義実現委員会に戻ってきてください。あなたと一緒に仕事をするのを楽しみにしていますよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
「いい話だ」
目の前で繰り広げられているハートフルな雰囲気も束の間。突然そんな雰囲気を叩き割るかのように携帯の電話が鳴った。一体誰の携帯かと周りを見たが、携帯を取り出したのはハスミだった。
「こんな時間に一体誰が……すみません。ちょっと失礼します」
ハスミは私たちから背を向けて電話に出たがすぐに席を外し、私たちから距離を離した。
「仕事の電話かもね」と先生が言った直後「ゲヘナが!?」と言う叫びが店内に広がった。
「数は!? 小隊規模、大隊規模ですか!? え……はぁ……四人?」
中途半端に聴こえてくると、勝手に意識がそちらに向いてしまうものだ。ハスミはわざわざ離れたのに意味がない程度に大きな声で話している。内容を聞く限りはゲヘナの生徒が四人で何かをしているらしい。トリニティとゲヘナの仲はすこぶる悪いと聞くのでなんとなくやばいだろうなと思った。
「美食研究会、ですか……アクアリウムを。あ、いえ。私はそのちょっと私用で……分かりました。私も向かいます」
ハスミは携帯をしまうとこちらに向かって来て、協力を頼み込んできた。
「今はエデン条約目前でお互いに緊張している状態です。ここで下手にトリニティの正義実現委員会とゲヘナの衝突と捉えられてしまっては状況が不利になってしまいます。そこで補習授業部とシャーレの先生にも協力してほしいのです」
「分かった。それじゃあ補習授業部出発」と先生は即答した。
「な、なんだか大変なことになってしまいましたね」
「ふむ。そういえば先生の指示に従って戦うのはこれが初めてだな。遠慮なく指示してくれ」
「は、ハスミ先輩と共闘ってこと?」
「まさかこうも早くコハルと一緒に肩を並べて戦う日が来るとは思いませんでしたね」
「あ、でもレイヴンさんは危なくないですか?」
「そっかヘイローもないから銃弾に当たると危ないね。ACも無いしレイヴンは別のところにいた方がいい。また後で連絡して迎えに行くから、戦闘地域には近づかないようにね」
『先生は大丈夫なの?』
「安心してくれ先生はちゃんと私たちが護るから」
『なら、まあ分かった。ここらへんで待ってるよ』
ACが無い私はただの車椅子に座っている少女だ。そんな状態で銃弾飛び交う戦場に行っても仕方がないので大人しく従うことにした。結局パフェを食べることは出来ず、店を出ると私は先生たちと別れた。一人になって周りを見ると時折爆発が聞こえてくるというのに周りの人は何事もなく歩いている。人……人だろうか。二足歩行している動物とロボットは人と言えるだろうか。私も大分キヴォトスに慣れてきたと思うが未だにこれは謎だ。キヴォトスにいる生徒以外の存在は先の二種類しかいないから私のような存在が驚かれるのも良く分かる。ここは治安がいいのか悪いのか良く分からないな。
一人になった私はどうしようかと思ったが、包帯を買いに行くことにした。丁度いいしこの際用事を片付けてしまおう。
遠くから聞こえる爆発と銃弾の音から離れるように薬局を探していると、商店街の外れにようやく開いている薬局を見つけた。早速中に入ると、「いらっしゃいませ」とロボットの声が聞こえた。後は聞いたことない音楽がBGMとして流れている。それほど大きくない薬局だが包帯ぐらいならあるだろう。店員と私以外誰もいない店内を進んでいると絆創膏なんかを売っているコーナーを見つけた。絆創膏があるなら包帯も売っているだろうとそこで車椅子を止めた。絆創膏から横に順番に見ていくが包帯の姿は見つからない。ここに売っていると思ったのだが、もしかしかしてと上の方を見るとちゃんと包帯がかかっていた。だがあそこまで手が届かない。それに一番欲しい箱売りの包帯はその上にある。思えばいつも先生と一緒に買いに行っていたから商品棚にある物も先生に取ってもらっていた。その事をすっかり失念していた。どうしようかと悩んでいると、店のドアが開く音がした。誰か入店してきたらしい。そうだ、その人に取ってもらおう。
入り口に来るとそこには膝に手を突き荒い息を整えている少女がいた。羊のような角を持った少女だ。そういや生徒もまた、今目の前にいる少女のように角を持っていたりコハルやアズサのように羽を持っている生徒もいるな。いや、今はそんなことはどうでもいいか。
彼女はしばらく俯きながら肩で息をしていたがそのうち落ち着いたようで顔を上げた。
「はぁ……はぁ」
『申し訳ない。少し助けてほしいのだけど』
「え……あ、今はちょっと」
彼女はちらちらと外を見ていた。少し何かに気づいたらしく顔をぎょっとさせて慌てて入り口から離れた。同じように外を見ると複数人が慌ただしそうに走っているのが見える。着ている服装は正義実現委員会の制服だ。
「わわ、分かった。何かな? あ、少し奥で話聞くよ!」と言って店の奥まで入っていくので私もそれについて行った。「ふぅ、一先ずここまでくれば……あ、えっとそれで助けてほしいことって?」
『棚の上にある包帯の箱を取ってほしいんだけど』
「棚の上?」
私は彼女を包帯が売っていた場所まで案内した。そして頭上にある箱を指さした。
「あ、あれのこと? ちょっと待ってて……はい。これでいい?」
『ありがとう。助かった』
「ううん。私も助かったから……なんでもない! じゃ、じゃあね!」と言って彼女は外をちらちら見ながら店の奥に消えていった。
私は包帯の箱をレジにまで持っていき、会計を済ませると店を出た。そこに丁度先生からメッセージが届いた。
『終わったよ。今から迎えに行くね』
『それじゃあさっきのスイーツ屋の前で待ってる』
『うん。それと後で頼みたいことがあるんだけど会ってから話すね』
『分かった』
スイーツ店の前で待っていると先生たちがやって来た。
「ごめん遅くなったね」
『ううん。大丈夫だよ』
「あれ、その箱は?」
『包帯の箱だよ。先生たちが行ってる間に買って来たんだ』
「あーなるほどね」
『それで、頼みたいことって?』
「ああえっとね。一言で言えば生徒を送ってほしいんだ。詳しくは帰りながら話すよ」
頼まれたのは捕縛した美食研究会を引き渡し場所まで先生と一緒に運ぶことだった。ACなら早く着くし、もうこんな時間だから早く終わらして寝たい。
別館に戻った私は早速ACを起動してその捕縛されてる美食研究会を受け取った。引き渡す場所はトリニティの外郭にある大きな橋の上だった。指定された場所にまで来たがまだ相手の姿が見えない。早く来すぎてしまったかもしれない。
しばらく待っていると一台の車が近づいて来た。その車は私たちの前で止まると、運転席から誰かが出てきた。
「新鮮な死体……負傷者がいると聞いていましたが」
「し、死体?」
「巨大なロボットがいるとは聞いていませんでしたね。それとあなたは?」
「その方は先生よ」
車から更にもう一人降りてきた。小柄な少女だ。あとやけに毛量が多いような気がする。
「ヒナ!」
「久しぶりね、先生。そのロボットは例の?」
「知ってるの?」
「ええ、まあ。新聞でたまに見かけるから。実際に見たのは初めてだけど……いるのは先生だけ?」
「うん。ハスミたちの代わりにね」
「だから中立のシャーレが、なるほどね。私も政治的な関係が薄い救急医学部の部長に付き添ってもらったの。だから表では負傷者の受け渡しってことになってる」
「氷室セナです。以後よろしくお願いします。で、死体はどこですか?」
「だから負傷者でしょう? 本物を見たことないでしょうに」
こうして美食研究会の受け渡しが始まった。捕縛されていた四人が次々と車の中に入っていく。
「た、助かった」
「あら給食部の……今日一日見ないと思ったら。今ジュリが学園で……いや、やっぱり説明は帰りながらで。一人足らない気がするけど面倒だから後でいいわ」
全員を収容したセナはいつでも出発できると言ったがヒナは待ったをかけた。そして先生と向き合う。
「先生、トリニティで何をしてるの?」
「補習授業部の顧問だけど」
「それは知ってる。いろいろ情報は入ってるから。ただ中立のはずのシャーレがこんな時にトリニティに居るなんてまるで……いや、先生に限ってそれは無いわね。気にしないで」
「ヒナ、少し二人で話したいことがあるんだけど」
「二人? 三人じゃなくて?」と言ってヒナは私の方を見た。
「あ、ああ。彼女は事情があって話せないんだ」
「あら、そうなの?」
『私の意見は先生の意見と同じだから聞いてるだけでいいよ』
私は先生にメッセージを送ってみた。先生はそのメッセージをそのままヒナに見せた。ヒナは首を突き出してそれを読み「こうやって会話してるのね」と言った。そして時間を見ながら「少しの間なら大丈夫」と言った。
先生はこの数日間に起こったことをヒナに話した。補習授業部の顧問を任されたところから始まり、ナギサから知らされた裏切り者の存在とエデン条約のこと。そして合宿所でミカから聞いた裏切り者の正体とナギサがエデン条約機構、ETOを使って好き勝手に行動するかもしれないという疑惑。極めつけは今日開催された第一回水着大会——
「なるほど、先生も結構複雑な……待って今変なの混じってなかった?」
「い、いや。そんなことないよ?」
「はあ、トリニティの裏切り者ね。噂が噂を呼んで誰が嘘を言っているのか分からない疑惑が渦巻いている現状。これってそもそも私に話していいの?」
「うん。ヒナのこと信じてるから」
先生がそう言うとヒナは押し黙りむず痒そうな顔をした。そして何かつぶやいたようだが小さすぎてマイクでも拾えなかった。
「それと、エデン条約が武力同盟と言うのは興味深いけど私はそうは思わない。あれはれっきとした平和条約よ」
「どうして?」
「エデン条約によって生まれるエデン条約機構、ETOは一人で扱えるようなものじゃない。マコトも同等の権力を持つことになるし、もちろん他のティーパーティや万魔殿のメンバーにも権力が行き渡る。皆が協力したら話は別だけど、マコトは協力なんてできない質だし、そういうことをしたいなら条約じゃなくて統合すればいい話」
「よくマコトはエデン条約に賛同したね」
「マコトはあんまり考えてないんでしょう。そもこっちでエデン条約を推したのは私だし」
「ヒナが? どうして?」
「私も三年生だし、条約が締結されたらゲヘナの治安も多少マシになるだろうから引退もありかなって」
「なるほどね」
「せっかくならあなたの意見も聞いてみたかった。同じと言っても全く同じではないはず」
ヒナはそう言って私を見たがすぐに後ろを向いた。多分誰かに、セナに急ぐよう言われたのだろう。
「それじゃあ私はこれで。次に会うときにはお互いもっとゆっくりした状況で会いたいわね」
「うん。ヒナも頑張って」
ヒナは車両に乗る間際に先生に振り返り「補習授業部は先生が護るのよね?」ときいた。先生は一言「うん」とだけ答えた。
「そうね。あのロボットもいるから心配はしなくてよさそうね」
美食委員会を乗せた車両を見送ったあと、先生は私に「帰ろうか」と言った。私は先生を乗せるとすぐに学園まで戻った。
帰る途中私は自分の意見と言うものを考えていた。なんだろうな。私の意見って。先生と同じだ。同じだったろうか。私は裏切り者を探そうとした。先生は裏切り者は探さないと言った。じゃあ違うか。私と先生は違うか。いやでも……そうか。そういやそのころから考えなくなったな。アズサが裏切り者だと知った時はやっぱりだと思った。それと同時に裏切り者には見えなくなった。だってあんなにやさしいのに裏切り者だなんて思えない。あれがトリニティを恨むアリウスの生徒だって? 彼女はトリニティの生徒をいじめから助けた。その事実を知って誰が彼女を憎めるだろうか。少なくとも私はしない。だから先生と同調しだした。私の意見は捨てた。だって先生の考えの方が正しそうに思えたから。事実そうだろう?
「難しいこと考えてるね」
『私は自分の意見を持ってないみたい』
「ヒナが言ったこと? 別に責めてるわけじゃないからそんなに落ち込まなくていいよ」
『落ち込んでは無いよ』
「そう?」
『私はただ先生に同調するから。思えばそれが傭兵として正しいかも』
「そんなことはないよ。レイヴンだってちゃんとした人間なんだから。それに傭兵なら雇い主を見限るタイミングは自分で考えないと」
『そっか。そうだね。そうかもしれない。でも今はまだ先生に付いても大丈夫そうだし先生の味方でいるよ』
「それはありがたいね」
別館まで戻るとすでに部屋の電気は消えていた。無理もない。今の時刻は深夜も深夜だ。ヒフミたちを起こさないように慎重にベッドに移ると私はそのまま寝た。全く、今日は本当に忙しい一日だった。
二万UAありがとうございます!
これからも頑張って書いていきます!